ようやく一仕事を終え、少し離れた場所で戦いを見据える。
大極殿の始末は頼光と信長に任せてきた。
「無明三段突き!!!!!」
沖田の刀が胸の中心を貫く。
だが、これで終わったとも思えない。
崇徳院は聖杯に似たモノを持っているのだ。
回復をしてくる可能性が高い……!
「が、はっ…………まだ、終わら───、何……!?」
「え───」
───────────────────────────!!!!!!!!!!
耳をつんざく轟音が響く。
敵前であるのに、思わず自分は耳を塞いでいた。
「いったい何が……って、ちょ───大極殿が!」
威風堂々とした威容を示していた正殿。
いっそ哀れに思えるほど、徹底的に破壊されていた。
……まぁ、指示をしたのは自分なんだが。
『朝堂院、全動力停止! 完全に止まったよ!』
「馬、鹿な……
「ふん、そんなもの、こうしたのじゃよ!」
聞きなれた声がする。
瓦礫と化した正殿の屋根の上に立っている二人の影。
織田信長。源頼光。
全員、多少の傷はあるが五体満足で立っていた。
「確かに本物の朝堂院は聖杯にも劣らぬ機能を備えた宮殿じゃ。
だがここは帝が造った偽りの京。そのような機能はない。
故に、魔術王の聖杯を用いてそれっぽくしていたのじゃ」
信長が聖杯を片手にからくりを説明する。
その誇らしげな顔をみて、崇徳院は諦めたように溜息をついた。
「半分正しくて半分間違いだ。聖杯そのものはただの電池にすぎぬ。
朝堂院は桓武の帝の時代と同じだ。余も、ここまでの物とは思わなかったが」
「うむ……日ノ本って、危険すぎる国なんじゃな……」
『まったくだよ……何でこんな代物つくったんだい……』
信長とドクターがしみじみと呟く。
思わずマシュはクスリ、と笑みをこぼした。
大極殿から二人と自分が沖田たちに合流する。
信長が、ふんす、と鼻を鳴らして指を崇徳院に突き付けた。
「観念したか大天狗。儂らの勝ちじゃ。大人しく消滅するがよい」
「フン、反英霊とて勝敗の理ぐらいは理解しておる。良かろう、余の負けだ。
とっとと聖杯でも持って行け。そして二度と余に顔を見せるな」
「なんじゃ命乞いの一つもなしか。つまらんやつめ」
帝相手にも構わず軽口を叩く信長。
不機嫌そうに崇徳院は吐き捨てる。
「口を慎めよ田舎者。退いてやる、と言っているのだ」
「えー。っちゅうか反英霊のくせに何でそんな変に真っ当な性格なんじゃ?
じゃからあの狐にいいようにもてあそばれるんじゃよ、さっきみたく」
「──────ほう?」
不意に、温度が急激に下がった。
顔立ちは変わらず仮面に隠され分からない。
だが、間違いなく冷酷な視線を向けているだろう。
「狐……か」
「あ、さてはあの狐が来とること知らんかったな? 記憶消した犯人だってことも?
門番の復讐者と戦うちょっと前ぐらいに西行とホニャララしてたことも?」
「ちょっと、信長さん……!」
「っ───」
信長のカミングアウトに慌てるマシュ。
その陰で西行は俯いている。
……知られたくなかった、そう訴えかけるように。
「────────────は、はは」
長い沈黙の後、崇徳院は乾いた笑いをあげた。
「そうか……女狐か。あの女狐の仕業だというのか。ならば合点がいく。
いつだってあの女はそうだ。……常に、私の邪魔をするのだから───!」
ゴウ、と強風が突如吹き荒れた。
崇徳院を中心に膨大な魔力が放出されている……!!!
『一体どこにこんな力が!? もう彼は限界を───』
「気が変わった。
「な───」
唐突な崇徳院の宣言に誰もが虚を突かれた。
マシュが真っ先に自分の前に躍り出る。
「どういうつもりですか?! 貴方は、負けを認めたはず!」
「認めた。余は貴様らに敗北した。この特異点は崩壊する。聖杯なぞくれてやる。
現世にまで降りて託す望みなどない。だが……なあ■■。その跡……あの女狐だな?
「っ───そ、れは」
「私が貴様らを滅ぼす理由なぞ、それだけで十分すぎる。分かるであろう?
