異世界に行こう(凍結)   作:紺色メガネ

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23話 ルクシアンの四名家

 

リンクとカインズと共に馬車で揺られること10分あまり。連れられた場所は洋風の館だった。高い塀に囲まれていて、館のほうも随分と豪華な造りだ。

 

カインズが1度場所から降りて門を開けると、リンクが馬を操り場所を敷地内に入れた。外観と違い、敷地内は質素な雰囲気で好感がもてる。

 

 

「降りたら俺が案内するから、迷わずについてきてくれ。」

 

「そんな広いのか?」

 

「他の貴族に比べれば小さいかな。それでも十分でかいけどさ。」

 

 

馬車を降りてリンクの後に続く。門を閉め終わったカインズが馬車に乗り込み、裏手に納車してくるようだ。

 

館内に入り長い廊下を進む。これだけ広いと掃除が大変そうだな。それにしては人が少なくないか?今のところ執事らしき男性とメイドっぽい女性の2人しか見ていない。

 

 

「ここでお嬢様が待ってる。俺たちも礼がしたいとしか伝えられてないからさ、お嬢様が何か無礼なことしたらフォローするよ。」

 

 

自室に見ず知らずの男を招くとは思えないし、ここは応接室かな。

 

俺が無礼なことするのを心配するなら解るけど、お嬢様が無礼なことをする心配ってのはどうなんだ?

 

 

「じゃ、入るぞ。……お嬢様、リンクです。お客様をお連れしました。」

 

「入っていいよー。」

 

 

扉の先から間の抜けた声が聞こえる。思わずリンクを見ると、苦笑いしていた。恐らくこの声がリンクたちのお嬢様なんだろうな。

 

リンクが扉を開けてくれたので、促されるまま室内に入る。部屋の真ん中には四角いテーブルが置かれていて、対面に大きめのソファーが備え付けられている。

 

 

「リンク、あの、ソファーに寝転がってるのがお嬢様?」

 

 

そして、片方のソファー全体をベットのようにして寝ている少女がいた。

 

 

「そう、私がリンクとカインズの主人。ダイヤシーフ家現当主、アルル・ダイヤシーフだよ。」

 

 

ソファーに横になり、長いブロンドの髪を豪快に放りながら、アルルと名乗る少女はにこりと笑った。

 

 

 

 

 

「さて、君が私たちを盗賊の強襲から守ってくれた冒険者なんだよね?」

 

「そうっすよ、お嬢様。お嬢様が礼をしたいって言うから、来てもらったんです。」

 

 

リンクのお説教により姿勢を起こしたお嬢様は、現在、俺の対面のソファーに座っている。お嬢様が座っているソファーの後ろにはリンクが立っており、そこだけは凛としていた。

 

……リンクが櫛でお嬢様の髪を解かしていなければ。

 

 

「お礼っていっても、金銭的なことじゃないんだよね。現在、ダイヤ家は私の命と釣り合うだけのお金を捻出する余裕がない。」

 

「ソーヤは迷い人だからダイヤシーフ家って解らないよな、説明するよ。

 今俺たちが住んでいるルクシアン王国には、高名な4つの貴族が存在する。ルクシアンの四名家って言えば有名な話でな。そのうちの1つがダイヤシーフ家なんだ。

 四名家には、それぞれ国と強力な結び付きがあって。例えばリリンスハート家だったら王国に使える騎士を数多く抱えている。そしてダイヤシーフ家は他の3つの貴族と違って、王国と強い結び付きはないが、商人の家系として有名だ。」

 

「もっとも、今じゃダイヤ家は落ちぶれて、王国との繋がりも薄れてきてるけどね。命の恩人に恩赦を払う余裕がないほどに。」

 

 

王国が守るほどの権力を持っている、貴族の当主の命と釣り合うだけの金銭となると、とても高額なんだろうな。そもそも金で買えないものであるわけだし。

 

