無事ダンジョンから脱出を果たした俺はギルド出張所から歩いて数分のタルクスのギルド本部に来ていた。なにやらギルドマスターからお話があるらしい。
ギルドの入り口まで案内してくれたレオンやエリィたちは数日休んでからまたダンジョンに潜るらしい。そもそも新しいダンジョンの捜査に来ていたんだから当然だよね。むしろ俺のことはイレギュラーだ。俺を連れて帰って依頼が遅れたことについてはギルドマスターが拝め無しってことにしてくれたらしい。正しいことをしたのに裁けねぇよ、ガッハッハ。とのことだ、良い人で良かった。
そして4人に案内され、1人残された俺はギルドの門をくぐるのだった。
入って目の前には等間隔に並んだ仕切りがついた軽い婉曲を描いた長いカウンターがある。そのカウンターの向こう、仕切りの内側1つ1つに人が座っていて冒険者の人たちを次々と捌いていた。三日月状のカウンターについているのは12人ほど、どの人も若々しい。いやー、働いている若者ってのは輝いてて良いね。どの人も俺より年上そうだけどさ。そしてカウンターの奥には上に続く階段と扉があった。
カウンターの一角、ちょうど空いた女性の前に立ち、用件を伝える。
「すいません、ギルドマスターのバルドさんに呼ばれて来たんですけど……。」
「はい、ただいまギルドマスターを呼んできますね。しばらくお待ち下さい。」
そして待つこと数分。そして奥に引っ込んでいった受付嬢さんとは違う受付嬢さんがが戻ってきた。
「では、奥の扉へどうぞ。バルドがお待ちです。」
促されるままに、カウンターの横から回り込んで奥に向かう。そして扉を押し開け室内に入る。
その部屋に入るとまるで自分が小さくなったような錯覚を覚えた。壁際にある本棚も、その中にしまわれている本に、机や椅子まで全てが大きかったからだ。天井も高くなってる。この部屋だけ特別製みたいだな。
全てが大きい部屋の主は3mはあろうかという大男だった。白髪混じりの髪に茶色の目を携えた巨人が俺を見下ろしていた。
これでも椅子に座ってるんですよ、信じられます?脳ミソさん。いやいやいや、見間違えだってー。人間が3mあるわけなじゃん、眼球のお馬鹿さんめ。目尻を抑え軽く揉んだあと、大男の方を見る。3mある。袖で目元を擦ってみてから見る。3mある。……これは、あれか?駆逐してやるっ!の展開なのか。
俺が脳内でイエーガーをしていると目の前の大男がガッハッハと豪快に笑いだした。
「脅かして悪かったな、俺は巨人族なんだ。迷い人のお
この世界はエルフとか獣人族だけじゃなく、竜人族や小人族もいるのはレオンから聞いてた。けど巨人族がいるのは知らなかったな。もしかしてレオンたちはこれを見越して教えなかったのか?俺は軽く自己紹介をして勧められたソファーに座る。この部屋の右側に置かれたソファーと机だけ普通サイズだ。応接用なのかもしれない。
バルドさんは俺が座ったソファーの机の対面に自分用の椅子を置いて腰かけた。
「俺はこれでも長く生きててなぁ、迷い人ってのを見るのもお前さんで3人目なんだ。だから俺に一任してもらうよう、レオンたちからの通達を聞いてここに呼んでもらったって訳だ。」
巨人族もエルフ程ではないにしても長寿であるらしい。人族の3倍から5倍ほど生きるとのことだ。
「つまり、俺の処遇を決めるってことですか?」
「まぁ、そうゆうこったな。一応80年前に作った迷い人専用のマニュアルがあるからそれに沿って助力していくことになんだがぁ、お前さんはなぁ……。違うとは思うが
「
「夜の半分、つまりは魔族とのハーフってこったよ。すまねぇが、鑑定させてもらうぞ。」
さらに魔族がいることが明らかになった。人族、獣人族、エルフ、竜人族、小人族、巨人族、そして魔族、まだまだいるかもしれない。それぞれがどんな力関係でどこに領土を持っているのかとか詳しく聞いておけば良かったな。レオンたちにこの世界を楽しみたいから大丈夫!とか言ったのが悔やまれる。
