異世界に行こう(凍結)   作:紺色メガネ

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16話 バノスの森にゴブリンの村

 

 

「ほら傷を見せなさい、治してあげるから。」

 

 

泉の精霊にせっつかれたので、血が滲んでいる部分の服をめくりあげて傷口を晒す。回復魔法を試してみる良い機会だと言ったのに、下手くそには任せられないと言われてしまった。

 

 

「【ヒール】」

 

 

精霊が魔法を唱えると傷口が淡く光る。そして光に包まれている傷口がぐじゅぐじゅと塞がれていった。

 

 

「治してもらっといて何なんだけどさ、気持ち悪い光景だな。」

 

 

自分の体ながら肌が虫のように這う光景に気持ち悪くなる。傷があったところに触ってみると、傷をおう前の状態に戻っていた。

 

 

「回復魔法なんてそんなもんよ。上級になると対象が生きていれば、無くした腕を生やすことだってできるわ。」

 

 

先程の光景を鑑みて、腕が生えてくる様子を想像する。……気持ちわるっ。

 

 

「んー、便利そうだけど回復魔法に頼りきりになるのは嫌だな。ともかく、治してくれてありがとな。」

 

「どういたしまして、これで貸し借りなしよ。」

 

 

メスのゴブリンたちを退け、やけに長い獣道を2人で歩く。とはいっても精霊は肩に乗っているし、数えかたが人でいいのかも解らないけど。

 

 

「なんか貸し作ったっけ?今のところ貰ってばっかりだと思うんだけど?」

 

 

魔法を2つも教わって、傷まで治してもらった。それに対して俺は何かしただろうか?

 

 

「私のいた泉もゴブリンたちに攻撃を受けていたの。何とか防げてはいたけど、もう少しで危なかったわ。途中でゴブリンたちが顔色を変えて走っていったから助かったけど、今考えればあれはあなたのおかげなんでしょう?」

 

 

それは多分ハティの加護による挑発を受けてのことなんだろう。でも確証はないので、どうだろうなと返した。

 

 

「そこは素直に礼を言わせなさいよ。……ん、着いたみたいね。」

 

 

長い獣道が終わり、拓けた空間にでる。そこには小さな村があった。恐らくここはゴブリンたちの巣だ。整備されていないようだが、人の手によって作られたものだろう。ゴブリンにできるとは思えないし。

 

 

「この道から出てきたゴブリンがやけに多かったのはこういうことなのか。ここには昔、農村でもあったのか?」

 

「いいえ、この森にはこんなもの無かったわ。一体何時の間に?」

 

「それじゃあこの村はゴブリンが作ったのか。ゴブリンにもこんだけの知能があったんだな。」

 

 

村を囲っている柵の一部分、開いている場所から村に入る。家は全て木で作られていて扉はない。それでも十分住める出来だ。

 

 

「ホブゴブリンが数匹いたのなら家を作ることもあるけど、こんなに完成度は高くないわ。それにこの規模を今までバレずに作れるとも思えない。」

 

 

この村は昔あったものを再利用したものではない。そしてゴブリンが作ったものでもなければ、この規模のものを隠し通せる訳もない。

 

 

「ならこの村はどっからか沸いて出たのか?もしかして、この森は急に村が出現する不思議な森だったりする?」

 

「そんなわけないでしょ!……この村は恐らく魔族が作ったものね。魔物は群れる種が少なく、自らの縄張りから動かない。だからこそあなたたちの脅威になり得ていないの。しかし魔族は違うわ。あなたたちを脅かす存在となることが目的よ。だから時折魔物を統率してけしかけることがある。今回の大規模移動もそれでしょうね。」

 

 

今回のことって俺がゴブリン挑発したからじゃないのか?俺が倒したゴブリンはどこからか移動してきていたのか。

 

 

「ほーん、それならその作戦を無事に潰せたってことかな。」

 

「この村の大きさを考えると、1年単位の計画を阻止できたんじゃないかしら、良かったじゃない。」

 

 

ゴブリンはハティの加護で寄せ付け魔法で殲滅した。ここにくる途中の獣道で出てきたゴブリンたちは防衛に残ったやつだったのかな。

 

 

