ハリー・アップッ!!   作:炉心

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 今回はタイトル通り、本編11作目ではなく、9作目の『その弐』になります(所謂、某大作RPGの『ナンバリング数字―Ⅱ』みたいな感じです)。

 先に言っておきます……かなり(作者の)妄想と(登場人物の)暴走が爆発しました!!

 お読みになる皆様。どうか広い心で受け入れていただけることをお願い申し上げます。。





ハリー・アップッ!! ~スローデイズ・祭(その弐)~

 

 

 どこの場所でもそうなのかもしれないが、お祭り事というものはある種の異空間にして別世界であり、日常とは切り離されたその特殊な世界では、参加者は大よそにして普段とは異なった心境や行動に至り易い。平常は冷静で物静かな者が、突然積極的で粋狂な行動に出たり、周囲から予想外と思える奇抜な一面を見せたりもする。

 

 それは、お祭りの持つ独特の享楽感を伴った空気が要因であったり、平素では機会のないお祭り独自の特別な服装をすることによって生じる得も言えぬ高揚感が起因していたりもする。

 

 今回、成り行きによって急遽ベルカ自治領近郊の宿場町で開催されていた異世界風のお祭りに参加することになった一組の少年少女。彼等もまた、普段とは違ったお互いの姿や周りの雰囲気に流され、浮かれたと言える行動結果を残したのだった。

 

 では、どのような事態に陥ったのか?

 

 先ず先制の攻勢を加えたのは少年の側からであり、彼の無自覚の行動諸々だった。

 

 次いで攻勢を得たのは少女の側だが、彼女もまた悪意のない行動を無自覚に行うタイプだった。

 

 少年ことセアレ・ルシーブルと少女ことジークリンデ・エレミアの双方にこの日この時に与えられたダメージの数々。その一連の大まかな出来事だけを抜粋してお伝えするが、語ることが出来ない残りの全ての事柄に関しては、皆様の想像の内にて推して量ってもらいたい。

 

 

*      *      *

 

 

 セアレがジークの手を取って歩き出したのは、ほぼ無意識に依るものと言えた。

 

 人混みに向かって進むに加えて、浴衣姿という着慣れない格好をしているジークとはぐれてしまうのを回避しようとする思惑が暗に作用しての行動だったのかもしれないが、すぐに己の左手から伝わる温かくも柔らかい感触に気がつき、自分が握っているものが少女の手である事実に思い当たったセアレ。

 

 気がついた時点ですぐに何気なく手を離せば問題はなかったのかもしれない。しかし、意識しだして多少の時間を経てしまった現状では、二人の繋がれた手を離すタイミングが掴めないのがセアレの内心だった。

 

(……ジークは気にしてないっポイんだよな)

 

 ジークが手を握られていることに対して特に何も言ってこない為、セアレとしても今更下手に意識していたような行動に出ることで、ジークとの間に微妙な空気を作りたくないとの思惑もあったのだ。

 

 正直、ジークと手を繋いでることに関しては、セアレにとっては苦ではなく(当然だ)、寧ろ普段の自分は昔馴染みのポニーテールの少女に手を引っ張られる(もしくは、引き摺られる)割合の方が圧倒的に多い為、自分が誰かの手を引くこの状況は少々新鮮な感覚もあったりした。

 

 一方、ジークの方はと言うと。

 

(―――手っ!! ウチの手を握られとる!! セアレがウチの手をギュッてしとる!! ど、どないしよ!? ウチは格闘技ばっかりやってて、普通の子みたいに手のケアとかも殆どしてへんから、絶対に綺麗じゃないし固い手をしてるハズやのに!!)

