LUKに全振りした少女の奮闘記   作:騎士見習い

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鍛冶屋にて

 

 

 

空気が張り詰め、足のつま先から徐々に体温が下がる感覚が私を襲う。見慣れた石造りの空間は窮屈さを抱かせるが、さすがにもう慣れた。これから何十回もこんな空間に足を踏み入れなきゃいけないことにため息をつく。

 

 

「ユウの嬢ちゃん!そっちに行ったぞぉ!」

 

 

男らしい声が私を感傷から引き剥がす。私のイメージとはまったく釣り合わない両手剣を背中の鞘から抜く。

右手に片手剣、左手に盾を装備した骸骨《スケルトン・カリバー》と呼ばれるスケルトン系モンスター。がしゃがしゃと骨を鳴らしながら存在しないはずの目で私を見据えるように一直線に走ってくる。

 

 

「すぅーはぁー……。よしっ!」

 

 

脱力し、両手剣を真正面で構える。赤色の光沢を輝かせながら地面を勢い良く蹴る。距離を縮めソードスキルのアシストに身を任せるように両手剣を振り下ろす一連撃の初期スキル《アバランシュ》。

 

「はぁ!!!」

 

スケルトンは盾で防ごうとするが、お構い無しで盾ごと切り捨てる。スケルトンに一本線の攻撃の跡が残り、反撃をする動作を見せずにポリゴンとなって散った。

 

 

「ふいぃ〜これで全部ですかぁクラインさん」

 

 

優しそうな面持ちに無精髭を生やしたギルド風林火山のリーダーであるクラインさん。ちょくちょくパーティーを組んでもらってダンジョンに潜ってます。

 

「そうみたいだな。お疲れ!ユウの嬢ちゃん。初期スキルで一撃KOなんて流石だぜ」

 

 

「ふふぅ〜ん。私のLUKがあればこんなのどんとこーいですよ」

 

 

相変わらず調子に乗ってしまうが私のLUKとクリティカルダメージ激増!!の武器のコンビネーションを知ってからサクサク攻略が進む。

 

 

「ユウの姉さァァん!!ウチらも頑張りましたぜぇ!褒めてくだせぇ」

 

 

わらわらと集合する風林火山のメンバーさんたち。

 

 

「はい、お疲れさんです。各自ポーション飲んで帰り支度!」

 

 

何十回も一緒に潜っていると扱いが雑になってしまう。だがしかし、男性というのは特殊な存在らしく、この扱いは逆に喜んでいる。つまり、こじらせている。

 

 

「はっはっは!!ユウの嬢ちゃんもあいつらの扱いに相当慣れたな。どうだ?いっそのこと俺らのギルドに入ってくれよ」

 

 

「別にいいですけど、私を巡ってドロドロな日々が続き最終的にはギルド崩壊しちゃいますよ」

 

それは勘弁だな、と楽しそうに笑う姿に私もつられて笑ってしまう。

 

帰りの道中は大したこともなく無事にダンジョンから脱出しクラインさんたちに別れを告げながら互いの帰路に着いた。

 

 

 

 

 

カランコロン、とドアの鈴が私の来訪を知らせる。

 

 

「やっほぉ〜!お店やってるぅ?」

 

 

「やってるわよ。ったく、その言葉は年中無休の商売人への嫌がらせかしら?そうだったら今日は臨時休業にするわよ」

 

 

ピンク色のショートカットが似合う第48層リンダースで鍛冶屋を営む鍛冶師のリズベット。みんなからはリズと呼ばれている。

 

「あぁ〜今日が臨時休業になっちゃうなら、このレア素材は別のところで売ろっかな」

 

 

チラッと試すように視線を向けるとリズは悔しそうな表情で両手を上げる。

 

「はいはい、私が悪ぅござんした。ようこそリズベット鍛冶屋へ。お客様、今日はどのようなご要件でいらしたんですか」

 

 

店の中に並んでいる商品を縫うように避けながら、ふくれっ面の友達に近づいてぎゅっと抱きつき頬ずりをする。

 

 

「ごめんごめん。そんな不貞腐れないでよリィ〜ズゥ〜。ちゃんと友達料金で素材は売るからさぁ」

 

「んもぉ、分かったから早く離れなさいよ。今日はどうしたの」

 

 

なんだかんだ許してくれるリズにもっと頬ずりしてあげたいけど怒らせたくないので名残りを惜しみつつも離れる。

メニューを開き装備一色を外すついでに着ているものを全部外し、下着姿のままリズに手渡す。

 

 

「全部修理してください」

 

「やだ」

 

「お願いします」

 

「絶対にやだ」

 

 

下着姿で押し問答なんてしたくないけど、ここで負けるわけにはいかない。ソードスキルかのように決められた動作で膝、手、頭の順番で床につける。

 

 

「本当にお願いします!リズベット様」

 

 

下着姿での土下座というなんとも犯罪的な姿だけど、これならリズも折れてくれるはず。

 

「嫌よ!あんたの装備、無駄にレアリティ高いから時間がかかって割に合わないのよ!他の大手とかの鍛冶屋に頼みなさいよ」

 

 

見事なまでの正論に心が抉られる。

 

「だ、だってぇ〜リズ以外の鍛冶師は万が一壊したら嫌だとか、あんたみたいなソロプレイヤーに割く時間はないとか言って拒否するのぉ〜」

 

思い出すだけで泣けてくる。いや、実際に今思い出して泣いてしまっている。

 

 

「うぅ……リズぐらいだもん!レア装備を見せつけてるのか?って嫌がらせを言わない鍛冶屋は……」

 

 

鼻をすすり、目を必死に擦って涙を拭う。

 

 

「はぁ……分かったわよ。今回は特別だかんね。時間かかるから数日は違う装備でも身につけときなさい」

 