「あなたは村の外で待っていて、私はすることがあるから。」

 

 

肩から飛び立った精霊の手を掴む。どちらかというと摘まむかな。

 

 

「……なによ?」

 

「俺もやる。半分ずつやれば良いだろ。」

 

「本気なの?」

 

 

精霊は俺の手から脱出して、こちらを睨む。それに対して目をそらさずに答える。

 

 

「ここまで来たからにはやるよ。それじゃ俺はこっちがわやるから。」

 

 

目線を外して自分の取り分とした家に向かう。背中に精霊の視線を感じたが振り返りはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見回って13家目でそれ(・・)はいた。乱雑に敷かれた藁の上、壁にもたれかかるようにして座っている。あるいはその体勢で固定されているのか。

 

両手両足は肘ほどで砕かれた様子で、ひしゃげて逆の方向を向いている。下顎も同じく砕かれているのは舌を噛めなくするためだろうか。

 

この状態でも死んでいないのはゴブリン・プリーストによる回復があったのか、案外簡単には死なないようになっているのか解らない。

 

家の中に薄くさす月明かりでは、その全貌を見ることはできない。むしろその方が良かったと思える。顔が見えてしまえば、これからやることが少し辛くなる。……本当に少しなのは、それに慣れてしまっているからだろう。

 

 

「どうする?」

 

 

たったそれだけ、その一言で彼女(・・)には伝わったようだ。下顎を砕かれ話すのも辛いだろうに、必死に思いを伝えてくる。殺してくれ、と。

 

せめて最後は苦しまずに終わらせてあげたい。右手で銃の形を作り魔法を行使する。

 

使う魔法は火魔法レベル9で習得する火の弾丸(ファイアーブレット)。範囲はファイアーランスよりも小さいが、発射速度はこちらのほうが上だ。

 

まだ使ったことのない魔法だが無詠唱で発動させる。視界の左上のMPが目に見えて減少した。慣れてない魔法を行使すると、最初のうちは消費MPが多くなる。さらに無詠唱でやってるんだ、消費が多い。

 

指先から放たれた火の弾丸は眉間に着弾し、背後の壁ごと貫通した。頭がカクリと落ち、弛緩した下半身が粗相をする。

 

外に出ると軽い立ち眩みをおこした。家の壁に手つき収まるまで耐える。慣れているつもりだったけど、案外心的ダメージが大きかったのかな。

 

 

 

 

 

 

その後、数家回ったが介錯をすることは無かった。いたのは既に生き絶えている者、右手しか残っていなかった者だけだ。

 

 

 

 

 

 

村の外に戻ると精霊は先に待っていた。

 

 

「終わったの?」

 

「あぁ、ちゃんと介錯してきたよ。」

 

「そう、こっちは居なかったわ。……ごめんなさい。」

 

「別にお前が謝ることじゃないだろう?俺が勝手にやったんだから。」

 

 

そう言っても納得仕切れていないのか暗い顔のままだ。気にすんなと言って精霊の頭にデコピンをする。精霊は器用にその場で縦回転してしまった。

 

 

「さーて、最後の仕上げだ!家の数は何軒だっけか?まぁ、きりよく100でいってみるか。」

 

「なっ、ちょっと待ちなさい!」

 

回転して目を回した精霊がふらふらと静止してくる。だが止める必要もないだろう?

 

 

「我、自らの魔素を糧として世界に力を顕現する。願うは火、形は矢、数は百で並列起動【ファイアーアロー】」

 

 

100本の火の矢が村全体に向けて放たれる。威力を最大限まで上げているので、着弾すると激しく燃え上がった。

 

小さい村に幾つもの火柱が上がるのを最後に、俺の意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると空が白くなりかけていた。寝返りをうって仰向けになる。

 

 

「……もうちょいで朝か。何で俺寝てんだっけか?」

 

「体内の魔素が枯渇したせいで気絶したのよ。」

 

 

空しか映っていなかった視界に、青白い小さな影が飛び込んでくる。よくみるとそれは人形で薄い羽が生えている。

 

 

「あー、泉の精霊か。」

 

「そうよ。あのね、私が魔素を継ぎ足してあげなければ、あなた死んでたのよ!?」

 

