俺は報酬がもらえるかどうかの解る日まで日々依頼をこなした。しかし討伐などではなく、街の奉仕活動ばかりだ。寝床はあるにしても、食費を稼ぐためのその日暮らしの生活となった。
討伐依頼をしようとしたのだが、カークとサラさんがそれしかさせてくれなかった。何でも落ち着くまで騒ぎを起こさないように、だそうだ。そんなに面倒ごと起こしてるだろうか?
でもそれも楽しかった。屋敷の掃除や引っ越しの手伝い、それをこなした時の依頼者の笑顔。どれも初めて体験したものばかりで新鮮だったし。
もしかしたら冒険者よりも何でも屋の方が向いているかもしれない。もっともこれに宿費が加わったら食っていけないのだが。
「ようカーク、ギルドマスター呼んでくれる?」
「呼ばれてるのはソーヤさんの方ですけどね。どうぞマスタールームへ。」
カークに促され部屋へ、もちろんカークは部屋に入ってこなかった。ごめんなカーク、事情を話すと俺が面倒ごとに巻き込まれるんだ。
「おう、来たな坊主。」
部屋に入るとバルドさんとサラさんがすでに待っていた。時間通りのはずだけど遅刻した気分だ。何か申し訳ない。
「んで報酬の話なんだけどな。バノス村の連中は坊主のお陰だって言って受けとんねぇんだ。だから坊主が全額受け取りだな。良かったな晴れて独り立ちだぞ?」
まとまったお金が入るならギルドのお世話になり続けることはない。報酬は半分くらいならと思ってたけど全額だといくらになるんだろう。
「では私から報酬のお話しますね。
討伐報酬額はゴブリンが大銅貨5枚、役職持ちが銀貨1枚と大銅貨5枚、ホブゴブリンが銀貨3枚です。
今回はゴブリンが74体、役職持ちが合計で69体、ホブゴブリンが13体でしたので、占めて銀貨142枚と大銅貨5枚ですね。」
目の前に積まれる貨幣の山。これだけあれば宿費と食費は大丈夫だろう。この金を切り崩しながらまた依頼を受けて稼げばいいし。独り立ちには十分すぎるほど十分な額だ。
「そしてバノス村から銀貨100枚です。ソーヤさんのことを村の英雄だと言ってましたよ。」
さらに銀貨が積まれる。英雄だなんて大げさだな、たまたまそこにいただけなのに。
「それとな村長から、村を救ってくれた英雄に大したお礼が出来なくて申し訳ねぇら今度村に来たときに村人総出で歓迎するとさ。」
「それなら泉の精霊を敬ってくださいよ。俺は何もしてませんので。」
今のところ報酬でもらうようなほしいものは無いので、バノス村の人に頼るのは止めておこう。銀貨までもらっちゃったし。
「奴等に言わせりゃ、精霊と力を合わせて戦った坊主は英雄に方からねぇんだと。バノス村の設立にバノスの森の精霊が関わってるらしいからな。そろそろタルクスでも噂が広がってくるんじゃねぇか?」
「噂って、俺のですか?どんな?」
「バノス村の英雄とかエルフでもねぇのに精霊と言葉をかわす少女とかな。」
英雄なんて荷が重いし、少女でもない。根も葉もないデマじゃないか。そんなのが流れるとしたら阻止せねばならない。
「そんな顔すんなよ、誉められてることに違いねぇんだから。」
む、顔に出ていただろうか。表情を引き締めて2人に向き直る。机の上には貨幣が積まれている、これで独り立ちか。感慨深いな、 6日で達成したけど。
「ほんとはF級に上がったらだったんですけど、これだけ報酬金が出ると、使ってもらって市場に流した方が良いってマスターが。」
「ま、そうゆうこった。宿が決まってないなら良いとこ紹介するぞ?」
「大丈夫です、お世話になる宿はもう決めてますから。」
ユーちゃんの親父さんと約束してるんだ。ご飯も美味しいし雰囲気も良い。タルクスに長居するなら家を買った方がいいけど、先のことが解らない今は宿屋のお世話になったほうがいい。なにより家を買うには金も足りないし。
「銀貨242枚と大銅貨5枚です。金貨でお渡ししますか?」
アイテムボックスに入れれば重量は関係ないけど、細かく持っていても使わないし1枚くらいは金貨でもらおうかな。
「じゃあ金貨は1枚にして他は銀貨と大銅貨でお願いします。」
