異世界に行こう(凍結)   作:紺色メガネ

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閑話 とある奴隷少女の今来

 

 

私の名前はヨミ、奴隷です。

 

家名はありません。実際はあるのですが、奴隷に落ちたさいに剥奪されました。

 

ヨミというのは、魔族の言葉で希望という意味だそうです。今となってはとんだ皮肉だと笑うしかありませんね。

 

私は猫系獣人の里の、領主の家に生まれました。その里は、タルクスからは遠く離れた場所にあります。どれほど遠いのかは解りませんが、私を売った人によると2度と帰ってはこれないそうです。

 

私の母は5人兄妹の次女で大切に育てられたそうです。他の里の領主の息子に嫁ぐはずだったのですが、父と恋に落ち、私を生んだと語っていました。

 

母は髪が白く目は私と同じ黄色だったので、その父が魔族だったのでしょう。私が生まれるころには父は居ませんでした。死んでしまったのか、魔界に帰ったのか、母は語ってくれませんでした。

 

母の兄妹たち、私の叔父や叔母に当たる人たちにとって母は恥さらしで、私は忌み子でした。私が生まれると母は家を追い出され、女手一つで私を育てることになりました。

 

ですが母は幼いころから民に優しく、また美人だったので、里のみんなに助けられて過ごしました。里のみんなは夜半(よわ)である私にも別け隔てなく接してくれて、私はすくすくと育ちました。

 

しかし、そんな幸せは長く続きません。領主の家に母の縁談が舞い込みました。相手は近くの鳥系獣人の領主からでした。

 

その相手は近隣の里では強力な権力を持っています。更にその領主の長男が縁談の相手です。あの兄妹たちがこの縁談話を断るわけはありませんでした。

 

そうなると忌み子の私が邪魔でした。他の里には母が魔族と子を成したと伝わっておらず、私さえいなければ相手に隠し通せます。

 

母の兄妹たちは私を捨ててしまえと母に迫りますが、母がそれを飲むはずがありません。そして今さら何を、と里のみんなからの反発もありました。

 

そうしている内に刻一刻と縁談の日にちが迫ります。そして母の兄妹たちは強行手段に出ました。私を葬り去ることにしたのです。

 

自分の部屋で1人で寝ていた私に、何者かが襲いかかりました。目元以外を黒い布で覆った男でしたが、臭いで誰だか解りました。母の兄妹である三男、5人兄妹の末っ子でした。

 

里の外で殺す予定なのか、口に布を噛まされ声が出ない状態で里の外に連れられました。しかし、そこに待っていたのは馬車でした。

 

その馬車は普通の馬車とは違って、天幕の中が檻になっているものでした。いわゆる奴隷商の馬車です。

 

私の叔父の1人である三男は、私にこう言いました。

 

 

「兄さんたちは殺せって言ってたけど、それじゃあ足がつく。それなら失踪扱いで奴隷にした方が、証拠も残らないし金も入る。

 おい、忌み子。お前はこれから遠くに売られる。もう2度とこの里に戻れないほど遠くにだ。帰って来ようなどと考えるなよ、もし帰ってきたらお前の母を殺す。」

 

 

私はその言葉に頷くしかできませんでした。2度と母と会えなくなっても、母には生きていてほしかったからです。

 

魔族の父との間に、私を生み育ててくれた母。

 

家を追い出されても、私を愛してくれた母。

 

家に戻るチャンスを不意にしても、私を守ってくれた母。

 

あんな好い人が殺されていいはずなんてありません。私を育て、愛し、守ってくれた母を今度は私が守る番です。

 

私は奴隷商の馬車の檻に入り、遠い遠い場所に運ばれて行きました。これが私が奴隷落ちした理由です。

 

 

 

 

 

 

それから私の奴隷人生が始まりました。

 

 

 

 

 

私が最初に売られたのはエンデュという街でした。そこでは夜半差別が激しく、加虐目的で私を買う人が直ぐに見つかりました。

 

鎖に繋がれ鞭で打たれました。皮膚が裂けるような痛みに思わず叫んでしまいます。しかしその声を聴いて悦に入ったご主人様は、更に激しく鞭を打ち付けました。

 

このまま死んでしまうかも。そう思った時に私の左目に異変が起こりました。熱い、とても熱いのです。訳がわからないのに左目を閉じることはできませんでした。ただただ熱さを感じる左目でご主人様を睨み付けることしかできません。

 

笑みを浮かべて鞭を振るっていたご主人様は、私の目を見ると青ざめて部屋から出ていってしまいました。

 

その翌日、私は奴隷商に売られました。売って1日で帰ってきた奴隷は初めてだと、奴隷商人の方に殴られました。

 

その後も売られては返却される私を厄介払いするように、奴隷商人の方は私を売りました。ご主人様ではなく、同業者である奴隷商の方にです。

 

 

 

 

 

また私は奴隷商の馬車の檻に入り、遠い遠い場所に運ばれて行きました。

 

 

 

 

 

私が次に売られたのはカーンナルという街でした。そこは獣人差別が激しく、また加虐目的で私を買う人が直ぐに見つかりました。

 

カーンナルという街では良く体を火で炙られました。殴られたり鞭で打たれたりするのは慣れてきましたが、燃やされるのは初めてで、また声を上げてしまいました。

 

そしてまた加虐が激しくなり、私の左目に異変が起こります。私も段々と解ってきました。この左目は命の危機に瀕すると赤く光ります。

 

1度、鏡に映る自分の左目を見たことがあります。まるで水晶のような……いえ、すいません。まるで炎のように真っ赤に不気味に光っていました。

 

