ディバイン様と鑑定の最適化を行った翌日、朝早くにギルドの職員宿舎を出た俺は冒険者ギルドに向かっていた。
今日からは、冒険者として独り立ちするためにギルドによせられる依頼をこなし、金を稼がないといけない。とは言っても駆け出しの素人に難しい依頼はこないだろうとたかを括っているのだが。
歩いて数分程でギルドに到着する。門は既に両方とも開け放たれていて中まで覗くことができる。
早朝に来たのが良かったのか冒険者の数は少なく、すぐに受付につくことができた。空いているところに入っただけなのだが、奇遇にも昨日最初に話しかけたお姉さんが対応してくれた。
「ソウヤです。今日、ギルドカードが発行されてるはずなんですけど、ありますか?」
「はい、ありますよ。こちらになります。」
受付のお姉さんから掌よりも少し小さめのカードを受けとる。カードの左側には俺の顔写真が青色の枠に囲まれて映っている。右側には上からソウヤ、人族、G級冒険者、GP(0/1000)と書かれている。
「では冒険者の階級とギルドポイント、通称GPと依頼の種類についてご説明します。長くなると思うので椅子について聞いてくださいね。」
言われた通りに椅子に着く。それからお姉さんに言ってメモと筆記用具を貸してもらい大事なことを聞き漏らさないよう、メモをとる準備をする。こちらが準備を終えたのを確認してからお姉さんはまた話し始めた。
「冒険者はS級が最高でA級からF級と続きG級が1番下のランクになります。またD級からはD0、D1、D2、D3というように4段階になります。なので合計23段階のランクに分けられます。そしてランクをあげる方法ですが、G級からE級になるまではギルドポイントをあげることでランクアップできます。D級からはギルドポイントと依頼達成度合い、ランクアップにたる人物であるかなどをギルド職員が確認し、各階級に上がるさいには昇格試験を受けてもらいます。」
現在の俺のランクはG級、E級まではギルドポイントとやらを獲得してランクアップ。D級からはそれぞれ4段階になり各階級に上がるさいには昇格試験が必要。それらの内容をざっと図にして書き起こす。
「それでギルドポイント、GPについてなんですけど、GPは依頼を達成することによって得ることができます。依頼書類に得られるGPは書いてませんけど、こちらで確認していますので安心してください。仰ってもらえればどれくらいGPが得られる依頼なのか教えるので気軽に声をかけて下さいね。」
GPは依頼達成で貰えるとだけ書いておく。一応その下に図も書く。だがシンプル過ぎてあまり書くことがない。
「最後に依頼の種類についてですね。大まかに分けて通常、指名、緊急の3つがあります。
通常依頼はギルドが依頼者から依頼を受け、内容を鑑みて難易度を定めます。それを冒険者の方たちが見て、自分ができると判断したら受けてもらう形になります。
次に指名依頼なんですが、これはD級以上の冒険者を直接指名して依頼を受けてもらっています。この場合はギルドが仲介役になりますが、殆どは依頼者と冒険者の間で報酬などを決めてもらいます。
緊急依頼はギルドからD級以上の冒険者の方全員に対しての指名依頼のようなものです。大概が国や街の危機などに発令されます。これを拒否すると依頼失敗と見なされ違約金が発生してしまいます。」
依頼という文字から3本線を伸ばし、それぞれに通常、指名、緊急と書いていく。そしてその下に軽い説明ととりあえずD級になったら考える、と書く。どうやらそれを見ていたらしいお姉さんが、そうですね、D級になったら一人前ですよ。と教えてくれた。そして最後にギルドに所属する冒険者として守らなければならないルールを教わる。
