(リメイク)彼と彼女の相聞歌   作:水天宮

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三の宮「白虎咆哮」

 

 

 

西行は目に見えて憔悴していた。

塗籠(ぬりごめ)の内部で何があったのかは……まぁ、何となく想像がつく。

思わず抱きしめたくなるほどに、彼女は涙を流していた。

 

驚いたのは、玉藻が「そういう目」で西行を見ていたことだ。

以前、酒呑童子が言っていたことがようやく腑に落ちた。

あの鬼も、先ほどの狐も、同じだ。

かつて武士であった僧侶の女性に何らかの魅惑的な要素を見出したのだろう。

 

 

 

故に、ここまで西行が天狗に攻撃されなかったのも納得がいく。

大天狗───崇徳院もまた、西行に心を奪われている。

だけど、その態度は玉藻とは大きく異なっている。

彼女は反英雄らしく、自分勝手に西行を所有物にしようとしていた。

対して崇徳院は、何というか……随分と、優しく見える。

酒呑童子に帰らせるよう指示をしたことからも瞭然だろう。

 

この差はなんだろう。

元々人間であるか、そうでないか……という違い、でいいのだろうか?

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

朱雀大路を進む。

会話はない。

自分の左右にいる沖田とノッブは気まずそうに顔をゆがめている。

西行はやはりと言うべきか、思いつめた暗い表情だった。

その両隣に、マシュと頼光は気遣わしげに共に歩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───いいかな? 反応が近い。最後の門番だ、用心してくれ』

 

ドクターの通信が入る。

前方すぐに、大内裏の入口……朱雀門がその威容を示している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……随分と陰鬱だな歌聖。その顔で参内(さんだい)するつもりか? この宮殿に?

最も、あの男はもはやこの国を滅ぼす大魔縁だがな。貴様の知る帝は死した。

それを理解できぬ貴様でもあるまい。……引き返すがいい」

 

 

 

影が、現れた。

耳にしたことのある声だった。

 

 

 

「どうした? どのような存在であれ、あの男には逆らえまい?

何を惑っている。奴が───崇徳帝が直々に命を下したのだ。来るな、と」

「いいえ」

 

 

拒絶の声。

 

 

「自分が何者か分からない。何か大切なことを忘れている。

そして、それを知っている…………私を、知っている方々がいる」

 

胸に手を当て、目を伏せった。

 

「そこに、どのような悲哀と挫折があったのでしょうか。

どれだけ喜ばしいことがあったのでしょうか。

───私は、何のために、こうして彼女たちと出会ったのでしょうか」

 

顔をあげ、未だ全容を把握できない影を見据えている歌聖。

その表情は、共に過ごした短い期間の中で最も麗しかった。

 

 

 

「そんなことすら分からないのは、とても寂しいと思います。

……だって、私は一人の人間ですから」

「何も知らぬほうが幸福だったとしても?

過去から解放され、手に入れた自由を捨てることになるというのに?」

「自由を捨てるもまた自由。いと喜ばしからずや」

 

 

あっさりと、影の問いを却下する西行。

この道程で幾度となく見てきた、清廉とした眼差しだった。

 

 

 

 

 

 

「ク、ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

影が心底愉快そうに笑う。

同時に、影が突如肥大化した。

 

「捨てるか、捨てるというのか! 男の気遣いを!

幸あれと愛しい女に向けた最後の願い(祈り)すらも!」

「申し訳ありません。何せ女御殿下のお誘いもお断りしたもので」

「ああ、確かにそうだったな! あの妃にも呆れたものだ。

わざわざ貴様の全てを封じてまで手に入れようとする強欲ぶり。

だが惜しかった。その女はそれすらも弾くような女だったのだから!」

 

グワァッ、と影があたり一面に充満する。

僅かに自分たちのいる地点にまでは向かってこなかった。

 

 

「いいだろう。俺も門番とやらの仕事を果たすとしよう。

刮目せよ。俺こそが、この国を呪った王に至る最終試練───」

 

 

影が集束し人の形を成す。

……自分のよく知るサーヴァントだった。

 

 

 

漆黒の外套。

迸る炎。

彼こそは──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───我が名は、ぬらりモン仮面!」

 

巌………………えっ?

