復讐の劣等生   作:ミスト2世

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帰還 その2

 ベンジャミン・カノープスの反乱は最初から旗色が悪かった。

 自分が呼びかけたら隊の3分の2は自分に味方すると思っていたのに、蓋を開けてみたら味方したのは半数ほどだった。

 大統領次席補佐官のケイン・ロウズの裏工作で軍のいくらかも味方にしたが、これらはそんなに役に立つとは思えない。

 しかも、カノープスにつかなかった半数は捕らわれたバランスを取り戻すために、バランスを護送していた車を急襲して身柄を奪い返した。

 カノープスは最早なりふり構っていられなくなった。反魔法師団体に協力を求めたのである。

 だがそれも、大黒竜也の帰還で全て台無しになるのだった。

 

 大黒竜也は、リーナと共にUSNAに帰還していた。

「お帰りなさいませ。お待ちしておりました。総隊長どの、副隊長どの」

 空港で軍隊式の敬礼をして迎えるのは、シルヴィア・マーキュリー・ファーストである。

 竜也が言う。

「挨拶はいい。すぐにこれまでの状況を説明しろ」

「わかりました」

 シルヴィアの説明が10分ほど続いた。

「そうか……わかった。なら、ひとまずバランスや味方がいるアジトに向かう。それから、カノープスに味方した隊員にすぐに俺がUSNAに帰還したことを広めろ」

「はい」

「無駄な戦いは、できるだけ避けたいからな……」

 そして、速足で空港の外に歩いていく竜也だった。

 

 カノープスは愕然としていた。

 それもそのはず、大黒竜也が戻ってきたからである。

 カノープスが、目の前にいる男に怒鳴り散らす。

「どういうことだ。私がスターズを完全掌握するまで、大黒竜也は日本に押さえるとそちらの主人と約束したはずだ。その約束があったから私は反乱を起こしたのに、話がまるで違うではないかッ!」

 目の前にいる青年・花菱兵庫はそんなカノープスを冷たい目で見つめている。

 花菱兵庫。四葉家に仕える序列第2位の執事である花菱の長男である。今回は四葉真夜のカノープスへの支援とある命令の遂行を目的に渡米していた。

 兵庫が言う。

「申しわけございません。どうやらその押さえはきかなかったようです」

 まるで平然と答える兵庫。

 それもそのはずである。四葉にとって、この反乱はある目的さえ遂行できれば、別に失敗してもよかったのだ。事実、真夜から兵庫は渡米前に呼び出されて、

「あなたにはある使命を与えます……いいですね? その命令だけは何としても果たしなさい」

「は……では、反乱のほうは?」

「あんなの失敗しても別にいいわ。だいたい、あんな小者程度で今の達也を止められるわけがないからね」

「…………」

 兵庫はこの時、自分が仕える主人の冷徹さを改めて思い知り、背筋が凍る思いをしていた。

 

 達也はカノープスなど問題にしていない。事実、実力では圧倒的に自分が上であるからだ。仮に反乱軍が総力を挙げても蹴散らせる自信はある。

 ただし、リーナの両親が捕らわれている。これをまずは取り戻す必要がある。

 リーナの両親を達也は見捨てることなどできない。何故なら、自分が渡米したとき、自分を実の息子のようにかわいがり育ててくれた育ての親だからだ。

 今の達也が愛を失わずにいられるのも、この両親がいるからに他ならない。

 そして、相棒のためにも絶対に取り戻したかった。

 そのため、カノープスに対して連絡を入れた。

「カノープス。お前の反乱はもう終わりだ。俺が戻ってきたんだ……お前は俺の実力を知っているはずだ……。すぐに降伏しろ。そうすれば命だけは助けてやる」

「……ふざけるなッ。この化け物がッ!」

 カノープスがモニターの中で怒鳴る。

「お前などに降伏する気はない。攻めてきたくば攻めてこいッ……」

「……後悔しないんだな……?」

「しないッ」

「わかった……」

 そして、画面がブラックアウトした。

 

