「おはようございます、プロデューサーさん」
「おう、おはよう千枝。それから、誕生日おめでとう」
6月7日、午前。
今日は俺の担当アイドルである、佐々木千枝の誕生日である。
まあ、誕生日といっても、いつもどおりの平日で、いつもどおり仕事なので、他人にとっては何の変哲もないいつも通りの日常なのだが。
それでも、誕生日とは、特別なものなのである。
千枝は、事務所のアイドルたちに囲まれて、おもでとう、と声をかけられている。
少し困ったようにしているが、それでも嬉しいのだろう。その顔には笑みが浮かんでいる。
幸い、仕事まではまだ時間がある。準備もあることだし、今は好きにさせておこう。
「千枝ー、そろそろ時間だ。行くぞー。ほら、お前らも離れろ」
あれから15分後。群がっていたアイドルたちを蹴散らし、千枝を救出。仕事へと向かう。
今日の仕事はバラエティ番組への出演だ。
千枝は最近バラエティへ番組の参加の仕事が増えている。天然で新鮮なリアクションは、話を新たに繋げられるので、好まれているらしい。
ただ、千枝はまだ小学生なので、あまり出演しすぎると世間体的にも事務所の方針的にもまずいので、仕事を受けること自体は少ないのだが。
「どうだ? 今日の仕事。できそうか?」
「プロデューサーさん、見ててくれるんですよね? なら大丈夫です」
「そうか」
信頼されている、ということに悪い気はしない。それに、千枝の場合は俺がいなくてもしっかり仕事が出来るので、そこまでの心配は無い。軽い失敗とか微笑ましいだけだし。
……俺がいないと仕事ができない、というか仕事しないアイドル達に比べれば、よっぽど、よっっっっぽど安心だ。
車で現場へと向かう。運転は俺、助手席に千枝が座る。
……運転中、ふと左から視線を感じた。
「どうした、千枝」
「あ、いえ、運転中のプロデューサーさん、かっこいいなぁって」
言ってから、少し顔を赤くする千枝。
……かわいい。すごくかわいい。天使なんじゃないだろうか。
そんな思考を少しも表に出さずに、少しうつむき気味な千枝に話を振る。
「そうか? まあ、普段があれだし、そのギャップでそう感じるのかもな」
「そんなことないですっ、プロデューサーさんはかっこいいですっ!」
――なんだこの会話。そして訪れる気まずい無言タイム。なんだこの空気。
「あ、千枝! あそこあじさい綺麗に咲いてるぞ!」
「ほ、ほんとですね!」
無理やり方向転換を図る。そして、二人しておかしくなって吹き出してしまう。
「お、そろそろ着くぞ」
笑い合っているうちに現場到着した。車を駐車場へと停め、千枝と二人で歩く。
「千枝は今日コレが終わったら仕事終わりだな」
「はい。プロデューサーさんはこのあともお仕事ですか?」
「いや、俺も今日はコレで終わりだ。最近は仕事しっぱなしでろくに休めてないしな」
「そうなんですか……大丈夫ですか」
「ん、どうってことはないさ。お前らのためだしな」
「はい、いつもありがとうございます!」
スタッフの方々に挨拶をしながら歩く。
千枝の年齢もあってか、向こうも明るい顔で挨拶を返してくれる。
「よし、じゃあ俺は色々と挨拶してくるから、千枝はスタッフさんの支持に従ってくれ」
「はい、わかりました!」
番組本番、休憩中。
こちらにやてきた千枝と話をする。といっても主な内容は番組のことだ。
「プロデューサーさん……千枝、しっかりできてましたか?」
「ああ……基本的には問題なしだな。受け答えもしっかりできてるし、目立ったミスもしていない。ただ少し考える時間が多いかな」
「そうですか……」
「別に考えることでもないさ。頭の隅においておくぐらいでいい。千枝はいつもどおりで大丈夫だよ」
そういって、千枝の頭を撫でる。サラサラとしていて、触り心地がいい。
「よし、時間だ。行ってこい」
「はい! 行ってきます」
そして番組終了後。
「よく頑張ったぞ、千枝。最後まで目立ったミスもなかったし。よくやったな」
「はい、プロデューサーさんのおかげです」
「いやいや、千枝の頑張りだよ」
「でも、プロデューサーさんがいたからがんばれました。ありがとうございます!」
「千枝もありがとう」
車へと戻る道中、今日の仕事の感想やらなんやらについて言い合う。
といっても、今日の仕事はお世辞なしにいい出来だったので、出てくる言葉は千枝を褒める言葉ばかりだ。
「あ、そういえばお誕生日お祝いされちゃいました」
「おお、良かったじゃないか。ちゃんとお礼は言ったか?」
「はい!」
車に乗り込む。緊張もなく、穏やかな空気が続く。
「千枝は、このあと予定ないよな?」
「はい、特にありませんけど……」
「そうか、なら良かった。問題ないな」
そう言って、行き先を事務所から変更する。
千枝も行き先が事務所じゃないことに気づいたのか、不思議そうにこちらを見上げてくる。
俺は、そんな千枝に軽く微笑んでから、車を目的地へと走らせるのであった。
「あ、ここって……」
小洒落たレストラン。その入口に、俺達は立っていた。
店員に予約していた旨を告げ、奥の個室へと案内される。
「あの、プロデューサーさん、どうして……」
「うん? ああ、それはな」
運ばれてきたドリンクを片手に、笑いながら言ってやる。
「改めて、誕生日おめでとう、千枝」
「ふう……美味しかったです」
「ああ、ホントだな」
食事、ケーキと食べ終わったあと。
「それじゃ、プレゼントだ。と言っても、あまり大したものじゃないんだけどな」
「え……うわぁ、かわいい……」
丁寧にラッピングされた箱から出てきたのは、デフォルメされたうさぎのがついた髪留めだった。
……色々悩んだんだが、年齢的に高価なものを渡されても困るだろうから、髪留めにしたのだが。
「うん、喜んでくれてるようで何よりだ。悪いな、そんなもので」
「そんなことないですよ。プロデューサーさんがくれるものなら、なんでも嬉しいです。早速つけてみてもいいですか?」
「ああ。つけてやろうか?」
そういって、千枝から髪留めを受け取り、つけてやる。
「ありがとうございます……えへへ、似あってますか?」
「ああ、とっても」
心の底から嬉しそうにほほえむ少女と二人。
来年も二人で誕生日を祝おう、なんて笑いあう。
「それじゃ、明日もお仕事頑張りますか」
「はい! プロデューサーさんと一緒なら、いーっぱい頑張れますから! これからもよろしくおねがいしますね、プロデューサーさん!」