そ奴と言葉を交わし、共に戦い、絆を深め、戦友となった。だというのに…………!」
西行が右の首筋に掌をあてている。
それを見て、初めて崇徳院がその仮面を外した。
双眸には、憤怒の色が濃く宿っていた。
「たかだか女一人の企てすら防げぬとはどういう了見だ、
……恋しい女性をけがされた怒り。
ごく当たり前の、一人の男の激情だった。
「フン、八つ当たりか。まあいいじゃろ」
「うふふ……どの口がほざいているんですか……?」
「だいたい貴方が変なこと口走ったからでしょう」
「分かっておる。どっちにしろ儂が火種じゃからな。
後始末ぐらい自分でせねば。うむ、儂に任せよ」
そういって、時代の革新者は臆することなく足を進める。
右手に名刀を携え、左手に火縄銃を持つ。
……信長、自分も協力する。
彼の怒りは当然のものだ。
だから、きちんと崇徳院に向き合いたい。
「よかろう……では行くぞ、マスター!」
ダッ、と駆けだす信長。
───最後の戦いが、幕を開けた。
***
戦いは終始信長の側が有利に動いている。
頼みの朝堂院は全て破壊。彼自身、軽くない傷を負っている。
加えて、スキル「天下布武」による高いダメージ補正。
それでも、ここまで戦いが続いているのは間違いなく彼自身の実力と執念だろう。
元々最高神直系の子孫であり、国を呪う大天狗の属性が加わった崇徳院。
相性という有利な要素があるにも関わらず、信長は苦戦しているのだった。
「はあ───っ」
「っ、この……!」
信長の連射を光弾ですべて相殺する崇徳院。
舌打ちした信長の足元に陣が浮かんだが、跳躍で回避した。
地面から光の柱が立ち上ったため、危うく焼かれるところだっただろう。
……神仏ですら脅かす天狗の神通力。
汎用性の高さに自分は内心舌を巻いていた。
「ええい、しつこいな貴様! そんなんだから逃げられるんじゃ!」
「貴様如きが、私を語るな───!!!」
信長がへし切長谷部で斬りかかるも、羽扇で受け止められた。
硬直した隙をついて足払いを掛けられたがすぐさま体制を整えた。
……崇徳院の戦闘をもっと観察するべきだったか。
まさか近距離で足技を使ってくるとは思わなかった。
しかも威力が割と重い。
…………すごい帝だ。
「チィ……まだ倒れぬか、もはや天下は堕ちたというのに」
「はっ。生憎だが、円位がいるこの場で易々と諦めるわけにはいかぬ」
円位……西行の法名か。
彼女は崇徳院の発言に何か言いたげだったが、諦めたように俯いた。
「敗れるのは貴様のほうだ……第六天魔王───!」
崇徳院の叫びと共に急激に魔力が膨大になる。
これは、まさか宝具展開!?
「その傷で……!? 正気か、貴様!!!」
「知らぬ。私の精神なぞどうでもいい。ただ、貴様らを討ち滅ぼすのみ……!」
バサッ、と広げられた複数の巻物。
白く長い紙には漢字が大量に書き記されている。
これは……お経? それも五つ……?
「
莫大の
……待て。
崇徳院の経典といえば、後白河帝に向けたものだ。
それを拒絶されて、確か、彼は……
「───
思考の海に沈んだ瞬間。
バチュ、と音を立てて崇徳院の口から血が流れた。
突然のことに呆然としていると信長が苦しみ始めた。
「な、んじゃ……貴、様……なに、を……」
「かつて余を貶めた者どもにかけた呪い。それを貴様にもかけた。
……ぐ、ごほっ、ごほっ……どうした尾張の。まさか、これで終いか?」
「───はっ、この程度で儂を止められると思ったというのか!
笑止。時代に残された敗北者ごときが、切り開いた者をなめるな!」
「っ、おのれ……!」
勝ち誇った顔で笑う崇徳院だったが、その隙に信長が瞬時に袈裟切りにした。
宝具の反動なのだろうか、口元からはポタポタと血潮が滴っている。
信長も顔色は蒼く、目の焦点も定まっていないが、戦意は喪失していなかった。
その証拠に、彼女の声はしっかりと響いている。
とっさにかけた回復の魔術も、そこそこ効果はあるようだ。
「それで私を倒せるとでも……!」
「それはこちらの台詞じゃ……!」
信長が斬り、撃ち、崇徳院が蹴り、放つ。
互いに限界が近いにも関わらず、その足で踏ん張って立っていた。
「さあ……締めといくぞ! 終わりじゃ、大天狗!」
「何、を───ぐはっ……!?」
突如、白い光が尾を引いて崇徳院に襲い掛かった。
光が収まると、彼の腹に矢が刺さっているのが見て取れた。
「貴様……
「はっ、儂にかまけて奴らを忘れたな? 馬鹿め。儂らは初めから団体客じゃぞ」
もう一射に備え、矢をつがえ弓を構える頼光。
……卑怯と謗られようと、これは戦争だ。
敵対を宣言された以上、勝たなければならない。
まあ、そこまでやってでも、この男には勝てる気がしないのだが。
先程の頼光の矢も、無理やり引き抜いている。
「まだ、だ……まだ終わらぬ……げほっ、この程度で……私の、怒りは……がふっ……」
「いいえ。もう、終わりましょう」
「貴様───!」
未だ戦意を見せる崇徳院を止めたのは西行だった。
思わず手を伸ばすが、その手が彼女には届かなかった。
彼女の背中には、余りにも力強い決意が表れていた。
