存在を忘れていた特殊タグを試験的に導入。
「へえ、自分の真名と生前の記憶が分かんないんですか。それはまた難儀な……」
「ふーん。けどお主、自分の持ち物一回ぶんどられたんじゃろ?」
「それは、その……」
「しょーじきどうなんじゃそのへん。いじめられて引き返すとか、なにそれ」
「そういうのやめましょうよ。キャスターさんも色々あったんですよ、色々と」
ノッブと沖田に挟まれたキャスターは居心地悪そうにしている。
まあ当然といえば当然だろう。
ぐだぐだした二人に絡まれるのは誰であれご遠慮願いたいものだ。
「なんかマスターが唐突に冷たいんじゃが……」
「事実ですから。あ、沖田さんは別にそんなことありませんから大丈夫ですよ」
「いやー、自分でいうあたり、儂と同類じゃぞ人斬り」
「何ですと」
「何じゃやる気か」
「二人ともやめてください! もう……頼光さん、どうしましょう?」
マシュが声を上げるが止まる気配はない。
頼光に助けを求めたくなるのも仕方ないだろう。
「───お 二 方」
「「ひっ」」
わあ、とってもすてきなアルカイックスマイル。
背筋が凍えちゃーう☆
「賑やかなのは結構。ですが、現在は任務中なのはお分かりのはずですわ。
……あまり悪ふざけが目立つようであれば、こちらも相応の処置をとります。
それでもよろしいですね、織田信長殿、沖田総司殿?」
「「ふ、ふぁい……」」
「よ ろ し い で す ね」
「「イエス、マム!!!」」
背筋を正して大きな声で返事をする二人。
やれやれ、マスターもつらいぜ。
「ま す た ぁ」
ヒエッ
「余り……わたしを怒らせないで下さいね?」
「最近の先輩は少し目に余ります。これを機に、自分の行動を振り返ってはどうでしょうか」
はい。肝に銘じます。
あと頼光はさっきの呼びかけやめて欲しいなあ。色々と心臓に悪い。
「申し訳ありません。注意しますね?」
うむ、反省の色が見えない。
……まあ、自分が悪いんだが。
「えぇっと……す、進みましょう! あと二体の天狗が待ち構えています!」
「それがいいですね。ほら行きますよノッブ」
「なんじゃその言い方! お前こそしゃきっとせんかおき太!」
窘めるような沖田に反発するノッブ。
パーティも、とても賑やかになった。
「そうですね……」
呆れたように口にするマシュも、顔は愛らしくほころんでいる。
自分も、恐らくはマシュも。二人の作りだす楽しい雰囲気が好ましいのだ。
『あのー。もしもーし? そろそろ門番の反応がですねー』
「え……あぁ、ドクター。すみません、存在を忘れてました」
『デスヨネー。はあ……サーヴァントもいるから、気を付けてよ?』
ドクターがそういうや否や、声が大路に響いた。
「───来たか。待ちくたびれたぞ稀人たちよ。戦の準備は万全か?
特に腹の調子はどうだ。腹が減っては何もできんからな。今のうちに食うか?」
精悍な顔と体つき。
肩に担いだ米俵。
アーチャー、俵藤太。
極東の竜殺しと謳われ、かの平将門を討った武人。
彼ほど誉れ高き武士が何故天狗たちの側に?
「いや、それは違うぞマスター。ん? 違いはせんのか? 一応こちら側だからな。
確かに俺はお前たちに立ちふさがる。だが、何もお前たちを滅ぼそうという訳ではない」
「それでは、一体なんのために門番をされているのですか?」
「うむ……お前だ、キャスター。我が末裔……美しき歌人よ」
名指しで呼ばれたキャスターは驚愕に目を見開いた。
「末裔───私が、貴方の」
「そうだ。俺の名は俵藤太……いや、この場合、藤原秀郷と言った方がいいか」
……確定だ。
彼女の真名は自分の予想通りだった。
敵の首魁もほぼ確実だろう。
歌人、西行法師。
かつて北面の武士として鳥羽院に仕え、出家し旅と和歌に通じた僧侶。
和歌を好む自分が最も敬愛している人物。
「さい、ぎょう……そうです、私、私は……」
「聡明だなマスター。では、もう一つの質問だ。
この特異点を造り出した黒幕。禁中に待ち構えるサーヴァントの正体は?」
間違いなく崇徳院だ。
怨念で天狗と化し、朝廷に祟りをなしたと言われる古の帝。
……考えれば、大内裏で待ち構えるのも当然だ。
「歌人の西行じゃったか……まさかの女」
「それ人の事言えませんよ? わたしもですが」
あの西行が女性、と言われると驚く。
いい加減「実は性別が違いました」という英霊には慣れたと思ったが。
「……そら、義清。いい加減、自分の正体に察しはついたか?」
「そんな……でも、私、いいえ、どうして……」
「キャスターさん?」
ぎゅっ、と胸の衣を握りしめている。
顔色は蒼白だ。
「分か、りません……本当に、私の名が? でも、そしたら……」
「───先輩、これは……」
「もしかしたら、何かの呪いかもしれませんわ。
帝か、あるいは別の存在かが彼女の記憶を封じたのでしょう」
キャスター───西行は心ここに在らずといった面持ちだ。
頼光の考察もあながち間違いではないだろう。
しかし、ならば一体何のためにそのような手段に踏み切ったのだろうか?
