ハリー・アップッ!!   作:炉心

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同時投稿の本編が結構シリアス調なので、こっちは軽いノリで書きました。

本編の息抜き程度に読んで頂ければ幸いです。





ハリー・アップッ!! EXTRA ~小話諸種・壱~

 

 

 授業という名の学生にとって逃れざる拘束時間が終わり、約束された束の間の休息の時。

 

 短く貴重な時間を教室の内外で思い思いに過ごす学生達。そんな一時の喧騒の中で、ある教室の窓際にだらけ気味に陣取る者達がいた。

 

「なぁー、ルシーブル。いい天気だなー」

 

 窓枠に手をかけ、体を凭れかけた眼鏡の少年が空々しい声をあげる。

 

「あ~……微妙に曇ってる気がするけど」

 

 窓際の自席にくだけた様子で座っていた萌木色の髪の少年―――セアレは、自身の苗字の名指しから始まった学友の声に反応し、窓より見える空模様を一瞥。灰色がかった雲に所々覆われた空を確認し、とりあえず学友の言葉の誤りを指摘する。

 

「俺、実は金髪な子がストライクゾーンなんだ~」

 

 指摘されたことには一切反応せず、少年は己の眼鏡を外して何処へともなく視線を送り、脈絡もなく己の嗜好をぶっちゃける。

 

「そう言えば、午後からは晴れるって天気予報で言ってたな」

 

「『お嬢様』って、単語だけでマジで惹かれるよな~」

 

 学友のカミングアウトを無視してセアレは自分の知る情報を誰にともなく語る。頬杖をついた状態で窓の外に目を向け続け、友人の方には一切視線は寄越さない。

 

 そんなセアレの対応をこれまた無視して、眼鏡の少年は己の偏好の吐露を続ける。

 

「午後一の授業は外で体育だからな。晴れてくれるのは助かるなー」

 

 セアレは本日の午後の予定を思い出し、口走った念望は至極真っ当な内容だった。口調が多少棒読み的だったが。

 

「俺的にはむしろ、『お兄ちゃん』とか『お兄さん』って言って慕ってくれる年下がイイな~」

 

 急に口を開き、女性陣が聞いたらドン引きしそうな妄想を堂々と言いのけたのは、それまで友人二人の会話をセアレの横の席に体を完全に預けた状態で流し聞きしていた灰色の短髪の少年だ。

 

「あ、『先輩』って言って毎朝起こしに来てくれる後輩でもオーケーだな」

 

「おいおい、ギャルゲーのしすぎだろ。そんな妄想的シチュエーション、現実にはまず有り得ないって」

 

 呆れ顔で友人の妄言に物申しする眼鏡の少年。両手を肩の高さまで上げて開き、左右に頭を振った様は、さしずめヤレヤレといった佇まいだ。

 

「予定じゃ球技をするんだっけ?」

 

 前回の授業の際に教師からされた予告では、本日の体育は球技をする予定だ。食後にあまり運動したくないタイプのセアレとしては、出来るだけ動かずに済む要素のある種目であってもらいたい。

 

「バカ野郎! 現実がなんだ! 妄想のどこが悪い! どんなに険しい道程でも、理想を追い求め、夢を見続けるのが漢ってもんだろ!! 好きなもんを好きと言い続けるのが漢ってもんだろう!! 何にせよ、年下万歳!! ロリっ子も万歳!! これが俺の正義だ!!」

 

 愚かで浅はかな友人の言葉に、握り拳を振り上げ、漢としての矜持と夢を叫ぶ少年。髪と同じ灰色の瞳の奥には、熱く激しい情熱の炎が燃え上がっている。それは、決して挫けることのない不屈の心を宿す者の姿だった。

 

「ッ!! ……そうか。そうだなっ!! 俺は間違ってたよ! 夢は諦めちゃいけないんだよな!! 『金髪』と『お嬢様』要素だけじゃ足りない! 『ツンデレ』の要素も加わってこそが本当のマイフェイバリット!! そういうことだなっ!!」

 

 魂を揺さぶる友人の鼓舞。現実的という言葉を言い訳にして、曇りきっていた己の眼鏡を拭いさる言葉に、少年はそれまでの自身を恥じる。真理は常に己の心の中にある。自分を欺いてまで友人達に保つ体面などに意味があろうか? 否、無い!!

 

「…………」

 

 雲の切れ間から陽光が射して来て、セアレの眼下に広がる校庭の一部を明るく照らし出す。どうやら、予想より早く天気は回復しそうだ。

 

 先刻から友人達の声に似た空耳が五月蝿いが、侭有ることなのでセアレは気に留めないことにしている。おそらく、今教室にいる他のクラスメイト達も同様の思いを抱いていることだろう。

 

「―――時にルシーブル。お前、先週の週末何してた?」

 

 恐ろしいまでの切れ味を誇る言葉に、セアレの思考は一瞬で分断される。言葉を発する瞬間、少年の掛けていた眼鏡の縁が陽光に反射したわけでもないのにギラリッと煌めいた。

 

「……さて、次の授業は何だっけ?」

 

 そろそろ休み時間も終わる。思考回路が再び巡り始めたセアレは、忙しなく次の授業で使用する教科書類を準備しだす。

 

