向日葵の姉妹   作:水代

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04 巡る命

 夏が終わり、秋がやってくる。

 生まれた命がやがて死にいくのは、必然の理であり、自身が大切に育んできた花たちとてそれは例外ではない。

 悲しくはあるが、それが自然と言うものの摂理であり、それについてどうこう言うつもりも無ければ、それをどうこうしようと言うつもりも無い。

 代わりと言ってはなんだが、枯れ果てた向日葵畑に向かって一言呟く。

 

「お疲れ様」

 

 そう言い残し家へと戻る。

 今年も夏が終わり…………そして季節は秋へと移る。

 ふといつかの秋を思い出す。

「ああ…………そう言えば、あの日もちょうど今ぐらいの季節だったわね」

 その日最初に聞いた少女の声は…………泣き声だった。

 

 

 ………………………………。

 

 ………………………………………………。

 

 ………………………………………………………………。

 

 

 おかしい。

 もうすぐ枯れ落ちそうな最後の向日葵を眺めながら、一人ごちる。

 空を見上げればすでに昇り切った太陽。

 つまりはもう正午過ぎと言ったところなのだが…………。

「来ないわね」

 毎日のようにここに来て花の世話を共にしていたはずの少女が来ない。

 いつかのようにまた風邪でも引いたか?

 とも思ったが、昨日見た限りでは元気そうだったし、雨なども降ってない。

 風邪を引く要因も無かったはずだが…………。

「って…………さすがに心配し過ぎかしら」

 そもそもどうして妖怪たる自身があんな人間の子供を心配する必要が…………と以前なら思っていたかもしれないが。

「それでも、心配してしまうのだから仕方ないわよねえ」

 以前とは違う自身の心情…………なのに不思議とそれが不快でも無いのはどうしてか。

 共に花の世話をしたから? 同じ花を好いているものだから?

 答えは分からない…………否、そもそも答えがあるのかどうかすら分からない。

 ただ、一つ言えることは。

「だからってそれを素直に言えるほど若くも無いのよね」

 それを少女に言ってやらずにこんなところで一人考えている自身は意地っ張りで意地悪なんだろう、と言うことだった。

 

 

 少女が来たのはその後すぐのことだった。

「…………………………」

 じっと見る自身の視線にびくり、と反応する少女。

 他人の大切なものを壊してしまった子供のような、今にも泣きそうな顔に少しだけ心がざわめく。

「どうしたの、咲?」

 なるべく優しく声をかけると、おずおずと少女がやってくる。

 その手に持った鉢植えを見て、なるほど、と納得がいった。

「ゆーかさん…………おはなかれちゃったよー…………」

 いつか咲の家に行った時には立派に咲いていた花が、今は枯れていた。

「ゆーかさんならおはなさんたすけられる?」

 そんな少女の純粋の言葉に、けれど自身は首を振る。

 たしかに自身の能力があればこの花をもう一度咲かせることもできるかもしれない。

 けれど…………。

「いい? 咲…………この花はね、疲れちゃったからお休みしてるのよ」

「おやすみ?」

「そう、だからそれをまた起こすような可哀想なことは止めて上げなさい…………この花は夏の間一生懸命花を咲かせたんだから、秋になったら休ませて上げるの」

 自身の顔を数秒見つめ、それからその視線を手に持った鉢植えに落とす。

「…………………………そっか」

 数秒の沈黙の後、一言、そう呟く。

「ゆっくりやすんでね、おはなさん」

 そう呟いて、鉢植えの中の枯れた花を愛おしそうに見るその姿に。

 何故だか、優しい気持ちが沸いて出た。

 だから…………次の行動は無意識的だったと言える。

 

「…………ほえ?」

「……………………」

 

 抱きしめる…………少女、咲を。

 突然の自身の行動に一瞬、きょとん、としていた咲だったが、すぐに身を委ねてくる。

「いいのよ…………それで。夏の花は夏に咲き、秋には秋の花が咲く。それでいいの」

 寧ろこんな秋の始めまで咲いていたと言うほうが凄いのだ。それも一重に自身の手の中で目を細めている少女の頑張り故だろう。

「枯れても良いのよ…………花を咲かせ、種を実らせ、そして枯れる。そうして次の季節にまた花を咲かせる、そうして時間は…………世界は回っているのだから」

 花がその美を誇っていられる時間はあまりにも短い。

 妖怪である自身から見た人間の生きる時間すら短いのに、その人間よりも遥かに短いそれは、自身からすれば刹那のごとき煌きでしかない。

 それをずっと見ていたい、そんな思いに捕らわれたこともあったが、けれどそれはダメだ。

 刹那に全てを燃やし尽くすかのごとき命の煌き…………それこそが花が美しい理由なのだから。

 けれど何を惜しむのか…………花はその命を燃やし、そして次の命へと繋げる。

 巡る命の()。それは花だけではない、人も動物も植物も…………全ての生命が紡いでいるものだ。

 だから、惜しむことは無い。

「また来年の夏に見ましょうか。今度はここ一緒に植えましょう?」

 そうすれば、また一緒に見ることができるから。

 そんな自身の気持ちが伝わったのか伝わらなかったのか…………けれど確かに顔を上げた咲の表情は、笑っていた。

「うん!!」

 そしてそれは…………咲の笑顔を見た自身もだった。

 

 

 ………………………………。

 

 ………………………………………………。

 

 ………………………………………………………………。

 

 

「花は咲き、種を実らせ、やがて枯れる…………そして種が芽吹き、苗が出て、また花が咲く」

 生まれ、子を宿し、そして死んでいく。世界中どこを見ても変わらない生命の循環。

 人も赤子として生まれ落ち、育ってやがて番を見つけ、子を為し、そして死んでいく。

 それが当たり前の()であり、早死は罪であると閻魔は言う。

 だが罪に塗れた人間の魂も、地獄で浄化されやがて次の輪廻へと向かう…………向かうはずだ。

 まして何の罪も無い子供…………親より後に死んでいることもあり、まともな罪などありはしないはずの子供なのだ。

 だと言うのに…………。

「…………どこにもいない。地獄にもいなければ霊としてさ迷っているわけでも無い」

 だとすれば一体どこに?

 

「…………どこにいるのよ、咲」

 

 




そういえば、全体的に文章短めです。
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