ところかわって新ソ連。
ここに、二人の男がいた。
ひとりはレオニード・コンドラチェンコ。階級は少将で70歳代。
もうひとりはイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフ。新ソ連の科学者で40歳代。
親子ほど歳の離れた二人が、新ソ連のとある場所で会見していた。
…………。
「では、この男を暗殺するべきと貴殿は言われるのかな?」
老人が中年に言う。
「はい。……奴は危険すぎます。それはおわかりのはずです」
中年が丁寧に返答する。
老人の右手には、写真が貼られた紙の書類が握られている。その紙には、司波達也の写真が貼られ、経歴が詳細に描かれていた。
「確かにな……USNAにあれほど危険な戦略級魔法師がいるならば、それは消さねばならぬ。我が国こそが世界の覇者であらねばならぬのだ」
「……あの男の暗殺については、日本からも申し出がありました」
「日本から? 日本政府が我々に協力するというのか?」
「いいえ。日本政府はUSNAの狗です。協力を申し出たのはあの『四葉』です」
「四葉……ああ、かつて大漢を滅ぼしたあの一族か……」
「はい」
「なぜ、あの四葉が我々に協力するというのだ?」
「四葉はあの男の部下に前当主や主要なメンバーを消されているそうです。その恨みだとか」
「…………」
老人・レオニードが考え込む。
「なぜ、あの男と四葉が対立している?」
「それは……」
中年・ベゾブラゾフが説明する。
…………。
実は以前、達也と深雪が仲直りする前に、深雪は新ソ連に渡って直接、ベゾブラゾフと会見していた。理由は勿論、達也を暗殺するための協力を求めるためだ。
「四葉……あのアンタッチャブルか……」
ベゾブラゾフもその噂くらいは聞いている。しかし、あくまで日本の魔法師の一族であるだけで噂は噂であるから、これまでそこまで重要視はしていなかった。
だが、深雪がベゾブラゾフに対して持ってきた引き出物を見て、彼は驚く。
「大亜連邦の上校・陳祥山だと……」
実は陳は横浜戦の時、撤退戦の際に四葉の手の者に捕縛されていた。大亜に対して恨みの深い真夜は最初はすぐに殺そうとしたが、いずれ何かの使い道もあるかもしれないという葉山の進言もあり、この時は生かしておいたのである。
勿論、日本側には一切内緒にしている。
深雪はその陳をベゾブラゾフに引き出物として差し出したのだ。
そして深雪が言うには、
「共に協力して、USNAの戦略級魔法師である司波達也を殺しましょう」
「…………」
ベゾブラゾフは目の前にいる少女を見つめた。
自分の娘ほどの年齢である少女なのに、その目からは凄まじい冷気を感じた。
何より、その並ぶもののない美しさに、ベゾブラゾフはしばらく目が釘付けになっていた。
「……それは、私と手を組みたいといわれるのかな?」
「はい。戦略級魔法師である貴方とです」
「……なぜ、私と組んで司波達也を始末したいといわれるのか?」
ベゾブラゾフは背後にいた部下に、陳を連行するように命じる。
陳が部屋から出て行ってから、深雪が答える。
「あの男が危険なのは以前、世界に流出した動画などでお分かりかと」
「……ああ……リヴァイアサンと違い、ヘヴィ・メタル・バースト、それにマテリアル・バーストという強力な戦略級魔法を抱えるUSNAに対しては、我が新ソ連でも由々しき問題として取り上げられている」
「ならば私は、あの司波達也に恨みを持つ者。その司波達也を共に協力して葬りましょうと言っているのです」
そして、深雪がベゾブラゾフに資料を手渡す。
それには、達也の経歴が詳細に描かれていた。達也が四葉の人間であることもだ。
「…………」
ベゾブラゾフが深雪を見つめる。そして言う。
「貴方と司波達也は、この資料を見る限り、兄と妹に当たるようだが……?」
「そうです」
「それで、兄を始末するというのか? 妹である貴方が?」
「はい」
「何故だ?」
「司波達也は一族を裏切った男。たとえ兄といえど許されることではありません。そして達也は我が母・真夜を殺しました。我が四葉に手を出す者は誰であろうと許されません。必ず報復する」
「…………」
「しかし、報復するには我が四葉だけでは力が足りない。だから閣下のお力をお借りしたいと言っているのです」
「…………」
ベゾブラゾフは迷った。
しかし、新ソ連でもUSNAに2つの強力な戦略級魔法があることは由々しき問題となっている。このままでは新ソ連はUSNAに大きく力関係で劣ることにもなりかねない。
ベゾブラゾフが言う。
「私と組んで、果たしてあの司波達也を殺せますか?」
「舞台は私が用意します」
そして深雪が詳細を話す。
だが、ベゾブラゾフはさらに質問する。
「なぜ、貴方は私を手を結ぶ相手に選ばれたのかな?」
「貴方は以前、先代シリウスことウィリアム・シリウスをその戦略級魔法で葬られた実績がある。そのためですよ」
「…………」
「それで、どうですか? 私と手を組んでいただけますか?」
「…………」
ベゾブラゾフはそして、頷いたのである。
…………。
「そんなことが……」
「はい」
「それで、博士はどうなさるおつもりかな?」
「そうですね……」
と、ベゾブラゾフが虚空を見つめ、そして言う。
「今日にでも、ウラジオストクに向けて発ちます。『イグローク』を連れて」
「では?」
「ええ、我が国にいつ牙を向くかわからない戦略級魔法を、これ以上放置しておくべきではないでしょう……それに、四葉深雪から用意は整ったと連絡も入りました」
「おお……では、成功を祈っておりますぞ」
そして、その翌日。
亡き母を弔うために日本の伊豆にいた司波達也の下に、一発の戦略級魔法が放たれた。
次回は「再びの反乱」です。