復讐の劣等生   作:ミスト2世

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逆転の刻(ぎゃくてんのとき)

 大亜連合軍は各戦線で押されまくっていた。

 魔法協会支部がある横浜ベイヒルズタワーをめぐる戦線では十文字に、中華街近くの戦線では一条に押されていた。

 そして司波深雪もまた、魔装大隊と共に市民の脱出を援護するために動いていた。

 また、桜木駅前広場付近でも、反撃が始まっていた。

「来た……」

 車に乗せてばら撒いた呪符により喚起された精霊からの映像で敵の接近を確認した幹比古が呟き、その言葉にレオ、エリカ、美月が警戒の色を示した。それに答えるように3機の直立戦車がビルの陰から姿を現す。

 まずレオが飛び出し、右手に双頭ハンマーに似た短いスティックをつくり、そのハンマーヘッドの部分がモーターの駆動音を立て黒い極薄のフィルムを吐きだした。

(『薄羽蜻蛉』)

 モーター音が止まりまっすぐな2メートルの刃に変わった。その刃が1機を横薙ぎに切断した。素早く跳び退ったレオを追いかけるように、直立戦車は路面に倒れた。

 そしてエリカがそれに続くように耳あての位置を直し、左腕で抱くように立てていた大蛇丸の柄を掴み鯉口を切る。鞘から巨大な刀身が露わになり鍔のすぐ下にあるボタンを押し、

(『山津波』)

 肩に担ぐように持ちあげ兜割の要領で直立戦車を断ち切った。残りの直立戦車も同様に断ち切った。

 また、五十里啓はあらかじめ地下3メートルの地層に振動を遮断する壁を作って地面を媒体とする千代田花音の魔法を使用可能とさせていた。そして五十里が地下に張った『陣』は、地上にも索敵という作用を及ぼしている。五十里家の英才・五十里啓が得意とする技術は、幹比古の古式魔法と似通ったものだった。

「来たよ」

 五十里の声に、花音が起動式を展開する。五十里がカバーしているといっても、あまり強力な振動魔法は使えない。異形の直立戦車が2機、その姿を見せた。だが、兵器の種類に余り詳しくない花音は、その形状を見ても驚かなかった。余計な思惟に囚われることなく、予定通りの魔法を繰り出す。

『振動地雷』

 千代田家の地雷原のバリエーションの一つで、振動系の系統魔法。振動で地面を液状化し、敵の足を埋めて水分を蒸発させて固める魔法。舗装された路面が細かく砕けて砂になり、細かく振動する地面から、水が滲み出て水溜まりを作る。無限軌道は砂地や湿地も平地同様に走行する為のもの。だが砂と化し、液状化した路面は、小型のキャタピラを苦も無く呑み込んだ。さらに、液状化した路面は直立戦車の足をくわえ込んだまま凝固する。花音が地面の液状化に続いて、水分子を振動させ蒸発させたのだ。これで、直立戦車は完全に身動きが取れなくなった。立ち往生した直立戦車に、千葉寿和が雷丸を構えて姿を見せる。そして空中から直立戦車に向かって飛び掛かった。

『迅雷斬鉄』

雷丸によって発動させた斬鉄の発展形で、移動系の系統魔法。刀と剣士を集合概念として定義し、接敵から斬撃までの動作を寸分の狂いも無く高速で実行する千葉家の秘剣。刀を振り下ろす際、自分の身体がどう動いているか。何十万回という素振りと型稽古で、全身に斬撃動作をすり込ませて初めて可能となる技。コンソールを両断された直立戦車は、完全に沈黙した。

 また、寿和の反対側では桐原が刀を構え直立戦車に向かい、刀の間合いまであと一歩の所まで迫っていた。その直後、直立戦車の上半身がクルリと回転し、機銃の銃口が桐原に向けられた、が、銃撃が放たれる事はなかった。

