藤林響子は、後年にこのように記録している。
「これは嘘でも冗談でもない。信じられないかもしれないが、事実である。……たった一人の兵士によって、沖縄に攻めて来た大亜連合軍が壊滅したということは……」
…………。
大亜連合軍は大混乱に陥っていた。
もう少しで、沖縄の主要部を占領し、勝利の美酒に酔おうとしていたのだから当然である。
既に日本軍は国防軍基地まで撤退を余儀なくされ、ここの守備を固めて本土からの援軍を待つ作戦に出ている。
そんなときだった。
「なんだあれは? 敵か?」
「ひとりじゃねえか?」
そう、大亜連合軍の兵士の前に現れたのは、アンマースーツにヘルメットを装着し、CADを右手に持った一人の兵士である。背は低く、子供のように思える。
「どうする?」
「構うことはねえ。小日本の奴らはみんな撃ち殺せとの命令だ。やっちまえッ!」
そして、銃弾を放った。
ところが、
「え?」
と、誰もが我が目を疑った。
当然である。なんとその兵士は、目にもとまらぬ速さで銃弾を避けたのだ。
そして、次の瞬間。
大亜連合軍の兵士や戦車が次々と青い炎となって消えていった。
もう、何が何だかわからない。
敵兵は訳の分からぬ恐怖に襲われ、遂に逃亡兵が出始めた。
「うわあああああッ!」
「た、助けてくれッ!」
だが、その兵士は逃げる者にも容赦はしなかった。
逃げる兵士の背中に向けて次々とCADを向け、そして兵士は青い炎となって消えてゆく。
大亜連合軍は、たった一人の正体不明の兵士によって、敗走を始めたのであった。
「なんだと? 兵士たちが敗走してきているだと?」
大亜連合軍の本営で、上層部は信じられないという顔でその報告を聞いていた。
「どういうことだ? 小日本にそんな力は最早ないはずだ」
「敵はどれほどだ?」
「そ、それが……」
と、兵士が口をつぐむ。それを見て、
「ええいッ、さっさと答えろッ!」
と、司令官が怒鳴った。
「は、はいッ! て、敵はひとりです」
「な……に……?」
「ですから、ひとり……です……」
「馬鹿者ッ。たった一人になんてザマだッ。さっさと撃ち殺せッ!」
だが、
「た、大変ですッ。前衛部隊は壊滅ッ。それを助けようとした増援部隊もほぼ壊滅状態。ここも危険です。すぐに後退をお願いしますッ!」
と、傷ついた兵士が本営に飛び込んできた。
司令官が愕然とする。
「い、いったい、どうなっているんだ……」
その頃、たった一人で大亜連合軍を蹴散らしたその兵士は、高台から敵を見つめていた。
「高速巡洋艦2隻、駆逐艦4隻……か。あれをやるのに、絶好の的だな」
そこへ、仮面を付けた少女がやって来た。
「総隊長。命令通り、任務を遂行いたしました」
仮面の少女が、アンマースーツにヘルメットを付けた人物の背中に向けて敬礼しながら報告する。
その兵士は声から男だとわかる。
「そうか……ご苦労だった」
男は振り返ろうともしない。それに対して、仮面が続ける。
「捕虜はどうしましょうか?」
「殺せ」
「…………」
迷うことなく処断を口にする男に対し、仮面の少女はさすがに詰まる。
そして言う。
「総隊長……いいえ。リュウヤ、相手は白旗を挙げて降伏した兵士です。それを殺すのは……」
「何度も言わせるな。少佐。殺せ」
「…………」
「あいつらは、してはならないことをした。触れてはならないものに触れて殺そうとした。そんな奴らを生かしておく価値はない。殺せ」
リュウヤはまるで事務的に言うだけである。
「ですが、我々の本来の任務は、大亜連合軍の沖縄上陸を阻止することだけにあったはずです。殺す必要などないはず……ッ」
すると、リュウヤが少佐と言った少女に対して初めて顔を向けた。
