向日葵の姉妹   作:水代

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02 マナツノヒルノユメ

 

 

 

 

「勝手にしなさい」

 

 自身がそう言ってから、一週間。一日も欠かすことなく、少女は向日葵畑に通い続けた。

 変わったことと言えば、隠れて見ることが無くなったことと。

「ゆーかさん」

 少女が自身をそう呼ぶようになり、話かけてくるようになったことくらいだった。

 

 

 

「ゆーかさん、ゆーかさん!!」

 今日も少女はやって来る。だが、今日はいつもとは少し違っていた。

「騒がしいわね」

 と言いつつ、少女を見ると、いつも麦藁帽子しか持ってこない少女が、今日は鉢植えを持ってきていた。

「あの、あの、これ、おうちで育ててて、たくさん咲いたから、一つゆーかさんにおすそわけです」

 そう言って少女が差し出したのは、小さな白い花を咲かせた梔子だった。

「…………そう、なら頂いておくわ」

 何のつもりかは知らないが、花を渡されたのなら、四季の妖怪としては無碍にも出来なかった。

 と、そこで一つ気づく。

「あなた、自分の家で花を育てているの?」

 その問いに、少女はふえ?と声を漏らしながら、こくりと頷く。

「ゆーかさんの花の育てかたを見ながらべんきょーしたの!!!」

 得意気に言う少女に。

「残念だけれど、この子たちと、あなたの家の子たちでは育てかたが違うわよ」

 そう冷淡に言うと、少女はてへへ、と笑って。

「ごめんなさい。ちょっとズルしました

 そう答えた。どこか照れくさかったらしく、顔を赤らめていた。

「ズル?」

 自身としては、そこの部分が少しだけ気になったので、問い返すと、少女は笑って答えた。

「お花さんに教えてもらいながらやりました!!」

 そうして、人を混乱させるような一言を言い放った。

 

 

 

 

「待ちなさい、この子たち(はな)に教えてもらったって、どういうことよ?」

 理解不能なその言葉に思わず問い返すと、少女が不思議そうな顔をして。

「ふえ?お花さんたちがさむいっていうから、わらをかけたり、のどがかわいたっていうからお水あげたりしてるだけですよ?」

 千年近くこの子たちと共に過ごしてきたが、この子たちが言葉を話したことは無い。ついでに言うと、私はそんな花を知らない。

「この子も話すの?」

 そう言って、少女に渡された梔子を見せると、少女がこくんと頷いた。

「おひさまがあったかくて、きもちいいけど、のどがかわいたって言ってるよ?」

 梔子という花は、寒さに弱い。そして同時に、乾燥にも弱い。

 少女がそのことを知っているとはとてもじゃないけれど、思えなかった。

 だとすると、本当に少女が植物の声を聞けるということになる。

「この子たちが喋るだなんて、そんなバカなことがあるわけないわ」

 植物は何も話さない。そんなこと、分かりきっているはずなのに。

「ホントだよ!!だって、だからわたしゆーかさんのところに来てるんだから。ここのお花さんたちが一番うれしそうにおしゃべりしてるよ!!」

「…………この子たちが……」

 子供の戯言、そう流してしまえば良かったのだろうが、ことこの子たちに関することだけは、例外だった。

「むー、ホントにホントなのに。わたし、ありとあらゆるものといしそつーをはかるていどののうりょくっていうのが、あるんだから」

 

 ありとあらゆるものといしそつーをはかるていどののうりょく?

 

 ありとあらゆるものと意思祖通を図る程度の能力。

 

「あなた能力持ちだったの!?」

 

 ことこの少女に関して、初めて驚いたかもしれない。

 

 

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 今思えば、あの子の能力だったのだろう。

 そうでないと、自分が人間の子供と会話するなんて、あり得ないだろうから。

 意思疎通を図る、自分の意思を伝え、相手の意思を聞く。それが意思疎通。

 それを会話という方法によって、していた、いや、させられていた。そう考えれば、あの時の自分の行動にも納得が出来る。

 あらゆる物事を力ずくで解決しようとする幻想郷の住人とは太極に位置する能力だ。

 それを相手にも強いる…………しかも大妖怪である自身にすら、となるとかなり強力な能力と言えるかもしれない。

 別にそれをどうこう言うつもりは無い。

 結局のところ、あの子に与えられたものは。

 自分にとって、どこまでも大きかったのだから。

 

 

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 自分が少女の能力を知ってから、少女はよく自分の手伝いをするようになった。

 見学が終わったから、今度は実地ということらしい。

 お願いします、と何度も頼まれ、とうとう根負けした。

 あの子たち(はな)と会話できる少女なら、自分の目の届く範囲でならさせてもいいかもしれない。

 どうしてそんなことを思ったのか、自分でも良く分からない。

 少なくとも、もうこの少女を殺して、自身の世界から無理矢理にでも排除しようとは思えなくなっていた。

 

「ゆーかさん、お水まきおわったよ!!」

「そう、じゃあ次はあっちのほうにも水を撒いてちょうだい」

 

 そう言うと、わかりました。と言って、麦藁帽子で抑えた黒い髪を揺らしながら、パタパタと走っていく少女を一瞥して、また花の世話へと集中した。

 

 

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 目が覚める。

 ふと空を見ると、もう夕暮れ時だった。

「今日はここまでかしらね」

 独り呟き、そして日除けに置いた日傘を持ち直すと。

 また独り、家路へと歩いていった。

 

 

 

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