復讐の劣等生   作:ミスト2世

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祭りの前に

 大黒竜也は、五十里啓と千代田花音の婚約者カップル並びに平河小春、リーナと共に、学校の購買部で手に入らない備品を揃えるため校外へ出て買い出しに来ていた。来たる論文コンペに備えてのことであるのは言うまでもない。

 そしてこの数日、竜也はある気配に気づいてもいた。

 …………。

 

 その日、竜也はリーナにほのか、雫、エリカ、レオ、幹比古、美月、鋼を連れて護衛の仕事を終えたので下校していた。

 そして、既に常連となっている喫茶店・アイネブリーゼに入ってみんなで一休みに入ろうとしたときであった。

 エリカがコーヒーを一気に飲み干し、立ち上がる。

「エリカちゃん?」

 美月が突然の友人の行動に驚く。

「ちょっとお花摘みに行ってくる」

 美月にそう答えて、エリカは店の奥へと入っていった。

 次に立ち上がったのは、レオである。

「おっと……悪い、電話だ」

 レオも立ち上がり、店の外へ向かって歩いていった。

「……幹比古、何をやっている?」

 竜也がテーブルで何かをしている友人に声をかけた。

「いや……忘れないうちにメモしておくことがあってね」

 そう言いながら、幹比古はペンを動かす手を止めようとはしない。それを半ば呆れながら見る竜也は、

「程々にしておけよ」

 と言うだけで、コーヒーカップを口元に運びながら、残ったリーナや美月、鋼らと談笑を続けていた。

 

「オジサン、私とイイコトして遊ばない?」

 その声に男が振り向く。すると、ポニーテールの少女が両手を背中に回してニコニコ微笑んでいた。

「馬鹿なこと言っていないで、さっさと家に帰りなさい」

 男は大人としての威厳を見せるように注意する。

 だが、少女・エリカはえー? というような顔をしながら、

「あれッ? どういう意味で取ったんだろ? 私は遊ばないって言っただけだよ?」

「大人をからかうんじゃない。それにもう日も暮れる。こんな人気の無いところにいたら、通り魔に襲われないとも限らないぞ」

 そう言い、男は少女に背を向けた。逃げようとしたのだが、

「通り魔ってのはこんなヤツのことか?」

 と、男の前に現れたのはレオであった。この時になって、男は自分の尾行がばれていたことに気づいたのである。

「違うわよ。通り魔って言うのは「通り」すがりの「魔」法使いのことなのよ」

 少女の楽しそうな声の裏に不穏な響きを感じて、男は再度振り返る。少女の手には伸縮警棒が握られていた。彼女から放たれた圧力は抗い難い純粋な闘気。行く手を遮られ逃げ場はない。

