異世界に行こう(凍結)   作:紺色メガネ

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15話 妖精ですか?いいえ精霊です。

他の道と比べると綺麗な獣道は、奥にいくと空間が広がっていた。しかし先程の薬草栽培所とは違って清んだ泉があった。

 

 

「おおー、綺麗だなー。」

 

 

泉は僅かな月光を水面に反射させキラキラと光って見えた。

 

そう言えば喉も乾いたし少し飲んで行こう。泉の縁に身を屈めて水を掬おうとして手を伸ばすと、真下の水が沸き上がるようにゴボゴボと音を立てる。

 

何かが出てくると感じた俺は、すぐに水面から離れようとする。しかし出来たのは突如上がった水柱を顔に当たらないようにすることだけだった。

 

目の前に水柱が勢いよく上がり、思わず身構える。もしかして水中戦闘ができるゴブリンか!?

 

 

「うわっ、……え、妖精?」

 

 

しかしそこにはいい意味で予想を裏切り、掌サイズの羽の生えた小人が浮かんでいた。髪も羽も泉と同じ水色だ。

 

 

「なんで人族がここに?いえ、今はそんなこといいわ、速くここから去りなさい!今、この森は危険なの。」

 

「危険なのって言われてもなぁ。こっちは危険を承知で来てるわけだし、依頼放り出して帰るわけには行かない。」

 

 

ついさっき思い出した依頼だが、達成しなくてはいけない。アイテムボックスには依頼された数の数十倍は収まっているし、すでに危険はほぼないのだが。

 

 

「はぁ!?命より大事なものなんで無いでしょう!?本当に死にたいの、あんた!」

 

「いやいや、死にたくないに決まってるだろ?でもそれ以上に悲しませたくないんだ。俺が依頼を放り出したらバノス村のみんなが困る。もちろん、死にそうになったら逃げさせてもらうけどさ。」

 

「…………そう、決意は硬いみたいね。それならあなたに魔法を授けてあげるわ。あなた、魔法の素養は?」

 

「そよう?なにそれ?」

 

「……もしかして前衛職なのかしら?でもこの細腕でそれはなさそうね……。」

 

 

妖精が考え込むように何かを呟いている。妖精がぶつぶつ言うと、声がか細くて聞き取れない。

 

 

「な、なあ、そようって何なんだよ?」

 

「使える魔法は何があるか聞いてるのよ。」

 

「あぁ、それなら初級火魔法が使えるぞ。」

 

「……思いの外へぼいわね、もしかして人身御供なのかしら。」

 

 

またしても妖精はぶつぶつ言い出した。何言ってるか解らないから止めてほしい。

 

 

「良いわ、今のあなたに授けられる魔法は2つだけよ。……本当はもっと沢山あるんだけど、素養無さすぎだわ。」

 

 

また最後が聞き取れなかった。だが、内容としては前半部分で十分だろう。新しい魔法だ、楽しみである。

 

妖精は初級水魔法と初級氷魔法を教えてくれた。とは言っても詠唱や魔法名といった基本的なことだけで直ぐにすんだ。

 

 

『初級水魔法と初級氷魔法を習得しました。』

 

 

頭の中でカチュリア様の通達を聞いたので、しっかりと身に付けることができたということだ。妖精に礼を言って去ろうとすると妖精に呼び止められた。

 

 

「待ちなさい、1人では危険だわ。私が増えてもそれほど善進はできないでしょうけど、いないよりマシよ。」

 

「別に良いけど……戦わないぞ?」

 

「それはどうゆうことよ?今、この森はゴブリンで溢れかえっているのよ、戦わずに切り抜けられる筈が…………まさか、あなた本当に人身御供なの!?」

 

「人身御供?いや、そんなんじゃなくてさ。まぁいいや、見てからの方が早いだろ。」

 

 

何やら騒いでいる妖精を無視して元の広場に続く獣道に進む。

 

