異世界に行こう(凍結)   作:紺色メガネ

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4話 嗚呼、素晴らしきかな異世界

俺の周りを等間隔で囲むゴブリン5匹。徐々に近づき間隔を狭めてきているので、あまり悩んでる時間は無さそうだ。それにしても装備や立ち姿が今までのゴブリンは違うな。黒い布を顔から足元までまるで暗殺者のように被り、切れ味の悪そうな小ぶりなナイフを逆手持ちで2本持っている。中二くさい。動きもくねくねしてて多分暗殺者意識してるんだろうなって感じだ。多分上位種か進化ルートを分岐した個体か、あるいはゴブリンの中にも中二病患者がいるのか。

 

あっ、鑑定すればいいじゃん。さっきまでは戦うのにいっぱいいっぱいで鑑定すらも忘れてたが、情報を得ることで有利に立てることもあるだろう。とりあえず目の前4mくらいにいるゴブリンを鑑定してみる。残りの4体も装備同じだし、変わんないよね?

 

てことで、鑑定っ!

 

 

『鑑定スキルのレベルが足りません。

 閲覧可能な情報が限られます。』

 

 

…………え?

 

 

 

 

 

種族:ゴブリン・アサシン

性別:オス

レベル:6/15

HP:

MP:

SP:

攻撃:

防御:

魔力:

速度:

運:

 

《魔法》

 

《スキル》

・二連斬り

 

《耐性スキル》

・毒軽減

 

 

 

 

 

名前はないのか?ゴブリン内で名前をつける習慣がないのか、魔物に名前がないか、かな。そして基本的な攻撃やHPが見れないのは鑑定のレベルが足りないからなんだろう。でもスキルにレベルの表示なんてあったか?後で確認しよう。それにしても、レベル6かー。他のステータス見れないから一概には言えないけど俺よりも強いだろ。そしてスキル持ち!二連斬りって名前そのまま2回斬りつけてくるスキルかな。耐性スキルは関係ないな。だって俺、毒持ってないもん。

 

さて、鑑定したことで解ったことがある。俺、絶対絶命!さっき2匹のゴブリンに追いかけられたことなんて比べようもないくらいのピンチだ。だって相手は強いし数も多いし、刃物を持ってる。もう一度言おうか?刃物を持ってる!これ重要だよ?一般的な日本人である俺は刃物で斬られたことなんてほんの数十回ほどしかない。動きに支障が出ない程度なら問題ないが、血が流れてしまうのは良くない。ここを退けたとしても出血多量で死ぬかもしれないし、他の魔物が血の匂いを嗅ぎ付けてくるかもしれない。つまり、刃物、危険、良くない。

 

とてつもなく逃げたいが、体力もつきかけていてゴブリン包囲網を脱出しても追い付かれる。戦ったとしても囲まれている状況で、相手は刃物持ち。気づいたら背中をブスリ、なんて笑い話にもできない。せめてまともな武器があればやれないこともないが、俺の持っている武器はこん棒3本。……そっかぁ、そうだよな。

 

 

「あの手があった!」

 

 

言うが早いが俺は目の前のゴブリン・アサシンに駆け出した。目の前のゴブリン・アサシンはくねくねしていた動きをピタリと止め、腰を下ろした体制になった。2本のナイフもファイティングポーズのように油断なく構えている。後ろの方でゴブリン特有の鳴き声が聞こえるので他のゴブリン・アサシンが俺を挟撃しようと駆けてきているのだろう。

 

俺は持っていたこん棒を目の前のゴブリン・アサシンに投げつけると、素早くアイテムボックスから2本目のこん棒を取り出した。こん棒の勢いをナイフで受け止めて、体制の崩れたゴブリン・アサシン(踏み台)を全力で踏みしめて前へ飛ぶ。飛んだ勢いのまま前方宙返りをし、遠心力の力を借りてゴブリン・アサシンの無防備な首筋にこん棒を叩きつけた。

 

多少着地がもたついたが、ゴブリン包囲網は突破した。中学の時に先生に教わった技だ。こんなところで役に立つとは思わなかったな。ほどほどの距離は稼いだし、このまま行けるとこまで逃げよう。最悪追い付かれたとしても、まだこん棒は二本あるし、もう一度だけならさっきの曲芸もできる。

 

 

『経験値を21獲得しました。

 レベル4まであと11の経験値が必要です。』

 

 

あ、さっきの曲芸で倒せたっぽい。一撃だけだから殺しきれないかと思ったが、人体の急所にこん棒を叩きつけられたんだ。ピンピンしてるはずはないか。

 

アイテムボックスに戦利品が増えているはずだが、今は確認している暇などない。ただひた走るだけだっ!