 戦いは最初から見えていた。

 相手はあの大黒竜也なのだ。弱冠12歳でスターズの総隊長になった男。

 その恐ろしさ、凄さは戦場を共に駆けた者なら誰もが知っている。

 彼が戦闘服にヘルメットを着用したその姿を見ただけで、戦意を失う者が相次いだ。

 竜也は戦意を失って降伏する者に興味を示さず、まっしぐらにカノープスがいるであろう総隊長室に向けて歩き続けた。リーナと共に。

 途中で、勿論竜也やリーナに攻撃してきた者もいる。だがそれらは、次々に消されていくだけだった。

 そして、遂に総隊長室にたどりつく。

 そこに、カノープスがいた。

「……来たか……」

 カノープスは追い詰められているのに、なぜか清々しさを感じさせるような顔をしている。

「こうなることがわからないほど、お前が愚かだとは思わなかったぞカノープス……なぜ、こんな真似をした?」

「お前みたいな東洋の山猿が、我々誇り高きスターズの総隊長になるなど間違いなのだ。黄色人種の総隊長など認められるものかッ!」

「……くだらないな……」

「なんだと?」

「皮膚の色が違うからと言って、それがどうしたというんだ? 黄色だろうが白だろうが優秀な人材はどこにでもいる。それだけのことだろうが」

「うるさいッ。お前みたいなガキが……」

「そのガキに、お前はこれで2度負けた。そしてこの2度目は、絶対に許せることじゃないのはわかっているな?」

「…………」

 竜也が溜息をつく。そして言う。

「カノープス……俺は、お前を認めていたつもりだ。……なぜ、もう少し我慢をしなかった?」

「……我慢だと……?」

「俺は日本で、俺の果たすべき目的を果たした。その目的を果たした以上、もう俺はスターズにいるつもりはない。……ここにいるリーナと退役するつもりだったんだ。お前に後を任せてな……」

「…………」

「お前が……いや、お前らが俺を化け物というのも無理はない。何しろ俺は分解に再成を使う化け物だからな……だが、お前は俺を理解してくれていると思っていた」

「…………」

「それはどうやら買い被りだったようだ……で、リーナの両親はどこだ?」

「…………」

「どこにいるの? ベン、答えてくださいッ!」

 リーナがカノープスに迫る。

 カノープスが言う。

「両親は、この先の突き当りの部屋に監禁してある……心配しなくても、手は出していない……」

「そうか……」

 そして、竜也がゆっくりとジャッジメントをカノープスに向けて構えた。

 竜也が、背後にいるシルヴィアに尋ねる。

「准尉」

「はい」

「カノープスに子はいたか?」

「……はい……隊長より少し年下の娘さんがおられます」

「……そうか……」

 そして、竜也がジャッジメントを発動し、カノープスの右手を分解した。

 カノープスの右腕が消え、そこから血が溢れ出す。

「止血してやれ。それから、罪は罪だが命だけは助けてやれ」

 それだけ言うと、竜也は何も言わずにその場を去った。

 後に残ったのは、腕を失って苦しむカノープスと、その介抱に回るシルヴィアたちだけだった。

 

 竜也は、先に両親のいる部屋に向かったリーナの後を追うように歩いていた。

 そこに、バランスが来る。

「大黒中佐。……少し、話がしたい」

「何だ? 手短にしてくれ」

「……退役する気だというのは本気か?」

「ああ……リーナもその気だ」

「認められると思うのか?」

「認めるも認めないもない……俺もリーナもUSNAの所有物じゃない。ましてや「戦闘マシーン」でもない」

「…………」

「それに、俺の力は危険すぎる……それはお前もわかっているだろう? だからこんな反乱にまで至った。違うか?」

「否定はしない。貴殿の力は確かに高すぎる……だが、受け入れがたい存在であるとも私は少なくとも思ってはいない」

「ほう」

「貴殿の力とリーナの力、それがあるからこそ、今のUSNAはどの国よりも強力な戦力を誇る超大国として君臨できている。私は貴殿の存在に利益を認めている。例え、化け物であろうとな」

「ふ……だが、それは『俺に利益がある間』だけだろう?」

「それは……」

「取り繕う必要はない。俺がそれは一番わかってる。だから、俺は後をあのカノープスに任せてリーナと共に退役するつもりだったんだが……」

 その時だった。

「竜也ッ!」

 リーナが、真っ青な顔色でそこに現れた。

「どうした? ご両親は見つかったか?」

「それが……」

 そのリーナの言葉に、顔をしかめる竜也がいた。




次回は「交渉と交換」です。
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