「ふむ……では仕方ない。これでも門番だ、仕事の一つ二つ、やらねばな」
藤太がそう呟くと、酒呑童子の時と同じように、羽ばたき音がした。
頭上から降りてくる巨大な影。
ギロリ、とこちらを睨み付ける眼光。
先程の太郎坊とは別個体の門番大天狗なのだろう。
「というわけで、此度の俺の相方はこの僧正坊だ。
身内の情がないわけではない。だが、この件に関して容赦はしない」
そう言って、東国武士の祖は刃をこちらに向けた。
「───花の歌聖よ、この試練を乗り越えみせるがいい!」
***
さすがは大蜈蚣とあの平将門を討ち取っただけはある。
正直、あまりにも強すぎる。
「っ、こほっ、こほっ……」
「沖田さん、下がってください! その状態では戦闘不可能です!」
「───すみ、ませ、けほっ……」
最初に仕掛けたのは沖田だった。
だが、彼女の素早さを生かした猛攻も唐突な病弱スキルで止まってしまった。
そこに藤太が攻撃を仕掛けてくるがマシュが割り込みどうにか防いだ。
「どうした幕末の剣士! まだ始まりも始まり、なのに退くつもりか!」
「ほざけ───私は、まだ戦えます!」
「その状態で突っ込んだところで足手まといがいいところじゃろうが!」
勇む沖田を抑えながらも瞬く間に発砲する信長。
多少の傷にはなったのかもしれないが……。
「チィ……やはり再生するか。厄介この上ない」
酒呑童子と同じように、この領域でも藤太の宝具が常時発動している。
その名も「無限米俵」。
多少の傷はすぐさま再生し、そもそもの生存能力が大幅に上がっている。
これではいくら攻撃しても大したダメージにはならない。
「どうした、もう終いか! ちゃんと腹ごしらえはしてきたのか!」
「っ……侮るな東国の! この源頼光、空腹如きで倒れると思ったか!」
ズバチィィ!!! と、耳をつんざく凄まじい音を立てて頼光が斬りかかる。
剣戟の最中も、頼光から迸る雷光が藤太の肉体を焼き払わんとしていた。
「───すみません、マスター。沖田総司、復帰しました」
冷静な口調で耳元に囁く沖田。
どうにか落ち着いたようだが、声からは隠しきれない戦への熱を感じる。
……では、あの天狗の相手を頼みたい。
「承知しました、遅れは必ず取り戻します……!」
そういうや否や、視界から掻き消え僧正坊に斬りかかった。
あの天狗、これまで見てきた天狗たちの中でもとりわけ武芸に優れているようだ。
信長と協力して打倒して欲しいのだが───
「ふむ、中々の
……当の信長は傍らに立ってふむふむと観察している。
働いていない訳ではなく、時折飛んでくる天狗たちを片っ端から撃ち抜いてはいる。
しかし、前方の戦列に加わろうとはしていない。
「なんじゃ、儂が戦っとらんことが不満か?
じゃがマスター、……こやつをほっぽっておけるのか?」
「う……申し訳ありません」
信長が指差すのは顔色の悪い西行だ。
どうも彼女のことが放っておけないらしく、こうして付き合っている。
「あの、信長殿? 私のことはいいのですよ? ええ、私はここでも戦えますし」
「それは儂も同じじゃ。儂の得物はふつーに遠距離用じゃしな。
……しかし、うむ、そろそろ加わった方がいいか……」
そう言って、こちらに向かって飛行してきた天狗をあっという間に撃ち落とす信長。
遅れて西行も自慢の弓で羽ばたく翼を的確に射抜いていった。
「───そうじゃ! マスター、西行。少し耳を貸せ」
そう言って、笑みを浮かべた信長は自分と西行に耳打ちをする。
「……なるほど。確かに可能性はありますね」
「じゃろ? ───そういうわけじゃ、マスター。協力してくれるか?」
いいだろう。
その代り…………しくじるなよ?