・冒険者が受けることのできる依頼は自分の1つ上のランクまでとする。
・殺人、略奪等の犯罪行為をした場合は冒険者ギルドから除籍処分となる。また指名手配されランクに応じて指名依頼として討伐隊が組まれる。
・依頼が失敗した場合は違約金が発生する。払えない際は借金分の依頼を無償で受けるか借金奴隷となる。逃走した場合はこれも除籍処分とし討伐隊を組み、借金奴隷とする。
・明確な理由がある場合を除き冒険者同士の私闘は禁止。ただしギルド職員を審判としての決闘は認める。
・冒険者が行った行為については冒険者ギルドは一切責任を負わない。
・冒険者の怪我、死亡については冒険者ギルドは一切責任を負わない。
・冒険者は各ギルドのギルドマスターの指示に従うこと。
お姉さん曰く、この時に出される討伐依頼は高額なので強い冒険者たちが好んで受けるそうだ。そしてこの報酬分の料金を借金として加算されるんだとか。
「以上で説明は終わりです。では最初の依頼ですがこれはどうですか?」
そう言って差し出されたのは薬草10枚と癒花5本の採取依頼、推奨ランクはG級。そして依頼主はタルクスギルドと書いてある。
「薬草や癒花なんかは常に一定数需要があるので常時ギルドから依頼が出ている状態なんです。冒険者は誰しも採取から始めるんですよ。」
「なるほど、新人の俺にピッタリな依頼ですね。この依頼受けさせてもらいます。」
「では、2階の資料館で必要なことを調べてから行ってくださいね。情報は冒険者にとって欠かせない武器ですから。」
ニッコリと微笑んだお姉さんに見送られて2階へ、行こうとしたところで呼び止められる。何事かと振り替えるとお姉さんが先程同様良い笑顔でこちらを見ていた。
「申し遅れました、私サラ・エクレルって言います。応援してますね、ソーヤさん。」
お姉さん改めてサラさんはお手本のような礼をしたあと目の前に並ぶ冒険者の列に向き直った。
2階はまるごと資料館にしているようで中々の大きさを誇っていた。内容別にわけられた本棚とそれを落ち着いて読むための休憩スペースのような場所。取り敢えずタルクス近隣の草花の種類と分布という本を取って椅子に座る。
本の中身は題名通りタルクス近隣の草花の種類と分布が書かれてあった。最初の見開き一頁にでかでかと持ち出し厳禁と書いてあるので貴重な本なのだろう。手書きのようだし、ここの職員が書いたものみたいだ。
本から目線を外し、本棚のほうに目を向ける。もしかしたらここにある殆どの本はそうなのかもしれない。きっとそれは冒険者とギルド職員が長い年月をかけて集めた情報だ。何事にも変えられない貴重な情報をこうして無料で読むことができることで新人冒険者の生存率をあげるのだろう。先人たちの努力に心の中で敬礼する。
さて、薬草と癒花のイラストも見たし分布も解った。冒険者としての初めての依頼だ、張り切っていこう!
現在俺がいるタルクスという街はルクシアン国の領土の1つだ。ルクシアン国の国王であるナルバス・ルクシアン王は亜人差別や獣人差別をしないお人らしい。しかし隣国が獣人が国王である獣人国家で、昔は戦争をしていたとか何とかでご隠居が獣人差別は認めているみたいだ。そのせいでタルクスでは獣人族の冒険者はあまり見かけない。その分獣人族の奴隷をちらほら見るが、鑑定で役職を見ないとわからない。それはお店の裏で仕事をやっていたり、店番のようなことをしていたりするのでぱっと見は奴隷だと思わないほどまともな扱いをうけているということだ。
この街の状態からはあまり差別意識を感じることはなく、前に感じていた切なさは杞憂に終わったようだ。
いやー、良かった良かった。差別は良くないもんね、皆優しい人でタルクスは平和だな!
