異世界に行こう(凍結)   作:紺色メガネ

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6話 始めての街は酒の香りと共に

俺が迷い人認定されたところでようやくエリアさんが手を離した。ほのかな温もりが手から離されたことで少し寂しくも感じる。

 

 

「良かった。あの、ごめんなさい。私のせいでこんなことして。」

 

 

「私のせい?俺が怪しかったからじゃないんですか?」

 

 

誰か説明カモン、と周りを見るとレオンさんが答えてくれた。流石イケメン、抜け目ない。

 

 

「差別意識がある人だったり、何処かの間者だったらお互いに不幸なだけだろう?だから君がダンジョンを出るまで何もしなかったらギルドに引き渡す。何か動きがあったら即刻斬り捨てするって話を、君が寝ている間にしていたんだ。でも君が迷い人で良かったよ。」

 

 

亜人差別派の過激派の人たちはダンジョンや街の外だとエリアさんに闇討ちをかけることもあるそうだ。俺が万が一過激派の間者だったら、レオンさんたちも危ない。それで私のせいってことか。でもそれはエリアさんじゃなくて過激派が悪いと思うよ?

 

それにしても斬り捨てるって危ないんですが。変な回答をしなくて良かった。せっかくエルフに会えたのに首と体が泣き別れするところだった。

 

 

「あぁ、ホントにな。裏があるとしても嬢ちゃん斬ったんじゃ後味が悪い。」

 

 

「嬢ちゃん?誰が?」

 

 

どっかりと俺の横に座り、肩に手を置いてくる兄貴ことクランクさんは俺を指差した。あ、俺ですか。

 

 

 

ここで軽い補足しようと思う。俺がいた研究所(学校)について。俺たちは生まれた時から中学卒業まで通常の訓練や授業とは別に、各自コンセプトにそった個人教育をされる。それによってほぼ同じ生活をしている同級生たちにも違いが出る。あるやつは腕が他に比べて長かったり、あるやつは五感の一部が発達していたり。

 

そして俺のコンセプトは男の娘だった。髪の長さは自由だったけど食事や睡眠時間の調整、特殊な薬物の服用などを行われた。お陰で高校3年生になった今でも周りよりも背は低いし、見た目も声も中性的になっている。

 

実際はもっと小難しい理由や目的があったのだろうけど、俺にとってはそう感じた。そのせいで高校3年だと言うのに中学3年生だとからかわれ、着替えの時には他の場所で着替えろとまで言われた。あいつらとは、生まれた時から同じ暮らしをしているのにだ。

 

 

 

俺はブルータスお前もか、と言いたい衝動を堪えてクランクさんの手を肩から外して答えてやった。

 

 

「俺、男です。」

 

 

「「「……………………はぁ!?」」」

 

 

レオンさんとエミーさん、クランクさんの声が被った。エリアさんはだから言ったんですよー、と頬を膨らませている。可愛い。

 

 

「いやいやいや、嘘言っちゃあいけねぇよ、嬢ちゃん。おじさんをからかうんじゃねぇよ。」

 

 

「いや、本当のようだクランク。審議石も光ってない!」

 

 

「なんだと!?くそったれ!こんな事があっていいのか。」

 

 

「……え、男?本当に男なの?むしろ何で男なの?」

 

 

「だから私言ったじゃないですかー。」

 

 

ついにはエリアさんまで混ざって会議は踊った。俺は悲しくなった。ディバイン様に容姿の変更を頼んどきゃ良かった。

 

騒ぐ四人と落ち込む俺を置き去りに、夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夜は過ぎ去って朝になった。

 

あの後は背中に穴の空いた服を着ているのが嫌なので着替えに行こうとすると、危ないから護衛すると皆さんは言ってくれたが、女性2人は俺が遠慮させてもらった。そして男性2人は、まだ確信が持てないようだったので、何かあったら直ぐに呼ぶことを約束して木陰で着替えた。

 

その時にアイテムボックスのスキルがバレたが、覚えてないと言って通した。審議石も使ってもらったが事なきを得たようだ。それにアイテムボックスのスキル自体はそれほど珍しいものではないらしい。魔法の袋もあるし、スキルも100人に1人は持っているらしく、このパーティーでもエミーさんとエリアさんが使えるらしい。でもそれほど容量が有るわけではないらしい。

 

俺のは無尽蔵に入りそうな感じがするんですけど……?このことは黙っていようと心に決めた。

 

 

「ソーヤさん、どうしたんですか?」

 

 

「なんでもないよ、エリィ。」

 

 

俺が昨日のことに思いを馳せていると横を歩いていたエリィが声をかけてきた。

 

そうそう。この世界のことを教えてもらっている間に、レオンからため口で良いと言われた。それでも目上の人に敬語は出てしまうのが日本人の性なので、さん付けしないで妥協してもらった。そしてエリィからは今後はエリィと読んでくれと。それでもエリィは俺のことはさん付けなんだが、なんで?エリィはエルフなので俺よりも圧倒的に年上のはずだが、精神年齢は同じくらいということでため口に。エルフは成人するまでが人間とおなじくらいで、成人してからは肉体と精神の成長速度が人間の10倍希釈らしい。こちらの世界では成人が14歳だそうだ。つまりエリィは俺の10倍くらい生きてると考えていいらしい。

