復讐の劣等生   作:ミスト2世

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実行

 東京に、軍隊が、魔法師が集結していた。

 理由はただひとつ。

 大亜連合軍に奪われた横浜を奪回するためである。

 そしてその中に、四葉家現当主にして、「極東の魔王」「夜の女王」の異名を持つ四葉真夜もいた。

「それにしても、こんなに魔法師や軍隊を集める必要なのかしらね?」

「さあ……確かに、真夜さまの仰る通り、少し過剰に集め過ぎだとも思いますが……」

 答えるのは最側近の葉山忠教である。

 そこに、20歳代後半の女性がやって来る。

「真夜さま。お久しぶりです」

「あら……温子さん。お久しぶりね」

「はい。勝成さんもお久しぶりです」

 と、葉山の後ろにいた四葉の分家の一族である新発田勝成に挨拶する。

 六塚温子。十師族のひとつである六塚家の現当主で、年は27になる。真夜より18歳年下だが、真夜に憧れを抱いているところがあり、四葉とそれ以外で議論が割れた時には、真夜の側に付くことが多い。新発田勝成は六塚家がある宮城県の仙台の第五高校に通っていたこともあって面識がある。

 つまり、秘密主義で恐れられている四葉家と親しくしている数少ない一人なのだ。

「貴女もここに来ているという事は……今回、政府は出し惜しみの無い本気で行くつもりというわけね」

「そうだろうと思います。ただ、一条家はそのまま石川に留まるように指示されているようです」

「新ソ連に何か動きがあるのかしらね」

 真夜が尋ねると、

「いいえ。どうやら大亜連合軍がさらに援軍を送るようだと情報が入っています。まだ噂の段階ですが、かの「震天将軍」が出て来るようだという情報もあります」

「そう……」

 真夜の顔がさらに真剣になる。

 真夜は大亜には恨みがある。かつて12歳の時、崑崙方院に誘拐されて女性としての幸せを失う苦しみを味わったことがある。その崑崙方院も真夜の父・元造の報復により壊滅したが、生き残りは大亜で今もぬくぬくと生き延びている。

 真夜にとって、大亜は生涯の敵なのであった。

 だからこそ、普段は政府の命令に応じない真夜が、今回は勝成に黒羽文弥、津久葉夕歌ら一族の主だった者を集めて、招集命令に応じたのである。

 目的は勿論、大亜連合軍の壊滅であった。

 

 横浜から逃げ出した民間人や魔法師、兵士をまとめていたのは風間玄信である。

 彼は厚木市まで後退して負傷者の収容や救助にあたりながら、政府に支援を要請していた。

 勿論、ここには横浜から戦線離脱した司波深雪、桜井水波、一条将輝、一色愛梨らもいる。

 そしてここに、早速東京に集結した大軍が集まることになった。

 この時、総指揮は佐伯広海が担当する事になった。

「敵は800程度ですが古式魔法を使ったりするなど油断はできません。また、地下シェルターには多数の民間人が避難しているという情報もあり、まずはこれを救出する必要があります」

 佐伯が、作戦を説明するために集めた主だった将校や魔法師を前にして発言する。

 そして、作戦が発表されようとしたときだった。

 真夜の下に、慌てて執事の葉山がやって来る。

 葉山はあくまで執事であるから、この場には同席できないはずである。だが、顔には珍しく焦りがあった。

 葉山が真夜に耳打ちする。

 最初は、平然としながら聞いていた真夜の顔が、途端に険しくなってゆく。

 そして聞き終えたとき、真夜がいきなり立ち上がった。

「すぐに、文弥さんを呼びなさいッ!」

 いつもは冷静沈着な真夜が、この時は顔を真っ赤にして叫んでいた。

 そして、作戦会議中であるにも関わらず、佐伯の許しを得る事も無く、部屋から出ていく真夜であった。

 

「御当主さま、御用でしょうか?」

 黒羽文弥が、真夜の下にやって来る。

 この場は、真夜と文弥と葉山だけである。他の者は真夜の命令でその場から離れていた。

「しらじらしいわね……文弥さん」

「え?」

 すると、文弥の周りがいきなり「夜」に包まれた。それは紛れもなく真夜が発動した魔法・流星群(ミーティア・ライン)である。文弥にはわけがわからない。が、これにとらわれたなら、最早逃げられない。大黒竜也の術式解散(グラム・ディスパージョン)を除いては。

 だが、その夜に星が輝く前に、真夜は流星群をキャンセルした。

 文弥には訳が分からないが、とにかく自分の命は助かったのである。そして、当主を睨みつけて言う。

「御当主さま、これは何の真似ですッ!」

「何の真似……貴方、どうやら本当に知らないようね……貴方は亜夜子の件とは無関係なの?」

「……姉さんの件……?」

 文弥には真夜の言っている意味がわからなかった。

 そしてこの時、初めて気づいた。真夜はこれまで、姉を役立たずと蔑んではいても、少なくとも人前では「さん」を付けて呼んでいる。なのに、今は呼び捨てにしている。

「いったい……どういうことですか……? 御当主さま……」

 すると、真夜が文弥を睨みつけて言う。

「あのできそこないの小娘が、屋敷で療養していた姉さんの身柄を奪って行方をくらませたという連絡が入ったわ。四葉本邸は焼かれ、留守を守っていた魔法師は殺されるか手傷を負ったという連絡がねッ!」

 その真夜の言葉を理解するのに、弟の文弥には時間が必要だった。

 弟は本当に何も知らないからだ。

 だが、ようやく理解した。

 姉が、四葉を裏切って反乱を起こし、司波こと四葉深夜の身柄を奪って行方をくらませたということを。




次回は「実行 その2」です。
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