異世界に行こう(凍結)   作:紺色メガネ

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11話 獣人

 

 

昼前には帰るつもりだった初めての依頼は、思ってもみなかったアクシデントが2件も起こり帰るころには空が赤くなりかけていた。

 

じじぃに絡まれ、ハティと遭遇するなんて誰が予期できただろうか。これは不慮の事故としか言いようがなく、俺は悪くなくね?ということだ。

 

しかし、じじぃのことはともかくとして、ハティのことを言うつもりはない。そしてじじぃに絡まれとしても昼には門を出ており、往復1時間の距離でどうしてこれほど遅くなったのかと問われると答えられない。

 

 

「ソーヤさん、本当に大丈夫ですか?実は何か問題があったんじゃ……?」

 

 

「いやいや、本当に何でもないんですよ。初めて見る景色に時間を忘れてしまって。」

 

 

お腹の虫に餌を与える前に、と寄った冒険者ギルドで柔和なお兄さんが受付している席に着いた瞬間サラさんに捕まったのだ。ついでにお兄さんは苦笑いして他の席の受付に行った。

 

 

「本当ですか?怪我もなく?」

 

 

「本当ですって、無傷ですよ?見ますか?」

 

 

つまり俺の帰りが遅くてサラさんに心配させたわりに、良い言い訳がないのだ。特に良い景色は川くらいだけど、時間を忘れるほどのものではない。まぁサラさんが納得してくれたみたいで良かったけど。

 

 

「それなら安心しました。あそこら辺はスライムの目撃証言くらいしかなかったので、大丈夫かなって思っていたらなかなか帰ってこなかったんですから、心配しました。」

 

 

「はい、すいませんでした。」

 

 

カウンターについている椅子に座りながら頭を下げる。えー、俺が悪いのでしょうか?

 

 

「そう言えば、魔物の素材はどこに売ればいいんですか?」

 

 

あのあとも必死に頭を下げ、ついには今度サラさんがお休みの日に甘い物を食べに行く約束をして、許してくれた。サラさん曰く、甘い物を食べると判断能力などが向上するんだとか。それって医学的根拠あったっけ?

 

閑話休題(それはともかく)、初めての依頼を無事納品した俺は、道中焼いたスライムの核とゴブリンの耳をどうするのか聞いた。

 

 

「それでしたら、ここに出してもらえれば素材に応じて討伐報酬をお出しします。」

 

 

アイテムボックスからスライムの核6個とゴブリンの右耳を出した。ダンジョンでドロップした物は売れるか解らないので出さない。調べてみて売れそうだったら後で売ろう。

 

 

「はい、スライムの核とゴブリンの耳ですね。ゴブリンと戦ったんですか?あの辺りでは見かけなかったのに。」

 

 

多分それはハティのせいだと思う。あいつの加護にもあったけど、対象を挑発する効果があるみたいだし。寝る前に遠くのゴブリンでも挑発して連れてきてしまったんだろう。

 

 

「偶然見かけただけだと思いますよ。まとまって行動している5匹だけしかいなかったので。」

 

 

「5匹……それじゃあ残りの4匹はどうしたんですか?もしかして……。」

 

 

サラさんが訝しげ俺の顔を覗き込む。俺が1匹だけ狩って、残りの4匹を呼び寄せちゃってるんじゃないかと思ってるのかな。

 

だが残りの4匹はひき肉になったので耳とか解りませんじゃ納得してくれない気がする。魔物で燃やしちゃったことにしよう。

 

 

「燃やしちゃいました、初めて使うので加減がわからなくて。」

 

 

疑われないようになるべく笑顔で言ったら、しばしサラさんは目を細めていたけど納得してくれた。それから俺の会員名簿みたいなやつを更新するので、と用紙を出され、それに私は初級火魔法が使えますと書いた。

 

 

「では討伐報酬をお支払しますね。報酬金はスライムが大銅貨2枚。ゴブリンが大銅貨5枚です。合計で大銅貨17枚ですね。大銅貨と銅貨どちらでお支払しますか?」

 

 

タルクス含むここ周辺の人族が統治する国では、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、白金貨が流通している。

 

交換レートは銅貨10枚で大銅貨1枚、大銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚といった具合。普段生活するだけなら銀貨までで事足りるみたいだ。

 

元の世界で物価は知っていても買い物なんかしたことない俺としては、この世界でのレートが高いのか安いのか実感がわかない。

 

 

「大銅貨でお願いします。」

 

 

サラさんから大銅貨を受け取り、遅い昼飯にしようと街を散策しにギルドを出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街を歩いていると、様々な視線が向けられる。ついでにひそひそ話されてるのも解る。視野を広げることはできないが、最大限有効活用することで広い範囲を見ることが可能だ。こちらを見ている人の唇の動きを見れば、何を言ってるのかも大体は解る。

 

その話の6割が夜半(よわ)であることについて。残りの4割は可愛い娘だなというもの。4割については抗議をしたいが、いちいち気にしていたら時間がいくらあっても足りないのでスルー。

 

夜半についても全員が悪い感情を持っているわけではないみたいだけど、2割ほどは差別的なことを言ってる。これならサラさんにオススメのお店を聞いてくれば良かった。店主が差別的な人だったら門前払いされかねない。あるいは俺は迷い人なので違います!って言えば大丈夫かな?