「助けてくれッ! 強盗だッ!」

 男が叫ぶ。が、周りに反応がない。

「うわ~ッ。情けな~い」

 エリカが笑い出す。そして、

「言い忘れてたけどよ、助けは来ないぜ?誰も近づかない」

 と、レオが諭すように言う。

「って言うか、近づけないんだけどね。あたしたちの認識を要にして作り上げた結界だから」

 と、エリカが種明かしする。ここに至り、男は戦うしか選択肢がないことに気づいて態勢をとった。

 だが、エリカとレオは二科生なのが不思議なくらいの戦闘力を持っている。特にエリカは竜也が純粋な戦闘力なら恐らくリーナに匹敵するとまで評価している女性である。

 そのため、二人がかりでは男に勝ち目はなく、エリカの攻撃をかわしたそのとき、レオの攻撃を背後から受けて路面に激突する。

「ぐ……ッ」

 男がうめき声をあげる。

 そんな男にレオは容赦なく男の胴体を蹴り上げる。

「げッ!」

 男が再びうめき声をあげる。そんな中で、

「大人しくしてな。別に命を取ろうってんじゃないんだ。ただ尾行の理由が聞きたいだけだ」

 と、レオが男に言う。男もかなわないと悟り、

「分かった。降参だ……私は君たちの敵じゃない……こんなことで踏み潰されては割に合わない」

 と、言い返すが、

「よく言うぜ。アンタの攻撃、オレとコイツじゃなかったら死んでるぜ?」

 と、レオが憮然とした表情で言い返す。

「それは君も……同じだろう……」

「まあいい。敵じゃないってんなら、手短に説明頼むぜ。まずは自己紹介してもらおうか」

「ジロー・マーシャルだ。詳しい身分は言えないが、如何なる国の政府機関にも所属していない。また先に述べたとおり君たちに敵対する者でもない」

「つまり非合法の工作員ってことね」

 エリカである。

「……で、目的は?」

「私の仕事は魔法科高校生徒を経由して先端魔法技術が東側に盗み出されないように監視し、軍事的な脅威となり得る高度技術が東側に漏洩した場合はそれに対処することだ」

「少なくともアンタの雇い主はこの国の関係者じゃないんだろ?何でそんな手間を掛けるんだよ?」

「この国の平和ボケは治ったと思っていたが……この国の実用技術が東側に渡ることで、西側の優位が損なわれることにもなりかねないのだ。この国だけでなく、USNAや西側諸国でも魔法工学技術を狙ったスパイが急増しているのだ。君たちの学校も東側のターゲットになっているんだぞッ!」

 その瞬間、男は一瞬のスキを突いて拳銃を取り出し、銃口をエリカに向ける。

「!」

「テメエッ!」

 エリカとレオが動けない。

 立場が逆転したことを悟ったマーシャルが、エリカに言う。

 

「さあ、私は必要なことは話した。そろそろ結界を解くようお仲間に言ってもらえないかな?」

 やむを得ない、という表情でエリカが何かを言うと、幹比古が結界を解いた。

「ではこれにて失礼させていただく。……が、その前にひとつ忠告しておこう。身の回りに気を付けるようお仲間に伝えてくれないかな? 特に君たちの護衛にな……」

 そして、マーシャルはその場を去った。

 

 それをエレメンタルサイトで一部始終を見ていた竜也は、トイレに行くと断りを入れてから端末で連絡を入れた。

「光宣」

「なんですか?」

「邪魔者が現れた。消せ」

「わかりました」

 そして、光宣が動き出した。

 

 マーシャルは、自分の前に現れた少年に驚いていた。

 この世の物とも思えぬ白皙の美貌のためである。

「そこをどけーッ!」

 マーシャルが叫ぶが、光宣はそこから動こうとしない。

 マーシャルは少年が敵だと悟り、銃弾を放つ。

 しかし、

「ッ?」

 銃弾は、光宣をすり抜けて通過していった。言うまでもなく、九島家の秘術であるパレード(仮装行列)だが、マーシャルはそれを知らず、動揺してさらに銃弾を放つ。勿論効果はなく、やがて撃鉄を下ろす音だけがするようになった。

弾切れである。

「くそッ!」

 マーシャルは役立たずになった拳銃を捨てる。そして、少年を魔法で倒そうとした。

 だがその前に、既に光宣が魔法を起動していた。しかもそれはマーシャルなど比較にならないほど速い。

 光宣が発動したのは、放出系魔法・スパーク。これをマーシャルに向けて発動したのだ。手加減なしで。

 当然、マーシャルの身体に電撃が浴びせられる。

 マーシャルの断末魔が轟く。

 この技は、十文字に代わって第一高校の部活連会頭になった服部刑部が得意とするコンビネーション魔法・這い寄る雷蛇(スリザリン・サンダース)と似たような技だが、威力や範囲では明らかに光宣のほうが上だった。

 そして、光宣は無表情にマーシャルの遺体を見つめる。

 息がないことを確認すると、マーシャルに一瞥をくれてその場を去った。

 後に残されていたのは、マーシャルの黒焦げになった遺体と、壊されていた監視カメラだけであった。

 




次回は「祭りの前に その2」です。
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