復讐の劣等生   作:ミスト2世

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老雄と今果心

 少年が、その場に立っていた。

 少年の周囲には、赤い液体と倒れている人の群れがある。

 少年の名を、九島光宣という。

 なんと、光宣は周公瑾や兄の蒼司をはじめとした自分たちの数倍の数の魔法師、戦闘者を相手に、遂に勝ち残ったのである。

 だが、兄の蒼司や周公瑾には逃げられてしまった。

 そして光宣自身、その整った容貌や肉体に多くの傷や血がついている。

 それは返り血でもあり、自らの血でもあった。

「……光宣……」

 光宣の背後から声がした。

 黒羽文弥だった。彼もまた、傷つきながらも生き残っていたのである。

「文弥か……」

「ああ……どうやら、無事のようだね……」

「あの程度のことで、やられてたまるものか……あの程度でやられるようなら……達也さんに、怒られる……」

「そうだね……」

 そのときである。二人が互いに顔を見合わせた。

 こちらに何者か向かってくる気配がある。数はわからない。

 だが、新手の敵なら今度は圧倒的に不利である。

(こちらは先ほどの戦闘で傷ついている……これじゃあ、どうあがいても不利だ……)

 そして、光宣と文弥が互いに頷く。

 生き残った部下に声をかけて、その場から逃走したのであった。

 

 老人とその孫娘と、50代くらいの坊主がそこにいた。

「ほほう……私をご存知とは……光栄ですよ……『トリック・スター』」

「今果心と称されるお主を知らぬほうがおかしかろう……で、それよりわしに何用かな……」

 すると、キツネ目をした九重八雲の目が、この時になってスッと見開かれた。

「死んで頂く」

「……どうやら、冗談ではないようだな……」

 九島烈が、着ていた背広を脱ぎ捨てる。

 響子も身構える。が、

(去ね!)

(!)

 響子は、八雲が発する両目からの殺気だけで怖気づいてしまった。

 両足がガクガクと震える。全身に寒気が走る。

(去ね女。私はそこにいる『トリック・スター』とやりあうのだ。……お前ごとき雑魚の出る幕ではないッ!)

 響子の身体を、八雲の両目から放たれた殺気が貫いた。

 その瞬間、響子は知った。

 格が違いすぎると。

 自分の知らない数々の修羅場を潜り抜け、多くの鍛錬を積んでいるこの坊主には勝てないと。

 響子が、立っていられなくなり、膝を着こうとしたそのとき。

「喝ッ!」

 烈の怒声とともに、それまで響子に向けられていた八雲の殺気による呪縛が解放される。そのため、響子のふらつきも止まり、何とか響子はその場に倒れることを免れた。

「響子よ。離れていなさい。これは私とそこにいる九重八雲との戦いだ」

 響子に祖父として優しい笑顔を見せる。そして、

「九重八雲よ……殺気を向ける相手が違うだろう……。お前の相手は私だ」

「ふん。貴方との戦いを前に、邪魔者に入られてはつまらないからね……」

 八雲が、烈を睨みつけて殺気を放つ。

 烈も、八雲に向けて負けじと殺気を放つ。

 両者の間に、凄まじい火花が散っていた。

 が、その火花を先に収めたのは烈だった。

「九重八雲よ……なぜ、私を狙う?」

 烈が尋ねる。

「お前が許せないからだ」

「なに?」

「お前はかつて、四葉の家から追われた司波達也を匿い、そして育てた」

 八雲は達也のことを、弟子であり達也の妹である深雪から既に聞かされている。

 八雲は俗世に未練などないが、達也に対する恨みはある。そして、深雪は達也に対抗するために少しでも頼もしい味方が欲しい。

 だから、深雪は八雲に事情を話して味方になってほしいと頼んだ。

 八雲は、それを了承して、今回の計画に参加していたのである。

「それの何が悪い」

 烈が言い返す。

「……達也は私の最高傑作だ。達也を拾ったのは運命だ。それの何が悪い」

「そのために、恐ろしい化け物が育ったとは気づかんのか……?」

「化け物だと……確かに達也は常人では計り知れない力を持っている。その力があれば、確かに世界を滅ぼすことすら不可能ではなかろう。だが、達也に世界征服や破壊など元より興味はない。わしは自分の弟子を、そんな無責任な男には育ててはおらん」

「お前があの化け物を育てたせいで、私はかけがえのない弟子を失った……」

「それはお前の弟子が達也に挑んだからだろう……達也は無意味に人を襲ったりするような男ではない。それは、師であるわしはわかっているつもりだ」

 事実、烈は達也を育てたことを後悔などしていない。確かに性格に今一つ問題はあるが、根は悪い男ではないし、何より達也のおかげで孫の光宣の今までに見たことのない笑顔を見ることができるようになった。

 烈は、達也を信頼しているのである。

「これ以上はどんなに言っても平行線だ……」

 そして、八雲が戦闘者として構える。

「お前には死んでもらう。恨むなら、あんな化け物を育てた自分を恨め」

「今果心といわれるほどだから、どれほどの男かと思っていたが、どうやら心の狭い男のようだな。そんなことで、わしや達也に勝てるとでも思っているのか?」

「……それをこれから見せてやるッ!」

 そして、両雄の衝突が遂に始まった。




次回は「老雄と今果心、その2」です。

しばらく本作品は凍結します。
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