「裏切り!? 何のことですッ!」
リーナの言葉に、
「とぼけるとか、往生際が悪いッ!」
と、レイラが右手に持ったナイフを振りかざす。
その直後、変身前のリーナを身長で10センチ近く上回るバストとヒップのサイズも同じくらい上の女性が目の前に立っていた。
振り下ろされる戦闘用ナイフ。
反射的に移動魔法を発動したリーナが、格納庫の入口の反対サイドに出現する。
サプレッサーで抑えられた銃声と、リーナのシールドに当たって床に落ちる潰れた弾。レイラが舌打ちをもらした。ナイフと拳銃のコンビネーションは彼女の得意魔法だったからだ。
リーナが移動魔法と同時に魔法シールドを張っていたのは、その記憶が頭にあったからにすぎない。
「とぼけてなどいません! 私がいつ裏切ったというのです!?」
シールドを張った状態のまま、リーナが叫ぶ。
「白々しい。だったらハッキリ言ってやる」
レイラが憎しみの篭った瞳をリーナに向ける。
「お前はUSNAの魔法師精鋭部隊であるスターズの副隊長の地位にありながら、男に迷って風紀を乱し、軍律をないがしろにしたッ!」
「何のことです?」
「反省の欠片も無いってことね」
その声は、リーナの背後から聞こえた。
慌ててリーナが振り返る。
すかさずレイラから背中に撃ち込まれた銃弾は、再び対物シールドで弾く。レイラが銃弾に付加した貫通魔法、障害物を貫いて前進する移動魔法よりも、リーナのシールド魔法の事象干渉力が上回った結果である。
だが新たな登場人物の攻撃は、思わぬ方向から来た。
リーナの身体が、シールドごと打ち上げられる。
リーナに移動魔法や加速魔法を掛けたのではない。局所的な重力反転魔法である。リーナを中心にして半径1メートルの円内の重力が逆転増幅されたのである。
リーナは自由落下の10倍の加速度で格納庫の天井に叩き付けられた。
天井は破れなかった。勢いに対して小さすぎる音を立てて揺れただけだった。リーナが咄嗟に自分の慣性を中和した。それが功を奏したのである。
だが完全ではなかった。それなりの衝撃を受けてリーナが落下に転じる。今度は逆方向に10倍の加速度が働いた。
しかしリーナは痛みに耐えて自身に減速魔法を掛ける。それ以上のダメージを負うことなく彼女は床に復帰した。
それだけではない。落下途中の空中から空気弾をまき散らす。殺傷力は乏しかったが、敵の牽制にはなった。
「シャル……」
着地したリーナが崩れそうになる足を踏みしめて自分を天井に叩き付けたシャル、シャルロット・ベガ少尉である。
「へえ……確実に仕留めたと思ったんだけど、さすがはシリウスね。その魔法力「だけ」は名前負けしていないと認めてあげる」
今の攻防で、リーナのパレードは解けている。鮮やかな金髪碧眼の凛々しさよりも可愛らしさが優っている美少女が苦しげに息を挙げている。それを見て、ベガの唇に勝ち誇った笑みが浮かんだ。
「でも、随分苦しそう。男に迷って隊を乱したお前には相応しい姿ね」
リーナは右手で腹部を守るように抑えながら叫ぶ。
「だからッ! 裏切りなんて知りませんッ! 一体、何のことですッ! 男って何のことですかッ!?」
「お前、まだッ!」
潔白を主張するリーナにレイラが逆上しかける。
が、
「いいじゃない。言ってやりましょうよ」
と、ベガがレイラを制止する。
そして、リーナに嘲りの眼を向ける。
「貴女、随分お腹を大切そうに手で押さえているけど、そのお腹にはいったい、何かあるのかしら?」
「ッ!?」
リーナがさらに腹部を隠すように強く抑えた。
「私たちが気づかないと思った? 同じ女なのよ」
「…………」
「あんた……総隊長とできたわね……部隊の中でッ!」
リーナは答えられない。
「それが軍法違反だって知ってるわよね……わかっているわよね……あんたは隊の中でやってはいけないことをした……隊を乱した……だから、私たちがあんたを処分するのよ。わかった?」
「…………」
リーナは愕然としていた。
だが、今のリーナは全力で戦えない。
何より、これ以上腹部に衝撃を与えるわけにはいかないのだ。
「……ふふ。もう、あんたを守ってくれる総隊長はいないのよ。覚悟することね……売女がッ!」
「死ねッ!」
そして、リーナに新たな攻撃が迫ろうとしていた。
次回は「虐殺、その2」です。