歩いている途中で妖精が「止めなさい、助けがくるまで待つのよ!」とか「ゴブリンの苗床にされたメスがどうなるか知っているの!?」とか言っていたが何の話しなのか解らない。

 

ゴブリン10体の討伐で助けがくるはずないし、俺は男だし。確かに多少ゴブリン狩り過ぎたとは思うが、これはF級の依頼だ。一体誰が助けにくるというのか。

 

 

「いい、私は泉の精霊なの。私が本気を出せばあなた1人を匿うくらいわけないわ。そりゃあ、ずっとってわけにはいかないけど未来を捨てるにはまだ早いわよ。今ならまだ間に合うわ、引き返しましょう?」

 

 

今だに妖精、違うな泉の精霊は引き返そうと言ってくる。付いてくると言ったのに、何故帰ろうと言うのか。精霊はよく解らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月明かりがさす空間まで戻ると、まだ片付けていない山がある右端の道に進む。他の3つと比べるとここだけ多いな、2倍くらいありそうだ。

 

 

「え、あれ何なの……?」

 

 

俺の右肩に座っている精霊はゴブリンの山を指差して声を震わせていた。何って、ねぇ……?

 

 

「ゴブリンの死体の山だろ?」

 

「なんで!?どうして、こんなにゴブリンが死んでるのよ!」

 

 

耳元でキーキーと高い声を出されると耳が痛い。耳を塞ぎつつ、山をアイテムボックスに収納していく。それでも精霊が喚くので、素直に答えてやる。

 

 

「俺が魔法射ちまくって倒したんだよ。こんな大量だとは思わなかったけどな。」

 

 

わなわなと震える精霊を肩に乗せてさらに収納してゆく。途中で身を隠していたゴブリン・アサシンが飛びかかってきたが、数回打ち合って首を落とした。

 

 

「魔法射ちまくってって、この数よ?どんな魔素量でも人族には……そうか、あなた夜半(よわ)ね!それでさっきの剣さばきも納得だわ。」

 

「いんや、迷い人です。」

 

「ただの迷い人がこんなに強いわけないでしょ!」

 

 

耳がキーンとする。道を塞ぐゴブリンの死体は収納し終えたので、獣道の奥に進む。この道はゴブリンが多かったし、奥に何かあるのかもな。

 

 

「正直に答える気がないのね?良いわ、鑑定するから許可を出しなさい。」

 

 

何でお前偉そうなの?と聞きたいが耳に水魔法打ち込まれたら洒落にならないので黙っておく。

 

 

「鑑定するのに許可って必要なのか?」

 

「鑑定はね、意思の疎通ができる相手が対象なら了承してもらわないと発動できないのよ。あなた、そんなことも知らないのね。」

 

 

バルドさんにされたときは許可なんてしたっけか?一応、断りいれてもらったからそれで了承したってことなのかな。別に嫌だったわけじゃないから許可したことになるのか。

 

 

「ふーん、許可するよ。俺が迷い人だってことを証明してやる。」

 

 

そんな会話をしていると、道を塞ぐようにゴブリンたちが出てくる。まだ残ってたのか、もう挑発の効果は切れてるのかな?目の前のゴブリンたちを鑑定してみると怒っていないみたいだ。どれくらいの時間発動するのか計っておけば良かったな。

 

ゴブリンたちは前に革製のボロい胸当てを着て剣を構えた6体がおり、後ろには木製の杖らしき棒を持った4体控えている。どの個体も通常のゴブリンより少し大きい。戦力を知っておくのは大事なことなので鑑定をかけてみる。

 

 

 

 

種族:ゴブリン・ソルジャー

性別:メス

状態:普通

レベル:8/30

HP:83/83

MP:15/15

SP:38/38

《スキル》

・初級剣術(2/10)

 

《称号》

 

 

 

 

 

種族:ゴブリン・メイジ

性別:メス

状態:普通

レベル:7/30

HP:62/62

MP:40/40

SP:15/15

《スキル》

・初級風魔法(2/10)

 

《称号》

 

 

 

 

 

