「知らない天井……いや昨日寝る前に見たな。」
ふかふかのベットから上体を起こす。ここのベットはギルドの宿泊のとは違った良さがあるな。使われてる毛布がしっとりとしている。
布団に残る温度に名残惜しさを感じながらベットから降りる。靴下は既に
仔犬の尻尾亭に泊まり、2階端の住人となって1日目。そして異世界に来てから1週間と1日が経過した。手元には金貨1枚、銀貨82枚、大銅貨5枚がある。
10日間は寝床と朝夕飯の心配をしなくてよい。しかし昼飯と10日後の宿代を考えると1日も無駄にはできないな。今日から自分で依頼を選んでいかなくてはいけない。まだ1番下のG級なので受けられる依頼は限られてるけど、やれることからやってこう。
とりあえずは朝飯を食べてからだな。身支度を整え、部屋の鍵を閉める。1階に降りる階段から1番遠い部屋なので途中で他の住人にあう。軽く挨拶して1階に降りた。
「ユーちゃん、今日のオススメは?」
しっかりと朝飯を食べて冒険者ギルドに向かう。アイテムボックスには親父さん作の昼飯が入っている。サンドイッチも残っているけど大銅貨3枚で作ってもらった。
ギルドに入り空いている席につく。対応してくれるのはカークだ。
「ソーヤさん、ギルド入って左のボードで依頼を取ってきてくれないと受付の仕事ができないっすよ?」
……あ、朝飯食べる前は意気込んでたのに忘れてた。カークに謝ってからボードに向かう。冒険者が3人ほど良い依頼を探している。
狙うのは1日で帰ってこれる依頼だ。夕飯は仔犬の尻尾亭で食べたいしね。階級と場所的に受けることのできる依頼は……3つかな。
スライム10匹の討伐、癒花10本の納品、野うさぎ15匹の納品だな。
癒花はアイテムボックスに入ってるし、スライムと野うさぎはタルクス近郊で出没するから出歩いていれば直ぐに集まるだろ。3つとも受けるか。
ボードから3枚の依頼書を剥がしてカークに渡す。
「スライムの討伐と癒花、野うさぎの納品ですね、受注しました。これ写しです。」
3枚の写しを受け取って2枚だけアイテムボックスに入れる。そして換わりに癒花10本と納品依頼の写しをカークに渡した。
「これで依頼完了だな、残り2つ達成してくるよ。」
「はい、いってらっしゃい。お気をつけて。」
1度目の依頼では北に、2度目の依頼では南に行った。北には丘と小川があって、南にはバノス村へと続く長い道があった。今日は東に行ってみようかな。北の門にはじじぃがいるし。
タルクスの4つの門の1つ、東の門から外に出た。東門の衛兵さんはいい人だった。まぁ、じじぃ以外は良い衛兵さんにしか会ってないけど。
「我、自らの魔素を糧として世界に力を顕現する。願うは氷、形は球。【アイスボール】」
氷の球が放たれ野うさぎの頭部に当たる。球の勢いは野うさぎの頭蓋を陥没させるのに十分な威力で、野うさぎを死に至らしめた。
素早く野うさぎの死体に駆け寄りアイテムボックスに収納する。今回は納品なので肉の鮮度が命だ。血抜きは後で一斉にやるとして、今は狩りに集中だ。
「これで14匹目、あと1体で達成だ。」
現在スライムの核6個、野うさぎ14匹がアイテムボックスに入っている。これでまだお昼前なのだから順調だな。
初級火魔法はカンストしたのでスライムには初級水魔法、野うさぎには初級氷魔法を使っている。
使っていてなぜスライムに水魔法が効くのかが解らないが、効いてるんだしいいか。野うさぎは燃やすのも濡らすのもダメなので氷魔法が重宝している。頭を狙って打つのも上達したし、魔法のレベルも上がって良いことづくめだ。
野うさぎを狩り終え、血抜きの作業に入る。鎖つき小刀の鎖を木に巻き付け、小刀の方を木に突き刺す。ピンと張った鎖に縄を通し、野うさぎの後ろ足に結ぶ。縄はタルクスを出る前に買っておいた。大銅貨2枚で大量に売っていたが、使う分には十分な強度だな。
15匹全部を結び終えると首をはねるために魔法を唱える。
「我、自らの魔素を糧として世界に力を顕現する。願うは氷、形は爪。【アイスメイル】」
左手を被うように氷が発生し、指の延長上に鋭利な氷の爪が完成した。先ほど覚えた氷魔法、氷で手を被い爪を作るものだ。手が冷たくないのが不思議な点だな。ハティの加護のお陰か何処と無く狼の手に見える。
人差し指で野うさぎたちの首を一直線に撫でる。15匹分の小さな首が落ち、その上に血が降り注ぐ。血が出なくなったら回収だ。
