復讐の劣等生   作:ミスト2世

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天魔墜つ

 2095年12月中旬。

 四葉真夜は余裕の表情でそこにいた。

 姉の深夜の容態が落ち着き、何とか一命をとりとめたからである。つまり、達也をコントロールするのに必要な道具が壊れずに自分の手中になおもあり続けることを意味している。

「達也が姉さんを見捨てるなんてこと、できるわけないわ。もし見捨てるなら、ちょっかいを出せばいい。その方法も、既に私は考えているわ」

 紅茶を口に含みながら、真夜は不気味なことを考えていた。

 実はリーナによって回線を切られた翌日、達也のほうから通信が入った。

 達也曰く。

「何とか5日の猶予をくれ。その5日で確かに返事をする」

 そして、真夜はそれを受け入れたのである。

「達也を我が四葉の当主に据える。すぐには無理だろうけど、まずは深雪と結婚させて四葉と切っても切れない関係を築かせてゆく……私にはもう、当主の座とか形式的なものはどうでもいい。裏で達也を操りながら、実際の権力は私が掌握する。そして、深雪が達也の子供を産めば、それを姉さんに代わる新たな人質にする……そうすればもう、達也は一生私の掌で踊る人形になる……」

 真夜の脳裏に、達也を操りながら自分の意のままに破壊や殺戮を繰り返す光景が浮かび上がる。

 真夜の目的は、まずは自分の女としての幸せを奪い取った大亜連合への報復である。それには、どうしても達也の力が必要なのだ。

 そして究極的には世界の破滅。

「ああ……あの子の返事が待ち遠しいわ……」

 まるで、世界が破滅する状況を脳裏に浮かべて喜んでいるようでもある。

 そこに、執事の葉山忠教がやって来た。そして、真夜に一礼してから報告する。

「……先生が……?」

「はい。真夜さまに大事な話があるからと……」

「大事な話? ……中身について何か言っていたの?」

「いいえ。詳細は真夜さまにお会いしてからお話ししたいと……」

「…………」

 真夜のいう先生とは、前九島家当主・九島烈のことである。九島家は四葉家より実力は低く、ましてや現当主・真言に至っては真夜から見れば取るに足りない存在である。

 ただし烈は違う。亡父・元造の盟友であり、真夜自身も一時期は姉・深夜と共に私的な教師として教えを受けた関係がある。

「それで、会見の場所は?」

「生駒の九島邸では如何かと……」

「いいわ。それで用意を進めなさい」

 普段なら、真夜は相手を呼び出す立場である。実際、現当主の真言なら拒否していただろう。しかし、烈では拒否できない。真夜は別に十師族の中で四葉が孤立することに恐れていたりしてないが、今は達也を味方にする大事な時期だから、無駄な争いは避けたいという気持ちもある。

 そして、真夜が葉山と2人の護衛の魔法師を連れて奈良に向かった。

 それが、12月20日である。

 

 黒羽文弥の心は落ち込んでいた。

 本家当主の真夜から、重ねて家を裏切った姉・黒羽亜夜子の始末を厳命されたからである。

 文弥にそれができるわけがない。文弥にとって、父が行方不明、いや、文弥自身、もう父は死んでいると思っている。だから彼にとって姉は唯一の家族なのだ。それを手にかけるなど、弟の自分にできるわけがない。

 しかも真夜は、期限までつけてきた。年明けまでにこの任務が果たせない場合は、文弥にも責任を取らせると言ってきたのだ。

 真夜からすれば、発破をかけることで文弥を奮起させようとでもしたのかもしれないが、文弥にとってはむしろ過酷な処置そのものである。

 もともと温厚で優しい彼の心は、これを機にいっそう苦しみだした。

 そんなときである。彼の下に二人の少年と少女が現れた。

 一人は同姓である自分が驚くほどの美形の少年。

 もう一人は自分の双子の姉である。

 そして、二人が文弥に向いて囁いた。

 文弥は目を閉じ、耳を両手で塞いで苦渋の表情を浮かべる。

 だが、次の瞬間。片割れの姉が囁いた一つの言葉。

「ならば文弥。私を殺しなさい。私を殺して、あの年増に謝罪すればいいわ」

「…………」

 その瞬間、文弥は迷いながらも決意したのであった。




次回は「天魔堕つ その2」です。
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