第二試合。北山雫VSアンジェリーナ=クドウ=シールズ。
これは雫の棄権によりリーナの不戦勝になった。
理由は明らかである。深雪との戦いで雫はサイオンが枯渇している。そんな状態でリーナとやりあえるわけがない。
この時、雫は親友のほのかにだけ悔し涙を見せていた。
そしてリーナに、
「気をつけてね。深雪は思った以上の強敵だよ」
と声をかけ、
「わかっているわ。雫の分まで頑張るわよ」
と、返すリーナだった。
そして第三試合。
司波深雪VSアンジェリーナ=クドウ=シールズである。
両者とも抜きん出た美貌を誇る美少女。
この時の深雪は緋の袴を着た巫女装束。
リーナは西部劇のガンマンをイメージした黒服に帽子。
二人の間には、バチバチと火花が散っているようだった。
観客はそれを固唾を呑んで見守る。
そして、試合開始を告げるライトが灯った。
…………。
試合前の控え室。
大黒竜也がリーナのCADの最終調整をしていた。
「ねえ竜也」
「ん?」
「相手は深雪なんだけど……アドバイスとかはないの?」
「ないよ。お前の好きなようにやればいい。一言言っておくとしたら……そうだな、最初から全力でいけ。これだけだ」
「……あんたにしては珍しいわね……いつもなら作戦を立ててくれるのに」
「……深雪相手には小細工は逆効果だ。雫との戦いを見てよくわかった。リーナと深雪の魔法力は互角。となれば、力と力がぶつかり合う」
「…………」
「その時、勝敗を左右するのは何だと思う? リーナ」
「…………」
「勝ちたいという思いの強さと、守るものの大きさの違いだ」
「…………」
「リーナ。お前は何のために戦う? 何のために勝ちたい?」
「…………」
「それがもし、深雪を上回るなら、リーナの勝ちだ」
「……なら竜也。私が勝ったらひとつだけ、ご褒美を約束してくれるかしら?」
「……ご褒美?」
「ええ」
そして、竜也に耳打ちするリーナだった。
魔法力が互角な以上、両者は出し惜しみをするつもりはなかった。
リーナの魔法は、空気が燃え上がる灼熱の地獄・ムスペルスヘイム。
これは気体分子をプラズマに分解して高エネルギーの電磁場を作り出す領域魔法である。
深雪の魔法は空気が凍りつく極寒の地獄・ニブルヘイム。
気体分子の振動を減速し、窒素までも液化させる領域魔法だ。
この2つの高等魔法が正面からぶつかりあった。
バリバリ。シュウウウと互いの魔法がぶつかり合う音がする。どちらも譲らない。全くの互角である。
(……竜也の言ったとおり、後は気持ちの差かしらね……)
リーナは魔法を展開しながら、そう思っていた。
リーナは深雪に、幼い頃の自分を重ね合わせていた。
竜也に出会う前。リーナは持って生まれたその高い魔法力から周りから天才少女と呼ばれてもてはやされた。頭もよく、同年齢は勿論、年上でも彼女に勝てる者はいなかった。そのため、すっかり天狗になっていた。
そんな彼女の下に、日本にいる大叔父が一人の少年を連れてやって来た。
典型的な日本人だが、髪や眉毛は老人のように真っ白で、それでいて眼光は鋭い。
大叔父に聞くと、彼は自分と同年齢だという。これからここに預けるから、共に仲良くやってほしいと大叔父は言った。
リーナはこの少年と軽く自己紹介した。そして、実力を知りたいからと勝負を申し出た。
リーナは何一つ勝てなかった。
筆記試験では大差を付けられて負けた。
実技でも負けた。
(こんなことあるわけないわ……私は天才なのよ……こんな素性も知れない東洋の猿の子供に負けてたまるもんですかッ)
リーナは悔しがった。
それを見た竜也が言う。
「リーナ。そんなに悔しいなら、ブリオネイクを使え」
「……なぜそれを!」
「閣下に聞かせてもらった。リーナは戦略級魔法師になれるほどの天才だってな」
「…………」
「それを使ってもう一度来い。リーナ……お前と俺の差がどれほどの物か、お前が今まで見てきた世界がどれだけ狭いかを教えてやる」
