向日葵の姉妹   作:水代

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03 キミのいない時間

 

 

 今日もまたあの場所で過ごそうかと思ったのだが、残念ながら今日は雨だった。

「ふふ、この子たちには恵みの雨かしらね」

 そう言って、傍に咲いた向日葵の葉についた水滴が落ちる様子を見ていると、ふとそのことを思い出す。

「そう言えば、こんな日だったわね」

 初めてあの子の家に行ったのわ。

 

 

 ………………………………。

 

 ………………………………………………。

 

 ………………………………………………………………。

 

 

「…………………………」

 何となく、本当に何となくだがイライラする。

 けれど、それが何故なのかが分からない。

 いや、分からないフリをしていた。

 だって認めたく無いから。そんなこと決して認めたくは無い。

 

 今日は少女が来ていない。

 

 勿論、少女だって朝から晩まで毎日来ていたわけではない。

 昼過ぎに来て晩に帰ることもあったし、朝来て昼には帰ることもあった。時には一日来ない日もあった。

 けれど、そんな時は事前に少女が来れないと言っていた。

 まる一日、何の音沙汰も無いのは初めてだった。

 

 認めれるはずが無い。少女がいないことがこのイラつきの原因だなんて。

 あれはただの享楽に過ぎないはずだ。自身のほんの気まぐれでいるだけの存在のはずだ。

 自身が心動かされるようなことがあっては、決してならない。

 けれど、いつになってもイライラは収まらず、そして。

 

「何をしているのかしらね、私は」

 

 今、自身が人里へ向かっているその現実が、太陽の畑から出たというその現実がどうにも受け入れがたかった。

 これではまるで、自身が少女を心配しているようではないか。

 その考えに至った時、頭では帰路へと向かおうとしたのだが、けれど足は人里へと歩き続けた。

 

「本当に、何をしているのかしら、私は」

 

 自身でも分からないその感情に突き動かされ、人里へと向かう。

「この里に何のようだ、大妖怪」

 そして、人里を目前とした場所で、目の前に一人の少女が立ちはだかる。

「別に……大した用はないわ」

 知っている、自身も人為らざる身でありながら、人里の守護者などというものをやっている女、上白沢慧音。

「用事が無いならさっさと帰ってもらおうか…………お前が何かしようとしまいと、大妖怪がいると言うだけで里の者が怯える」

「…………そうね、帰れるなら帰りたいわね」

 けれど、足は自身の意思とは無関係に里へと向くのだ、仕方が無い。

「何の心算か知らんが、力づくでも帰ってもらうぞ」

 そう言って、拳を固める少女。その時。

「ゆーかさん?」

 背後に少女がいた。いつもいつも自身の周囲をうろちょろとしている、その少女。

「…………咲」

 呟いた瞬間、少女がぱあっと花のような笑顔を咲かせる。

 

「はじめてなまえ、よんでくれました」

 

 その笑顔を見て、また溜息を吐く。

 

 

 どうにも、認めざるを得ない。

 

 何がどうしてかは分からないが。

 

 自分、風見幽香は。

 

 この咲という少女のために、ここまで来たという事実を。

 

 あまりにも自分らしくない、その行動に。

「はあ」

 そんな自分に呆れつつ、また一つ、溜息を吐いた。

 

 

 里の半獣を適当にいなし、少女……咲の後をついて歩く。

 その間も、咲は楽しそうにこちらに話しかけているが、自分はそれを適当に相槌を打って流していた。

「ところで、どこに向かっているのかしら?」

 里に帰ってきたと思われる咲が突然自分の手を引いて歩き出したのだから、行き先は知らない。

 少なくとも、太陽の畑ではないようだが。

「えっとね。私の家だよ!!」

 そう言って、指差す方向を見ると、太陽の畑からほど近い森だった。

「あなた、人里の子じゃなかったのかしら?」

「ふえ?けーねせんせーにたまに会いに行くくらいだよ?」

 人間が人里から離れた場所で生活しているというのだろうか?

 そんな疑問を抱えながら、歩くことしばらく。

 そして、一軒の荒ら屋(あばらや)が見えた。

 

 中に入って驚く。

「これは…………」

 ただでさえ狭い家の中のあちことに、様々な植物が植えられた植木鉢が置かれていた。

「ただいま~!!」

 そう言って、一つしか無い部屋の中に入っていく。

「ゆーかさんもどーぞ!!」

 そう言われたが、太陽の畑を空けっ放しにしていることを思い出し、首を振る。

「いえ、今日は帰らせてもらうわ」

 結局、自分が何をしに来たのか、それすら分からなくなってきたまま、家を後にしようとする。

 むー、残念などといいながら、一緒に外に出てきた咲が、ばいばい、と手を振る。

「…………はあ、何故か頭が痛くなってきたわ」

 本当に自分は何をしているのだろうか、そんな疑問を抱えながら、森を出ようと足を進めたその時。

 

 ドサッ、という音がした。

 

 何の音かと振り返ると、家の前で咲が倒れていた。

 

 

 ぴちゃん、ぴちゃんと雨漏りした屋根か雫が滴り落ちる音がする。

 それと共に、咲の瞼が微かに動く。

「う…………ぅん……ゆーかさん?」

 咲の目が開き、自分の名前を呼ぶのを見て、ほっと息を吐く。

 そして、これではまるで安心しているようだと気づき、息を止める。

「ゆーかさん?」

 もう一度、咲に名前を呼ばれ、深い思考から抜け出す。

「あのね、あなた、体調が悪いなら家で寝てなさい。どうしてわざわざ人里まで行こうとするのよ」

 倒れた咲を抱えて初めて気づいたが、彼女の体は酷く熱く、熱っぽかった。

「えへへ……ごめんなさい」

 顔を紅くしたまま、申し訳なさそうに謝る咲に、どうにも毒気が抜かれる。

「また、ゆーかさんにめーわくかけましたね」

「まったくね」

 でも!! といつもより大きな咲の声に少し驚きながら、続きの言葉を待つ。

 

「でも…………また、お花畑にいってもいいですか?」

 

 呆れた…………いつか言った迷惑だから帰れと言った言葉を覚えていたらしい。律儀なことだ、実に人間らしい。

 正直言って、ここで迷惑だから二度と来るな。そう言えば、彼女なら本当に来ないだろう。良くも悪くも純粋なのだから。

 けれど。

「…………勝手にしなさい」

 自分の口は、自分でも気づかないうちに、そう呟いていた。

「……えへへ、ありがとうございます」

 そう言って笑う咲を見て。

「はぁ」

 また一つ、溜息を吐いた。

 

 

 ………………………………。

 

 ………………………………………………。

 

 ………………………………………………………………。

 

 

 思い出しくすり、と笑う。

「そう言えばそんなこともあったわね…………」

 あの後、ついつい気になって結局夜まで付き添って看病していたことを思い出す。

 あの時には一体どうして自分がこんなことをしているのか、自分で疑問に思っていたが。

 今なら分かる…………。

 

 結局、自分は…………………………。

 

 

 

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