第一話から難産。
しょっぱなからエタりそう。
彼女との邂逅
ドクターから伝えられた新たな特異点。
どうやら、場所は以前も訪れた平安時代の京都らしい。
相応の準備を整えて、レイシフトを行う。
この流れに逆らうかのような感覚にも随分と慣れた。
今回のレイシフトには、頼光に同行をお願いした。
金時や牛若丸でも構わなかったが、そう何度も連れ回すわけにもいかない。
「無事に到着しましたね。ここは───」
見渡せば日本の古典的な街並み。
以前にも、見た光景だ。
「あら。ここは平安京ですね。あちらは羅生門でしたか」
同行していた何やら納得したような顔で頼光が指差す。
その方向に振り返ると、巨大な建造物が立っていた。
「以前、茨木童子さんと争った羅生門ですね」
「それは確か、
頼光、今は泣く時間ではないから。
「……そうですね。一刻も早く、事態の解決を図りましょう」
早いうちに釘をさしておかなければ。
彼女は一度泣き出してしまうと結構長い。毎度金時共々なだめるのに苦労した。
鬼ヶ島の件も、羅生門の件も、強い責任感を頼光は感じているようだ。
あらためて周囲を見回す。
今は、茨木童子との騒動で漂っていた酒気は微塵も感じられない。
原因となった酒は酒呑童子の手で破壊されたからだろうか。
『そうだね。こちらからも確認したけど、アレと同じ反応はないかな』
「ドクター。私たちはこれからどうしましょうか」
『えーっとね……その大きな道を真っ直ぐ行った先に、強い反応がある』
自分たちが立つ朱雀大路の先を見つめる。
恐らく、この先は大内裏の入り口である朱雀門だろう。
「わざわざ禁中で待ち構えているなんて、豪胆ですのね」
それには同意できる。
もし、自分が向こうの立場だったとしたら、大内裏で待ち構えるなんてとてもできない。
『そういうものかい? けど気を付けてね。超高レベルの霊基反応だ。
この国で一番偉い場所に居座ってても何だか納得できちゃうレベルだよ』
「それは、例えるならどのような?」
『うーん……この反応、神霊? まさかなぁ。けど比べ物にならないし……』
カルデアにいるステンノとエウリュアレはどう説明を付けるのか。
『うっ……いやでも、あの二人より高位な霊基なんて居ると思う?』
「余程の反則技を使わないと厳しいのではないでしょうか」
アルテミスはオリオンの代わりだからセーフなのか。
確かにアレもアレでとんでもない反則技だが。
「───みなさん、静粛に」
不意に、頼光の緊迫した声が耳に入る。
すぐさま頭を切り替えて、魔術回路を起動させる。
傍らのマシュも盾を構えて戦闘準備に入った。
「……敵影確認。前回の鬼ヶ島と同様の鬼の妖怪ですね」
「ふふ。やり過ぎないよう注意しますね?」
よろしく頼む。ここは、なるべく温存して欲しい。
この先に強大な存在がいるのなら、ソレに備えたほうがいいだろう。
「了解しました。これより戦闘に入ります!」
***
広々とした朱雀大路を歩く。
……平安中期の平安京はとても荒廃していたという。
道端には糞尿がたまり、悪臭を放っていた。
暴風雨で倒壊した羅生門は直されることもなく、放置され死体が捨てられる場であったとか。
とても人間が暮らせるような環境ではなかったらしい。
しかし、「この」平安京はそんな見聞とはまるで異なっている。
道には死体・糞尿はおろか、ゴミでさえ見当たらない。
見える範囲に並んでいる屋敷群にも、荒れ果てた様子は欠片としてない。
そもそも、入口の羅生門でさえ建築当時と思われる堂々とした威容を示している。
「……マスターも気づかれましたか。ええ、この京……綺麗すぎますわ」
「綺麗すぎる、ですか?」
ドクター、今回レイシフトした年代をもう一度教えてくれないか?
