ギリギリセーフ。
高森藍子ちゃんの誕生日SSです。
初めての女性視点。
pixivにも同じ物を投稿してあります。
誕生日、誕生日である。
今日7月25日は我がプロダクション所属のアイドル、高森藍子の誕生日である。
これは、是非とも担当プロデューサーとして祝わねばならない。そう決意をして、まだ暗い空の下、家を出て事務所に向かうのであった。
誕生日、というとやはり特別な日なのだろう。自分が生まれた日。年に一度の、ささやかな、だけども自分にとっては重大なイベント。私自身は、あまり誕生日に思うところはない。だが、祝われるのは悪い気分ではない。それが親しい人ならなおさらだ。私も、家族や友人の誕生日には参加するし、自分の誕生日には周りが誕生日パーティーを開いてくれることもある。
──まあ、ここ最近、というか去年から、ささやかなという規模ではなくなりつつあるのだが。
その原因となったある人物の顔を思い出し、苦笑する。と同時に、今自分がいる場所を思い出し、ハッとする。いくら朝早いとはいえ、街中だ。この時間帯でも数分に一度は人とすれ違うようような場所で、アイドルである自分が、変装もせず、苦笑──と本人は思っているが、傍から見ればにやけ顔──を晒すのは、あまりよろしいことではない。と思い、顔を引き締める。
幸い通行人におかしな顔を見られずに、無事に事務所についた。階段を登り、ドアノブに手をかける。早い時間だが、プロデューサーさんや朝早くから仕事が入っている娘、事務員の千川ちひろさんはいるかもしれない。そう思ってドアを開け、挨拶しようと口を開き──
「おはよ……」
パーーーン!! という大きな音と、
「おはよう藍子!! 誕生日おめでとう!!!!」
クラッカーを手に、ドアの前で大きな声を上げた男に、口を開いたまま固まらざるを得なかった。
「もう、何なんですか、プロデューサーさん……」
「いや、せっかくのお前の誕生日じゃないか。それなのにいつも通りじゃ、味気ないだろ?」
事務所のソファーに、プロデューサーさんとテーブルをはさんで向かい合うように座る。
「だからって、何も朝早くからやる必要は……」
「だって俺が何かやるだろうってことは予想ついてるだろ?」
確かに、何かやるだろうとは思っていた。だが、それはあくまでサプライズ的なもので、こんな朝早くから誕生日ムードで来るとは予想もつかなかった。
……しかしこの人、周りの視線とか気にならないのだろうか。朝早くから着ていた娘とか、ちひろさんとか、思いっきり白い目を向けているが。
……きっと気にならないんだろうなぁ。今だって特にきにした様子もなくお茶をすすっている。私も軽くため息を付いてから、お茶を飲む。淹れたての熱い緑茶だ。おそらく、プロデューサーが淹れたものだろう。目の前のこの人は、お茶やら、仕事やら、とにかく有能なのだ。普段の態度のせいで台無しだが。
「……で、だ。今日藍子は午前中に雑誌の撮影が入ってるな」
「はい」
それから少し間をおいて、プロデューサーが話し始めた。仕事の話をするときの彼は、基本的に真面目だ。
「まあカメラマンもいつもの人だろうし。お前もいつも通りやればなんの問題もないだろう。今日確認しておくことはこれくらいだな」
そう言ってプロデューサーさんは席を立った。
「じゃ、早速出るか。準備しておいてくれ」
プロデューサーさんに返事をしてから、お茶を飲み干し、席を立つ。準備といっても特に持っていくものはない。衣装も向こうで用意しているはずだ。トイカメラがついたストラップを首にかけ、カバンを持ち、少し待って格好を正したプロデューサーさんと一緒に事務所を出た。