 

……されども走っても走ってもゴブリンは追いかけてくる。しつこい。いい加減に体力もつきそうだ。これでも学校のグランド10週くらいは息切れなしで走れるんだが、ゴブリン3体と戦い、1時間歩いてかなりの距離を走った。

 

……ここまで頑張ったのも誉めてほしい。チートも聖剣もなしで良くやったなって。頑張ったなって。

 

 

 

背中に熱が走る。背中に目を向けるとナイフが2本刺さっていた。ゴブリン・アサシンが投げたナイフが刺さったらしい。血が流れる。足がもつれる。今にも倒れそうだ。頭に血が行かなくなってるのがぼんやりと解る。

 

 

ぼんやりした頭の中に浮かぶ、今までの人生の1コマ1コマ(走馬灯)。思い出さなくてもいいことばっかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは法律なんて意味をなさないとある研究所(学校)で生まれた。

 

 

 

両親の顔は覚えてない。いや、知らないってほうが正しい。俺たちの出土は先輩から聞いたことがある。クローン、孤児(みなしご)研究員(先生)同士の子供。色々聞いたけどどれでも良いと思った。どれもくそったれなことに変わらないからだ。ただ自分が日本人だってことは知ってた。自信はないけど、信じたかった。それが唯一親との繋がりだと思えたから。

 

 

 

俺たちは生まれた時から戦うことを強要された。離乳食には薬が混ぜられ、ぐずついたら折檻を受けた。幼い子供の適応力は高く、直ぐに泣くのを止めた。それでも泣き止まなかった子供は……知らない。何時の間にか居なくなっていた。自分もそうなるかと考えると夜も眠れなかった。

 

 

 

小学1年生になる頃にはナイフの扱いを学ばされた。勉強の難易度も6歳には過ぎた量だった。2年生になったら毒の扱いを学んで3年生になったら刀を学ばされた。その後も凶器の扱いと学業に追われた。何より惨かったのは中学生に上がる試験だった。共に過ごした同級生との1対1の殺しあい。生まれてからずっと一緒だった仲間が半分になった。

 

 

 

中学生になると日々実践形式の授業を受けた。教官(先生)との1対1。何度も地面を転がされ、血ヘドを吐いた。学業は会話術や処世術も学んだ。訓練は汗が出なくなるんじゃないかってくらいキツかった。高校生に上がる試験はまたもや殺しあいだった。仲間が更に半分になった。それほど多くもなかった仲間が20人ほどにまで減ったのは、僅かに悲しくもなった。

 

 

 

高校に入ると授業もこなせるようになる。高校の3年間は殺しを一度もしなくてよかった。それが教育方針が変わったのか、隙を見せた心を殺すためのインターバルなのか、多分後者だろうなとぼんやり思っていた。

 

 

 

異世界に飛ばされなければ、明日が試験の日だった。恐らく試験内容は殺しあい。結局、同級生でなくゴブリンを殺したが、3年間も殺しをしなかった俺にとっては同じことだった。殺すまで躊躇なんてなかったが、殺した時は思わず吐いた。吐くなんて小学生の時以来だ。

 

 

 

色々と思い出した。

 

小学生の時、俺が殺した奴の泣き顔を、

 

中学生の時に逃げ出そうとして殺された先輩の血走った目を、

 

高校生の時の後輩に言われた言葉を、

 

研究員(先生)教官(先生)のまるで物を見るような目を、

 

思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

気付いたら倒れていた。受け身も取れずに地面に転がったみたいで腕も顔も泥だらけだ。血が草に土に流れていくのが感じ取れる。

 

ゴブリン・アサシンの足音が近づいてきた。だけどもやけに遠くで鳴っているような感じもする。変な気分だ。

 

死ぬ前に異世界ファンタジー堪能したかったなぁ。エルフとかドラゴンとか魔王とか。あとはハーレム気付いて俺TUEEEして、勇者様~とか言われたかった。案外こんなこと考えてられるんだから余裕あるのかもしれない。

 

でも意識はどんどん暗くなってく、痛みも熱さもなくなっていった。でも口からは笑顔が漏れた。ゴブリンにしかあってないけど、

 

 

 

「嗚呼、素晴らしきかな異世界。」

 

 

 

ゆっくりと目を閉じる。草を撫でる風の音すら遠く、遠くで鳴っていた。そこで意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、まだ息があるぞ!」

 

「エリィ、回復魔法はやく!」

 

「ゴブリン・アサシンを殲滅する。エミー、援護頼む」

 

「これなら助かります。この場で応急処置、その後街に戻りつつ回復させます!いいですか?レオンさん。」

 

「勿論だ。新人を助けるのも僕たち冒険者の役目だからね!」

 

「目が覚めたら治療代ふんだくってやりましょ!」

 

「どうみても新人以下の装備だ。金をもっているかも怪しいな。」

 

「エミー、クランク、新人からお金を巻き上げるのは感心しないな。それに、今はともかくゴブリン・アサシンを倒そう!」

 

「「おう!」」

 

 

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