種族:ゴブリン・プリースト

性別:メス

状態:普通

レベル:6/30

HP:58/58

MP:38/38

SP:13/13

《スキル》

・初級回復魔法(1/10)

 

《称号》

 

 

 

 

 

 

ソルジャーにメイジにプリースト、全体役職持ちかよ。戦士が6体、魔法使いが3体、回復役が1体。前衛6体で攻めて、後衛が支援のかたちかな。これを崩すのは面倒だ。戦士のうち4体は革製の盾まで持ってるし。

 

それにしても全体メスってのはどうしてだろう。しかもオスより全体的に強い。

 

 

「なぁなぁ、精霊さんや。あいつら全部メスなんだけどさ、オスより強くね?」

 

「……ゴブリンはオスよりもメスの方が強いのよ。オスが狩りをしてメスは巣を守るの。……何で、何でこんなことも知らないのに……!」

 

 

ライオンみたいな生態なんだな、これで更にゴブリンに詳しくなった。にしても精霊が服を肩の肉ごと掴んでるから少し痛い。なにを怒ってるんだろうか。

 

 

「後で聞くから今は少し離れててくれ。」

 

 

それだけ言って肩から精霊を後方に放り投げると、ゴブリンに向かって刀を構える。俺が戦闘体制に入ったのを感じ取ったゴブリンたちは本格的に戦闘準備に入る。

 

盾を持っていないゴブリン・ソルジャー2体が左右に別れて俺を挟撃しようと走る。盾を持っている4体は後衛を守る役目みたいだ。そしてゴブリン・メイジが詠唱を始めたのか、グギャギャーと鳴いている。

 

まともに前衛と戦っていると、魔法をくらってしまう。月明かりがあるとしても薄暗い獣道だ、全弾回避は難しい。先にゴブリン・メイジを倒すか。

 

左右に広がった盾なしゴブリン・ソルジャー2体の間を駆け抜け、ゴブリンの集団に走る。直ぐに盾持ちが前にでて迎撃の構えを取り、後ろでは俺を嘲るような鳴き声が聞こえる。俺の背中を狙う盾なしゴブリン・ソルジャーだろう。

 

後ろを見ずにアイテムボックスから取り出した投擲用ナイフを3本ずつ投げる。これで仕留めきれはしないだろうが足止めにはなる。

 

盾持ちのゴブリン・ソルジャーは俺を囲むように陣形をとった。鑑定で1番弱いやつに向かって、更に取り出したナイフを投げつける。ナイフはガードされ盾に刺さるが、盾を前に出したせいでやつの視界は塞がれた。

 

 

「戦闘中に視界を塞いでんじゃねぇ!」

 

 

前にダンジョンでゴブリンに対して言った説教をこいつにも言ってやる。された側は盾ごと上半身と下半身を切り分けられているが。

 

刀を振り切ったまま後衛の4体に向けて駆ける。後ろを狙うゴブリン・ソルジャーが更に3体増えたが、追い付けやしない。

 

詠唱を止めて杖で殴りかかってきたゴブリン・メイジの首を跳ねる。残りの2体は片方は詠唱を続け、もう片方はゴブリン・ソルジャーたちの方へ走っていった。同じゴブリン・メイジでも行動に差が出るんだな。

 

未だに詠唱をしているゴブリン・メイジの首を落とす、そして攻撃を加えようと杖を振り上げるゴブリン・プリーストの頭に回し蹴りをあびせて道の外まで飛ばした。

 

後ろを振り返り、2体のゴブリン・メイジをアイテムボックスに入れる。

 

ようやく追い付いたゴブリン・ソルジャー5体が怒声を上げて武器を向けてくる。前に盾持ち3体、後ろに盾なし2体。

 

盾持ちは体にナイフが刺さっており、そこを庇うように走っている。

 

また囲まれる前に盾持ちたちの間にファイアーウォールを立てる。使い道に悩んでたけど敵の分担につかうのはいい使い道な気がする。

 