……はい。そんなことを思っていた時期が俺にもありました。この街は亜人差別がなく、獣人差別があまりない。だが、
俺は夜半ではないが、夜半の特徴である黒髪と黒目を両方とも保有している。だからこうして冒険者ギルドを出て、ギルドから近い門から外に出ようとした時に門番をしていた衛兵に見咎められ、詰所で詰問を受けているというわけだ。
俺が座っている椅子と自身で、木の机を挟むようにして立っている厳つい顔の衛兵がこちらを睨み付ける。詰所の中には休憩している他の衛兵たちが数人こちらを見ている。疲れているのかこちらを遠目で見ているが加わる様子はない。
「貴様、なぜ街の中にいた。」
「話すと長くなるんですけど、気付いたら最近発見されたダンジョンに立ってて、冒険者の方に助けられたんですよ。そして迷い人だってことで冒険者になりまして、今から初めての依頼をしに外に行きたいんです。」
「そんな嘘が我輩に通用すると思ってか!穢らわしい夜半め!ここでたたっ切ってくれるわ!」
他の衛兵よりも豪華な鎧を着ている厳つい顔の衛兵は、同じく高そうな装飾が付いている籠手を机に叩きつける。木の机が軋む音がする。正直に言ったのにこの反応だ、イライラさせる。俺も同じように皮の籠手を机に叩きつけ軋む音を鳴らす。そして立ち上がった勢いそのままに甲冑に頭突きせんばかりに詰め寄る。その様子に周りの衛兵たちが慌て始めるのが視界の端に映る。
「だぁーもう!さっきからこれの繰り返しですよね!?俺は夜半じゃないし、本当のこと言ってんの!だからさっさと審判石持ってこいって言ってるだろ!いい加減にしねぇと斬るぞくそじじぃ!」
「我輩はまだ現役だ!もうろくするような年ではない!」
「人の話を聞かねぇじじぃはさっさと引退しやがれ!」
互いに睨み合いながら机を拳で打つ。そのたびに机が嫌な音をたて、折れんばかりに歪んでいく。そして遂に机が限界を迎え破壊された瞬間、俺とじじぃは剣を抜いた。男の野太い悲鳴があがる。
レオンから貰った鉄の剣がじじぃの剣とぶつかる。
レベル4の俺と長年衛兵を勤め、荒事にも慣れているであろうじじぃとじゃステータスに開きがあるのか、壁まで吹っ飛ばされる。肺から空気が漏れ、HPが減ったのが感覚的に解る。しかしじじぃが攻撃の手を緩めるとは思えないので剣を手放さず、くるであろう追撃に反応きるように剣を構える。
だが、予期していた攻撃は何時までもこない。代わりに来たのは問いかけの声だった。
「……貴様、その剣をどこで手にいれた。」
「あぁ?さっき言ってた助けてくれた冒険者にもらったんだよ。じじぃにゃ関係ないだろ。」
「それは……それは孫の剣だ。貴様程度にレオンをどうすることもできんだろうし……ほ、本当にもらったのか?」
「そう言ってるだろ。……てか、孫?レオンがじじぃの孫だと!?似てねぇ!」
あのイケメンなレオンと目の前のもうろくじじぃは似てもにつかない。そう言われると目の鋭さが似てるなぁくらいだ。
「似ておるわ!これを見てみろ!」
じじぃが被っていた甲冑をとると、その下から赤い髪が出てくる。レオンの髪色も赤だった。街中でも赤い髪は見たけど、鮮やかだったり深い色だったりと完全に同じはいなかった。しかしじじぃの髪色はレオンと丸っきり同じだ。
「ふん、認めたようだな。それに免じて今回のことは水に流してやる。我輩の機嫌が変わらん内にさっさと行くが良い夜半め。」
じじぃは甲冑を被り直すと詰所の奥に歩いて行った。俺はその遠ざかる背中に呟く。
「だから、俺は夜半じゃないっての。」
その呟きは近くの衛兵たちにしか聞こえなかった。
無駄にHPが減ってしまったのでどうしようか悩んでいると、門を出るところで若い衛兵さんに回復薬をもらった。理由を訪ねると、先程は上司が失礼した、普段は良い人なんだよ。と言われた。人の話を聞かず、喧嘩を売ってくる老体のどこが良い人なのか理解しかねる。
その表情を読み取ったのか若い衛兵さんは苦笑いする。
「この門を使うなら昼過ぎが良いよ、あの人は朝から昼での担当だから。」
「そうなのか、ありがとう衛兵さん。午前中は他の門を使わせてもらうよ。それと回復薬ありがとう、今度かえしにくるよ。」
衛兵さんに見送られながら街の外に出る。薬草と癒花はここから30分ほど歩いた場所に生えている。ついでに弱い魔物でもいたら倒してお金にしよう、武器の試し切りもしたいし。
外に出るだけで一苦労あったんだ、試したいこと全部試すつもりでいこう。