気が付いたらゴブリンが消えていた。
手に持っていたはずのこん棒も一緒に消えていた。ゴブリンがいたという証拠は俺の手に残る後味の悪い感触だけ。嫌な証明の仕方だ。また吐きそうになる。何とか飲み込んで現状の確認をしようと考える。
「どうなってんだ?」
異世界に来て、目の前にゴブリンがいた。
ゴブリンに襲われて、なんとか撃退した。
生物を殺した感触に思わず夕飯も胃液も全部吐いてたらゴブリンが消えていた。
うん、意味が解らないな。説明文がゴブリンだらけだし、そもそもあれはゴブリンだったのかすら解らない。折角の異世界なのにゴブリン
「……ん?なんだこれ。」
いつの間にか俺の目の前には半透明な板が浮いていた。おー、これはあれだよな?異世界ものにはお約束の……。
「ステータス!」
先ほどまでの悪態を忘れて思わずガッツポーズしてそう叫ぶとA4サイズ程だった板が横に広がり、情報を写した。
名前:ソウヤ・カニエ
種族:人族 異世界人
性別:男
レベル:2/40
HP:117/118
MP:24/24
SP:19/19
攻撃:14
防御:6
魔力:12
速度:9
運:7
《魔法》
《スキル》
《耐性スキル》
《特殊スキル》
・異世界言語翻訳
・鑑定
・アイテムボックス
可仁江宗谷、俺の名前。異世界風(外国風?)にカタカナになって名前の順序が逆になっている。種族は人族、つまりは人間か。これは、当たり前だよな。異世界人ってのが気になるけど、今のところ情報はなし。現地の人と何が違うのだろう。そもそも俺以外に人間いるのかな?不安になってきた。
レベルが2になっているのは恐らくゴブリン擬きを倒したからだろう。横の40は多分最大レベルを表してるんだと思うのだが、些か低すぎやしないだろうか。それともこの世界では40が限界値なのだろうか。HPは体力だよな、多分石を踏んずけて戦ってたから減ってるんだと思う。それでも石を踏んで1減るってどうなのよ。……俺、弱すぎ?MPは魔法を使うためのものだろう。これでこの世界に魔法が在ることが解った。今のところ魔法を覚えてはいないがそのうち覚えられるだろうか?夢が広がるな。頑張って覚えよう。となると配置的にSPはスキルを使うためのものと考えて良さそうだ。五月雨斬りとかドラゴン斬りとか、いつか使えるようになるかな。耐性スキルは属性攻撃とか毒とかに耐性が付くってことだろうか、何もないのは仕方ないことなのか、これから付くのか。レベルアップで付くのか、何回か攻撃を受けて耐性が付いたら反映されるのか。謎は深まるばかりだ。その他のステータスは見たまんまだろう。
そして特殊スキル、これは重要だ。
異世界言語翻訳、これがあれば言葉が通じないということはなくなるだろう。さっきのゴブリン擬きの言葉が解らなかったのはモンスターの言語は翻訳しないのか、動物みたいなものだったのか。異次元もののお約束だな。むしろこれがないと色々とキツイ。
鑑定、これはそのままだろう。試しに足元の草に鑑定をかけてみる。鑑定のかけかたはその物体に集中するっ!そうすると草の上に小さな板が浮かび、そこに草の説明が写し出される。読んでた物語の中には、頭の中に浮かぶとかもあったけど、随分現実的な鑑定だ。いや、空中に半透明の板が浮かんんでる時点でファンタジーなんだが。
・ゴブリン草
ゴブリンのように何処にでも生息し、どれだけ駆除してもその数を減らさないことから名付けられた。
いわゆる雑草であり、味はとても苦い。食べられないことはないが、食用には適していない。モンスターですらあまり食べない。
煎じてもお茶にならず、また薬にもならない。
使い道が無いため基本的には放置される。薬草などの生息圏を荒らすわけでもないので特に駆除されることもない。
ふむふむ、無事に鑑定できたな。これで薬草があることが解った。常日頃から異世界召喚ものの小説を読んでて良かった。これもお約束の1つだしな。
最後にアイテムボックス、これは異次元に物を入れておけるということだろう。これで鞄要らずの便利スキル。これもお約束だな。多分使い方は……。
「アイテムボックスオープン。」
俺がそう発するとステータスを写す板の上にアイテムボックス内の状況を表す板が浮かんだ。パソコンのウィンドウみたいだな。便利だ。何だよ異世界最高かよ。
・布の服
・こん棒
・ゴブリンの魔石
こん棒とゴブリンの魔石はゴブリンのドロップアイテムだろう。やっぱりゴブリンだったのか。それにしてもまるでゲームみたいだ。読んでた中にはゲームのような設定の異世界もあったが、大体は死体が残って解体は自分でって感じだった。