 

 必死で表情には出さないようにしながら、内心で狂乱寸前になるほどテンパってた。

 

(……ああ、でも、暖かいな~。ヴィクターやミカさんとかに握られた時もあるけど、ずっと熱くて……男の人って、やっぱ体温が高いんかな? それに何より、セアレの手って、予想よりも大きくて力強い……)

 

 加えて未知の体験に思いを馳せていた。

 

 繋いだ手を離すなどと言った考えは、ジークの思考の片隅にも存在していなかった。そんな余裕がないとも言えたが。

 

 結果、お互いの思考は噛み合わないにも関わらず、手を離さないという一点に関しては微妙に双方の思惑が噛み合っている状況だったのだ。

 

「え~と、ジークは何か覗いてみたいお店とかってある? 結構、いろんな感じの店が出店してるみたいだけど?」

 

 現在、セアレとジークは様々な出店が軒を連ねている町の広場を、人混みの間を縫うようにして進んでいるが、彼等の目に映る店のほぼ全てがミッドチルダでは普段あまり見かけない類の独特の店構えや品物を扱っているように見えた。

 

 勿論、普通に他の町のフェスティバルやイベント等に行けば見受けられるタイプの店(クレープ屋台やドリンク販売店)もあるのだが、このお祭りの主旨である異世界の『縁日』なるものを模したが故に、風変わりな系統の店が多いのも仕方ないとも言えた。

 

「―――んえ? あ、ええっと、特にウチは……」

 

 セアレの言葉に我に返り、慌てて目をキョロキョロさせて周囲の店を確認するジークだが、あまりこの手のイベント的なものに参加した経験がないのか、自分の意見をすぐに表現出来ずに言い淀んでしまう。

 

「う~ん……『たこ焼き』、『いか焼き』、『射的』に『リンゴ飴』に『焼きそば』、『くじ引き屋』と『ベビーカステラ』……なんか、当然だけど食べ物の店の比率が高いな」

 

 ザッと見渡して出店の看板(ミッド語と異世界語が両方書かれている)を読み上げていくセアレ。馴染みのない言葉もなるが、なんとなくイメージ出来るものもある。

 

「そうだ、ジークもまだ夕食は食べてないよな? 折角だし、今日の夕食は出店の食べ物ってことでいい?」

 

「うん、ええよ。ウチもどんな食べ物があるか興味あるし、イロイロと試してみたい」

 

 セアレの提案に、笑顔で頷くジーク。

 

 実は、先程から周囲の様々な店から漂ってくる良い匂いに、密かに食欲を刺激され続けていたのはセアレには内緒だ。

 

「じゃあ、適当に旨そうなモノを端から試していきますか」

 

「そやね」

 

 行動指針が決定し、先ずはどの店からにしようかと思案と探索を開始する二人。

 

「あっ」

 

 余所見をして歩いていたからだろうか?

 

 人混みの中ですれ違う人を避けきれず、ぶつかった拍子に少々バランスを崩したジーク。普段のトレーニングウェア姿ならば踏ん張りも効いただろうが、今日の浴衣に草履姿ではそうもいかなかった。

 

「―――とっ」

 

 バランスを立て直すことの出来なかったジークの体は、そのまま横にいたセアレの腕へと吸い込まれる。

 

「っああああ!! ご、ごめ……セアr―――あうっ!」

 

 すぐさま離れようとしたジークだが、すれ違う人達によって更に体を押され、腕にもたれ掛かった状態から、ジークの体の前面が完全にセアレの左腕に押し付けられる状態となる。

 

「ジ―――っ!?」

 

(ちょ、ジーク!? ちかっ、近いっ!! てか、柔らかい!? 俺の腕に!? 俺の腕が!? 凄く柔らかくて気持ちのいい……何!?)

 

 おそらくジークの名前を呼ぼうとして最初の一文字で頓挫し、現状と己の腕より伝わる未知の感覚によって脳内が混乱状態になるセアレ。

 

 ジークとセアレは浴衣と甚平というあまり厚手ではない布地の衣装を着ている為、人混みにグイグイ押されて密着したことで、衣服越しにもハッキリと感触が伝わる。豊満とは言い難いが、それでも確かな存在を主張するそれは、柔らかく形を変えつつも張り返すような弾力を秘めている。

 

(うにゃあああぁぁぁぁ!!!! 抱きついてる!! 完全にセアレの腕にウチは抱きついてもうてる!! ううん、そ、それよりも!! う、ウチのカラダ! む、胸がセアレの腕に当たってる!!)

