復讐の劣等生   作:ミスト2世

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愚行

 2096年2月。

 四葉深雪が動いた。

 深雪は、達也がUSNAに帰って動けないこの機を逃がしたりしなかった。

 深雪は以前から花菱に命じて進めていた縁談を実行に移したのである。

 婿に選んだのは同じ十師族の一条家の長男・一条将輝である。

 将輝は九校戦で深雪を一目惚れしていた。深雪もそれを薄々は気付いていた。

 それに、深雪には自分は良家の御曹司と、そして将来性のある魔法力のある、知性のある男性と結ばれることが使命だと思っている。

 さらに言えば、一条家の戦力は対達也戦で大きな力になる。

 将輝もそうだが、父の剛毅の力もなかなかのもので、達也との戦いで期待できる戦力だと思っている。

 そこで、深雪は一条家当主・一条剛毅に縁談を申し入れたのである。

「あの四葉家の当主か……」

 さすがの剛毅も、これには面食らった。今まで一条家と四葉家はそこまで親しい間柄でもない。同じ十師族である、それくらいの関係であるといってよい。

 そして四葉家は世界に名だたる「アンタッチャブル」であり、秘密主義で内部があまり知れない不気味な存在。

 そのため、剛毅は迷った。

 剛毅が息子を呼ぶ。

「将輝。お前は四葉の現当主・四葉深雪どのを知っているのか?」

「ああ。九校戦で見たことがある」

 この時、父親は椅子に腰かけ、息子は屹立している。

「そうか……なら、彼女のことは、どう思っている?」

「なんだよいきなり……なぜ、そんなことを聞く?」

「彼女から……いや、四葉深雪どのから縁談の申し入れがあった。お前と結婚を前提にお付き合いをしたいとな……」

「ッ!」

 将輝が驚く。

 顔がみるみるうちに紅く染まってゆく。

「お前は彼女の事をどう思っている? 答えろ」

「……彼女を見たあの時から、俺は惚れてしまった……今まで多くの女が俺に近づいてきたが、彼女はそんな女どもと違う、何かを俺は感じた……それが何なのかは言葉では表せない……だが、俺は彼女が好きなんだと思う……」

「そうか……」

 父親が溜息をつく。

「だが、お前は長男だ。つまり一条家を将来は継がないといけない身であるということは理解しているな?」

「それは……」

「理解しているな?」

「…………」

 将輝が口ごもる。将輝にとって、深雪は意中の人であるが、だからといって一条家のことを捨ててまで結ばれようとは考えていなかったのだ。

「……まあ、まずは彼女と会って話をしてみよう……縁談を受けるかどうかは、それからでも遅くはない」

 

 そして数日後。

 一条剛毅・将輝父子と四葉深雪が会っていた。

 場所は、東京の料亭の一室。

 ここは、四葉家の息がかかった料亭である。

「このたびは、ご足労頂き感謝いたします」

 深雪が頭を下げる。

 剛毅が言う。

「挨拶はよろしい。それより、本題に入りたいのだが……」

「はい。私と一条将輝さんの縁談についてですね」

「そうです……」

 このとき、剛毅は深雪に得体の知れない何かを感じていた。

 深雪の背後には花菱と桜井水波がいる。二人は何も言わず正座したままである。

 だが剛毅には、背後のふたりもそうだが、何よりも深雪に端正な顔の裏に何があるかしれない女性だというのを敏感に感じていた。自分の息子と同じ年齢の少女を。

「結婚を前提にお付き合いしたいですわ……私はそれを望んでいます」

「ですが……息子は我が一条家の跡取りです。私には息子は将輝しかいない。そして四葉どの、失礼だが、貴女にも他に兄弟もいない。つまり、私は息子を家から出せないし、貴女も四葉を捨てて息子の下に嫁ぐというわけにはいきますまい」

「なんだ。そんなことですか」

 深雪が茶を一服する。

「それなら心配いりません。私は一条さんと結婚したらたくさん子どもを産むつもりです。その子供を一条家と四葉家の跡取りにすればいいでしょう」

「なッ……!!」

 剛毅が驚く。

 深雪は笑顔を崩さないままだ。

「一条さまも、奥様の美登里さまとはご恋愛で結ばれた仲だとお聞きしています……そして1男2女に恵まれている……別に驚くことではないと思いますが?」

「…………」

「それより将輝さん」

 と、深雪が初めて、一条を苗字ではなく、名で呼んだ。

「は、はいッ!」

 将輝が居住まいを正す。

「私のことはお嫌いですか?」

「…………」

 将輝が膝で組んでいる拳が震えていた。

「私は将輝さんと結ばれるのを夢見ています……今はまだ、お互い高校生ですから、結婚というわけにはまいりません。まずは婚約者として、お付き合いを始めませんか? 結婚は高校生活が終わってからということで」

「…………」

 将輝の心臓の鼓動が早まってゆく。そして、

「は、はい……」

 と頷き、そして、

「親父頼む……俺と四葉さんの関係を認めてくれ……」

 と、両手を合わせて頭を下げた。

 こうなると、もう剛毅にはどうしようもなかった。流れが流れだった。剛毅は将輝にいつも厳格に当たっているが、実はそれは父親としての息子の愛情の表れで、息子をこよなく愛しているのである。

 だから息子の希望はかなえてやりたいという気持ちがある。

 こうして、話はまとめられ、細かい所は花菱が全て処理してゆくことになるのである。

 

 そして後日。

 十師族による会議が開かれた。

 ここで、四葉家の新当主となった深雪のお披露目、並びに四葉深雪と一条将輝の婚約が発表された。

 そして、この一条と四葉の婚約に危機感を抱いた者がいた。

 それは……。




次回は「次の手」です。
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