2097年2月某日。時刻は午後2時頃。
達也はそのとき、伊豆にいた。
伊豆で亡き母・深夜を弔い、そして葬ったあと、気分晴らしに海を見つめていたときだった。
場所は伊豆半島の中央やや東寄りの高原地帯。周りには別荘がある。
そこにいたときだった。
「ッ!」
さすがの達也も、これには驚く。
すかさず水の分解魔法――酸水素ガスの生成と再結合も感じ取った。そして悪意の正体、魔法の性質も読み取った。
(なぜだ……!?)
達也はこれが偶然なのか必然なのか、なぜ自分の動きが漏れているのか、すぐにその頭脳を回転させてやめた。考えても仕方ないことだからだ。
それよりも、これにどう対応するか。
それが一番の問題である。
すぐに胸ポケットから愛用の拳銃形態CADであるシルバー・ホーン・カスタム『トライデント』を取り出そうとして……すぐにやめた。
もし、ここで反撃したら、自分の魔法が日本側に筒抜けになりかねない。いや、そもそも自分がこの日本に来ていたことがばれてしまう。
それでは困るのだ。
ではどうするか。
すぐに結論を出す。
……再成能力に頼るしかない……。
それが結論だった。だが、いくら再成でも万能ではない。果たして戦略級に耐えられるのか?
(賭けに出ることになるな……)
(だが……俺は死なない……死んでたまるか……)
(それよりこの戦略級……恐らくは先代・シリウスを葬ったというあの『トゥマーン・ボンバ』か……)
(なぜ、新ソ連が俺の動きをここまで正確に掴んでいる?)
達也が疑問を抱いたそのとき。
トゥマーン・ボンバが炸裂したのであった。
新ソビエト連邦の国家公認戦略級魔法師であるイーゴリ・アンドレビッチ・ベゾブラゾフの戦略級魔法『トゥマーン・ボンバ』によるものと推定される魔法攻撃により、民間の別荘27戸が全半壊された。重軽傷者11人だった。負傷者は全員、別荘の管理業務に従事する者だった。
これだけの被害で済んだのは家屋が疎らな地域であるからだった。
とはいえ、国土が不当な攻撃に曝され、国民の身体と財産が脅かされたのは、紛れもない事実だ。日本政府は同日、国際社会に向けて、正体を確定出来ない攻撃者に対して厳重な抗議の意思を表明し、相手国を指名しないまま犯人の引き渡しを要求した。
勿論、それに反応する国など現れるわけがないのだが。
そして、その騒ぎの中で。
ひとりの男が動いていた。
再成能力で生き延びた司波達也である。
達也は、黒羽亜夜子・文弥姉弟を呼び寄せてこの事件の背後を徹底的に洗わせることにした。
さらに九島光宣を通じて密かに師匠である九島烈のもとに現れ、ここに身を隠して様子を見ることにした。
そして、達也が心配しているであろうUSNAで待つリーナに連絡をとろうとしたとき。
全ての報告が届けられたのである。シルヴィアによって。
すぐに達也はUSNAに向かった。
そして、反乱を鎮圧したのであった。
達也の前に、ひとりの男がいた。
USNAの大統領の補佐官のひとりである。
これから達也に、思いもよらぬことが始まろうとしていたのである。
次回は「達也屈する」です。