四葉深雪は、その報告を空港に迎えにきた側近の花菱兵庫から聞かされていた。
「そうですか……九島家が……」
「はい……」
このとき、深雪には動揺が無かった。
それを見た花菱が言う。
「ご当主さま……いったい、どうなされるおつもりですか?」
「どうするとは?」
「九島家は潰されたのですよ。奴は、我々にも容赦なく襲いかかってくるはずです」
「でしょうね……」
まるで深雪は、それがわかっているかのように呟いた。
だが、花菱は気が気でない。達也の凄さ、恐ろしさ、容赦の無さを知っている彼は、このままでは四葉が潰されると思っている。だから、深雪に対抗策を期待していたのだ。
だが、深雪は花菱にではなく、自分と行動を共にしていた側近の桜井水波に向かって言う。
「水波ちゃん」
「はい。深雪さま」
「かねてからの計画通り、頼むわよ」
「はい。かしこまりました」
それだけ言うと、深雪は自分の背中に向けて頭を下げている水波から離れてゆく。
慌てて荷物を持っている花菱兵庫が後に続く。
その光景を、頭を挙げて見つめる水波であった。
司波達也の次の標的は、ブランシュであった。
これも、リーナと光宣のみで行なうつもりであった。
そして、その用意をしている時だった。
「……なんだと……」
達也が、報告を挙げたリーナに向かって言う。
「深雪が、俺に対して使いを寄こしただと……?」
「ええ」
「追い返せ。話すことなどない」
まるでうるさい蠅を追い払うように言う達也に、リーナが言う。
「ええ……だけど、その使いが四葉深雪本人だとしたら、どうするの……?」
「…………ッ!」
驚く達也が、そこにいた。
中央に四葉深雪。
その左後ろに花菱兵庫。
そして右後ろに桜井水波がいた。
そして、深雪の正面に、達也が現れる。
このとき、達也の左側にリーナが、右側に光宣がいた。
「……何の用だ……深雪……。用など無いはずだ……」
「あらあら。貴方は私の兄上。その「兄上」様にお会いするのに理由なんているのでしょうか?」
と、ぬけぬけと言い放つ深雪。
その態度に、達也は驚く。
かつての深雪なら、どこか世間知らずなところがあった。なのに今はまるでどこか抜け目のなさを感じさせるところがある。
何よりも、妹の背後に今は亡き叔母・四葉真夜の影が映って見えるのだ。
(……立場が人を変え、人を育てるということはある……深雪は四葉家の当主になって、ここまで変わったとでも、言うのか……)
達也が言う。
「それで……」
と、達也が妹を鋭い瞳で睨みつける。並の人間なら、その鋭さで震え上がるが、さすがに妹といったところか、全く動じていない。
「それで、俺に何の用だ……」
「では、言わせて頂きます」
深雪が、丁寧に両手を前に合わせて頭を下げる。
「……私と、仲直りしませんか?」
「!!!」
その場が、凍りついたように誰もが思った。
次回は「駆け引き」です。