左右に火の壁が現れて驚いている、中央のゴブリン・ソルジャーを縦に真っ二つにする。突然のことに驚くのは解るけど、戦闘中に余所見をするべきじゃないな。邪魔にならぬよう収納。

 

左側のファイアーウォールを解除し、2体目を狙う。次なるゴブリン・ソルジャーは火の壁が消え、突如飛び出してきた俺に対して、防御を選んだ。さっきの説教を聞いてなかったのだろうか。

 

盾ごと右上から左下に袈裟懸けに斬る。しかし盾は両断できたが本体は無事だった。盾を両断され更に驚いているゴブリン・ソルジャーの喉に下からの突き上げを捩じ込んだ。

 

今度は収納せずに盾を持っていないゴブリン・ソルジャー2体に向けてぶん投げる。死体を受け止め体制が崩れたのを視界の端で確認しつつ、最後の1体となる盾持ちを狙う。

 

すでに最後の1体はファイアーウォールを迂回してこちらによってきている。振り下ろされた剣を横に回避し、武器を持った腕を肘ほどで切り落とす。切断された腕に手を伸ばそうとしたのか盾を落としたゴブリン・ソルジャーの腹に蹴りを入れてファイアーウォールを突き飛ばす。

 

あえなく燃える壁の燃料となった最後の盾持ちを見る。そして起き上がった2体の盾なしに向けて走る。2体の後ろには逃げたゴブリン・メイジがいるので魔法も警戒しなくてはいけない。後ろから片付けたいが、横を抜けさせてはくれないだろう。

 

防御主体に切り換えたのか、なかなかゴブリン・ソルジャー2体を切り伏せられない。すると脇腹に刺すような鋭い痛みを感じた。

 

一旦距離をとり、脇腹を見ると血が滲んでいた。何かが刺さってるわけでもないのに、尖ったものを刺されたような痛みだった。

 

 

「どこからの攻撃だ?」

 

「ゴブリン・メイジの風魔法よ。風の針(エアニードル)って言うの。」

 

 

エアって空気じゃねぇか、風だったらウィンドだろ?と言いたいのをぐっと堪えて納得させる。

 

いつの間にか耳元に来ていた精霊はまだ話すことがあるようで、耳を引っ張ってくる。痛いし前から敵が来てるから止めてほしい。

 

 

「あなた、魔法が使えるなら使いなさいよ。さっきのファイアーウォール以外使ってないじゃない。」

 

「…………あ、」

 

「もしかしなくても、あなたバカでしょ?」

 

 

確かに最初から魔法を使ってたらもっと早くに終わったよな。攻撃をくらうこともなかっただろうし。……はぁ、さっさと終わらせよう。

 

 

「我、自らの魔素を糧として世界に力を顕現する。願うは火、形は槍、数は三つで並列起動【ファイアーランス】」

 

 

放たれた火の槍はゴブリンたち3体の腹に大きな風穴をあけた。少し威力が高くなっているのは秘密だ。

 

 

「ファイアーランスを3つも並列起動なんて、本当に夜半じゃないの?」

 

「だから違うって。鑑定したんだろ?」

 

 

したけどぉ~、とぐずる精霊を無視して死体を装備品ごとアイテムボックスに入れていく。なんか1体足りない気がするんだけど、なんだったけな。

 

 

「確かにファイアーランスを並列起動する人族はいるわ。けどね、それはもっとレベルが高くて魔法の適正がある人族よ。あなたはレベルも低いし、素養もまだない。なのに魔素は恐ろしく高いわりに魔力は低い。……意味が解らないわ。迷い人ってみんなそうなの?」

 

「他の迷い人のことは会ったこともないから知らん。」

 

 

素っ気なく返すと精霊は頭を抱えた。並列起動って案外簡単にできたんだけど?

 

 

「あー、思い出したわ。【ファイアーランス】」

 

 

後ろに魔法を打ち込む。振り返ると顔をなくしたゴブリン・プリーストが崩れ落ちるところだった。

 

きちんと収納して先に進む。

 

 

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