ヘルメット越しなのに射すくめられ、その殺気が伝わってくる。
「少佐……いや、リーナ。いつから、お前は俺に意見ができるほど偉くなった?」
「…………」
「もう一度だけ言う。殺せ。本国には後で俺が報告しておくから気にするな」
「承知いたしました……」
そして、リーナ、いやUSNA軍スターズ副隊長『アンジー・シリウス』ことアンジェリーナ=クドウ=シールズが、その場を去ろうとした。
ここで、少し補足しておこう。
大亜連合軍の沖縄上陸計画を知ったUNSAは、スターズを出動させてそれを防衛させる計画をとった。なぜ、アメリカが日本を助けるのかと言えば、同盟国である日本が大亜連合軍にこれ以上押され、もし沖縄を占領されたら太平洋のシーバランスにも影響する。また、沖縄には在日アメリカ人が多数いる。それらを助けるために、スターズを出動させたのだ。
この時、指揮を執ったのが総隊長のリュウヤである。
リュウヤは自ら名護方面に上陸した大亜連合軍を蹴散らし、リーナたちには那覇方面の敵の制圧を命じていた。
そして、リーナは那覇方面で投降した敵兵の処遇をリュウヤに尋ねたというわけである。
話を戻そう。
その場を去ろうとしたリーナであるが、リュウヤに止められる。
「ああ待て。リーナ。これから、面白いものを見せてやる」
そして、リュウヤが右手に手にしていたライフル型のCADを眼下に広がる大亜連合の敵艦隊に向ける。
それを見て、リーナが驚く。
「ま、まさかリュウヤッ。あなた……ッ」
そしてライフルの引き金が引かれ、次に水平線の向こうで眩い閃光が生じ、それに続くように爆音が響きわたった。
大亜連合軍の艦隊は、消滅したのである。
そして、それは沖縄海戦の終結と、摩醯首羅の二つ名を生み出すことにもなったのである。
リーナがリュウヤの襟首をつかんだ。
「どういうつもりッ? マテリアル・バーストは許可なく使うことを禁止されているのにッ」
「言ったはずだ。奴らは触れてはならないものに触れた。俺の大切なものに……それは大罪以外の何者でもない」
「…………ッ」
「それよりリーナ。早くお前は戻って捕虜を処断しろ。いそ……」
その時だった。
「動くなッ!」
と、叫んで現れたのは、20人ほどの兵士である。
リュウヤとリーナが、銃を構えた兵士らに包囲される。
しかし、二人に動揺はない。
(20人くらいで俺たちを捕らえるつもりか……なめられたものだ)
兵士の中でリーダー格の男が怒鳴る。
「貴様ら……何者だ? それにあの爆発、いったい、何をしたッ」
だが、リュウヤもリーナも答えない。
「答える気はないか……いいだろう。お前らには黙秘権はある。おとなしく国防軍基地にまで来てもらおうか」
すると、
「リーナ、やれ」
「わかったわよ」
そして、リーナがナイフを取り出し、それをばら撒く。
「ダンシングブレイズッ!」
宙を舞ったナイフが、リーナに意思によって飛び立ち、包囲していた兵士らに迫った。
「ぎゃああああッ」
「うわああああッ!」
ナイフが刺さり、悲鳴が上がる。
リーダー格の男・風間玄信も避けきれず、ナイフが足に刺さって倒れる。
それを、リュウヤはゴミでも見るようにみつめながら、
「いくぞ、リーナ」
とだけ言って、その場を去った。
それを見逃すしかない、風間は無念と怒りが籠った表情をいつまでもリュウヤに向けていた。
沖縄海戦は終結した。
だが、この海戦で摩醯首羅と称されることになる謎の戦士が現れたこと、そして大亜連合軍が日本に対してさらに敵愾心を燃やし、以後、日亜紛争と呼ばれる紛争が両国間で起こり続けることになる。
戦乱は、いよいよ佳境に突入しようとしていたのであった。
相変わらずの駄作で申し訳ありません。次回は「リュウヤの正体」を予定しています。