「うし、鑑定終わったぞ。しかしお前さん本当に迷い人か?異世界人って付いてるから疑い用はねぇが、なんで特殊スキルを持ってやがる、過去の迷い人はスキルも魔法も持ってなかったって話だぞ。」
「さぁ、そこは何とも。俺は気付いたら草原に立ってて、レオンたちに助けてもらうまでは一人でした。その後に審議石を使って幾つかの質問をされましたが、全て正直に答えましたよ。……今も審議石使ってますよね、これで俺が白だって信じてくれます?」
俺はバルドさんの首にかかっているペンダントを指差し薄く笑う。綺麗に加工されていてレオンたちが持っていた石とは様相が異なるが、宝石商とかに見せたら一発だろう。
「解んのか、でも審議石ってぇのはな、互いの了承を得ないと使えねぇんだよ。だが、お前さんが嘘を言ってなかったことは信じるぜ。」
「良いんですか?もう一度、今度は審議石を使って証明しますよ。」
「ガッハッハ、そこまで言われて疑うような肝の小せぇ男は巨人族にぁいねぇんだよ。それにはこれでもギルドマスターなんてやってる身だ、人を見る目はあるつもりだぜ。」
バルドさんは男らしいな。どのみち証明するつもりだったし、早く済むならそれに越したことはない。
「ではお前さんの疑いが晴れたとこで話を戻すぞ。迷い人のお前さんには今のところ2つの道がある。
1つ目は、ギルドの援助を受けて独り立ちする。援助と言っても大したことは出来ねぇんでな。簡単な仕事を回して、その報酬で生活を送ってもらう。そしてゆくゆくは独り立ちだ。寝床の斡旋くらいはしてやるよ。泊まり込みの依頼とかをな。これを選ぶんだったら、冒険者登録をしてもらわにぁいけねえ。その時に発生する登録料はギルドが負担してやる。
2つ目は、軍資金を貰って何処えなりと行く。旅に出るのも冒険者になるのも自由だ。だがな、これはお前さんには向かねぇだろうな。それはお前さんが
まとめとしては1つ目は最初の何ヵ月かは動きが制限されるが、1人で生活できるまでの準備期間が作れる。2つ目は最初にお金を貰って、そのお金で生活基盤を作らなければならない。しかし、スタートダッシュが早い。かな、
どのみち亜人や冒険ありの異世界にワクワクしてた訳だし、冒険者になるってはいいかもしれない。
「それじゃあ、1番でお願いします。」
「おう、それじゃ冒険者登録だ。この紙に名前、種族、使える魔法とスキル、得意な武器を記入してくれ。」
俺はバルドさんに手渡された紙を机におき、ペンを手にしてしばし黙考した。
左側に不思議な見たことのない文字のようなものが書かれている。読めるはずのないその文字は何故だか何と書いてあるか解った。多分異世界言語翻訳のスキルが発動しているのだろうが、ここで1つの疑問がでる。前の迷い人はスキルなんて持ってなかったと言っていた。それなら何故この文字が読めると思ったのか。恐らくだが、最初の迷い人の人が利用されることを恐れて秘匿したのではないかと思う。そして次の人もそれに乗っかった、とか。
「どうした、書けねぇのか?」
俺が考えているのが書けないと勘違いしたバルドさんが上から覗き込んできた。それだけで照明が遮られ、俺の全身を影がおおう。
「いえ、アイテムボックスや鑑定のスキルを書くのはどうかな、と。珍しいスキルなんですよね?」
誤魔化すためでもあるけど、本当に悩んでいたことでもある。嘘は言ってない。
「アイテムボックスはそれほど珍しいスキルでもねぇから大丈夫だろうが、容量次第だな。鑑定はなぁ、得意分野にもよるんだが、隠しておいた方が良いだろ。」
「アイテムボックスの平均的な容量はどのくらいなんですか?それと得意分野って?」
「容量は大体、100㎏くらいか?でかくて2倍か3倍だろ。勇者は無制限に入るらしいが、これは関係ねぇな。」
ふむ、感覚的にいくらでも入りそうだが、ここは100㎏って書いとこう。腕に変な動きをさせて文字を書いていく。文字を見たことないのにさらさらと書ける。不思議な感覚だ。
