俺は叛逆の騎士 作:テロメア
始まりの記憶は悪意だった。
オレではなく、オレを通して誰かへと向けられた悪意。オレに聞かせるつもりがあったかは定かではないが、母がいつも
その憎悪に満ち溢れた言葉は、今なお、オレの頭にこびりついて無くならない。
そしてもう一つ。
生まれたばかりの私が持っている筈のない、
別々の悪意を同時に受け止め、二つの記憶が混ざり合い、そして『オレ/私』は『俺』になった。
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母は俺にモードレッドという名を与えた。しかしそれは親愛から来る物ではなく、個体を識別するための記号としてだった。
母は俺に強くなる事を強いた。王を超えよ。彼を超えよ。彼女を超えよと。
剣術を教えられ、槍術を教えられ、徒手格闘を教えられ、政治を学ばされ、神話を学ばされ、魔術を学ばされ、あらゆる事を叩き込まれた。
見ず知らずの誰かを超えるために、俺は休む暇もなく鍛え続けた。学び続けた。不思議なことに、俺が一つの物事を学び、ある程度極めるのに、然程長く時間はかからなかった。この事から、俺は王に使えるまでの比較的短い期間の中でも、様々な分野を学ぶ事となった。
母はいつも俺に語っていた。お前は王位を継ぐ正統な血筋なのだと。正当な権利があるのだと。そんな物に俺は興味が無いというのに、母は毎日のように俺に言い聞かせていた。
端から見れば、我が子に王権を手に入れさせたい、プライドの高いだけの貴族に見えるだろう。だが俺には分かる。母から感じられるのは、ただひたすらに自己愛だけだ。
現王から俺が王位を継ぎ、その後短命による寿命によって死ぬことで、順番的に現王の姉である母へと王位が回って来る。例えそうならなくても、母が憎む現王の治世は滅ぼせる。ただ己の感情の赴くままに行動し、他人の迷惑を省みない。どこまでも身勝手な人間だ。
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武器が欲しい。ある日俺は母にそう言った。
俺の肉体は常人を遥かに超えている。岩を殴れば砕け散り、地面を踏み抜けば陥没する。皮膚はナイフ程度の刃物は通さず、高所から落下しても痛みすら感じない。
そんな俺が普通の剣や槍を振るえば、武器が俺の力に耐えられずに折れてしまう。俺が使っても折れない武器が欲しいのだ。
しかし、今は忙しいと言って見知らぬ男と自室に籠ってしまう母。母の魔術工房は自由に使ってもいいので、自分で用意しろとの事だ。
仕方ないのでとりあえず素材集めから始める事にする。
手始めに森へ行き、そこに住まうワイバーンや魔猪等の幻想種を殺して死体を持ち帰った。何が使えるか分からないので、とりあえず見かけた生物は片っ端から殺して行く事にする。
森でたまたま見つけた大型のドラゴンの骨をベースに、集めた
試行錯誤の途中、生物だけでなく鉱物を混ぜる事を思い付く。鍛治を行うという工程そのものを魔術儀式の一環とする事で、上手く組み合わないかと思ったのだ。
結果、その試みは上手くいった。いや、いき過ぎた。最終的に生物と鉱物の特徴を併せ持った、生きた金属が出来上がっていた。これを槍の形に打つ事で、俺専用の武器は完成した。
後日。俺の槍を見た母からは絶賛を貰い、俺の拙い魔術ではどうしても出てしまっていた細かな不具合を直し、調整を行ってくれた。これだけなら良い母なのだが、直後にこの間とは別の男と自室に入って行った。本当にどうしようもない母である。
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齢が十に差し掛かった頃、母は俺を王の元へと送った。俺に騎士として実績を積ませる事で、反乱を起こした際によりスムーズに事を運ぶためらしい。
