ハリー・アップッ!!   作:炉心

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このシリーズでは初登場な二人ですね。

どこか凸凹コンビのような、仲の良い彼女達が好きです。





ハリー・アップッ!! EXTRA ~小話諸種・弐:九と拾壱の姉妹閑談~

 

 

 天気も良く、時折吹く風もうららかな世間一般で言うところの週末の穏やかな昼下がり。

 

 クラナガン市内の某所喫茶店のオープンカフェにて、のんびりと午後のティータイムを楽しんでいる女性が二人。片方は髪を後ろで編み上げ、後頭部から逆立った髪の先端を覗かせるような特異な髪型をし、もう一方はシンプルでボーイッシュなショートヘアーに纏めている。彼女達に共通しているのは髪の色。その赤い発色の髪は、二人の間に漂う親密ながらも遠慮の見えない空気と似通った顔立ちも相まって、姉妹関係を想起させるに充分な要素だった。

 

 この二人の名はノーヴェ・ナカジマとウェンディ・ナカジマ。

 

 多種多様な姓名の存在するミッドチルダでも、少々珍しい部類に入る苗字を共に持つ二人は、言うまでもなく姉妹の間柄だった。

 

「う~ん、美味し~っス!! やっぱ、たまには接客する側じゃなくて、接客される側でいたいっスよね~」

 

 一口頬張ったのはこの店オリジナルの季節のフルーツを使ったパフェ。少々酸味の効いいたサワークリームと新鮮フルーツの絶妙なコラボレーションが与える至福の時に、ウェンディは破顔を通り越して蕩けたような顔になる。

 

「そういやぁ、ウェンディは喫茶店でのバイトもしってんだよな。ハッキリ言って、接客業なんてのはあたしにはゼッタイ無理なタイプの仕事なんだが……」

 

 横目で嬉々としてパフェを食べるウェンディの状況を見ながら、エスプレッソを啜るノーヴェ。そんな彼女の前に、お店のウェイトレスが注文していたティラミスのバニラアイス添えを運んでくる。

 

「どうも。……しかし、チンク姉達遅いな。この場所を指定したのはチンク姉だよな? 一応、一回連絡入れてみるか?」

 

「いいんじゃないっスか、別に焦らなくても。ヴィヴィオ達と教会本部に寄ってから来るってい言ってたし、少しくらいは待っても構わないっスよ」

 

「そうだな。チンク姉だし、心配いらないか―――ウェンディと違ってな」

 

「あー、どういう意味っスか? それ~」

 

 待ち人が少々遅れてはいるが、時間厳守の約束というわけでもなければ、相手の方も勝手知ったる家族達と友人の少女だ。敢えて急かす必要もない。

 

 ブーブー文句を垂れているウェンディをしたり顔でスルーして、ノーヴェも自分の注文したデザートの攻略に当たることにする。

 

 今は別居していて、湾岸警備隊の特別救助隊で前線バリバリで働いている姉が以前お奨めしていた一品だ。実は結構前から食べるのを楽しみにしていた。

 

「うにゃ?」

 

 不意にウェンディが素っ頓狂な声をあげる。

 

 切り分けて口に運ぼうとしていたティラミスの欠片をお皿に戻し、変な声を発したウェンディを疑問顔で見るノーヴェ。

 

「……ノーヴェ。あっちの大通りを歩いてる女の子……コロコロっちじゃないっスか?」

 

「あん?」

 

 持っていたスプーンでカフェに面した通りの向こうを指すウェンディ。ノーヴェはその失礼で少々無作法な仕草に顔を顰めながらも頭を巡らせば、ウェンディが変な愛称で呼んだ知り合いの少女の姿を確かに先の大通り付近に確認出来る。

 

「一緒に歩いているのは……お兄さんか何かっスかね? パッと見たところ、全然似てないけど」

 

 戦闘機人の視力は良い。

 

 魔力強化なんぞを使わなくても、その気になればサバンナ地帯に住む狩猟民族の狩人達と同等レベルに見える。特に、狙撃型のウェンディに至っては、数百メートル先の信号の点滅等も余裕で判別出来るくらいの視力を有しているのだ。