 

 

 

 

 

 

 

空気が凍る。

 

いつもの外套にいつもの帽子。これはいい。

だがこの男、アマデウスの仮面をつけている。

そして以前どこかで聞いた名を名乗る。

 

 

 

 

「えぇぇー、マジですか。この状況でそれは無いでしょう……」

「今年度の空気読めないオブザイヤー受賞確定じゃな……」

 

ひそひそと前方の男に視線をむけつつ会話する剣士と魔王。

頼光は微笑のまま停止している。マシュも呆然顔で停止状態だ。

そして、西行はパチパチと目を瞬かせている。

 

「フン。空気が読めていないことは分かっている。

何せ、この国とは縁がないからな。どうにかこじつけるしかないだろう」

 

そういってあっさりと仮面を外した。

冷酷にこちらを見据える瞳が露わになる。

あぁ、安心した。

やっぱり巌窟王だ。

カルデアでいろんな人たちに当てられてとうとうおかしくなったかと。

というか、外しちゃって良かったのソレ?

 

「問題はない。今の俺は恩讐を語る役ではないからな。

この国に暮らす妖怪たちを統率する神出鬼没の長、ぬらりモン仮面だ。

平安末期の京に唐突にヨーロッパの男が出てきてもおかしいだろう」

 

いや……観光客といえば、まぁ……。

あと名乗りに「仮面」がついてるなら一応つけておいた方がいいよ?

 

「ふむ、それもそうだな。忠告は聞こう。

ところでマスター、茶はないか? 少し喉が渇いた」

 

そういうところまで再現する必要はないかなぁ。

脱出が売りの巌窟王が忍び込んでどうするのかと。

 

「俺はぬらりモン仮面、家に上がって図々しく茶を飲む妖怪だ。

……まぁいい。仕事はこなす。そこの硬直している二人は戦えるのか?」

「へっ、あ、はい! マシュ・キリエライト、いつでもいけます!」

「ふふふ……いけませんね。戦場(いくさば)で呆然とするなどあってはならないのに」

 

二人とも正気に戻り、それぞれ戦闘態勢に入っている。

ノッブと沖田も刀や火縄銃を携えていた。

 

 

 

「良かろう。───相模坊! 仕事の時間だ、奴らを叩き返せ!」

 

 

瞬間、飛来する巨大な影。

すぐさま頼光が駆け出し、刀を振りかざす。

 

 

 

ガキィィン! と、天狗の錫杖と武人の刀剣が火花を散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

サーヴァントにはそれぞれ特徴がある。

 

例えば、織田信長は神秘や神性を持つ存在に特に強い。

反面、近現代のサーヴァントにはあまり力を発揮できない。

沖田総司ならば卓越した剣技に素早い行動。

弱点は病弱スキルでいつ戦闘不能になるか分からないこと。

源頼光は無窮の武錬に神秘殺しという火力と技巧が長所だ。

魔力放出(雷)も火力を上げるが、燃費に難点がある。

 

こういった特徴を理解し、それぞれに合致した戦術を練る必要がある。

さすれば、彼らは高い成果を上げることが出来るだろう。

 

……だが。

時には、そういった策も、圧倒的な力に潰されることもあるのだ。

 

 

 

 

 

 

状況を把握しよう。

相変わらず攻撃しない指示を受けているのか、西行は無傷。

一手に攻撃を受け続けたマシュは立つことすら厳しい。

頼光も似たような状態だが、ギリギリの所で立っていた。

 

 

「くっそ、なんじゃあのチート」

「一回ごとの攻撃が重すぎますね……」

 

 

 

自分のすぐ後ろで転がっている沖田と信長。

その顔や腹、腕には大きい傷がついている。

どちらも相手に低くないダメージを与えていたのだが、瀕死に追いやられた。

相模坊も、巌窟王も無傷ではない。刀傷と銃創が目立っている。

一見して大したことのない拳が、余りにも強い一撃だった。

 

 

この領域につけられた名は「白虎咆哮」。

宝具の常時発動ではなく、単純に敵───巌窟王の大幅な強化。

……さすがに困った。

先の二回のように、宝具で焼き払うことはできない。

 

 

 

 