しかし実績云々以前に、まず俺が周囲の人間から信用を得るのに苦労する事になった。なにせ計画の露見を恐れた母が、人前では絶対に脱げない兜を作って俺に被せていたためだ。誰にも素顔を見せようとしない人間を信用する方がどうかしているだろう。
だが幸いにも、と言うのは不謹慎だが、今は蛮族との戦時中であり、功績を打ち立てるチャンスは多くあった。
初めての戦では、俺の所属する小隊が壊滅の危機に瀕した。その際は俺がただ一人で殿を務めて小隊を逃がしきり、その上で敵将の首を討ち取る事で名を知らしめた。
次の戦では、俺の実力を疎んだ上司に誉れ高き先陣を切らせてやる、という名目で敵陣への特攻を強要された。
その結果俺は、俺と共に特攻に行く少数の仲間を指揮し、僅か三十人あまりで一人の死傷者を出さずに敵将を複数と、一般兵数百人を討つという快挙を成し遂げた。
三度目の戦では、前回の功績から昇進し、大部隊を率いて戦う事になる。奇襲、罠、間者に闇討ち。凡そ考えられる限りの策を用いて、俺は敵を駆逐していった。
この戦が終わってから知った事だが、どうも俺には人を率いる才能というのがあったらしい。というのも、他の部隊と比べて俺の部隊の損耗率が低かったからだ。勿論卑怯と言われるような策を用いたからというのもある。だが俺と同様に策を弄した部隊もあったが、俺の部隊が飛び抜けて活躍していたのに被害が少なかったのだ。
この後も四度目、五度目……と戦の度に功績を上げ、俺はたったの一年程で円卓の騎士として召し上げられた。流石にこれはでき過ぎだろうと俺は疑ったが、やはりと言うべきか裏があった。
同じく円卓の騎士が一人にして、王の秘書官。アグラヴェイン。俺の兄にあたる人物で、俺と同じく国を滅ぼす為に送り込まれた母の手駒。俺の急速な昇進には、どうやら彼が手を回していたらしい。
だが直接本人と話してみた印象としては、とてもではないがこの国を滅ぼそうとするような人物には思えなかった。
円卓随一の嫌われ者と呼ばれるとだけの事はあり、あまり尊敬できる人柄ではないが、俺には自分から汚れ役を買ってでているように思えるのだ。実際は彼は、母の思惑を無視して動いているのではなかろうか?
もしそうなのだとしたら、俺も彼と同じように、自由に生きても良いのだろうか?
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円卓の騎士となって領地を賜ってからというもの、俺の休まる日々は無かった。例え円卓の騎士であろうとも、顔も見せない俺のような者が立地の良い領地など貰えるはずもなく、最前線に程近い場所を与えられた。つまりは
本国の大戦力をぶつける蛮族軍の撃退はともかくとして、その残党の処理が大変だ。
当然の話だが、軍隊を動かすには金がかかる。その用途は武具であったり食糧であったりと様々だが、とにかく多額だ。更に負け戦となれば、失うだけで何も得るものがない。
敗色が濃厚になれば、敵の大将は少しでも被害を減らすために完全に負ける前に撤退する。持てるだけの物を持って逃げるのだ。しかしそうなれば当然、逃げられずに現地に見捨てられる者もいる。そういった者達は大した食糧もなく、帰るための
だから俺は、既に民を襲った奴を除いてなるべく残党達を雇ってやる事にしている。彼らも食う物さえあれば、賊になどならないのだから。
食糧が足りるのかという心配の声も出たが、むしろ俺の領地は食糧よりも人手が足りない。うろ覚えの前世の知識を元に少しずつ領地を改革しているのだが、そのせいかただでさえ少ない人手が更に不足しているのだ。
そうやって基本来る者拒まずのスタンスで、蛮族だろうがなんだろうが、種族も身分も性別も問わずに雇用してたら大変な事になった。どこからか聞き付けたのか、大陸の方から人がわらわらとやって来るようになった。更には大陸の商人なども領にやって来るようになり、いつの間にか俺の領がキャメロットにも引けを取らない程に豊かになっていた。なんでだ。