俺は叛逆の騎士 作:テロメア
小高い丘に作られた沢山の天幕の内の一つで、赤と白の鎧を着た若い騎士が、椅子に座って仮眠を取っていた。
天幕の外からは、多くの兵達がせわしなく働いている音が聞こえて来る。足りない物質の計算や調達。一般兵への隊列指示。民間人の避難誘導にと、暇な者は一人としていない。
そんな中彼だけは、唯一休息を取っていた。だが誰一人として、彼を非難する者はいない。なぜならつい先程まで、彼は外で働く兵の十倍以上に働いていた故に。
彼は兵達の所属する軍団の指揮官だった。そんな彼に疲労で倒れられては堪らないと、部下達に強制的に休憩を取らされているのだ。
そういった訳で仮眠を取っていた彼の天幕に、一人の男がやって来た。
「モードレッド」
自らの名が呼ばれると、赤い騎士はゆっくりと目を開け、やって来た人物を見やった。男は黒い甲冑を身に着けており、その顔は赤い騎士とそこまで年齢差がある訳ではないにも関わらず、かなりの老け顔であった。
「来たぞ」
黒い騎士は赤い騎士の意識が自分に向いたのを確認すると、そう一言だけ言って天幕を出て行った。
「遂に、ここまで来たか……そして、王の軍はやはり間に合わなかったか」
騎士は装備を整えようと立ち上がり、すぐ傍に置いていた兜を被った。そして自らの得物である槍を持つと、それを感慨深げに見つめた。
「結局、最後までこいつを振るうんだな、俺は」
素材を自力で集め、拙いながらも魔術と科学を組み合わせて作り上げた自作の槍。後に母である魔女に改良され、花の魔術師に改造を施され、国一番の鍛冶師によって数多の幻想種を素材に鍛え直された槍は、下手な宝具よりもよほど強い。事実として、本気で振るわれた星の聖剣と十数度打ち合ってなお折れなかった実績がある。
騎士は槍を背負うと、足早に天幕を後にした。
外で働いていた兵士達の動きが先程より慌ただしくなっているのを横目に、騎士は敵軍を周囲を見渡せる高所を目指した。騎士が目的の場所に行くと、そこには先程騎士を呼んだ黒い騎士が、見張りの兵と共に敵軍を見ていた。騎士は見張りをしていた兵を労うと、他の兵を手伝うよう指示する。
騎士は平原の更に先、地平線へと視線を向けると、そこに巨大な影のような物が蠢いているのを発見する。
「改めて見ると凄い数だな。あれ全部が幻想種か……」
影のように見えたのは、平原を埋め尽くす規模の幻想種の群れだった。しかし、それは群れと言うにはあまりにも統一性がなく、雑多な種類で構成されている。
こうして見える範囲だけでも、人狼、オーク、ゴブリン、魔猪、グリフォン、ケルピー、キメラ、ケルベロス、コカトリス、巨人、etc.etc…………そして挙げ句の果てにはドラゴン、それも神獣クラスの個体までも確認できる。
それらが群れを成して、迷うことなく真っ直ぐにこの国の首都へと進んでいる。騎士たちはこの群れを食い止める為にここに陣取っていた。
「考えつく限りの手は打った。最低でも、全体の四分の一は削っている……筈なんだけどなぁ」
「やむを得まい。元よりあちらは
黒い騎士が赤い騎士を労うと、赤い騎士は兜の下で驚いた表情を作った。そして同時に、「人間嫌いのコイツが労うとか、珍しい事もあるもんだな」と小さく呟く。
「王が到着するまで、凡そ二日かかるそうだ。それまでは我々で耐えねばならん」
「二日ね……百、いや五十残れば上出来か?百五十以上なら奇跡だな」
赤い騎士の言う数字は、王の軍が到着した時に残っているだろう兵士の数だ。総数一万の軍勢で、最善の策を取り続けたとしても、たったそれだけしかし残らないと赤い騎士は判断している。そして黒い騎士は、それを黙って頷く事で肯定した。
これから始まるのは負け戦だ。質も量も負けている以上、主力である王の軍が到着するまでに、どれだけの兵が生き残り、そして時間を稼げるかという戦いだ。
「アグラヴェイン卿!モードレッド卿!民間人の避難及び戦の用意が整いました!」
「ご苦労。我々もすぐに行く」
二人が沈黙と共に幻想種の軍勢を見つめていると、一人の兵士が報告にやって来る。報告を聞いた二人はすぐに自らの持ち場へと歩き出した。
「アグラヴェイン」
その道すがら、赤い騎士は黒い騎士へ声をかける。黒い騎士が「何だ?」と返すと、赤い騎士は決意の込もった声で言った。
「守るぞ。王が来るまで、必ず」
「ああ」
黒い騎士はそう短く返すと、足早に駆けて行く。赤い騎士はチラリと幻想種の軍勢を見た後、走って行った。「生き残る者の中に、確実に自分は入らないだろな」と考えながら。
赤い騎士の名はモードレッド。アーサー王伝説に名高き、円卓の騎士である。