「……ッ……なめんじゃないわよッ」
そして、ブリオネイクを使ってもう一度挑戦した。
……完敗だった。
竜也はブリオネイクを使ってリーナが放つプラズマの光条を全てかわした。
そしてリーナに近づくと、ブリオネイクを右手で掴んで一気に引き寄せた。
リーナが踏ん張るが、力の差は明らかでリーナは竜也の下に引き寄せられると、腹部に竜也が放った左足による回し蹴りをもろに受けて吹っ飛ばされた。
竜也は右手で掴んだブリオネイクを両手で真一文字に持ち直すと、それを地べたから苦しそうに起き上がろうとするリーナの前でへし折ってしまった。
「…………ッ」
その瞬間、勝敗は決した。
リーナは竜也の実力を認め、以後は今まで傲慢だったのが嘘のようにリーナは人柄がよくなった。傲慢になることがなくなったのだ。
それはこれだけの大敗をして、自分が今まで見ていた世界がどんなに矮小であり、自分がどれだけ自惚れていたかを認識できたからである。
そして、竜也とまるで兄妹のように育ち、勉学と鍛錬を繰り返し、いつしかUSNAでもその名を轟かせる天才少年と天才少女とまで言われるようになった。
竜也から妹のように信頼され、自分の本当の名前と素性も明かされるまでになった。
リーナと竜也が共にいるのはいつしか当たり前のようになった。
二人はスターズの総隊長と副隊長に選ばれた。
そして、数々の戦場を協力し合って生きてきた。その中で多くの戦友や友人を得てきた。
(負けられない……私は相棒のためにも、負けられないのよ、深雪ッ!)
司波深雪は、四葉の令嬢として、そして次期当主として育てられてきた。
持って生まれた頭脳と魔法力の大きさから、四葉の使用人や一族分家から常に賞賛された。
四葉の屋敷の中で、彼女はまさにもてはやされた。
そのため、生きてきた世界は非常に小さい。
護られ、愛でられ、称賛され、全てを与えられて生きてきた典型的なお嬢様。挫折というものや苦難というものを知らない。
つまり竜也と出会う前のリーナがそのまま目を覚ますことなく、小さな世界で15歳まで生きてきているのだ。
友人はいる。北山雫や光井ほのか、里美スバルといった一科生である。
ただし、それだけなのだ。
彼女は魔法力に恵まれていない者を見下す。だから二科生に友人はいない。
いや雫やほのかとて、本音で語り合える友人といえるのかどうか。
雫やほのかは、竜也の影響を受けて二科生の千葉エリカ、西条レオンハルトとも友人になっている。彼女はそれが理解できなかった。
(なぜなの……私たちは一科生なのよ……それなのになぜ、二科生の出来損ないと仲良くしているの……)
雫やほのかに正面をきってそこまでは言っていない。言えば雫やほのかを非難することになりかねないからだ。
だが、このように深雪の生きる世界は本当に狭い。矮小とすら言えるかもしれない。
これが、両者の差であった。
どんなに才能があろうと、そんな矮小な人間に世界を思い知らされた少女の壁は越えられない。
深雪とリーナの差がそこにあった。
そして、
「そんなッ!」
深雪は信じられなかった。
自分が少しずつ、だが確実に押されている。
何とか持ち直そうとする。だが、できない。
そして、決着がついた。
深雪の陣地の氷柱が轟音を立てて崩れ落ち、それを合図に決着を告げるブザーが鳴ったのである。
愕然として膝から崩れ落ちる深雪。
そして相棒が見ているであろう場所にVサインを送るリーナ。
二人の対象的な姿が、そこにあった。
そして、そんなリーナに対して、
「よくやったな……相棒……」
と、賞賛を送り、拍手する竜也だった。
ちなみにリーナが勝利のご褒美に竜也に求めたもの。それは、
「私が勝ったら、私と付き合って」
だった。
それに対して、
「付き合う? 何言ってるんだ。俺とお前は相棒だろ? これからもずっと一緒だよ」
と、相変わらずの朴念仁振りを発揮する竜也だったのである。
次回は「モノリス・コードへ」を予定しています。