「もう、よいのです」
「いや……駄目だ、駄目だ! 私は、まだ……貴様に……何も……」
「大丈夫ですよ。私は、ここにいますから」
一歩。また一歩。
確かに足を進める最中、西行は少し立ち止まった。
「立香さん。マシュさん。頼光様。沖田殿。信長殿。今まで、ありがとうございました。
短いながらも、皆様と共に過ごした時間は、本当に楽しく、暖かなモノでした」
「……任せても、よいのか?」
「はい。迷惑かけて、申し訳ありません」
「儂こそ、色々とすまぬ」
そう言って、信長は何事もなかったように崇徳院に背を向けた。
反対に、西行は崇徳院に歩み寄る。
彼女たちがすれ違う瞬間、美しき歌聖の背に声をかけた。
───こちらこそ、ありがとう。
「……ええ」
そう返答するだけにとどめ、崇徳院の前に立ち止まった。
向き合う二人。
まるで、この世界にはたった二人しかいないように思えた。
「貴様……」
「本当に、ごめんなさい。私がちゃんとしていれば、貴方様が苦しむことも……」
「……いいや。ただ単に、勝手に暴走しただけだ。自業自得とはこういうことよ」
「ですが……」
「相変わらず、変なところで卑屈な奴め」
これみよがしにため息をつく崇徳院。
「こうして語らうのも久方ぶりだな」
「はい」
「色々と、あったな」
「はい」
「……心変わりは、しておらぬか」
「はい」
「物好きめ」
思わず笑う崇徳院に、無言で微笑む西行。
不意に、ぐらり、と崇徳院の体が前に傾いた。
「─────────」
静かに受けとめる西行。
しばし、静寂が訪れる。
「…………、顕仁さま」
「───、なんだ、■■」
名前が呼ばれる数瞬前の間は、おそらく呼ぼうか迷ったからだろう。
「少し、見せたいものがあります」
「ほう……」
「私の───最期を」
西行の手元が光る。
次の瞬間、周辺の光景が一変していた。
雪のように舞う薄紅色の花。
優しくソラを包む宵闇。
そして、全てを照らす黄金の満月。
無余涅槃・華胥の永眠。
西行の人生を象徴する宝具。
こうしてみるのは二度目だが、やはり感嘆にため息を漏らしてしまう。
いっそ涙が出るのではないかと思わせるほどの情景。
戦闘でため込んだ疲労も薄れていく錯覚すら感じていた。
「見えますか?」
「これが……貴様の最期か」
「ええ。如月の、望月のころ───」
「羨ましいな。願った通りの終わりを迎えるとは」
「ですが、少し……さびしかったです」
「そうか」
ぎゅっ、と崇徳院は西行に縋るように抱きつく。
西行は応えるように抱きしめた。
「今はさびしくありません。貴方様がいらっしゃいますから」
「ああ……私もだ」
「どうしてでしょう? 生前よりも、満たされた気分です」
「さてな」
見上げると、彼らの背後に巨大な桜の樹木が立っていた。
二人を祝福するように、花片を雨の様に降らせている。
……弘川の桜、だろうか?
不意に、そんなことを疑問に思った。
だが、二人にとって重要なのは、そんなことではないはずだ。
「■■」
「はい、顕仁さま」
桜が二人を隠す。
それでも、自分はその奥にいる二人を見据えていた。
「……愛している」
「はい。私も、愛しています」
そして。
数百年の時を経て、彼らの無念が晴れたことを、確かに聞き届けた。
カッ、と巨大な桜の木が眩く光る。
ザアアアア、と音を立てて風が桜の花を巻き込んで吹きすさぶ。
思わず手で光を遮る。
だが、間違いなく、光の中で、抱き合う二人を見た。
***
光が止むと、視界は朝堂院に戻っていた。
二人はどこにもいない。
「……キャスター、アヴェンジャーの消滅を確認しました。今のは、一体……」
「特攻宝具、ってやつですかね?」
「じゃろうな。あのでっかい木の下は即死効果あるんじゃろ」
「あの巨大な樹木が、弘川の桜……とは思えませんわ」
多少の謎は残ったが、気にすることはない。
この特異点で縁はできた。
きっと、カルデアにて召喚できるだろう。
「そうですね。わたしも、西行さんともっと話がしたいです」
『きっと会えるよ。それじゃあ、帰還させるね?』
「あー、やっと終わりましたか……疲れたぁ」
「それで、お二人は、どうやってこの特異点に来たのでしょうか?」
「こまけえこたあ気にすんな! んじゃ、帰るぞ!」
信長の声を合図に、自分たちも光になり、この地を去る。
……今回の特異点は、実に、いい経験だった。
自然と人を愛した花の歌聖。
彼女の示した美しい心は、強く自分の心に残っている。
***
最後のデッカイ桜は西行妖じゃないから安心してね!
というわけでシーズン1でした。
そろそろ大学が始まるんであげられてよかったです。
作中でノッブが言ってましたが崇徳さまは妖怪のくせに割と真っ当。
まあもともと普通の人間(ただし天照の直系)なわけだし。
あと今鏡では別に恨んでるとかいう描写もありません。
重要な歴史書はさすがに無視できないのでこういう形になりました。
やっぱりアヴェンジャークラスは常識人じゃないか!
※ただし西行さん関連は除く。
いずれ番外編も数本あげたいです。
そのうえでシーズン2に入れたらいいなあ。
清盛さん出したい……。