 

 

「前方にゴブリン2体確認。援護頼む。」

 

 

俺たちの前を歩いているレオンは言うが早いがゴブリンに向かって駆け出した。そして俺の横で詠唱を始めるエミーとエリィ。俺たちの後方ではクランクが奇襲の警戒をしている。

 

現在の俺たちはレオンが先頭を勤め、俺を真ん中にエミーとエリィが中盤、クランクが殿をしている。ダンジョンの入り口に向かっている途中だ。時々ゴブリンと遭遇するも、レオンの剣撃とエミーの魔法で直ぐに消える。

 

 

「ふぅ、怪我はないかい?」

 

 

ほら、もう終わってる。レオンは戦闘が終わるたびに全員に怪我の有無を確認する。新しいダンジョンだから何が起こるか解らないらしい。この慎重さがパーティーを長生きさせているのだとクランクが笑って教えてくれた。

 

 

「……よし、全員大丈夫みたいだね。もう少しでダンジョンから出られる。気を引き閉めていこう。」

 

 

レオンは全員の無事を確認するとまた前を向いて歩きだした。そうするとゴブリンの死体が消え、経験値獲得の声が脳内に流れる。俺は戦っていないが、同行者ということで少し経験値が入るらしい。ますますゲームっぽいけど、そんなことよりも気になるとこがある。

 

 

『経験値が……んーと、ちょびっと入ったよ。

 レベル5になるにはあと……たくさん経験値が必要だよ。』

 

 

これだ。前までは明るい感じの女の子の声、カチュリア様だっけ?だったのに今では気だるげな女の子の声だった。別人だし、ちょびっと、とか沢山とか適当すぎる。

 

どうやら普通の人はこの経験値獲得とレベルアップを伝える声を聞くことはないらしい。ならレベルとかどう調べてるのかと言えば、冒険者ギルドにステータスを見ることができる魔法具があるとのこと。

 

それから鑑定はアイテムボックスよりも珍しく、滅多にスキル持ちがいないと言っていた。それにそれほど万能のスキルでもないらしい。俺もゴブリン相手に全部のステータスを見れる訳じゃなかったから、鑑定無双は無理みたいだ。もともと聞かれるまでは答えるつもりがなかったし、誤魔化せる時は誤魔化そう。

 

 

「見えた!あそこからダンジョンに入ってきたんだ。」

 

 

レオンの言葉に弾かれるようにして、指を指す方を見ると豪華な扉が草原の中に佇んでいた。思わず疑問が漏れる。

 

 

「……は?な、なんで、扉がこんな草原のど真ん中にあるんだ?」

 

 

「俺たちも最初は驚いたんだよ。このダンジョンは街の真ん中に突如現れてね。今ではギルドが出張所を作って許可された人じゃないと入れないようになってるんだけど、それまでは一般人が入っちゃうかもと大騒ぎだったんだよ。」

 

 

でも誰も怪しんで近づきもしなかったけどね、とレオンが苦笑いした。そしてクランクが扉の横、何もない空間を唐突に殴り付けるとガツンッと硬い音がなった。

 

 

「それにな、このダンジョン内は何処までも続くように見えて範囲が限られてるらしい。見えねぇけど、確かに存在する透明な壁ってやつだな。珍しいがダンジョンには時々あるもんだぜ。」

 

 

俺が脳内でダンジョン=不思議空間の図式を完成させていると、エリィが手を取って引っ張った。あの俺、男なんだって。キュンとくるからやめて。いや、やめないでほしいけど、男に軽々しくしちゃいけません。

 

 

「さぁ、これをくぐればタルクスですよ。」

 

 

エリィが引っ張り、レオンが扉を開け、エミーとクランクが背中を押してくれる。

 

 

 

そして俺はダンジョンを脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目映い光とほのかな浮遊感が過ぎ去ったあと、視界が開けてダンジョンの外をようやく見ることができた。四方を木の壁で囲まれた空間。目の前には質素な木の扉が見てとれた。

 

 

「……ここがサイクスか。」

 

 

「あ、すいません。ここはダンジョン屋さんの一室です。」

 

 

ですよねー。言ってたもんね、今はギルドの出張所があるって。でももう少し夢見させてくれたっていいと思う。扉を開けたらまた扉って、夢も希望もないよ。

 

俺たちに続いてダンジョンの扉を抜けてきたレオンが今度は木の扉に手をかけ、開ける。

 

扉の向こうから吹き抜ける風、扉の真ん前に立っていた俺はその風をもろに受ける。この、この匂いは……、

 

 

「酒くせぇ!」

 

 

つい叫んでしまった俺に扉の向こうにいた人たちの視線が集中する。……第一印象はバッチリだな、色んな意味で。

 

 

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