「得意分野ってのはな、例えば俺はお前さんのスキルを詳しく見ることができるが基本的なステータス値がさっぱりわからねぇ。こんな風に鑑定のスキル持ちごとに良く見える情報とあんまし見えねぇ情報とがあるんだ。さらにはな、鑑定ってのは自分の認識によるものがある。」
「認識による?それはどうゆうことですか?」
「アイテムボックスっていうスキルがあるだろ、これは亜空庫や虚空庫なんて呼ばれ方もする。その呼び方をしている奴がお前さんを鑑定すると、亜空庫や虚空庫って表示されるんだよ。そして、存在すると認識すると鑑定の表示が変わるんだ。いままでなかった欄が追加されてたりな。」
思いの外鑑定は奥が深かいんだな、鑑定と一口に言っても見れるものと見れないものがある。そして、あると信じることによって表示される。後で鑑定をじっくりと調べて、使いやすいようしたほうがいい。言うなれば鑑定の最適化だ。
バルドさんの説明を聞き終ったあとは登録用紙に記入していった。 名前はソウヤで、種族は人族、使える魔法とスキルはアイテムボックス(100㎏)。得意な武器は全て書くと用紙からはみ出すので剣にしておいた。
「できました。」
書き上げた紙をバルドさんに手渡すと、バルドさんが水晶をこちらに向けてきた。これは?と目線で訪ねると、直ぐに解るさとでも言いたげな顔で見てきた。なので目の前の水晶をじっと見つめていると急に水晶が発光した。
「ガッハッハ、驚いたか?これは映像を記録できる魔法具でな。この記録した映像はギルドカードで使われるんだ。そして使うことがないように祈ってるが、お前さんが指名手配された時なんかにも使われる。」
なるほど、写真みたいなものか。少し驚いたがそんなにビビるもんでもないな。
「なんだ、驚かせがいのねぇ奴だな。大体の冒険者はここでビビってギルドカードの顔が変なことになるってのに。」
それは身分証とか指名手配写真としてはどうなんだろうか。だがそれも大丈夫だそうだ。撮り直しもしてくれるらしい、有料で。
ギルドカードは明日発行できるそうなので、今日はギルドの男性社員寮にお邪魔することとなった。
ギルド本部から歩いて少し、そこそこ大きさを誇る社員寮の端、1階の右端の部屋に俺はいた。そして、
「どうしてレオンたちが?」
「ギルドマスターから迷い人であるソーヤの援助をするようにと頼まれたんだよ。」
「違うでしょ、レオンが是非自分達がって名乗り出たんじゃない」
「そう言うエミーものりのりだったけどなぁ。」
「ですよね、エミーさんも仕方ないわね、なんて言って嬉しそうでしたよ?」
クランクとエリィがからかうとエミーがその喧嘩を買い、3人で小競り合いを起こしている。それは何時ものことだと慣れた様子でレオンが微笑んでいる。
「援助と言っても独り立ちのサポートだからね。俺たちからは防具を送ろうと思って。はいこれ。」
レオンは腰に下げていた袋から革製の籠手、胸当て、足具を取り出した。どうみても袋に入りきるサイズじゃないので袋は魔法の袋だろう。
「ありがとうございます。でも、こんなにいいんですか?」
革製の防具は決して安くはないだろう。明日にでも防具屋に行って値段を聞いてこよう。そして独り立ちすることができたら、必ず値段分を返そう。
「それと、これは個人的な物なんだけどね。」
レオンはさらに魔法の袋から剣を出す。鞘から抜いてみると、剣は鉄製だった。
「俺が前に使っていた剣なんだ。お古で悪いけど、ソーヤには剣士が向いてると思ってさ。」
レオンが手を握らんばかりに詰め寄ってくると、それを押し退けるように言い争いをしていた3人が前に出てきた。
「私からはこれよ、火の魔法使い入門書。きっとソーヤは魔法使いが向いてるわ。」
「俺からは盾だ。使い勝手のいい丸盾でな、小さいから腕につけられて武器を振るう邪魔にならねぇ。ソーヤは
「わ、私からは癒しの魔術師入門書です。ソーヤさんは治癒術師が向いてますよ!」
なるほど、4人とも自分の好みを押し付けようって魂胆だな?……でも嬉しいな、皆俺のことを思って選んでくれたんだろうし。
俺は、4人が俺がどの役職に向いてるかを会議しているのを見詰めながら微笑んだのだった。