「任せておくがよい。西行も、よいな?」
「お任せください」
令呪を以て命じる。
アーチャー、織田信長! 宝具「
「承った。是よりは大焦熱が無間地獄───」
轟、と炎が彼女の手足を燃やす。
すぐさまその炎は巨大化し、瞬く間に空間を燃やし尽くすほどの大爆炎と化した。
───それこそ、藤太の宝具すら炭にするほどに。
「な……?!」
「いざ───三界神仏燼と帰せ! 我こそは第六天魔王波旬、織田信長なり!」
間違いなく、彼女はこの場で最高レベルの攻撃手段を持っている。
当然、俵藤太は信長より古い時代の人間である。
それはつまるところ、彼女より神秘の高い人間であるということだ。
ならば、信長のスキル「天下布武」が絶対的な効果を誇るのは言うまでもない。
そして同様に、鞍馬山で祀られる僧正坊は神性を持っているため、やはり彼女の餌食である。
加えて。
「なべてなき黒きほむらの苦しみは夜の思ひの報いなるべし」
(並大抵ではない漆黒の焔に焼かれる苦しみは、
夜の想いに対しての報いの業火であるに違いありません)
西行の支援が加わり、もはや勢いは止められない。
……というか、大丈夫だろうか。巻き込んでないだろうか。特に頼光。
「さあ、東国の雄、鞍馬の鬼一よ。三千世界に屍を晒す時だ───!」
惜しげもなく肢体を晒す信長。
その背後には三千丁の火縄銃がその銃口を光らせている。
「天魔轟臨!! これが魔王の
一斉掃射。
漆黒の空を駆け抜ける流星群の様に、弾丸が天を貫いていった。
***
「いやぁ……負けた負けた。まさか全部焼き払われるとはな。はっはっは!」
「まるごとウェルダンにされた奴がいう台詞じゃないんじゃが」
「それよりまず服! どうにかしてくださいって!」
「へ? ああそうじゃったそうじゃった……ぶえくしゅっ!」
「だ、大丈夫ですか?」
さびー、とのんきに腕をさするノッブにしかりつける沖田。
慌てて西行が自分の予備らしき衣服を纏わせた。
僧正坊は消滅し、藤太も光の粒子と共に消えようとしている。
先程の攻撃を全く感じさせないいつも通りの快活な笑顔を浮かべていた。
「うむ。それでは俺はこれにて。そして我が末裔、佐藤義清……■■」
「───!!!」
「気を引き締めろよ。この先に待つのはお前が向かい合うべき最後の
だが、恐れることはないだろう。お前には、頼もしい仲間がいる」
優しげに、子を見守る父親の様に、藤太は目を細めた。
「後悔なきよう励めよ。そして、此度結んだ縁を忘れるな」
そういって、東国最強の武士は消えた。
「……さっきあ奴、よく分からん……その、音の羅列? を言っていたんじゃが……」
「あ、ノッブも聞こえませんでした? 何だったんでしょう?」
「っ───私の、名です。ずっと昔に捨て去った、女としての……」
へえ、と沖田がうなずいた。
最後まで、彼は西行のことを気にかけていたのだ。
「ええ、ええ。確かに、とても立派な
……ですが、マスター? こちらに何の確認も取らず宝具を使わせるとは何事です?
あまつさえ令呪と和歌による強化? ふふふ、女を此処まで焦がすなんて……」
そして、彼女は背筋が凍るほどの美しい微笑を自分に向けていた。
体のあちらこちらに焦げ跡が見られる。
頼光の隣ではこれまたびっくりするほど冷ややかな視線を向けるこんがりな後輩。
巻き込み事故には、気を付けよう!
***
フィールド効果「無限米俵」
敵全体の毎ターンHP上限アップとHP回復。
僧正坊は鞍馬の天狗。
この話では牛若丸に兵法授けた鬼一と同一人物設定。
あと西行は出家直後、鞍馬山に滞在してた縁もある。
しかし二回連続で宝具焼き払いで解決……。
これは次あたりちょっと違う手段を使いますか。