『え? 1168年、日本の元号だと仁安3年だよ。それがどうかしたの?』
「……現代の基準でいうところの、平安末期にあたるのです」
その時期は本当に京はボロボロ、大内裏すら朽ち果てていた時期だったんだ。
『なるほど……保元の乱と平治の乱が起きた後か。確かにその京は綺麗すぎる』
「それにしても、先輩は詳しいですね。研究でもなさっていたのですか?」
そんな専門的なことはしていない。単なる趣味の一端である。
具体的に言うと和歌。もっとも、自分で作ったことは一度としてないが。
「なんと、先輩は歌を好まれるのですか」
『少し意外だな……そんな趣味があったなんて』
「あら、素敵ではないですか。お気に入りの歌人とかは誰でしょう?」
……ふむ。
割と好きな歌人は多いが、やはりここは───
『話中のところすまないが、敵性反応だ! しかも、これは……』
「すみません先輩! 話の続きが気になるところですが、未確認の敵影です!」
『なっ、あれは……!?』
確かに、初めて見る姿だった。
山伏の装束。高下駄。独特の小さな帽子。
個体によっては鼻が長く突き出ている。
そして背から生えた
間違いなく、あれは───
「天狗、ですわね」
『以前の鬼に続いて今度は天狗! 本当に何でもありだなこの国!』
こういう国なんです。今日も平和。
「現時点では全く平和ではありません! 戦闘に入ります!」
***
天狗にも種類がある。
現在では山伏姿が一般的だが、昔はあまり姿が一定しなかったらしい。
基本的に僧侶で、時に童子や尼の姿をした天狗もいたとか。
時には、神として信仰を集めるほどの大天狗も存在する。
反対に波旬といった人に害をなす魔縁としても───
「冷静に説明している場合ではないです先輩……」
いやあ……本物の天狗と遭遇して、つい。
妖怪のせいなんです。自分は悪くない。
『きっと昔の日本人はこうして自分を正当化していたんだろうなあ……』
そこ。残念な人間を見る目をしない。
これはある種の自己防衛手段なのです。
何でもかんでも自分の責任にしては精神的にも負担でしょう。
なので妖怪のせいにすることで負担を和らげるんです。
「っ……割と筋が通っている分、反論が難しいです……!」
「良いではありませんか。多少の粗相には目をつむるのが見守る者の務めです。
でも、マスター? 何にでも、無闇に
にこにこと微笑む頼光。
……若干背後に丑御前が見えたのは気のせいだろうか。
妖怪を逃げに使うのはやめた方がいいだろう。特に鬼。
『───うん、三人とも、いいかな? とりあえず、出来る範囲で探知をしてみたんだけど……』
「何かあったんですか?」
『この平安京に人間らしい生命反応はほとんどない。大半がさっきの天狗のものだ。
それで、この朱雀大路には特に大きな反応が三つ……手前から、奥にかけて存在している』
鬼ヶ島における門番の鬼みたいなものだね、とドクターは締めくくった。
「それでは、鬼ヶ島の様に、門番のサーヴァントが?」
『うーん……多分そうだと思うけど。いかんせん観測が安定しなくて……』
「もしかしたら、その門番の天狗に押されて霞んでいるのかもしれませんね。
電気文明の強い灯りと小さな焔のように、印象が薄くなってしまっているのでしょう」
では、少なくとも特に強力な天狗が一体ずつ、合計三体待ち構えていると。
『そうなるね。気を付けて欲しい、門番とされる実力を持っているだろうから』
「了解しました。頼光さん、マスター。行きましょう!」
***
道中、襲い掛かってくる天狗を始末しながら路を進む。
どうも禁中の首魁にはこちらの存在が判明しているらしく、定期的に戦闘に入っていた。
『! まった。三人とも、サーヴァント反応だ』
「視界には入りませんが……少し寄り道しますか」
脇道───左京側に入る。
マシュ、自分、頼光の順で屋敷の合間を縫っていく。
「いましたわね。どうやら一人……いえ、立派な青馬もですか。どこの
「その割には、笠に法衣と、僧侶の姿をしていますが……」
『特殊なサーヴァントという訳ではなさそうだけど』
馬には乗らず曳き歩いている。
「───うう、またしても戻る羽目になるとは……私の歌集をとられてしまいました……。