 

 たかだか十数メートル程度の距離しか離れていない向こうの通りにいる人物の人相を識別することなど造作もないだろう。

 

「いや……、特にそんな人がいるって話は聞いたことないけどな……」

 

 ウェンディには劣るが、ノーヴェの目にも対象の人物は認識出来ている。

 

 自分達姉妹とも繋がりの深い、『高町ヴィヴィオ』の友人の少女。文系型の穏やかな気性だが、友人であるヴィヴィオの影響で最近ではストライクアーツも始め、その関係でノーヴェとも接する機会の増えた少女だ。

 

「それにしても……、なんだ? 雰囲気が……」

 

 何度かヴィヴィオと会う時にも見たが、その時も清楚且つ品の良いワンピース姿等が多かった。特に良家の生まれではないと言っていたが、根本的に育ちの良さが感じ取れる服装だった。

 

 だが、今日に関しては遠目で眺めているだけでも色々と違和感が多かった。

 

 最初にノーヴェが目に付いたのは髪型だった。

 

 以前にも何度かノーヴェが会って見た時は、決まって長い青磁色の髪をツーテールにしていた為、年相応の幼さを感じるものだったが、本日の髪型はまず全体はストレートにおろし、左側面の髪の一部を編み込んでそのまま肩にまで伸ばしている。

 

 その上でファーの付いた真紅のベレー帽を被ることで、少女の落ち着いた髪の色との対比を生み出しているようだ。

 

「なんか、前にヴィヴィオと一緒にいた時よりも服装も大人っぽい気がするっスけど」

 

 そうなのだ。

 

 ウェンディの言葉通り、髪型の次にノーヴェが気になったのが今日の少女の装いだった。

 

 ワンピースタイプなのは普段と変わらないが、色合いがアイボリーホワイトを中心にチャコールグレーのレース柄を枠組みとして重ね合わせたシックなタイプの膝丈のワンピースに、足下はダークブラウン調の編み上げショートブーツ、コバルトブルーとペパーミントグリーンの二色を組み合わせた涼しげな色調のショールを羽織った出で立ちは、服全体の趣味とバランスの良さも相重なって、少々大人びた印象を受ける。

 

「う~ん……」

 

「あ、少し躓いたっスね。慣れない靴を履いてるからかな? ―――連れの男の子が手を差し出して支えて……そのまま手を繋いだ状態で歩き出したっス」

 

 唸るノーヴェの視線の先には、躓いてバランスを崩していた少女に手を差し延べる少年の姿。

 

 自身の粗相と思い掛け無い事態に対処出来ずにオタつく少女の様子を伺い、苦笑した顔で何事かを語り合ったあと、萌木色の髪の少年は特に気にした風もなくオロオロしたままの少女の手を掴んで歩き出す。

 

「……ノーヴェ。なんか、あたしにはコロコロっちの反応がとても家族とか親類のお兄さんに向ける類のものじゃないように思えるんっスけど……」

 

「……奇遇だな、ウェンディ。あたしもそんな気がしていたよ」

 

 俯いた状態で年上の少年に手を引かれて歩く少女は、遠目から見ていても頬が赤らんでいるのが確認でき、時たま視線を上げてはチラチラと先導して歩く少年の横顔を見ている。

 

 視力良好なノーヴェとウェンディには、少女の瞳にある種の熱と潤みが湛えられているのが見て取れた。

 

「なんと言うか……最近の子はイロイロと成長が早いって言うし、確かにそういうのに憧れを持ち始める年齢でもあるっスからね」

 

「まあ……な」

 

 歯切れ悪く答えるしかないノーヴェ。ウェンディの言葉は一般的なものかもしれないが、戦闘機人として普通とは違う成長の仕方をした自分には、正直言って答えるのに窮する内容でもある。それは、知ったような顔で諳んじていたウェンディもまた同様のはずなのだが。

 

「ヴィヴィオとかはどうなんっスかね? そんな感じの話は聞いたことないっスけど……」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