しかし、現在は家が落ちぶれてしまって、その金が支払えない、と。

 

 

「それなら大丈夫だ。もとから偶然居合わせただけだし、礼を言われるほどじゃないだろ。」

 

「謙遜は時に美点だけど、時に損なことだよ。今回なんかは、骨の髄までしゃぶってやる!の精神でいかないと。」

 

「1度助けたくらいで、そこまで大きくでれないな。」

 

 

お嬢様の髪を解かし終わったリンクが、ソファーの後ろから横に移動する。それを横目で確認しながら、お嬢様はケタケタ笑った。

 

 

「ルクシアンの四名家の、現当主の1人を救っておいて随分下手に出るね。もっと誇って良いことだと思うけど。

 まぁ、お礼がお金じゃなくて良いのは、こちらとしては良かったよ。それでは、お金以外で君に得があることをしよう。」

 

 

そしてお嬢様は佇まいを直して、商人の顔になった。前に仔猫の尻尾亭で見たユーちゃんの顔と同じ。しかし、迫力が段違いだ。それだけ場数を踏んだんだろうな。

 

 

「君、昨日奴隷を買ったよね。」

 

 

確かにヨミを買った。だが、ヨミを奴隷だと知っているのはユーちゃんと親父さん、それから奴隷商のまつだけだ。ましてや、昨日来たばかりのお嬢様が知っているものだろうか。

 

 

「そんな恐い顔しなくても、怪しいことはしてないよ。ダイヤシーフ家は商人の家系だって言ったでしょ?商人が売るのは物だけじゃない。時には情報も売り物になるんだよ。今日君を呼ぶ前に、君の情報を奴隷商から買っただけ。」

 

「なるほど。なら、俺が奴隷商に行くって情報はリンクから?」

 

 

対面のソファーの横に立っているリンクを見ると、部屋に入る前と同じ苦笑いを浮かべていた。どうやら正解みたいだ。

 

 

「まぁまぁ、リンクを責めないであげてよ。私が無理言ったわけだし?」

 

「別に責めてないよ、ただ、昨日の今日でそこまで手が回ることに驚いた。」

 

「腐っても商人の名家だからね、それくらいは朝飯前だよ。」

 

「……それで、どうして奴隷の話を持ち出したんだ?俺に得があることってのに繋がるのか?」

 

「うん、そうだよ。君の買った奴隷は獣人族で、夜半(よわ)で、猫系獣人特有の奇病持ちの少女だよね。夜半の子が奇病持ちなんて、本当に稀だよ、この私が聞いたこともないほどね。」

 

 

奇病ではなく、魔眼の可能性があることは黙っておくか。まだ確証があるわけではないし。

 

 

「でも、その分危険も多いと思うんだよ。特にこの国ではね。

 獣人族に対して街の人たちはそれほど差別意識はないけど、貴族、特にご老体が残ってる家は差別意識が強いね。

 それに夜半は物珍しいから、何かと不便な思いもするでしょ?……例えば、街中でじろじろと見られたり。」

 

 

確かに表通りに出るときにはヨミにフードを被せた。思い起こせば午前中に行った服屋で店員か見てたのも、そんな理由だったかもしれない。

 

 

「それから奴隷解放をうたってる貴族もいるからね、君自身も危ないんじゃないかな。」

 

「それってさっきも話に出たリリンスハート家か?」

 

 

ヨミを買った際に、奴隷商からそんな話を聞いたな。獣人差別反対と奴隷解放を掲げてるとか。

 

 

「そうそう、落ちぶれてても私は四名家の一角だからね、リリンスハート家にも顔が利くんだよ。もちろん他の貴族にもね。

 つまりお金以外でのお礼ってのは、君の身の安全と君の奴隷の安全だよ。どうかな?」

 

「安全をもらえるなんて、金銭よりも上等じゃないか。嬉しい限りだよ。」

 

 