 

 ジークの方は先程の手を握った当初以上のテンパり具合だった。顔は当然のように真っ赤だが、それを気に留める余裕すらない。

 

(な、何してんのや、ウチは!? は、早う離れな!! セアレにバレてまう!! この衣装はそれが普通やって言われたけど、そんなん関係ない!! 今、何も着けてへんのがセアレに伝わってまうっ!!!)

 

 ジークの脳内は既に暴発寸前だった。目にはうっすら涙すら浮かんでいる。

 

(―――あ、あれ? なんよ、足に力が入れへん。思い通りに動かへん)

 

 必死にセアレから離れようと試みるが、どうやら思いもよらない事態に、ジークの足腰が立たなくなったようだ。痺れたような感覚が下半身を覆い、上半身がフワフワと宙に浮いているような錯覚さえ覚える。

 

(ジ、ジーク!? なんで更にくっついてくるんだ!? どうしたんだ、一体!?)

 

 己の意思で思うように動かない足に悪戦苦闘するジークだが、結果的にその行為がより二人の密着具合を促すことに繋がり、セアレの混乱も深まることになる。

 

「きゃぅ!! セ、セアレ、ホンマにごめんっ!! あ、足が…なんか…変で……ひゃうっ!!」

 

「うわっとッ! ジ、ジーク、大丈夫なのか!? どわっ!? ま、また、更に強く腕に感触がぁぁぁ!?」

 

 お祭り参加から僅か十数分で既に顔面ヒートアップ状態全開の二人。

 

 この後お互いが落ち着きを取り戻し、再び出店巡りを開始するまでに、倍くらいの時間を要することになるのだった。

 

 

*      *      *

 

 

「大分、お腹が膨れてきたな~」

 

 食べ終えたばかりのお好み焼きが盛られていた空のパックと箸をゴミ箱に捨て、セアレは己のお腹を軽く擦る。

 

 色々と暴走気味だったお祭り参加直後の状態は、セアレとジーク双方の暗黙の了解によってひとまず無かったことにして、気持ちを切り替えてお祭りを楽しむことにした二人。

 

 その結果、お互いの手は離して行動してしまうことにはなったが、『花より団子』等と謂うように、健康な食べ盛りの年頃の少年少女が、巡った出店の食べ物制覇行脚を一端始めれば、意識は当然そちらの方へと流れていくものである。

 

 すこぶる健全で穏やかな雰囲気となった二人は、現在都合3軒目の店を制覇し終えたところであった。

 

「ウチはまだまだ全然イケそうやけど……どうせなら、次は甘いものがええかな?」

 

 今食べたお好み焼きが予想以上に美味しかった為か、ホクホク顔のジークだが、既に視線は次の標的を探している。流石は日々トレーニングを欠かさないアスリート少女、一般人よりは遥かに運動量も食欲も旺盛なようだ。甘いものが好きなのは、一般的な女子と変わらないようだが。

 

「そうだなー、確かに甘いのがちょっと食べたいな」

 

 セアレ自身も甘いものは嫌いじゃないので、すぐにジークに同意する。『焼きそば』に『お好み焼き』とソース系の味の濃い食べ物が続いたので、そろそろ別の系統の味が欲しかったのも事実だ。

 

「何にするか……。普通にアイスとかクレープもあるけど……」

 

「さっき見た、『リンゴ飴』とか『綿菓子』とかも美味しそうやね……」

 

 二人が何を食べるか相談しながら店を巡っていると、

 

「よ、そこのお二人さん! どう、うちのを食べてかない?」

 

 通り過ぎかけた店の中から声が掛けられる。

 

 二人揃って足を止めて店の方を見ると、これぞ出店の店主といった風貌の中年男性が、笑顔で手招きしていた。

 

