復讐の劣等生   作:ミスト2世

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老雄

 九島烈。

 十師族という序列を確立した人物であり、約20年前までは世界最強の魔法師の一人と目されていた人物である。当時は「最高にして最巧」と謳われ、「トリック・スター」の異名を持っていた。その魔法力は、国防陸軍の秘密研究機関で生存率僅か10%の後天的な強化措置を成功させ手に入れたものである。

 そして、幼い頃に家を追われた司波達也を匿い、その成長に大きく貢献もしている。

 ただし、年齢は既に90歳に近い。そのため、家督は長男の真言に譲っている。

 だが、烈にすれば、この真言が実を言うと悩みの種でもあった。

(どう見ても、他の十師族に比べて劣っている……)

 自分に劣るならまだいい。そもそも自分はこの強さを生命の危険と引き換えに手に入れている。

 だが、自分どころか、他の魔法師と比較しても大きく劣っている。なにより器量が。だから、烈はこの高齢になってもおちおち隠居ができない。

(まだまだ……まだまだ、働かねば……)

 そしてこの日も、90歳になるこの老人は働いていた。

 ……自分の運命に危機が迫っていることを気付くこともなく……。

 

 その日も、烈は老人とは思えない速さで歩いていた。

 この日は、十文字家の現当主・十文字和樹と面会していた。

 実は、これには問題がある。横浜騒乱の際、和樹の長男で将来の跡取りと期待していた十文字克人が行方不明になっていた。

 実は克人は司波達也とアンジェリーナ=クドウ=シールズによって殺されているのだが、達也が分解で死体を消して証拠の一切を無くしていたため、あくまで行方不明扱いとなっている。死亡宣告が出せるとしてもまだ7年がいる。

 だが、十文字家には実は7年も待てない事情があった。

 実をいうと現当主の和樹は、十文字家の切り札であるオーバークロックの度重なる使用によって、自らの魔法師としての寿命を縮めてしまっている。そのため、往時と比べてすっかり魔法技能が弱まっており、魔法師としての生命の瀬戸際に立たされていた。

 このまま和樹が魔法力を失えば、それはすなわち十文字家の没落となる。

 克人が生きていれば、和樹は克人に後継者指名をする考えであった。だが、克人は行方不明である。

 和樹には他にも子供はいるが、まだ幼いし、何よりも克人と比べれば魔法力は大きく劣る。そして、十文字家に代わってこの機会に十師族の椅子を狙う者はたくさんいる。

 和樹は、十文字家の将来を心配して、烈に相談を持ちかけていたのである。

 烈も相談は受けるが、かといって具体策があるわけではない。

 だが、十文字家の危急を見捨てることもできなかった。

 彼は、十文字克人が達也とリーナによって消されていることを薄々は察していたからである。

(わしの不肖の弟子と、弟の孫娘のために倅を消された哀れな十文字家を何とか助けたいものだが……)

 彼は、本気でそう思っていたのだ。

 だが、実は烈にも秘めたる決意があった。十文字家のことを他人事と思えなかったのだ。

 それは、できそこないの息子の真言に当主を辞めさせ、孫で出来がよく将来も期待できる光宣に変えようと考えていたのである。

 勿論、反発もあるだろう。

 真言は出来が悪いとはいえ、別に大きな失敗をしているわけではない。

 それをいきなり廃するといえば周囲は一族は反発するだろう。

(だが、わしの命のあるうちに光宣の晴れ姿を見たい……!!)

 それが、祖父の最後の願いでもあった。

 そして烈は遂に強行した。

 十文字和樹との面会を済ませると、彼はすぐに真言のもとに赴き、すぐに当主を光宣に譲って隠退するように迫ったのだ。

「父上……ッ!」

 このとき、父子は終わった。

 そして、父子の戦いが始まったのである。




次回は「老雄、その2」です。
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