血抜きが済むを待っていると、後ろの茂みがガサリと音を立てた。血の臭いにつられて魔物が寄ってきたかな?刀をアイテムボックスから取りだし、何時でも駆け出せるよう構える。
しかし出てきたのは犬が二足歩行しているような生物だった。犬系獣人の冒険者か、親父さんとは違う犬種みたいだな。
ボロいズボンを履いているが、上半身と靴は身に付けていない。そして銅製の剣を持っているが鞘を持っていない。変わった格好だな。
「なんだ同業者か、驚かすなよ。」
刀を腰の鞘に入れて構えをとく。同じ冒険者にこんなところで会うとは思わなかったな。軽く挨拶して笑顔を向ける。
仲良くなれればいいと思って声をかけたんだが、相手は突然襲いかかってきた。刀を抜いて応戦する。
「いきなり何すんだよ!?なんか気に触った?」
2、3度剣と刀を打ち付け、つばぜり合いになる。すると相手は俺の首筋に噛みつこうとしてくる。それを相手の腹部を蹴りつけて距離をとることで逃れる。
「ガウッガウッ!」
相手は口から涎を撒き散らしながら吠えた。なんだよ、犬系獣人だからって犬みたいな真似をしやがって。
ん?犬みたい?…………あ、もしかしてコボルト?鑑定してみると、やはりコボルトだった。なんて紛らわしい。
蹴られて怒りを覚えたらしいコボルトは飛び上がって剣を振り下ろしてくる。それを横に避けて両腕ごと腹を切り裂く。そして血が流れ出す前にアイテムボックスに収納した。
「ふぅ、無駄なもん斬ったな。」
刀を振り血を払うと、血抜きしている野うさぎたちの方を見る。既に血は流れておらず、血抜きは終わったようだ。
鎖つき小刀ごとアイテムボックスに入れて、帰路につく。アイテムボックス内では別々にしまうことができるので、次に取り出した際には野うさぎの死体だけを出すことができる。
アイテムボックスのスキルを毎日無駄に使い倒しているお陰でできることが増えている。やはり地道な努力は良いことだな。
腹が減ってきたので親父さんが作った昼飯を食べてから帰るとするか。
タルクスへの帰り道、東側の交通路に入るところで野盗に襲われる馬車に出会った。出会ったっていうか声が聞こえたから寄っていったというか。
何で行き先行く先でトラブルが起こっているんだろうか。もしかして隠しスキルでもついてるのかな?
「いやいや、今は人助けしないとだな。」
馬車を襲っている野盗は6人、護衛らしき人は2人だ。野盗の方が曲刀を持っており、数の利を活かした戦い方をしている。それに引き換え護衛の武器は装飾は豪華だが、戦いに向いているとは思えない。しかも戦いに慣れてないのかあたふたしているし。
「おい!そこの野盗、俺に斬られたくなかった失せろ!」
これで引いてくれれば万々歳なんだけど……。
「なんだ、新しい鴨じゃねえか。」
「嬢ちゃん可愛いなぁ、加勢するなら遊んでやるぜ?」
うん、やっぱりこの見た目じゃ舐められるよな。威圧感をもっと付けたいんだけど、この中性的な外見だとどうしても可愛がられる。誠に遺憾だ。男に可愛がられるとか悪寒が走るわ。
「よーし、なら斬るぞ。」
きちんと宣告してから野盗の1人に斬りかかる。曲刀を刀と何度か打ち付けあい、上にかちあげる。驚いている野盗の顎を柄の先で打つ。顎にアッパーをくらった野盗は脳を揺らされ、倒れた。
俺相手に1人で十分だと思われたのか、他の5人は護衛2人を囲んでいる。俺の方を伺っていた野盗の1人が気付くがもう遅い、既に詠唱は終わって魔法の発動に移っている。
「【アイスボール】【アイスボール】【アイスボール】」
並列起動ではないので、氷の球が時間差で野盗の頭を打つ。残りは護衛と同じ2人になった。あとは護衛の人に任せてもいいだろ。
「後は自分で頑張れ!俺は倒れた奴の拘束をする!」
野うさぎにも使った縄で気絶している野盗の手足を縛る。護衛と野盗が戦っている近くにも倒れているが、鎖を足首に引っ掻けて引きずり寄せる。
4人の野盗を縛り終ったところで、護衛の人の方も制圧し終えたようだ。同等数なら勝てるんだな、若そうなのに大したもんだ。
「お疲れさん。」
縛った野盗を引きずりながら声をかける。護衛の人はやはり年若く、俺と同い年くらいに見えた。真面目そうな青髪と軽薄そうな金髪、正反対の2人だな。
「……こちらが助けられたことにかわりない、礼はしよう。」
青髪は遺憾の意と言わんばかりに悔しがってる。なんか偉そうだけど、何かしたかな?