 

「あ"り"か"と"ぉ"〜リズゥ〜!!」

 

 

腰にしがみつき私の語彙力が許す限りの感謝の気持ちを伝える。

 

 

「た、だ、し!これからは一つか二つずつ持ってきなさい!わかった?」

 

「はい!」

 

「よろしい」

 

 

厳しめの表情から一転、母性溢れる優しい笑顔。私が男だったら嫁にしているぐらい魅力的である。

それからは、ほのぼのと何層のどこどこにあるお店のケーキか美味しいだとかで盛り上がっていると再び鈴の音が聞こえ、店の入口のドアに視線を向ける。

 

綺麗な栗色のロングヘアをなびかせ、彫刻のように整った顔立ちをしている一人の美少女が入ってきた。

 

 

「あれ!?ユウちゃんも来てたの!」

 

 

私がいることを予想していなかったらしく驚き半分、嬉しさ半分といった顔をしているがそれでも絵になる美しさ。

 

「おひさぁ〜アスナちゃん。今日は装備のメンテ?」

 

 

「おひさぁ〜。そうだけど、ユウちゃんはどうしたの?」

 

 

それはね、と前置きをしてから視線をカウンターの奥に置かれている山積みの装備一式に向ける。

 

 

「あ、あぁ〜……なるほどね。それだとメンテはまた今度かなぁ」

 

「遠慮しなくていいわよ。元はといえば、この!LUK全振りプレイヤーが原因なんだから。先にアスナのメンテをしてもいいわよね?」

 

 

NOという選択肢を排除されてしまい首を縦に振るしかできない。申し訳ない気持ちで心がいっぱいである。

ごめんね、と苦笑いのアスナちゃんは腰に携えているレイピアをリズに差し出す。

 

アスナちゃんを交え再びガールズトークに花を咲かせていると何かを思い出したアスナちゃん。

 

「そうそう、今度のボス攻略会議にユウちゃん出ない?クラインさんから聞いた限りだとレベルも十分足りてるらしいし、団長も早く来て欲しいって言ってたよ」

 

「良い機会じゃない。あんたもそろそろ誰かのためにその幸運を振りまきなさいよ」

 

「う〜ん。みんな優しくしてくれる?ぽっとでの新参者に無理難題を押し付けたりしない?」

 

 

今まで会った最前線の攻略組はキリトくんを初めとするクセがあるが全員優しかった分、その他大勢がどんな人たちなのか心配でしょうがない。

 

 

「そんなネガティブな考え方しなくても大丈夫だよ。みんな優しいから。それに私個人の気持ちだと女性の割合がすごく少ないからユウちゃんには早く来て欲しいの」

 

 

両手を握られながら熱弁したアスナちゃんの気持ちに答えるべく、二つ返事で参加することを決めた。

最前線攻略組の初参加の前祝い、とアスナちゃんはメニューを開き何かをオブジェクト化した。武器でもアイテムではない香ばしい匂いが店の中を包み、こんがりと焼けた円形の食べ物。

 

「クッキーだぁ!!!」

 

 

嫁力の高いアスナちゃんは裁縫や料理スキルを鍛えてるから作るものはどれもクオリティが高い。リアルの味をSAO内で再現するのは大変だと聞いているが、努力家のアスナちゃんなら本物並の味にしているに違いない。

 

 

「じゃあ私は紅茶でも持ってくるわ。最近奮発して高級な茶葉を買ったんだよね」

 

 

これまた女子力もとい嫁力が高い者が一名。一人だけで何も持ってこないのは負けた気がするからアイテムストレージから楽しみにとっておいた伝説のクリームと呼ばれているレア食材『ジュエルクリーム』を取り出す。

 

 

「せ、せせせ折角だから、み、みみみんなで食べよう」

 

 

入手方法の過程がとんでもなく多いから入手するまでの辛かった時間がフィードバックし、手が震えてテーブルに置くのを躊躇ってしまう。

無理しなくていいんだよ、と女神の囁きが私を諭してくれるがリズに迷惑をかけた謝罪の気持ちとして覚悟を決め中央に置く。

 

 

「それじゃあ気を取り直して女子会でも再開しましょっか。って、これジュエルクリーム!?誰の!?アスナ?」

 

 

「ううん。ユウちゃんからの差し入れだよ」

 

 

「太っ腹だねぇ〜。これで装備の件はチャラにしてあげよっかな。しっかりと味わってもらうわ、ありがとね」

 

 

「私からもありがと」

 

 

二人からの感謝と笑顔でほんの少しは救われた。そう言い聞かせてる私がいました。目の前にはクッキーに紅茶にクリームとオシャレな女子会が開催されようとしたが、

 

「そうだ!せっかくだからシリカちゃんも呼ばない?」

 

 

ナイスアイディアと言わんばかりにリズと一緒に親指を立てる。それを確認したあとアスナちゃんはぱぱっとメッセを打ち返信を待っている。

シリカちゃんはSAO内唯一と呼ばれているビーストテーマーである。ピナと名付けている小竜を相棒として中層でアイドル的な存在として活躍している。

 

 

「シリカちゃんすぐに来れるって」

 

 

「早く来てぇ〜シリカちゃんぅ」

 

 

女子会を始めたいという欲求よりもシリカちゃんをモフりたいという衝動が私の心を駆り立てる。

 

「そういえば、あんたシリカとはどうやって知り合ったの?」

 

「それ私も気になる」

 

「ふふ〜ん知りたい?」

 

「「知りたい知りたい!」」

 

「では、教えてしんぜよう」

 

 

はてさて、シリカちゃんが来るまで昔話に花を咲かせましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これからぼちぼち投稿していくので感想や意見もドシドシよろしくお願いします。

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