この金貨は何かあったときのためとして使わずに持っておこう。サラさんに了承をとってから貨幣をアイテムボックスに全て入れる。3日前にゴブリンたちを全て出したから随分と空いたな。
「それでは宿屋の手続きとかもあるでしょうし、解散しましょうか。ソーヤさん、無駄遣いしちゃダメですからね?」
「はい、大切に使わせてもらいます。」
サラさんとバルドさんに約束して部屋を出る。バルドさんは多少は散財しろと茶化したがサラさんに睨まれて黙ってしまった。サラさん強い。
「仔犬の尻尾亭へようこそ!うちのご飯はタルクス一ですよ!ソーヤさん、いらっしゃい!」
毎度毎度扉を開く前に飛び出してくるユーちゃんに促され店内に入る。ノックとしてないのに察知してくるユーちゃんはやはり犬なんだな、と思ってしまう。
「今日は何にします?オススメは日替わり定食ですよ!」
目をキラキラさせならが尻尾を振るユーちゃんの頭を撫でて席につく。前に来たときと同じ席だ。これからは定位置とかしてやろう。
「じゃあそれでお願い。それとね、今日はギルドから独り立ちを認められたから宿屋を取りに来たんだ。だから今日からはちゃんとしたお客さんだよ。」
ユーちゃんの耳がピンと立つ。そして元に戻ると嬉しそうににっこり笑う。その笑顔に少しドキリとした。おかしいな、不整脈だろうか。
「2階の端の部屋、空けてありますよ。朝夜とうちで食べますよね?2食付で一泊銀貨7枚ですよ!何泊しますか?」
うん、不整脈だったわ。やっぱりユーちゃんも商売人なんだな、しっかりしてらっしゃる。さっきの笑顔はお客を捕まえた笑顔だったんだね。
「んー、十泊にしようかな。その他細かいことはご飯食べながら聞かせてくれる?」
「はい、ただいま!」
ご飯を待つこと数分。ご飯を持ってきたのはユーちゃんではなく親父さんだった。自分の顔が明らかに不機嫌になるのが解る。
「ソーヤ……お前な、もうちょい顔何とかならないのか。細かいこと聞かせてほしいって頼まれたから来たんだが。」
確かにユーちゃんよりは親父さんの方が詳しいだろ。この宿屋の店主なんだし。仕方ない、顔を元に戻して対応する。
「もうユーからも聞いただろうけど説明するぞ。一泊銀貨7枚で2食付きだ。昼は外で食べるか1階の食堂で注文してくれ。それで端の空いてる部屋でいいんだよな?」
「うん、そのつもり。とりあえず10日ほどお世話になるよ。」
アイテムボックスから銀貨70枚を机の上にだす。ちゃんと10枚ごとに分けて見やすくしてある。しかし親父さんはそのうちの一積み、銀貨10枚を返してくる。
「なんだよ、もしかして九泊しかダメなの?それなら7枚返すだけで良いんだぞ?」
「そうじゃない、特別に1日銀貨6枚で泊めてやる。それと長期間じゃなければ部屋を空けても内装はそのまま保存しておく。さらに昼をうちで食うなら料金をまける。どうだ?」
「……何だよ急に。裏があるなら早く言えよ。」
「娘を助けてもらった恩人に大した礼もできてなかったからな。これを機に返しておこうと思っただけだ。」
「たまたま通りがかっただけだ。……みんな大げさなんだよ、ただの偶然なのに。」
ユーちゃんが絡まれているところに遭遇したのも、危機に陥っていたバノス村にタイミング良く行ったのも偶然だ。それなのにみんなに感謝されてむず痒い。
「偶然だろうと何だろうと、それで助かった人がいるなら良いじゃないか。俺はこうしてソーヤに感謝してるんだからよ。」
そんなものだろうか。生きていて誰かのためになったことなんて無いから実感がわかないな。
「気にすんな、まだ若いんだから。これから解るようになるさ。」
親父さんは銀貨60枚を持って受付の方に行った。宿泊の手続きをしにいったんだな。
これから解るようになる、か。俺でも誰かを助けられたと思う日がくるんだろうか。今はともかく、美味しい料理に舌鼓を打つので精一杯だな。
異世界に来てから今日で1週間目。俺は何か変われただろうか。
レオンたち冒険者と出会って、サラさんたちギルドの人と出会って、じじぃ、ハティ、ユーちゃんと親父さん、泉の精霊に出会った。
そう考えると1週間で多くの人、人じゃないのもいるけど関わったな。この貴重な異世界での出会いを大切にしよう。