そしてこの街でも買われた次の日には返却されます。そして奴隷商の方に殴られました。

 

そしてその奴隷商の方も、同業者の方に私を売りました。

 

 

 

 

 

再び私は奴隷商の馬車の檻に入り、遠い遠い場所に運ばれて行きました。

 

 

 

 

 

私が3番目に売られたのはタルクスという街でした。そこは獣人差別も夜半差別もありました。しかし、今までの街と比べると差別意識を持っている人はとても少しのようでした。

 

売り場であるテントに連れられる途中で、獣人族の冒険者や夜半らしき人も見ました。この街なら私を全うな扱いをしてくれる人がいるかもしれない、と期待が持てました。

 

ですが、そんな期待も粉々に打ち砕かれます。タルクスに来てから1週間ほどしたある日、私はとあるご主人様に売られました。

 

そのご主人様というのがタルクスでは珍しい獣人族差別の過激派で、私のことを殴る蹴るのサンドバッグのような扱いをしました。

 

何度も左目が光ります。しかしこのご主人様は私を売りませんでした。そして数日たったある日、ご主人様は言いました。

 

 

「噂の奇病もこけおどしか。反応も無くなってきたし、そろそろ殺してしまうか。」

 

 

この言葉に左目が強く反応しました。今までの比ではないほど熱くなりました。その目を見たご主人様は、その夜の内に私を返却しました。

 

そして次の日から私が売れることはありませんでした。この前のご主人様が私を買うような人に声をかけて回っているそうです。

 

 

『あの奴隷は止めた方がいい。ただの奇病ではないぞ、あの目に睨まれると呪われる。』

 

 

そう言われては私を買う人は現れません。ついに私は処分品となってしまいました。

 

 

 

檻には布がかけられ外の光はうっすらと入るのみです。こうして誰の目に留まることなく死んでいくのが私の人生なのか、と思わず泣いてしまいました。

 

静かな檻の中に、私のめそめそとした泣き声が響きます。

 

そして私はいつの間にか眠ってしまいました。

 

 

 

起きると、外で話し声が聞こえます。奴隷商の方の声と、恐らく奴隷を買いに来た人の声。

 

薄暗い檻の中でその声を聞いていると、いきなり布が剥がされました。突然の光に目が慣れていなくて、思わず下を向きました。

 

檻の外ではまだ話し声が聞こえます。もしかして私を買ってくれるのでしょうか。

 

次第に慣れてきたので目線を上げようとすると、目の前に人がいました。その人はにっこりと微笑んで何かを言いました。私に向けて言った言葉は、驚いた私の脳では処理しきれず、何とか肯定を返すので精一杯でした。

 

そしてその人は奴隷商の方に私を買うと言ってお金を払いました。まだ整理が追い付きません。

 

私が入っている檻ごと奴隷紋起動のための空間に運ばれます。私は売られる、つまり生きられる?そう考えて喜ぶ感情と、また虐待を受けるのが嫌だと泣く感情がぶつかり合って、声も出ません。

 

そして胸元の奴隷紋に血と謎の液体が混ざったインクを塗られて、私はまた新たなご主人様の奴隷になりました。

 

 

 

 

新しいご主人様は、髪も目も黒い方です。私と同じ夜半なのでしょうか。ですが私のみすぼらしい髪と違って、日光を受けてキラキラと艶めくご主人様の髪は素敵でした。

 

昔、別のご主人様の夜のお相手をしていた扇情的な女性よりも綺麗で整ったお顔をしています。でも、このご主人様は男性です。一目でそうだと解りました、これも左目の影響でしょうか。

 

新しいご主人様はご主人様らしくありませんでした。奴隷である私を気遣うような発言をします。

 

 

「あ、靴履いてないな。裸足だと痛いだろ、これ履きな。」

 

「俺は迷い人だから解んないんだけど。奴隷だからって靴を履いちゃいけないなんてことはないと思うよ?もしそんなことがあったとしても、俺が履いてほしいから履いてくれ。……これは命令。」

 

 

靴と服を渡して着替えるよう言いました。しかし私がご主人様の前で着替えようとすると、後ろを向いて着替え終わるのを待ちます。

 

 

「女の子がいきなり着替え始めちゃダメだろ?」

 

「奴隷とか主人の前に、君は女の子で俺は男だ。女の子が男の前で裸になっちゃいけません、解った?……あとで設定変えてあげるから、今後はしちゃダメだよ。」

 

 

このご主人様は加虐のために私を買ったわけではないようです。そして抱くためでも。

 

私は求められたことはありませんが、エンジュでもカーンナルでも、その目的のために買われた奴隷を見ました。

 

私が求められなかったのは未成熟だからか、獣人族で夜半で、加えて奇病持ちだからでしょうか。

 

今までのご主人様は私を傷つけるために買いました。しかし新しいご主人様はそのためでもないようです。そうでなければ靴など履かせません。

 

だからこそ、不安になります。加虐目的でも体が目的でもないなら、何のために?

 

 

「…………ならばヨミは、何のために、買われたのです……?」

 

 

もうあの場所へは戻れない。今度捨てられてしまえば、頼れる人も、助けてくれる人もいない私は死んでしまう。遠くで生きているはずの母に、本当に会えなくなってしまう。

 

2度と会うことはできないと解っていても、もし、と考えると止まりません。私は生きなければならないんです。

 

そのためにも、新しいご主人様に私の利用価値を見いだしてもらわなければなりません。

 

 

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