向日葵の姉妹   作:水代

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05 引越し

 

 

 現状を一言で言うと…………引越し中だ。

 勿論自分の、では無い。

 では誰の………………まあ言うまでも無いが、咲のだった。

 

 咲の住む家は自身の住む太陽の畑に近い森にある。

 だが、この場合の近いと言うのはあくまで自身にとって、と言う意味でありまだ十にも満たないような少女にはちょっとした距離だろう。毎日平然とした顔で来ていたから気にしたことは無かったが、道中には妖怪だって出てくるかもしれない。

 だが咲曰く妖怪とすら話合える、とのことであり、物理的な攻撃力は無いが、ある意味かなり反則気味な能力であることには間違いない。

 妖怪とは精神的な生き物だ。元が概念の集合のような存在だけあって、大概の妖怪は精神干渉してくるような能力には弱い一面がある。

 咲の能力は、あらゆる状況において、まず対話と言う選択肢を強制的に選択させる。

 直接手を出そうと言う気力を起こさせなくする。起こしても実際に手を出そうとするとやはり止めるか、と思わせる。

 だが咲が妖怪に襲われない最大の理由は他にある。

 咲は妖怪を恐れない。一切の恐怖を抱かず、対話を始める。

 恐怖の念を持たれないと言うのは妖怪にとって絶対的な弱点の一つだ。

 妖怪の大半は人の恐怖の具現なのに、肝心の人が恐怖しない。それは自身の力の低下のみならず、存在意義を揺るがすことにもなりかねない。

 そう言った人間がいないわけでもない。例えば無知な人間のように、妖怪の恐怖を知らない人間もいる。

 だがそう言った人間は妖怪に襲われればあっさりと妖怪に恐怖する。

 だが咲には先ほども言った通り、襲おうとしても対話に引きずり込まれ、襲えない。なのに恐怖もされない。

 妖怪限定だが最強なのではないだろうか、と思ったりもするが、自身などを含めた大妖怪にはそれは通用しないだろう。真に力の強い妖怪なら能力の縛りを超えてでも襲うこともできる。

 だがこんな小さな子供相手に大妖怪がそこまですることがあるだろうか?

 だが力の弱い妖怪では咲を襲えない。

 つまりよほど運が悪いか、下手をしない限り安全のようだった。

 

 と、まあ道中はこれまで問題無かった。

 だったら何故咲が自身の住家に引っ越してきているのか。

 それを語るには数日前に遡る。

 

 

 

 太陽の畑に咲いていた最後の向日葵も枯れ、いよいよ夏の花も見納めになった。

 元来、夏はここで日がな一日凄ししている自身だが、春には春の、秋には秋の、冬には冬の花を見に幻想郷中を巡るのが通例となっていた。

 ただ問題は…………そう咲だ。

 置いていってもついて来そうなこの少女をどうするか、珍しく悩んだ。

 ともすれば危険な場所にいくかもしれないのに、この少女を連れて行ってもいいものか。けれど置いていって勝手についてきて知らないところで何かあったらどうするのか…………。

 本人に意思を聞けばついていくと言うだろうし、黙っていなくなれば探すだろう。

 一ヶ月近く付き合っていれば素直な性格の子供だ、分かりやすい。

 しばし悩み…………結局連れて行くことにした。

 先日も育てていた花が枯れたと悲しんでいたので、秋の花でも見せてまた気分転換でもさせてやろう、と言う意図もあったりはする。

 

「秋の花を見に行きましょうか」

 

 そう言うと喜んでついて来た咲と二人で幻想郷を歩く。

 咲は飛べないし、抱えて飛ぶのも恥ずかしいものがある。それに道に咲く花を探すのもまた風情だろう。

 そうしてあちこち走り回り、はしゃぐ咲を見て微笑みながらゆったりとした時間を過ごし…………。

 そして夕暮れになる。そろそろ帰る時間だろうと咲を見て…………笑う。

 小さな少女ははしゃぎ疲れたのか、木の根元に生える花を寝そべって見ながら…………眠っていた。

「帰るわよ、咲」

 そう言って少女の肩を揺すると、瞼が薄く開く。

「ほら、帰るわよ」

 そう言って起こしてやると、ふらふらとおぼつかない足取りで歩き出す。

 そんな様子を見て、思わずため息を零し…………。

「ほら、しっかり歩きなさい」

 少女の手を握り、転ばないように気をつけて歩かせる。

 そうして歩き続け、太陽の畑に戻った頃にはすでに夜になっていた。

「…………暗いわね。咲、帰れそうかしら?」

 そう言って咲を見ると、薄く開いていた瞼が落ち、半分以上意識が飛んでいた。

 揺すってみても今度はうんともすんとも言わない。

 はあ、とため息を吐き、考えてみる。

 方法は二つ。一つはこのまま咲の家まで送っていくこと。

 だがこの寝入った少女一人夜の森に佇む一軒家に置いていく、と言うのは少々気が咎める。

 この少女がどうやって森の中で安全に暮らしているのか知らないが、妖怪でもやってきたら一息に食われるだろう。だがそのために一々自身が見ている…………と言うのも面倒だ。

 だったら最初から二つ目の方法…………このまま自身の家に泊めてしまったほうが良いだろう。

 幸いにも太陽の畑周辺は自身の領域として知れ渡っているので、人間はおろか妖怪も入っては来ない。

「そんな場所に良く一人で来たわね…………この子」

 抱き上げてみると軽く、けれど手の中に感じる重みと暖かさ。

「あら、意外と抱き心地はいいのね」

 子供らしく体温が高いので、冬ならゆたんぽの代わりになるかもしれない。

「…………まあ、仕方ないわね」

 今晩一晩くらいなら別にいいだろう。そう思いながら咲を連れて帰った。

 そして、そんな日がそれから何日か続く。

 また寝ている…………仕方ない、今日も寝かせてやろう。

 とまあそんなことが数度続く内にだんだん面倒になってきて…………。

 

「咲、あなたここ住む?」

 

 そう冗談半分に提案してみたら、満面の笑みで頷かれて引くに引けなくなり…………。

 

 そして今に至る。

 

 

 ただ、数日過ごして分かったが、どうやら自分はこの少女が自身の家にいることを不快には思わないらしい。寧ろ自身も望んでいるような時が時々ある。

 ほんの一ヶ月前までとはまるで変わった自身の変化に時々戸惑うが、それを嫌でないと感じている自分に一番戸惑う。

「…………ホント、不思議な子ね」

「ふえ?」

 自身の呟きに首を傾げる目の前の少女に、なんでもないと言って引っ越しの続きを促す。

 はーい、と答えてとてとてと走っていく少女の姿を見送りながら、どこか暖かい気持ちを覚える。

 ああ、やはり自身がこうなったのはあの子が原因だ。

 何となく、理解できる。自身が変わった理由。

「…………まあ、今はいいわね」

 それより引越しの手伝いだ、と思考を打ち切り少女の後を追った。

 

 

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