「この青髪はカインズって言うんすけどね、カインズは
金髪が取り成すように前に出てきて、笑顔で説明してくる。軽薄なのではなく空気の読める子なんだな。そして青髪はじじぃとかと同じ夜半差別派か。
「それなら心配ないぞ、俺は迷い人だからな。」
アイテムボックスからギルドカードを取りだし2人に見せる。
「そうだったのか、不快な思いをさせてすまなかった。礼は俺からもしよう。それにしても君は冒険者なんだな。良ければタルクスまで護衛を頼めないか?」
「おいおい、カインズ、俺らのどこに護衛を雇う金があるんだよ?」
「む、確かに。……すまない、先ほどの話は無かったことにしてもらえないか?」
正反対だけど仲は良さげな2人組、そして馬車の中にいるであろうお嬢様とやら。カインズと金髪は衛兵というより騎士みならいって感じだし、わけありかな?少し首を突っ込みたい。
「金はいいよ。乗り掛かった船だ、最後まで力をかす。」
その答えに2人は喜んで同行を許可してくれた。タルクスまではここから1時間半ほど、捕縛した野盗は馬車の後ろにくくりつけたので移動の妨げにならない。
それに俺まで騎手席に乗せてもらったので、もう少し早く着くかもしれない。
「無償で働いてもらっちゃって、すまないっすね。俺はリーンバーン・クライズ。リンクって呼んで欲しいっす。」
「俺はカインズ・ラキシアン。カインズでいい。」
2人はやはり騎士みならいでタルクスの騎士養成所で修行を積みに遠くから来たらしい。馬車に乗っているのは、2人の住んでいたところの領主の娘さん。現在お休み中で後で紹介すると謝られてしまった。
「たった3人で旅してるのか、よく今まで無事だったな。」
さっきみたいに数で押されてしまっては、馬車を守りながらだと2人はやられてしまうだろう。旅をしてきた中でそんなピンチがなかったとは思えないが。
「森を抜ける前に魔物の群れに襲われましてね、そこで魔素切れ寸前まで魔法使っちゃったんすよ。」
「俺たちは本来、魔法と剣を組み合わせて戦うんだ。剣だけでは戦い慣れしていないから、養成所に向かっていたしな。」
なるほど、2人は実際はもう少し強いのか。まぁ、騎士みならいらしいし当たり前か。
「そう言えばソーヤさんは、G級冒険者なんすよね。G級でそんだけ強いなんて冒険者は化物揃いっすか?」
「ソーヤでいいよ、年近そうだしため口のほうが気楽だ。
冒険者については、他の冒険者をあんまり知らないから解んないな。俺がG級なのも最近冒険者になったからだし。」
「んじゃソーヤって呼ばしてもらうよ。ソーヤは迷い人だって言ってたしな、それだけ強いのにG級なのにも納得した。」
それからしばらくお互いのことを話し合ってタルクスへ進んだ。リンクは話上手でこの世界のことを色々と聞けた。カインズは話下手で時折相づちを打ったりするだけだ。
「なぁ、野盗ってどうするんだ?衛兵につき出すのか?」
「あぁ、それはぁ……。ちょっとカインズ?お嬢様の様子見てきてくんね?」
「何でだ?まだお休み中だと思うぞ?」
「まぁまぁ、良いから、良いから。」
首を傾げながらカインズは後ろの天幕に入っていった。
「さて、カインズが居なくなったところで話すけど。衛兵につき出すと名のある悪党なら報償金が貰える。そうじゃないならお疲れ様の一言で終了だ。
けどな、奴隷商に売るっていう手があるんだよ。もとが盗賊だから売っても大した金にはならないけど、お褒めの言葉だけよりはましだろ?」
タルクスにも奴隷商あるんだ。1週間住んでて気付かなかったぞ。
「なんでカインズを下げたんだ?一緒に相談すればいいじゃんか。」
「カインズは正義感の強いやつだからさ、迷わず衛兵につき出すよ。」
リンクは困ったような顔をしているけど、笑っているのも感じ取れる。カインズのことを困ったやつだと思いながらも憎めないやつとも思ってる。てところか?
「ならどうするかはリンクに任せるよ。俺は今のところ金に困ってないし。」
「あー、すまない。なら門のところで衛兵につき出すよ。騎士みならいの俺らにとってはお言葉だけで嬉しいけど、本当にそれでいいのか?」
「いいよ、その代わりに奴隷商について教えてくれ。」
その返しに面食らった様子のリンクは、お前も困ったやつだなと笑いだした。それからカインズが戻ってくるまでタルクスにある奴隷商のことを教えてくれた。