 

 

「…や…やめてください!」

 

「いいじゃねーか、遊ぼうぜ。」

 

 

……ん?大通りから外れた建物と建物の間の路地、いわゆる路地裏から声が聞こえた気がした。早く飯屋を探さないと腹が限界だが興味を持ってしまった以上、見ないという選択肢はない。

 

 

「うぅ、ご飯冷めちゃう。」

 

「飯の心配?嬢ちゃん余裕だねー。」

 

 

近付くにつれて、鮮明になる若い女の子の声と2人の男の声。揉め事かな?

 

 

「離してください!お客さんが待ってるんです。」

 

「いいだろ、そんなもん?俺らが食ってやるからさ。嬢ちゃんをだけど!」

 

 

ギャハッハと下品な声が聞こえる。見れば犬耳がついた中学生くらいの少女が、2人の男、デブとガリによって壁際に追い詰められていた。ガリに片手を捕まれ、もう一方の手には手提げのついた箱のような物を持っている。

 

 

「だ、誰か助けて……。」

 

「誰も助けになんてこねぇよ!」

 

「薄情な奴らだよなぁ?」

 

 

表通りの人たちは少女たちに気付いているみたいだけど、見て見ぬふりだ。普通の生活を望む彼らにとって、悪党と対立するには守るものが多いのだろう。俺も今はギルドの保護下にある身だ、目立ったことは慎まなくてはいけない。

 

 

「安心してくれ、俺が助けるよ。」

 

 

だとしても、今ここで少女を見捨てれば飯が不味くなる。そしたらお腹の虫もご立腹だろう。

 

 

「おいおい、嬢ちゃんも交ざりたいのか?」

 

「美人さんじゃねぇか、歓迎するぜ。」

 

 

男たちの下卑た視線が体を撫でる。不愉快だ。さっさと終わらせよう。

 

体を地面すれすれまで倒し、路地裏を駆ける。驚いた表情をしている男たちをよそに一息で距離を詰め、手前にいたデブのみぞおちに拳をめり込ませた。

 

 

「ごぼぉ……」

 

「な、何しやがる、このあまぁ!」

 

 

味方が吐瀉物を撒き散らしながら崩れ落ちるのを見て、ガリが拳を固めてこちらに走りよる。

 

 

「遅い。」

 

 

ガリがこちらまで着くよりも早く、俺はデブを踏み台に飛んでいた。踏まれたデブがカエルみたいな声を出すが知ったことじゃない。

 

軽やかな背面飛びを決め、ガリと犬耳少女の間に降り立った俺は、アイテムボックスから愛刀を取りだしガリにつきつける。

 

 

「そこのデブ持って消えろ、さもないと斬る。」

 

 

低い声で脅したのが効いたのか、ガリは急いで表通りに逃げていった。頑張ってデブを引きずる姿は滑稽であったが。

 

引きずられていくデブの足が完全に見えなくなってから、体の力を抜いた。緊張から解き放たれるとついにお腹の虫が鳴いた。路地裏にくぅーと可愛らしい音がなる。男としてはグゴゴーくらいないてほしい。

 

 

「……ふふっ、お腹空いてるんですか?」

 

 

振り向くと犬耳少女が笑っていた、至近距離で。ちょくちょく思ってたんだが、この世界の女性は距離感どうかしてると思う。この近さは男女の距離ではないぞ。少しずつ、怪しまれない程度に後ろに下がる。

 

 

「あぁ、お腹ペコペコでね。……いい店知らない?」

 

 

「それならうちの店が良いですよ!2階は宿屋なんですけどね、1階で食堂もやってるんです。そこのご飯が美味しくて!こうして出前も頼まれるんですから!」

 

 

手に持っていた箱を見せてくる少女は、箱を見た瞬間ピクリと跳ねた。つられて驚いた俺も跳ねた。

 

 

「そういえば出前中だった!いけない、急がないと!」

 

 

少女は表通りに駆け出して行ったが、最後に叫ぶように店の名前を告げてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犬耳少女オススメの宿屋についたころには、すでに夕方。遅めの昼飯というより早めの夕飯になってしまった。

 

早く中に入りたいのだが、なにやら揉めているようだ。今日一日だけでじじぃ、ハティ、サラさん、犬耳少女と4件も巻き込まれているんだ、少女には悪いが別の店を探させてもらおうか。しかし今から別の店を探すのも面倒だし、どうしよう。

 

扉をにらみつつ悩んでいると、扉がいきなり開いた。超能力でも使えたかと思ったが違うみたいだ。そこには満面の笑みを浮かべた犬耳少女が立っていた。

 