「お祭りデートかい? だったら、うちの店の商品を食べなきゃダメだ。何せうちはこのお祭りの元になった異世界から直接レシピを手に入れて商品を作ってる、由緒正しき出店なんだ。このお祭りでうちの商品を食べないことほど損なことはないよ」

 

 店先に並んでいる商品をアピールしながら、饒舌に語り掛けてくる店主。言ってることのいかにもウソっぽい内容はともかくも、並んでいる商品はなんとも目を惹かれるものだった。

 

「甘い、旨い、そして何よりうちのは他の店のより断然華やか!! どうだい、兄ちゃん!!」

 

「はぁ……じゃあ、まあ、取り敢えず2本下さい」

 

 店主の勢いに流された感はあるが、確かに見た目が華やかな感じで、値段も意外に手頃だった為、セアレは購入することにした。

 

「あいよっ!! ムチャクチャ可愛い彼女ちゃんの分と合わせて2本、チョコバナナお買い上げー!!」

 

「ふえっ!?」

 

 ノリ良く注文を受けて、商品を準備し始める店主。

 

 だが、セアレと店主との遣り取りを傍らで見ていたジークは、店主の発言に声を上げる。

 

「えっ、あ、あの……ウチとセアレは―――」

 

「ジーク、いいから」

 

 店主の誤解を解こうと口を開くジークだが、横からセアレに止められてしまう。

 

「この手の会話は一種のノリでしてる部分があるから、いちいち訂正とかしてたら多分キリがない」

 

「そ、そうなん?」

 

 セアレの言葉に驚きと疑問を口にするジーク。

 

「ああ、だからあんまり気にしなくてもいい」

 

 知ったような顔をして頷くセアレだが、実は本日既に4度目になる遣り取りだったが故だったりする。先の3軒でも購入時に似たような会話があったのを、少し離れた場所で待っていたジークは知らなかったのだ。

 

「兄ちゃん、トッピングでキャラメルソースや生クリームもサービスで追加出来るけど、どうする?」

 

「俺は特に何もなしでいいです。ジークは?」

 

「あ、ウチはじゃあ……生クリームを追加で」

 

「はいよー……ほい、完成。先に商品をお渡しで……はい、お代金を確かに。ありがとござんしたー」

 

 それぞれ商品を受け取り、二人分の代金を払ったセアレ(因みに、本日のお会計は全て払ってます。ジークも一応は納得済みです)。

 

 爽快な笑顔で見送る店主に軽く頭を下げて、セアレとジークは店をあとにする。

 

「ふ~ん、串に刺したバナナにチョコレートをコーティングして、カラフルなチョコチップなんかをふりかけたスイーツか」

 

「ウチのは生クリームやフルーツなんかを先部分を中心に更に追加してるタイプやね」

 

 セアレが持っている方は、ある管理外世界に於いては一般的なタイプの『チョコバナナ』だが、ジークが持っている方はチョコがコーティングしている部分に生クリームを盛り、色とりどりのフルーツを貼り付けた非常に豪華なバージョンとなっている。おそらく、気の良い店主が思いっきりサービスしてくれたのであろう。

 

「どれ……」

 

 取り敢えず、普通に齧り付くセアレ。咀嚼し、出てきた感想は、

 

「旨いっ!!」

 

 バナナの柔らかな甘さとチョコのコクのある滑らかな甘さが絶妙にマッチしている。よくチョコ系パフェ等に一緒にバナナが盛られていることから考えても、この二つの組み合わせの相性はバッチシのようだ。

 

「じゃあ、ウチも……」

 

 どうやらジークも食べ始めたようだが、予想外の旨さにそちらに意識がいかず、思わず勢いもそのままに一気に完食へと持って行ってしまうセアレ。

 

「―――うん、ご馳走さん」

 

 アッと言う間にセアレは自分の分を食べ終える。

 

「いやー、意外な収穫だった……な……」

 