今度は何をとられるのでしょうか。刀? 弓? 馬? 先が思いやられます……」
半泣きのサーヴァントがとぼとぼと現れた。
「べそかきの
それブーメラ……
「黙っていた方がいいですよ先輩。少し、お話を伺ってみましょう。
───すみません、すこしよろしいですか?」
「ふぇっ!? な、何でしょう? まさか、あなたも私から物を……」
「いえ違います。この平安京で起きている異変についてです。
あなたもサーヴァントであるのなら、どうか我々にご協力していただきたい」
「なるほど……そのような異変が起きていたのですか。都が天狗に占拠されているのもそれ故と」
「そういう訳なので、どうか力を貸していただけないでしょうか?」
「もちろん、といいたいのですが……」
言いよどむサーヴァント。
「真にお恥ずかしいことに、私は真名はおろか、生前の記憶が曖昧なのです。
戦い方、スキル、宝具……すべて把握しておりますが、それが生前と何一つ結びつかなくて……」
「まあ……それはさぞかしつらいことでしょう。貴方にも貴方だけの人生があるでしょうに」
「面目在りません……」
揃って沈んだ顔をする頼光とサーヴァント。
予想外の事態にマシュは慌てた顔をする。
まあ落ち着いて。
少なくとも、あなたは戦えるのだろう? ならそれだけで十分だ。
その刀と弓は飾りではないはずだ。
協力して欲しい。自分たちにはあなたの力が必要だ。
それに───
「先輩?」
いや、何でもない。
「……なんとお優しいのでしょう。私の様な身元不定の人間でさえ受け入れてくださるのですか」
「そうでしょうそうでしょう! ええ本当に、マスターはお優しくて愛らしくて何より……」
頼光、ステイ。
「っ……も、申し訳ありません。つい、気分が高揚してしまい……」
よろしい。
せめて、クラス名だけでも教えてくれないだろうか?
見たところ、どうやらライ……
「……キャスターです」
「えっ?」
「はい?」
なんです?
「サーヴァント、キャスターです。ええ、言いたいことは分かりますよ。
私もすごく不思議です。刀と弓を携え馬を操る術師なんて聞いたこともありません」
……まあ、割と白兵戦特化なキャスターはいるから……。
白兵戦が得意な僧侶のキャスターもいるから、大丈夫。
『説得力があるなあ……』
「それでは一時ではありますが、よろしくお願いしますキャスターさん。
申し遅れました、私はデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトです」
そして自分はマスターの藤丸立香。
「源頼光と申し……」
「な───み、源頼光様!? あ、あの四天王の頼光様でいらっしゃいますか!」
眼を大きく見開き、驚愕に声を上げるキャスター。
前回の鬼ヶ島における牛若丸といい、やはり彼女は武士たちの憧れだったのだろう。
「まあ……憧れだなんて。そんな臆面もなくおっしゃらないでください」
「いえ、私も貴方様の武勇を聞かされて育ちました。
源頼光と配下の四天王……彼らの伝説を知らぬ
否いるはずがありません、とキャスターは反語で断言した。
初邂逅の時の半泣きが嘘のような清廉とした眼差しである。
そして当の頼光は掌で紅に染まった頬を押さえている。
「そういえば、先輩。日本のサーヴァントの皆さんはどこか連帯感がありますよね?」
国民性、という奴です。
源氏勢はさることながら、沖田とノッブなんかもそうだろう。
もしかしたら、キャスターも加わるかもしれない。
「嬉しそうですね?」
……顔に出ていただろうか。
だが、否定はしない。
キャスターは、是非ともカルデアに来てほしいと思っている。
「先輩がそこまで推すとは……これは一刻も早く事態の解決を図る必要があります」
『───あの、みんな? そろそろ進まないか?』
会話もほどほどにしておこう。
お互いに苦笑しつつも、大内裏を目指して足を進めた。
***
・この話の立香
日本文化好き。よく見るテレビは和風○本家。
図書館で本借りたりネットで調べたりしてた。
とりわけ和歌・妖怪に強く、その知識はマシュを凌ぐ。
反面、外国圏(特に欧州)の話はさっぱりである。