達也の下に、3人の信頼する仲間がいた。
顔ぶれを上げる。
その能力を高く評価している美少年の九島光宣。
再従妹の黒羽亜夜子。
その双子の弟の文弥。
その3人と共に今、かつてリーナと共に第一高校に在籍していた際に拠点にしていた家で食事をしていた。
「そうか……深雪が軍の命令で動いたか……」
「はい。先日、四葉家に潜入させておいた我が手の者の報告では、深雪さんに対して周公瑾を始末するように、命令が出されたそうです」
答えるのは亜夜子である。
「……それは深雪が……いや、四葉家がやるということか?」
「はい」
「なぜだ? 周公瑾のことはそこにいる光宣から聞いている。そこそこの使い手らしいが、しょせんは一匹狼だ。それに普通は、軍が動くはずだろう?」
「それなんですが……どうやら、周公瑾と軍は繋がっているようなのです」
「なに……?」
達也が手にしていたグラスを机に置く。そして、
「詳しく聞かせて見ろ」
と、亜夜子に迫る。
「はい。深雪さんが四葉の当主に就任したことで、国防軍はこれまでの深雪さんとの関係を見直そうとしているようなのです。深雪さんが所属している魔壮大隊はもともと、十師族から独立した魔法戦力を備えることを目的に創設したもの。それがいつの間にか、深雪さんに依存して成り立っているような隊になっています。国防軍はどうやら、それが気に入らないようなのです」
「…………」
「国防軍は四葉家の当主になったことで、深雪さんを危険視しています。……大隊だけでなく、このままでは軍そのものが十師族の強い影響下に置かれることを。そこで、深雪さんが今後も国防軍に忠実に働いてくれる人物かどうか、試そうとしているのです。ひとりのテロリストを使って……」
「それで?」
「周公瑾は横浜騒乱の後、国防軍の中で繋がっていた情報部の十山つかさに密かに庇護されていましたが、この十山つかさが周公瑾に『凍結の悪夢』の際の戦略級魔法を使ったのが深雪さんであると吹き込み、日本国内で破壊活動を行うようにそそのかしたとのことです」
「……国防軍は深雪が戦略級魔法師だと知っているのか?」
「いいえ。どうやら十山は深雪さんを戦略級魔法師であると疑いはしていますが、証拠まではつかんでいないようです。……恐らく、周公瑾を利用するために騙ったものかと」
「ふん……」
達也が、文弥によって既に液体が注がれていた自らのグラスを手に取る。
「愚かなことだ……深雪がいるから、日本はこれまでの危機を逃れることができたんだろう。深雪なしでどうやって大亜や新ソ連、それに我がUSNAとやり合うつもりだ? 本来なら、深雪との関係をもっと深めて取り込むのが筋だろうに」
それに対し、光宣が言う。
「軍というものは常に利害関係が存在しますし、権力争いもつきものです。恐らく、深雪さんがこれ以上軍内で影響力を強めたら、それはアンタッチャブルといわれる四葉家の拡大にも繋がります。それを恐れてのことではないでしょうか?」
「ふん……だとしても、深雪に代わる戦力があるのか? 今の日本に? そんな存在もないのに深雪を試そうなどと、日本の国防軍はどうかしている」
そして、グラスに注がれていた液体を一気に飲み干し、机にグラスを置く。
「それで、これからどうしますか? 達也兄さん」
文弥である。
「決まっている。まずは、四葉家にある母上を取り戻す。深雪が不在で、戦力を大きく落としている今の四葉家なら何も問題はない。亜夜子」
「はい」
「深雪の行動を逐一、俺に報告してくれ。深雪が周公瑾の始末のために屋敷を不在にしたその時。俺は動く」
「わかりました」
「光宣、文弥。お前たちは俺についてきてほしい」
「「わかりました」」
二人が口を揃えて言う。
こうして、計画の準備が進められた。
深雪が動いたのは、それから5日後であった。
このとき、深雪は桜井水波、津久葉夕歌、新発田勝成らを連れて周公瑾の追跡を開始している。そのため、四葉家の屋敷の警護は極めて脆弱になっていた。
こんな状態であの魔人を防げるわけがない。
わずか10分ほどで屋敷は制圧され、そして達也は遂に母親を取り戻した。
「お会いしたかったです……母上……」
それは、ようやく、ようやく愛する母に会えた男の震える声であった。
次回は「深雪と周公瑾」です。