撮影場所は事務所から近いところにある。そういう場合、私たちは歩いていくことが多い。道端に咲いた花だったり、面白い形の雲だったり、一歩前を歩くプロデューサーさんをカメラに収めていく。プロデューサーさんも、私が写真を撮った方を向いて、綺麗だな、とか面白い、と言った感想を言ってくれる。そして、焼きましした写真を二人で分けるのが私達の間でプチブームになっていた。
「かといって俺を撮る必要はないだろ」
「ふふっ、プロデューサーさんも十分面白いですよ」
「どういう意味だ、そりゃ」
二人で笑いあう。
そういった時間が、私は大好きだ。
「ありがとうございました」
スタッフさんに挨拶をしながら、現場を出る。
ある程度離れた所で、小さくため息を漏らす。
「お疲れ様。今回も良かったよ」
そう言って、プロデューサーさんは私の頭を撫でる。大きな、温かい手のひら。離れて行く手が名残惜しくて、あ……と声を出してしまう。そんな私を見てプロデューサーさんは苦笑して、ほら行くぞ、と声をかけ、上機嫌そうに歩いて行った。
「そうだ、このあとなんか用事あるか?」
そう聞かれ、少し考えてから、夜には他のアイドルたちがパーティーをしてくれるらしい、と答えると、
「よし、それなら大丈夫そうだな。じゃあちょっと付いて来てくれ」
と言って、プロデューサーさんは駅の方へと歩き出した。
電車で一度大きな駅まで出て、そこで各駅停車の電車に乗り換え、電車に揺られること40分、小さな駅についた。それからプロデューサーさんの後をついていき、住宅街へ入る。
駅から15分ほど歩いたところに、そのお店はあった。
「これ……喫茶店ですか?」
「そ。前に親戚に聞いてね。何回か来てみたんだけど、なかなかいい雰囲気だろ? いつか藍子と一緒に着たいなと思ってさ」
そう言ってから、店長であろう男性と少し言葉を交わしてから、席の方へと歩いて行く。
私は店内を見回しながら席へと歩いて行く。なるほど、これは確かにいい雰囲気だ。家を改造したのだろうか。小さなお店ではあるが、隅まで手入れが行き届いている。
席につき、メニューを見る。撮影は午前中だけでお昼ごはんは食べていないので、少し遅目の昼食としてパスタを注文する。待っている間、プロデューサーと二人で会話をする。世間話だったり、他のアイドルの話だったり。いつもの会話だ。
パスタを食べ、紅茶を飲みながら談笑し、食後にケーキを食べて。
そんな中、プロデューサーさんがふと思い出したように、カバンの中から小さな箱を取り出した。
「誕生日おめでとう、藍子」
そう言って箱を差し出して、開けてみな、と言った。
「ネックレス……ですか?」
「そう。あんまりいいものじゃないけどね」
なんせ人数多いから、プレゼント代もバカにならない。そう言って頭を掻くプロデューサーさん。
箱から取り出したネックレスは、あまり派手でない、落ち着いた雰囲気のものだった。
「あの、これ付けてみても……?」
「おう、いいぞ」
ネックレスを付ける。それは、妙に私の体に馴染んでいた。まるで、ずっと昔から付けていたかのように。
「うん、似合ってる」
「そう……ですか。ありがとうございます」
そう言って紅茶を啜る。
……頬が熱くなっているのがわかる。遠目に見る文には大丈夫だが、プロデューサーさんにはバレているだろう。そう思うと、余計に頬が熱くなる。
「どうだ、このあと、買い物でも」
店を出て駅に戻る途中、プロデューサーさんはそう言った。私は頷き、事務所に帰る前に寄り道をすることに決めた。
その後。
夜、事務所に戻りドアを開き、
「ただい……」
ただいま帰りました、と続くはずの声は、
パーーーン!! という大きな音と、
「藍子ちゃん! お誕生日おめでとーー!」
クラッカーを持った女の子たちの大きな声にかき消された。
……その後のパーティーでは、休む暇もなかったということをここに告げておく。