「「…………」」

 

 少年二人の無言の間が重なる。向ける視線は容疑者を見る刑事のそれだ。

 

「――――ルゥゥシィィィーブルゥゥゥゥ!! てめえ! いつの間にあんなお嬢様系金髪美人と知り合いになりやがった!!」

 

「見たぞ! 週末に無茶苦茶可愛い女の子と連れ立って街を歩いてるのを!! 誰だあれ?! お前の妹じゃねえよな? どう見ても初等科くらいの年齢の子だったぞ!!」

 

 教科書を出し終えたセアレに、野郎二人がもの凄い勢いで掴み掛かる。

 

 激昂と怨念が混じったような表情の二人は、勢いもそのままに座っていた椅子ごとセアレを壁際まで押し込む。恐怖は感じた。だが、それ以上に二人揃って涙目だったのが非常に気持ち悪いと思ったセアレの心情は間違いではあるまい。

 

「正直に言え!! どういう関係だ?! マジで友達なのか?! あの人、彼氏とかいるのか?! 名前は?! いや、それよりも――――」

 

「いくつだあの子?! まさか親戚とかか?! やっぱ『お兄さん』とかって呼ばれているのか?! 少し背伸びしているような様子がなんとも最高だったけど!! あぁクソぅ、もう――――」

 

 怒涛の口撃だった。間断無き詰問の嵐だった。

 

 そして、

 

「「紹介してくれ!!」」

 

 最後に二人見事にハモった台詞は、究極的過ぎる程に素直な内容だった。その一直線な眼差しと願いは、ある種の感動すらも想起させるほどのものだったと後にセアレは語っている。

 

「え~……あ~……」

 

 だが、だからと言って安易な答えは返せない。言い淀むセアレに絶命の追撃の声が放たれるまで残り一秒。

 

「―――随分と楽しそうな話をしてるじゃないか」

 

 審判の刻を告げる声だった。

 

 セアレの視界の中で詰め寄っていた友人二人の顔が急速に青褪め、一拍置いて硬直させた体を懸命に引き摺りながらフェイドアウトしてゆく。その様子を眺めながら、滝のような汗を流し始めた自分の体の変化を明確に受け止めつつ、朝のニュースで見た今日の運勢を思い返す。

 

(そうだ、「今日は友人や同僚との会話に注意」って言ってたな)

 

 友人達と入れ替わるようにセアレの視界に登場したのは、ハリー・トライベッカ。彼女の登場で何かが始まり、そして終わろうとしている。確定された未来に対し、セアレにそれを回避する術はない。

 

「話を聞こうか?」

 

「―――断じて拒否する!!」

 

 とても話だけで済みそうな雰囲気じゃない。

 

 ハリーの開いた口から紡がれた言葉は誰が聞いても穏やかなものだったが、セアレにはそうは聞こえなかった。

 

 拒絶の言葉を叫びながら思わず椅子から立ち上がり、この場から全力脱出することさえ視野に入れた姿勢を取る。

 

「…………」

 

 数分前に友人二人から向けられた以上のプレッシャーを感じる視線。ハリーの発する無言の圧力に懸命に耐えるセアレの胃はキリキリと悲鳴を挙げている。

 

 そんな痛みと心労が重む状況からセアレをハリーは開放する。

 

「いいから、四の五の言わずに話を聞かせろや」

 

 セアレの制服の襟をガッシリ掴み、有無を言わさず引き摺り歩き出す。97番目の管理外世界にいた皇帝の暗殺を企てた刺客も真っ青な傍若無人ぶりを発揮するハリーである。

 

「ま、待て、ハリーっ!! 何処に連れて行くつもりだ?!」

 

 このままでは教室から強制連行されてしまう。連れて行かれる場所は体育館裏かはたまた物置と化した無人教室か。

 

「授業! もうすぐ次の授業が始まるから!!」

 

「―――ハッハッハッ、大丈夫」

 

 哄笑に加えてセアレに向かって振り返ったハリーの見せた表情は笑顔。清々しいまでに寒気と殺気を感じる極上の笑顔だった。所謂、顔は笑っていても目は笑っていないというやつだ。

 

「オレも一緒にサボるから気にするな」

 

 堂々と出席放棄を宣言。

 

 必死に抵抗するセアレを無視して再び歩き出す。抵抗する大の男を平然と引き摺ってゆくパワーは流石と言えるだろう。

 

 ハリーと抗議の声を上げるセアレの存在が教室から遠ざかるのを尻目に、教室内は次の授業に向けた準備で俄かに慌ただしくなる。誰一人、彼等がこの後の授業に出席しないことを咎め立てする者はいない。

 

 クラスメイト達が皆一様に思っていることは唯一点。

 

 どうか、授業明けの昼休みまでにはハリーの機嫌が治りますように。それだけだ。連行されたセアレの安否に関しては……まあ、この際、二の次三の次くらいにしか思っていなかったりする。

 

 そんな中で、

 

「……ちくしょう。ずり~よ~アイツばっか」

 

「泣くな」

 

 灰色の瞳を潤ませて世の不条理を口にする友人に向かって、眼鏡を押し上げつつ己の悔しげに歪んだ表情を隠した少年の呟きが教室に小さく響いた。

 

 

 

 

 

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