あと布の服は元々持っていたのか、それともゴブリンのドロップアイテムなのか。ドロップアイテムだと良いな。でなければ俺はわざわざ全裸でゴブリンと戦い、今の今まで半透明な板を全裸で眺めていたことになる。ドロップアイテムだとしても全裸で眺めていたことに変わりわないのだが。俺は布の服を取り出して鑑定してみる。
・布の服
防御+2
村人が好んで着る布の服。浅層の魔物から良くドロップするアイテム。だがダンジョンに潜る冒険者が着るには防御力が低く、売るにしても値段が低い。大概は捨てられるか、夜営の時に燃やされる。
水には少し強いが、火に弱い。良く燃える。
これは驚きの情報が満載だった。まずはここがダンジョンだもいうこと。そしてこの世界には冒険者と呼ばれる職業があること。なによりダンジョンだったのかよと突っ込みをいれたい。だって見渡す限り草原だし森も見えるし、太陽もあるし風だって吹いている。外だと勘違いしても仕方ないと思う。取り敢えず布の服を着ながら今後の方針を考える。それにしてもこの布の服は俺のサイズにぴったりだった。凄いなドロップアイテム。え?下着はどうしたって?ノーパンだよバカ野郎。
今後の方針としては、ダンジョンの脱出を目指したいと思う。ここにいても第2、第3のゴブリンに襲われかねないしな。
と言うわけで、進もうと思うのだがどちらに進めばいいのか解らない。出口に向かってると思ったら奥に進んでましたーなんて、うっかり死にかねないからな。ゴブリン1匹に対してギリギリの戦いだったのに、ゴブリン2匹以上や、ゴブリン以上の強敵となんて戦いにすらならないだろう。やはりチート欲しいなー。
まぁつべこべ言っても始まらないし、立ち止まって居ては何も変わらない。今は進むしかないのだろう。それが出口か奥地か解らずとも。
「っしゃ、行くかー。」
そして俺は草原を歩き始めた。足の裏に石が当たるのを感じながら歩く。…………靴が欲しいな。
歩き始めて1時間。未だに俺は草原をさ迷い続けていた。
「人間も、魔物も、何も居ない。魔物はいなくていいけど人間は出てきてくれよ……。冒険者いるんだろー?。このままじゃ餓死しちまうよー。」
草原はどこまでも続いていて、出口なんて見えてこなかった。裸足で一時間歩き続けたせいで足の裏はボロボロ。腹も大合唱を奏でている。空腹だ。でも足を止めたらもう歩けなくなる気がして、ひたすらに歩き続けていた。
「夕飯全部吐いたのが間違いだったなー、堪えられなかったのは仕方ないかもだけど。胃ががら空きなのは辛いな。」
誰にも聞かせることのない独り言が風にのって流れて行く。そんなことを考えながらじゃないと、もうやってられない。やはり異世界も現実も辛いことには変わりないのか?異世界チーレム無双とか夢のまた夢なのだろうか。
「夢なんだろーなぁー……。」
ただでさえ元気がゴリゴリと削られてるのに、夢を投げ捨てたせいで更に元気が無くなった。異世界とは、げに恐ろしきところであると再確認した。勝手に捨てて勝手に落ち込んでいるだけなのだが。
この1時間、歩きながらも鑑定をしていたが、何処を見てもゴブリン草ばかり。最悪この草を食うことになるだろう。
他にはステータスにも鑑定をかけられることが判明した。それで人族と異世界人について鑑定してみた。
・人族
この世界に存在する種族の1つ。秀でた才能は持たないが数が多く、開発力や統率力が優れている。
存在する国家の王の多くがこの種族で、統治している土地が三番目に多い種族でもある。
一部の人間国家では亜人や獣人族などを迫害する思想が強く、自らの種族が1番であるという意識が強い。
説明文で差別があると知り悲しくなるが、亜人や獣人がいると知って嬉しいのはヲタクの性だろうか。兎も角、これで人間がいることが解り、一安心である。
そして異世界人について。
・異世界人
この世界とは異なる世界から来た者。
召喚された勇者などがこれに当たり、その世界特有の知識を持っている。
そのため過去の勇者たちは魔王討伐の後、貴族に利用され悲惨な死を迎えた者も多い。
召喚された勇者は男性が多く、王族の姫と結婚した者も少なくない。そのため薄くではあるが、異世界人の血筋が受け継がれている。
この世界には勇者と魔王がいる。もう自分が勇者だとは思わないが、勇者が同郷だと良いなとは思う。そしたら同郷のよしみで女の子を紹介してくれないだろうか。もちろん死にたくないから自分は異世界人だということは隠すが。そして貴族や姫、先ほどの説明にあった王族などを加味して考えると、この世界はお約束の中世ヨーロッパくらいの文化なのだろうと辺りをつける。
早く冒険あり亜人ありの異世界を堪能したいところだが、如何せん現実は厳しい。まだまだ草原は続きそうである。