俺はともかく、ヨミが危険なことに巻き込まれるのは避けたい。今回だってカインズたちと長い付き合いにならないと思って置いてきたが、本来ならヨミに何の罪もない。街中を身を隠さずに歩けるのは、ヨミにとっても良いことだろう。

 

 

「そう言ってもらえて、私も嬉しいよ。」

 

 

それにて話し合いは終わった。その後はタルクスのことや、前に住んでいたところの話を聞かせてもらった。

 

そして、頼みごとがあるさいには依頼すると言ってもらえた。まだG級なので指名は難しいだろうけど、顧客ゲットだ。先行き明るいな。

 

帰りは、またリンクたちが送ってくれるのかとおもったのだが……

 

 

「帰りは執事に送らせるね、メイドに茶菓子を持たせたから、持って帰って食べてみて。」

 

 

とのことで無口な執事さんと共に馬車に揺られることになった。もらった茶菓子はクッキー入りの缶が10箱。これをヨミと2人で食べるのはキツいな、みんなにあげようかな。

 

それにしても、最後の質問は何の意味があったんだろうか?

 

「君は何のために冒険者をやるの?」って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーヤが去った後のダイヤシーフ家の屋敷の応接室。

 

 

「カインズー、入っていいよ。」

 

 

ソーヤが出入りしていた扉とは、別の扉からカインズが部屋に入ってくる。

 

 

「ごめんね、除け者みたいな扱いしちゃって。」

 

「いえ、俺が最初に夜半差別者だと言ったせいですから。」

 

「まぁ、あん時はそれが良い手だったよ。それで気を悪くしてくれれば無駄に関わることもなくなるし。……どの道、迷い人だったから意味なかったけど。」

 

「うんうん、私もリンクの言う通りだと思うよ。私も顔ばれしないように馬車から出なかったんだしね。気にしなくていいよー。」

 

「そうだそうだ、カインズは気にしすぎなんだよ。」

 

「む、そうか。なら気にしないことにしよう。……それで、ソーヤはどうでしたか。」

 

「2人の予想通り……いや、予想以上の化け物だったよ。

 だからこそ、お金だけ払って関わらないAコースから、守ってあげて利用するBコースに変更したんだしね。」

 

「そんなにですか!?俺とカインズの見立てではC級ってとこだったんですけど……。」

 

「あぁ、良くてC2ってところだろうなと思ったんだが……お嬢様、鑑定で何が解ったんですか?」

 

「ステータス的にはD級ってところだけど、魔素量がずば抜けてるね。クラブハーグ家の現当主並だよ。」

 

「「なっ!?」」

 

「それに、詳しくは見えなかったけど、何かしらの加護を授かってるよ。」

 

「クラブハーグ家史上最強と名高い現当主様と同等の魔素量、それに加えて加護持ちなんて……G級程度なわけない。ギルドは何やってんだ。」

 

「多分ギルドには隠してるんだろうね。」

 

「なぜそんなことをするんです?実力が認められれば王都行きで出席コースなのに。」

 

「彼、最後の質問にこう言ったんだよ。楽しく生きたいからだ、ってね。彼にとっては王都で出席するより、タルクスで冒険者をしていた方が楽しいんだろうね。」

 

「そんな……それほどの実力がありながら……?」

 

「……良いじゃないか、そのお陰でダイヤ家復興の兆しが見えたんだ。」

 

「リンクー、良いこと言うねー。……そうだね、彼には悪いけど、私たちのために利用させてもらおう。」

 

「………………。」

 

「カインズ、納得いかないか?」

 

「……そんなことは、ない。俺は、俺たちは、お嬢様とダイヤシーフ家の騎士だからな。」

 

「ハハ、その通りだ。恩を仇で返すことになっても、俺は迷わない。」

 

「2人共、ありがたいけど、大丈夫だよ。彼とは良好な関係を作ってくつもりだからね。……お互いにとって利益のある関係を、ね。」

 

 

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