 頭に浮かんだ金髪に虹彩異色の少女の笑顔。

 

 曖昧な言葉で濁したが、実際に思考を巡らしてみれば、何故かその少女からはその手のイメージが然程湧かない。

 

「多分、なさそうではあるけどな……」

 

 然もありなん。

 

 女性ばかりでの家庭環境を形成している為か、精強な母親達の影響か、基本的に異性に対して求めるモノの方向性と度合いが少ないようにも思える。ただ単に、今のところは花より云々(それは格闘技だったり、魔法学習だったりと色々だ)なだけなのかもしれないが。

 

「友達と恋バナをしてるヴィヴィオってのも、見てみたい気はするんっスけどね~。きっと、可愛いこと間違いなしっスよね~」

 

「そいつは……まぁ、確かに興味を惹かれるけどな」

 

 そんな健全で微笑ましい光景なら、傍から見てみたいとも思う。どうも最近、面倒見の良さと保護者的な性格が顕著に現れてきているノーヴェだった。

 

 そうこう言う内に、少年と少女の姿は人混みに紛れて去ってしまう。

 

 結局、知り合いの少女と見知らぬ少年の関係性も本当のところの状況も掴めないままだった。現状では野暮な推測と邪推しか出来ないが、本来出歯亀的な行為自体が直情的で真っ直ぐな性格上それほど好きではないノーヴェにとっては、わざわざこれ以上の追求をしようという気も起きない。

 

 なんとなく浮かんだ未来予想図として、将来あの少女から女性としての相談を持ち掛けられる事態になるかもしれないが、そのような状況になったらなったでその時にでも考えればいいかと、半ば投げやり気味な気持ちで納得することにした。

 

 「アドバイスとか求められたらどうしよう……」とか「年上としての威厳が……」とかも内々に考えたりもしたが。

 

「好きな人……か……」

 

 不意に聞こえた呟きが、ノーヴェのもの思いを打ち破る。同時に、別の問題が発生する。

 

 思いもよらぬ空気が流れた。

 

 寸刻前までウェンディとの間にあった弛んだ空気は消え去り、微妙で居心地の悪い空気が二人の周囲を覆い尽くしたようだ。

 

「ノーヴェは……いないんっスか? そういう相手……」

 

 予想はしていた。だが、まだ心の準備が出来ていない切り出しでもあった。

 

「あたしは……―――あ~、ウェンディの方こそ、どうなんだよ?」

 

 家族であり非常に仲の良い姉妹でありながら、何故か今までウェンディとは話す機会のなかった話題。他の家族とならば普通に話していたかもしれない話題。近しい姉妹に対する些細な見栄か気恥かしさ故かは分からないが、どこかでお互いに避けていたかもしれない話題。ノーヴェはすぐに適当な答えを見つけられず、結局矛先を相手に向き返すことにした。

 

「う~、ノーヴェ、人の質問に質問で返すのはズルいと思うっスよ~」

 

「「…………」」

 

 一瞬の交差の後、互いの視線を逸らし、押し黙ってそれぞれの思考を巡らす姉妹。

 

「なん……でも……そんな風には……あいつは……」

 

「…………」

 

 蚊の囁くようなレベルでブツブツと愚痴るように呟くウェンディと、手元のエスプレッソの暗褐色の水面を見詰めながら無言のままで思考の海に没頭するノーヴェ。

 

 戦闘機人としてこの世に生を受け、嘗て戦うこと以外の世界を知らなかった彼女達が、今何をそれぞれの心の中で思い描いているのか。

 

 それは、当の本人達にもいまだに掴みかねている世界なのかもしれない。

 

 だが、お互いに完全にあさっての方向を向いていた彼女達は気づいていなかった。お互いの頬は微妙に赤く染まり、きまりが悪そうしながらも優しく微笑みを浮かべたその顔。それこそが全ての答えを示しているようなものだということに。

 

 

 






最近、切に思います。

執筆速度を上げたい。

毎日投稿出来る皆様、凄すぎです……。



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