「今、回復を───」

「儂らはいい。寧ろ、まだ前にいるあ奴らにかけとけ」

 

西行が回復の術をかけようとしたが、信長にとめられた。

確かに、今戦っている二人にかけたほうがいい。

……最悪全滅したら、石を割る。

宝具で猛攻を仕掛けるのも、戦術の一つではある。

 

まずは戦っている二人を助けたほうがいい。all_heal();(全体回復)

 

「っ……ありがとう、ございます」

 

どうにかマシュも持ち直した。

だがまだ心もとない……西行、術をかけて───

 

 

 

 

「……私もまた愚かな人間、頼光様とマシュさんを矢面に立たせるなんて。

弓を操る武士としても、法を説く僧侶としても、失格どころではありません」

 

 

 

手には筆と短冊。

 

 

 

「ですが、今の私には「コレ」しかないものですから」

 

 

 

さらさらと、短冊に書き綴っていく西行。

作品を引用した術……では、ない?

 

 

 

「私が支援いたします。すみませんが、お二人にも協力して欲しい」

「なんじゃと!? そなた、儂らの状態わかっとるんか!」

「大丈夫です。どうにかしますから」

 

 

 

───膨大な魔力の高まり。

 

 

 

 

 

「願わくは───」

 

叶うのならば。

 

「──────花の下にて、春死なむ」

 

桜の花の下で、春に死にましょう。

 

 

 

 

薄紅色の花片(はなびら)が舞い散る。

見上げれば、美しく満月が照らしていた。

 

 

 

 

「───その如月の、望月のころ───」

 

二月十五日。釈迦入滅の時節に。

 

 

 

 

 

 

西行の生涯の象徴とも言うべき詩歌。

作られたのはいつともしれない。

ただ、ほとんどその願い通りに彼女はこの世を去った。

 

その生き様は、当時の人々は無論、後世の歌人たちをも魅了して。

 

 

 

「…………無余涅槃・華胥の永眠」

 

 

 

 

 

 

きっと、彼女が今わの際に見たのはこんな光景だったのだろう。

盛りに咲き乱れた桜花を、黄金の望月があまねく照らしている。

自分の視界には、一枚一枚の花弁がキラキラと輝いているように映った。

 

 

 

 

「──────」

 

 

誰の息遣いかは分からない。

自分かもしれないし、マシュかもしれない。

はたまた、巌窟王かもしれない。

……誰もがため息をつくほどにこの空間が麗しいから。

 

 

 

古語表現の「あはれ」とは、こういうことを言うのかもしれない。

そんなことを不意に思った。

 

 

 

 

 

「……って、見とれる場合じゃないですよ、一体何を───」

「沖田殿、体は動きますか? 信長殿はどうですか?」

「えっ、あれっ?!」

「ん……おぉ、傷もほぼふさがっとる。……何したんじゃ?」

 

見れば、沖田と信長の大きな傷がほとんど治っていた。

振り返ると、マシュと頼光も同じだ。

……もしかして、これが西行の宝具なのか?

 

「一応、神霊レベルで術行使が可能です。

今は、皆さんの回復に回しています。

立ち直り次第、全面的な支援に回そうかと……」

 

いつの間に。

よく見たら、彼女の手元ではすでにいくつかの作品が発動していた。

ほぼ無詠唱でこなせるということだろうか。

 

「ふむ……発動後しばらく行動できんのは玉に瑕じゃな。

とはいえ、それは向こうも同じらしいからそこまででもないじゃろ」

「この隙に、決着をつけましょう!」

 

 

分かった。

頼光と信長は相模坊に攻撃! 吹っ飛ばしてあの二人を引きはがせ!

 

「よかろう!」

「承知いたしました」

「支援します」

 

 

信長の周囲に火縄銃が展開し、一斉に発砲される。

加えて、頼光の雷光が一閃された。

これらの攻撃も、西行により大幅な強化が付与されている。

 

 

 

 

「はぁ──────!!!」

 

 

 

 

形容しがたい轟音を立てて、相模坊ははるか前方へと飛んでいった。

すぐさま頼光と信長が追いかける。

……あの二人ならば任せても大丈夫だろう。

 

 

 

 

マシュは巌窟王の攻撃を引きつける! 西行、防御支援してくれ!