「はあッ!!」

 桐原の背後から飛来した小太刀が機銃に突き刺さり、直立戦車の肩からもぎ取ったのである。桐原の斜め後方に立つ紗耶香が、さらにもう一本、小太刀を投げた。先ほどと同じように、榴弾砲がもぎ取られる。『投剣術』。剣術科としては、打ち合いで女性故にどうしても腕力に劣る。魔法で太刀行きを制御するのは、彼女の魔法技術では難しい。それでも、父親から教わっている剣術の中でこの『投剣術』だけは得意としていた。投剣術なら、投げる動作に合わせて魔法を発動すれば腕力は関係ない。そう考えて修練を積み、工夫を重ねてものにした魔法なのだ。紗耶香のアシストを受けて、桐原は直立戦車の懐に飛び込む。そこで自身の得意魔法である、『高周波ブレード』を展開した。頭上から巨大なチェーンソーが振り下ろされるが、その軌道は見切っている。身体を自然にスライドさせながら、桐原の刀は直立戦車の左脚を両断した。手に伝わる、肉を貫く感触。桐原は僅かに顔を歪めて刃を引き大きく跳び退って転倒した直立戦車から距離を取る。

 こうして、大亜連合軍の各戦線は、高校生と若干の成人した大人を含むメンバーによって、押される一方となっていた。

 

 さて、大亜連合軍がもっとも重要な戦線として主力を向けていた魔法協会関東支部がある横浜ベイヒルズタワーの戦線。

 ここでは大亜連合軍の敗走が始まっていた。

「ひいいッ!」

「逃げろッ! 退却だッ!」

「ぎええええッ!」

 あちらこちらで、大亜連合軍の兵士の悲鳴、怒号、絶叫、断末魔の声が轟いていた。

 勿論、留まって奮戦する者もいる。

 だが、形勢は明らかだった。十文字の参戦で勢いが変わっていたのだ。

「くそ……ッ!」

 この戦線を指揮する部隊長が口惜しがる。

 ここさえ制圧できれば、横浜は制圧できたも同然だからだ。だから主力をここに向けた。途中まではうまくいっていた。なのに、敗走を始めていた義勇軍の勢いが突然変わり、逆に押されだした。

 これでは、口惜しがるのも無理はない。

「おいッ! すぐに総司令官に連絡しろッ。ここの戦線にすぐに援軍を送るようにとッ!」

「はッ! 既にそれは行ないました。総司令官からは陳祥山上校の部隊を援軍に送るとのことですッ!」

「そうか……よし、味方たちよ。もう少し頑張れッ。援軍がやって来るまでの辛抱だッ」

 援軍と聞いて、敗走を始めていた兵士たちにも生気が蘇る。

「うおおおおおッ!」

 と、再び勇敢に敵に反撃する。

 とはいえ、援軍が来ても盛り返せるのか、という疑問が兵士たちの中にあったのは事実だった。

 と、そのとき。

 時刻は午後5時20分。

 この戦線を驚倒させる出来事が起きたのである。

 

 それを最初に発見したのは、大亜連合軍の兵士の一人だった。

 仲間と共に戦い、ハイパワーライフルを放っていたときだった。

「お、おい……あれを見ろッ!」

「なんだ、こんな時にッ……。…………ッ!?」

 それを見た二人の視線は、「それ」に釘付けになった。

 そして、それはほかの兵士たちも気づきだした。

「あれは一体……」

「どういう……ことだ……?」

 大亜連合軍の兵士たちは、ただひたすら驚いていた。

 

 それは、義勇軍側も同じ思いだった。

 突然、それが起きたのだから無理はない。

 だが、なぜそれが起きたのかわからない。

 自分たちは敵を確かに押し返していたはずなのに。

「なぜだ……」

 十文字も愕然としている。

「こんなバカな……敵の侵攻は確かにここで抑えているのだ……なのに、なぜだ……一体、何があったのだッ!」

 十文字が愕然としながらも絶叫する。

 その光景を、敵も味方も信じられない思いで見つめていたのであった。




次回は「崩れた巌」です。
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