「んっ……ちょっと……」

 

 食べ終えた串を手で小さく振りながら、大満足の笑顔でジークの方に向いたセアレは、

 

「……クリームが垂れる……」

 

「ッ!!!」

 

 即効で固まった。

 

 ついでに手に持った串もポロッと地面に落とした。

 

「あ……ふっ……おいひい……」

 

 顔の前で天頂目指して斜めに掲げられた物体。長い太い全体を黒光りするもので覆われたそれは、先部分を覆っている白いものが徐々に根元へと垂れてきている。

 

 ジークは多少頭を傾げ、両手で支えるようにして保持態勢を取ると、差し出した赤い舌で根元部分よりゆっくりと白いものを舐め上げながら昇っていき、先端部分まで辿り着いたところで巻き込んだ舌と唇を使って掬い取るようにして口の中へと運ぶ。

 

「うっ……んっ……」

 

 喉を鳴らして口の中のものを飲み込むと、一瞬呆けたような恍惚な表情となり、またすぐに眼前の物体へと舌を這わす。

 

(((……………)))

 

 丁寧に、繊細に、けれど時に大胆に、ジークの舌はまるでそれ自身が別の生き物であるかのように対象の表面を自由自在・縦横無尽に動きまわり、ついには全ての白いものの除去を終える。

 

「うあ……やっぱ……大きくて太いから、一気には咥えられへん……」

 

 一端口を離した時に、僅かだが口の端から漏れた白いものを空いた手で隠すように掬い取り、また何事もなかったかのように口をつける。

 

 チロチロと側面部分を削るように舌を動かすジーク。どうも彼女の口のサイズでは物体を丸ごと咥えるのには多少難があるようだ。

 

(((((……うっ…………)))))

 

「先端から……少しずつやったら……」

 

 大きく口を開き、物体の先端部分を狙い定めるようにして口腔へと押し入れていく。

 

 ゆっくりと数センチほど入ったところで、物体を前後に動かして口内の舌の上でその味を楽しむジーク。どうやら、彼女は一気にはいかず、焦らしつつもじっくりと楽しむタイプのようだ。

 

 頬を細めて吸い付くようにして徐々に引き抜き、再び先端まできたところで少し歯を立てる。

 

「んふふふ……あ~ん……」

 

 蕩けたような熱の篭もった微笑を浮かべ、目を輝かしながら一際大きく口を開いたジーク。その視線には逃れざる獲物を見定めた女豹のような気配を感じる。

 

 そして、艶めく唇と舌が黒いその物体を包み込み、そのまま勢い良く――――

 

(((((((…………ごくっ……)))))))

 

「うむっ」

 

 ――――喰いちぎった。

 

「「「「「「「グガッッ!!!」」」」」」」

 

「――――え?」

 

 突如、悲鳴のような獣の嘶きのようなものを上げたのは、一人ではなかった。

 

 ジークとセアレは食べ始める際、人混みを避ける為に道の端に寄っていたのだが、今し方声を揃えて発したのは、同様に道の端に寄ってジーク達の周りにいた男性諸氏の皆々様方だった。

 

「え? え? ど、どうしたん?」

 

 頭を左右に振って、視線をキョロキョロと彷徨わせたジークは、周囲の状況に困惑する。

 

 そりゃそうだろう。何故が周囲にいる男性の多くが痙攣したように体をヒクつかせ、俯き縮こまった姿勢で何かに必死に耐えているようなのだ。しかも、それを白い目で見る女性達や、怒った顔でそれぞれの彼氏や旦那と思わしき男性に詰め寄っている女性達等、正直言って混沌【カオス】以外に表現のしようのない状態が目の前に広がっているのだから。

 

「――――ッ」

 

「え? セア――――」

 

 当惑中のジークの手を行き成り掴み、その場から引っ張って走り出すセアレ。疑問の声を上げる間もなく、ジークはその場から強制連行される。

 

「―――ちょ、ちょっとどうしたん?」

 