その隙に──────頼めるだろうか?

 

「はい!」

「承りました」

 

正気に戻ったらしい巌窟王が攻撃を仕掛けてくる。

それを受け止めるマシュ。

西行の手元で三枚の短冊が光った。

 

 

「っ───なるほど、俺にまでその術はかかるのか」

「当然です。力を入れずとも荒ぶる鬼神を鎮めるが和歌(やまとうた)の本質です」

「そうか。心持つ者であれば誰一人として逃れられぬだろうな。

だが───我が決意、我が恩讐を甘く見るな、花の歌聖!」

 

巌窟王の肉体から黒炎が噴き出る。

西行は何らかの弱体(デバフ)を掛けていたようだが、打ち消されたらしい。

漆黒の炎がマシュを焼き切ろうと襲い掛かる。

 

 

 

 

Osiris();(オシリスの塵)───!

 

 

 

 

「……っ、はああああああああ!!!!

わたしは、まだ……倒れません!」

「っ───」

 

 

攻撃は効かない。

時に頑丈な防御ですら通す彼の拳。普段は頼れるが、今は余りにも脅威だ。

通さないとばかりに無敵状態に加えていくつもの防御支援を重ねている。

あのあまりにも重い攻撃も、そう簡単には通さない。

 

 

 

 

 

──────西行、今だ!

 

 

「空はるる雲なりけりな吉野山花もてわたる風とみたれば」

(空が晴れていく時の雲だったのです。

吉野山を、桜の花を含んで渡る風だと思い見ていたのですが)

 

そして自分もしかける。

gain_quick();(反応強化)

 

 

 

決めてくれ、沖田!

 

 

 

 

 

 

「一歩音越え。二歩無間、三歩絶刀──────!」

 

 

 

巌窟王が振り返っても間に合わない。

その時にはもう、切っ先は迫っていたのだから。

 

 

 

「───無明・三段突き!!!」

 

防御不可能、全く同時に繰り出される三回の突き。

 

 

 

「ぐ、っ…………」

「まだ倒れませんか、ならばいくらでも斬るのみです!」

 

すぐさま斬りかかる沖田。

だが、間違いなく今のは効いていた。

倒れるのも、時間の問題───

 

 

 

 

 

 

ドオオオオオオオオオオン──────!!!

 

 

 

 

 

 

大地を揺るがすほどの爆音。

思わずよろけてしまった。

その方向へ視線をやると、土煙が立っている中で、頼光と信長の影が見えた。

無傷ではなさそうだが、彼女たちもとどめを刺したらしい。

 

「……フン、相模坊を倒したか。俺たちの負けだな」

「静かな顔で平然と立ってよく言いますよ……」

「そうでもない。さすがにアレをまともに喰らえば戦えん」

 

なんとも説得力がない。

だが、まぁ……確かに、ただの意思(ISHI)で瀕死の重傷を生き延びる英霊もいる。

彼もまた、そんな連中の一人なのだ。

 

 

 

「ではなマスター。困難に遭ったときは、俺を呼ぶがいい。

……やれやれ、ぬらりモン仮面か。もう二度とやりたくないな」

 

そう言って、巌窟王は光の粒子となって消えた。

 

 

 

 

「おつかれさまでした。一応、回復いたしますか?」

「それではよろしくお願いしますわ。それと、マスター」

 

何だろうか。

 

「休憩をとらせていただけますか。さすがに、疲れましたの」

「あー、賛成じゃー」

「確かに、わたしも少し休みたいです。先輩、かまいませんか?」

 

精神的疲労、という奴か。

分かった。しばらく休憩にしよう。

西行と沖田もいいだろうか?

 

「沖田さんはいいですよ。さすがに宝具も使───コフッ!」

 

飛び散る血液。

……うん、休憩しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

フィールド効果「白虎咆哮」

巌窟王の全ての攻撃がクリティカル&敵全体のクリティカル威力と攻撃力アップ

 

次に公式で登場する仮面野郎は誰ですかね。

正直エドモンには期待してます。

 

宝具「巌窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)」に指向性があるのかは不明。

この話ではあります。

 

 

 

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