 

「いらっしゃいませ!うちの宿屋のご飯はタルクス一ですよ。」

 

 

宿屋の売り文句としてそれはどうなんだと思わなくもないが、美味しいに越したことはないだろう。今日の夕飯はここにすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソーヤさんって言うんですね!……変わったお名前です。」

 

「そだなー、んぐんぐ。」

 

「ソーヤさんは冒険者なんですか?あんなに強かったですもんね!」

 

「うん、そだぞ。あ、これ旨いな。」

 

「でしょー、それはお母さんが作ったんですよ。それで、何級なんですか?もしかしてAとか!?」

 

「いや、G級。すいませーん、お代わりお願いします。」

 

「ほえー、G級って1番下ですよね?それであんなに強いなんて冒険者ってすごいんですね。」

 

「かもなー。」

 

「……………………。」

 

「ふぅー、お腹一杯だ。ごちそうさま、美味しかったよ。」

 

「……お粗末様です。」

 

「どうしたの、ユーちゃん?」

 

 

1階の食堂は結構広く、十数個の大きな丸テーブルが置かれている。その1つに座って料理に舌鼓を打っていたのだが、対面に座るユーちゃんことユーシュ・ミーシュトンは不機嫌そうに頬を膨らませていた。

 

 

「うちの料理が美味しいのは解りますけど、もう少し私に興味を示してくれても良いんじゃないですか?」

 

 

頭の上にのっている犬耳がへんなりと力なく倒れ、本人も机に突っ伏してしまう。なんで元気がないんだろう?さっきまでは元気に質問してたのに。

 

うーん、私に興味?そりゃあるけど、いきなりベタベタさわるのは男としてはどうなんだって感じだよね。

 

 

「ユーちゃんには興味あるよ。でもね、いきなり触るのは嫌かなって。」

 

 

ユーちゃんの犬耳がピクリとたった。そして机に体をつけたまま、ずりずりと頭を寄せてくる。これは触っていいってことかな?

 

爪をたてないよう、優しく頭を撫でる。ライトブラウンの髪を軽く撫で付けたり、犬耳をもふもふしてユーちゃんを堪能した。

 

「ん、くすぐったいですよー。」

 

「もふもふー、幸せだー。」

 

 

凶暴な動物と戦わされることはあったが、犬や猫をもふもふしたことはなかった。ネットでもふもふ映像を見ていつかもふってやる!と息巻いていたのだ。願いが叶った。

 

 

「おい、あんた。人の娘に何してんだ……!」

 

 

ユーちゃんをもふるのを中断し、声のした方を見上げると、コック帽を被った土佐犬のような人が器用に青筋を浮かべて俺のことを睨んでいる。すごいな、犬面人なんているんだ。……ん?

 

 

「え、娘!?ってことはユーちゃんのお父さん!?」

 

「お父さん、ソーヤさんは私を助けてくれたんだよ!」

 

「そりゃあ聞いたよ、だからこの飯代はいらねぇ。けどな、人様の娘にベタベタと……

 

「私が良いって言ったの!」

 

 

怒るミーちゃんにたじたじする親父さん。本当に家族みたいだ。まじか、似てねー。そんな俺の無粋な視線を感じたのか、親父さんが説明してくれた。

 

 

「獣人族ってのはな、親子で人と獣の度合いが違うなんてざらなんだ。そもそも獣人族がそんなもんだからな。」

 

 

ユーちゃんが耳と尻尾だけに対して、親父さんは直立歩行する犬って感じだ。人と獣の幅が広いっていうか、最早別種族な感じがする。

 

 

「赤ん坊でも知ってることだぞ?嬢ちゃん冒険者何だろ、大丈夫か?」

 

「俺は冒険者だけど迷い人でな、この世界に疎いんだ。それとな、俺は男だ。」

 

 

親子2人の驚く声を無視して、宿屋の中を見渡す。ご飯はタルクス一という売り文句は本当みたいで、空いている席はない。席を増やせばいいのにとは思うが、どうやら家族と数人の従業員で回しているらしく、この席数が限界みたいだ。

 

そして客も従業員も別に獣人だからと、差別するような人もいない。みんな笑顔で食事を楽しんでいる。

 

 

「さてと、夕飯ごちそうさまでした。俺、まだギルドの保護受けてる身だけど、独り立ちしたらこの宿を利用させてもらうよ。それじゃ、また。」

 

 

まだ驚いている2人を放っておいて宿の外に出る。いい雰囲気だったし、ご飯も美味しい。これはいい宿屋を見つけたな。今日は厄日だと思ったが最後には良いことがあった。

 

 

「ソーヤさん!助けてくれて、ありがとうございました!」

 

 

宿屋の入り口でユーちゃんが手を千切れんばかりに降っている。それに軽く手をあげ応えてから、ギルドの宿舎に帰った。

 

 

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