 ある程度離れた場所まで移動したところで停止し、掴んでいた手を離して荒い息を吐きながら瞑目しているセアレ。

 

 ジークには何故セアレが突然このような行動を取ったのかが理解出来ない。

 

「なぁ、セアレ。一体、行き成りどうしたん?」

 

 理解不能な行動に、ちょっとだけ悪くなった機嫌がそのままジークの発した声にも滲み出る。

 

「…………」

 

 そんなジークの声にも、セアレは無言で微動だにしない。

 

「セアレ!?」

 

「―――ひゃい!! にゃんでひょう?」

 

 少し張り上げた声でもう一度ジークが名前を呼べば、返ってきたのは上擦りまくった声。

 

「なんで、そんな舌足らずなん?」

 

「しょうですか~……」

 

 疑問を浮かべ、怪訝な目で引き攣った顔のセアレを見るジーク。

 

 ジークの問い掛けの視線に晒されながら、セアレはまったくあさっての方向を向き、ジークの方を一切向かないようにしている。

 

(お願いです、ジークさん。察してください……男心を!!)

 

 内心も表情にも複雑なものを浮かべながら、セアレはジークにバレないよう秘かに嘆息する。ジークは急に移動したセアレの行動を咎めるような雰囲気だが、セアレにしてみれば正解と呼ぶべき行動だったと思う。

 

(あんな場所に、いつまでもいれないよな……)

 

 晒し者も同然の状態で、平静を装っていられるほど図太い神経はしていない。ついでに言えば、誰よりも近くでジークを見ていたセアレである、その受けたダメージもおそらく人一倍深刻なものだったはずなのだ。

 

「なんやようわからんけど……あっ! ……セアレが急に引っ張たから、落としてもうてる」

 

 納得のいかない顔でセアレを見ていたジークだが、己の分のチョコバナナが串よりいつの間にか落ちていたことに気づき、なんとも悲しげな声を上げる。

 

「あ~、ゴメン、悪かった。そうだジーク、代わりに何か別のやつを買って食べよ。『リンゴ飴』でも『綿菓子』でもなんでもいいぞ」

 

 ジークに申し訳ないと思いつつ、話が逸れたことと元凶となったものがなくなったことに内心ホッとしたセアレ。別のものを新たに奢るくらい、今のセアレにはなんでもないことだった(暗に同じものを選ばないように提案しているあたり、微妙に姑息だが)。

 

 ただ、世間の人よ知っていて欲しい。地獄の沙汰も金次第と謂うが、苦境を逃れる為の出費を出し渋っていてはいけない時が世の中には確かに存在するのだ。

 

「もう……、わかった、じゃあ……」

 

 頬を膨らまして若干不満顔のジークだったが、いつまでも怒っていても仕方ないと思ったのであろう、気持ちを切り替えて、次に食べたいと思えるものを探す。

 

 そして、巡らしていた視線がある一点で止まる。

 

「セアレ。ウチ……今度はあれが食べたいんやけど」

 

「オッケー、オッケー。なんでもいい…よ……」

 

 笑顔で快諾の言葉を紡ぎながら、ジークの指差した方を見たセアレは、そのまま言葉をフェイドアウトさせつつ再び固まることになる。

 

 ジークの指差した店の看板に書かれていた文字。それは、セアレにはこう読めた。

 

 ―――『フランクフルト』―――と。

 

(だ……)

 

「美味しそうやね。早う、食べたいわ~」

 

(誰か助けてぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーー!!!!!!)

 

 楽しげな笑顔で店へと向かって歩き出すジーク。

 

 そんな彼女を尻目に、心の中で悲痛で絶望に満ちた絶叫を上げるセアレだった。

 

 

 

 





 やっちゃいました!!

 でも、反省も後悔もしてません。だって書きたかったんです!!

 尚、あと1~2話ほどこの『祭』シリーズの話は続く予定です(すぐに投稿出来るかはわかりませんが……)。


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