 

俺の視界の中で旋回を続ける精霊、酔ってくるから止めてくれ。

 

 

「それはありがとな。んで魔素の枯渇って?」

 

「そう言えば迷い人だったわね。いい?良く聞きなさい。

 魔素の保有量を増やすには、どんどん魔素を使って枯渇させ保有器官を鍛えるの。でもね、魔素量が少なければ大事にはいたらないけど、多ければ多いほど危険なのよ。

 体内の魔素が切れると緊急事態だから意識が落ちるわ。そして魔素量が一定まで回復したら意識が回復するの。魔素量が少なければ直ぐに目覚めるけど、多ければなかなか目覚めない。そしてあなたみたいな量だと最悪一生目覚めることはないわ。その分保有器官は鍛えられるけどね。

 魔素量を増やしたい場合は枯渇寸前で止めるのが一般的よ。魔素が減ってくると体に倦怠感が出てくるからやる人はそれを目安にするわね。」

 

 

腰に手をあてて、本当に危険だったんだから!とお説教してくる精霊に平謝りしながら立ち上がる。また立ち眩みがくるが耐えられる程度だ。これが魔素枯渇、つまりMP枯渇寸前の合図なのだろう。

 

恐らく無詠唱でファイアーブレットを使った時点で、ほぼからっきしだったのに無理に並列起動させたせいで倒れたのだ。その前から魔法を使いすぎてたし。いくらMPがあってもそりゃきれるわな。

 

村があった方向を見るときれいに燃え尽きていた。空の明るさを考えると気絶してから8~9時間くらいたったのかな。それで炭になっているなら、なかなかの火力だ。

 

 

「周りの木に燃え移らないように、飛び火を水魔法で消してまわったのよ。あなたは気絶しちゃうし、大変だったんだから!」

 

「はい、本当に申し訳ありませんでした。」

 

 

ご立腹の精霊に頭を下げて許してもらう。そう言えばこの前もサラさんに謝ったな。異世界に来てから謝ることが多くなった。

 

すっかり黒くなった村だったものを見ると、もう魔物が住み着くことはないだろうと思える。このまま風化して森の肥料にでもなってほしい。

 

 

「俺はバノス村に帰るよ。依頼主が待ってるだろうから。」

 

 

帰ったら薬草と癒花の納品をしなくちゃいけない。怪我した人をこれ以上待たせるのは酷だろうし。

 

 

「森の出口まで案内するわ。それと魔水と薬草取っていって良いわよ。」

 

「ありがたい相談だけど、その魔水ってのは?薬草は木が生えてなかった空間のやつ?」

 

 

ゴブリン村に背を向け元の道に歩き出す。朝方の森は夜の時とはまた違った静けさがあった。遠くで鳴いている鳥の声が響いている。

 

 

「私の泉は薄いけど魔水なの。……あぁ魔水自体が解らないのね?魔水っていうのは魔素を多く含んだ水のことよ。薬草についてはそこに生えているので正解。薬草の説明はいる?」

 

「いんや、薬草は知ってるよ。」

 

 

ここで生えている薬草はこの森の精霊たちが育てているらしい。魔水も含めてバノス村の人たちが取りに来るのだという。しかし最近はゴブリンが活発化していたから採取することができなくて、外部に頼んだみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

魔水と薬草をたくさんもらった。魔水は入れ物がないのでアイテムボックスに直に入れている。次に出したら重力に従って全て落ちてしまう。帰ったらビンでも買おう。

 

昨日の夜にゴブリン4体に襲われた場所まで送ってもらった。精霊はふわふわと浮かんで手を振っている。

 

 

「そう言えば自己紹介してなかったな、俺はソウヤ・カニエ。駆け出し冒険者だ。」

 

「私は……残念だけど名前はないわ。また会いましょうソーヤ。」

 

 

最後に見た精霊の顔は少し悲しそうだった。

 

前にハティとも会う約束をしたんだったな。ハティとは違い、精霊はまたこの森に来るだけで会えるんだから会いに来よう。

 

精霊に別れを告げてバノス村に向かう。

 

それにしても、アイテムボックス内の大量のゴブリンはどうしようか。

 

 

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