初めて千枝ちゃん似合ったのは7年前の京町アイプロのとき。あのとき11歳だった君も、今年で11歳の誕生日を迎えました。
Pの設定とかプロダクションの設定とかなにも考えてないです。
アイドルっていうのは忙しい。
空前のアイドルブーム、多種多様なアイドルたちが一番の輝きを目指して切磋琢磨するこの時代、盆や正月クリスマスその他様々な行事はもちろん、そうでない日もアイドルたちがイベントを行っている。
CD発売記念だのアニバーサリーだの何かと理由をつけて。アイドルたちは歌って踊るのだ。
そう……誕生日なんかも。
そして、俺の所属するアイドルプロダクションもアイドルの誕生日を記念してライブを行うプロダクションであり。
休憩室のドアを開けると同時に降ってきた紙吹雪に目をパチクリとさせる少女――佐々木千枝も、今週末に誕生日記念ライブを控えたアイドルである。ちなみに俺の担当アイドルである。
誕生日ライブは今週末だが、千枝の誕生日は今日。なので、千枝ちゃんのサプライズパーティをやろうと誰かが言い出して、あれよあれよと言う間に計画が進んだ。
うちのプロダクションは3桁のアイドルを抱える大手プロダクションだ。つまり年にそれだけのアイドルの誕生日があるということであり、サプライズ含む誕生日パーティはもはや日常となっている。それだけ準備も段取りも手際もよかった。千枝は誕生日席に座らされ、他のアイドル、トレーナー、ちひろさんなんかからもおめでとうの言葉とプレゼントを受け取っている。
未成年――というか小学生――が主役のため酒は出ないものの、ケーキ、クッキー、ドーナツと多様なお菓子が並び、皆笑顔で盛り上がっている。楽しめたなら、率先して企画したかいがあったものだ。
これなら安心……と思っていたが、一人時たま浮かない顔を浮かべる少女がいた。というか今回の主役である千枝のことなのだが。特に仲のいい子達が気付いて声を掛けるものの、大丈夫、の一声とともに笑顔に戻っている。
パーティが楽しくないわけじゃないんだろう……別に心配事でもあるのか。
「どうした?」
パーティも終わり。他のアイドルたちが帰った後。廊下で1人窓の外を眺めていた千枝に声を掛ける。
「あ、プロデューサーさん……」
「悩み事? それとも、不安なことでもある?」
揺れる瞳に問いかけると、小さな頷きがある。
「プロデューサーさんは、オトナですよね……」
「……そうだね」
年齢が、とかそういうことじゃないんだろう。自分なりに考えた末の、オトナ。
「いつもお仕事成功してて……すごいなって思います」
レッスンで失敗したのか、それともずっと上手にできないことがあるのか。出会ったときは失敗も多かったが、時がたつにつれて失敗もそれを悔やむことも減っていったと思っていた。
「オトナだって失敗くらいするさ」
「……そうなんですか? プロデューサーさんも、ですか?」
驚きとともに見つめてくる。
「そりゃそうさ。俺だって、最初の頃は失敗ばっかりだったし。今だって、いろんな人に支えてもらってるしさ。仕事でも、他のことでも。そりゃ絶対失敗できないときもあるし、失敗したら責任を取らなきゃいけないときもあるけど」
苦笑する。現に、千枝の様子には気付けなかった。
「……怖くないんですか?」
うなずく。怖いものは怖いさ。でも。
「失敗しても助けてくれる人がいる。一緒に謝ってくれたり、なんとか巻き返そうって考えてくれたり。俺より先にオトナだった人たちとかがね」
それから、と付け加えて。
「だから、俺も色んな人を支えたり、助けたりするんだ。そうすると、今度はその人達が俺を助けてくれたりする。そういう助け合いとか支え合いとかができるようになるってことが、オトナになるってことなんじゃないかな」
少し照れくさくて頬をかく。
「千枝は失敗するのが怖い?」
小さな声で、はい、頷かれる。でも、そこに最初ほどの不安さもなかった。
「間違えたり、失敗しちゃったら、助けてくれますか……?」
「もちろん。俺も周りのアイドルたちも、スタッフさんたちもファンのみんなも」
「じゃあ、千枝も、みんなを笑顔にできるように、頑張らなきゃですね」
少し間をおいてから。
「それから……早くオトナになって、プロデューサーさんのこと助けてあげなきゃですね」
まだ不安かもしれないけど。それでも、千枝は笑顔だった。
「そっか……うん、それは楽しみだな」
これまでも。これから、オトナになるまでも。そして、それからも。
「改めて、誕生日おめでとう、千枝。これからもよろしくな」
「はい! えへへ、いつも支えてくれてありがとうございます。これからも、いっぱいよろしくお願いします!」
そして、週末。
なんでもない1日だけど、少女にとっては、そして、ここにいる人たちにとっては特別な一日だった。星と笑顔の海の中に、一番眩しい笑顔が輝いていた。