ハリー・アップッ!! 作:炉心
ようやく、2作目が書けました。
稚拙な内容ですが、お楽しみいただければ幸いです。
「どうしろってんだ」
とある日の昼休み。
某市立学校高等科校舎内の一角、屋上スペースに設置された自動販売機コーナーの前で、手にしたものを見つめながら、ハリーは苛立ちげに自問した。
『現役魔導師による魔法戦技講習特別招待券』そう表記された二枚のチケット。昨日、とある少年より貰ったものだ。
チケットの内容は表題どおり、管理局在籍の有名魔導師諸氏による魔法戦技の講習会の参加券である。現役で働く一線級の魔導師達が最先端の魔法戦技や戦術、効果的な魔法運用の説明やトレーニング法の紹介、質疑応答による専門知識を踏まえた各種アドバイスに加え、最後には講師陣による模擬戦の観覧も出来るという、魔法を学ぶ者にとってこの上ない経験の出来ること間違いなしの代物だった。
しかも、この券の指定日程の講習メンバーには、かの有名な『管理局のエース・オブ・エース』や金髪紅眼の美貌で有名な執務官等も特別講師として名を列ねており、非常に豪華なラインナップとなっている為、そのプレミア価値は計り知れない。おそらく、普通に町のチケットセンターで売却してもかなりの高額で取引できるだろう。
本来なら、喜び勇んで行くところだ。だが、ハリーは悩んでいた。
「……二枚って、誰と行くんだよ」
そう、チケットは二枚有るのだ。チケット一枚につき招待者は一人。これでは、普段行動を共にしている友人三人(ルカ、リンダ、ミア)と一緒に行くことは出来ない。
学校の他の友人や知り合いが、この様な場所に行きたがるとは思えない。仮に行きたがる者がいたとしても、わざわざ連れ立って行こうとも思わない。
「貰ったモンを更に誰かにあげるのもなぁ」
一枚だけ使って、残りを誰かにあげるなり売るなりすれば良いのかもしれないが、残念ながらハリーの性格上それは選択肢になかった。律儀な性格である。
「あれ? リーダー、何してるんッスか?」
「おう、リンダか」
屋上スペースに現れたマスクを付けた金髪の少女が、チケットの殊遇について考えていたハリーに歩み寄る。ハリーの友人三羽烏の一人、リンダだ。
「お前、昼は食堂とか言ってなかったか?」
「混んでたんッスよ。それで、購買でパンだけ買って屋上ででも食おうかと思いまして」
「ツイてねぇなぁ~」
「全くッス。まあ、ルカやミアよりはマシっスけどね」
リンダの言葉に、ここにいない二人の姿を思い浮かべる。
「そういやぁ、こないだの考査試験の結果が悪くて呼び出しくらってんだっけ?」
「ルカは調子が悪いとたまに理数系を落とすことがあるッスけど、ミアは珍しいッスよね。こないだの学祭の後くらいから、なんか悩みが有るみたいなんッスけど」
「あぁ、俺も気づいてたけど、ミアが何も言ってこねぇからな。下手にこっちから口出すよりは、あいつが話してくれんのを待つつもりなんだが……」
「そう……ッスよね」
少しの間、二人して友人の状況に心配の念を抱く。「どんな悩みでも打ち明けろ。一緒に解決してやる」なんてお節介は言わない。そんなベタベタした関係は好きじゃない。でも、本当に助けを求められればどこまでも力になる。それが彼女達の友情スタンスだ。
「ん? リーダー、何ッスか、それ?」
ハリーが手にしたチケットに漸く気づいたのか、今更ながらリンダが尋ねてくる。
「招待券だよ。魔法戦技講習会のな」
「へ~、あ! これ、かなりのレア物じゃないんッスか? 雑誌とかニュースでチラホラ出てくる名前が結構載ってますよ」
リンダはハリーから見せてもらったチケットの眺め、裏面に記載されている人物達の名前に驚く。あまり管理局の人間や魔導師に興味のないリンダですら知っている名前が多数有る。
「どうしたんッスか、これ? 買ったんッスか?」
「貰いもんだ」
「へぇ、気前のイイ奴ッスね。こんなチケットをくれるなんて……あれ? でも、二枚しかないッスよ。リーダー、誰と行くんッスか?」
それなりの価値がある筈のチケットを譲った人物の気前の良さに驚きつつ、枚数が二枚しかないことに気づき、リンダはハリーが何を悩んでいるのかを大方察する。
「まだ決めてねぇ……リンダ、お前一緒に行くか?」
「……ヤメときます」
ハリーの誘いを断るリンダ。この状況で自分一人だけが誘いを受けるのは宜しくない。
「だよな……」
嘆息してリンダの返答を受け入れるハリー。最初から答えの見えた遣り取りだ。
「あたしら以外で誰か……あ! セアレとかどうなんッスか? アイツなら、リーダーが誘えば確実に来るんじゃぁ―――」
思いついたのは馴染みの少年。ヘラっとした表情の似合う人の良い彼なら、まず確実にOKを出すだろう。特にハリーの頼みならば断るまい。
「このチケットは、そのセアレから貰ったんだよ」
「あ~」
微妙に不機嫌な表情で少年の名を挙げるハリー。リンダは件の少年の事を思い返し、納得する。確かに、かの少年は魔法戦技等には興味が無かった。
「あれ? でも、なんでセアレの奴がそんなチケットを持ってんッスか?」
「あいつの両親は揃って管理局の局員だからな。そのツテで貰ったんだろ」
「で、自分じゃ使わないから、リーダーにあげたってことッスか」
まあ、宝の持ち腐れにしない為にハリーに渡すこと自体は問題ないが、出来れば「一緒に行こう」と誘うくらいの甲斐性は見せて欲しかった。そうすれば、ハリーもリンダもこうやって頭を付き合わせて悩む必要も無かった筈である。
「―――お、よかった。いたいた」
と、思案顔の二人の間に割り込むような声。
二人揃って視線を移すと、話の渦中の少年が屋上スペースへと続く扉を抜け、二人の方に向かってやって来る。
「ハリー、昨日渡したチケットだけど、もう一緒に行く相手決めた?」
二人の傍まで来ると、開口一番、話題となっていたチケットの処遇について口にする。
「まだだけど」
若干焦りが含まれているような口調のセアレに、疑問を持ちつつ素直に答えるハリー。昨日の今日でチケットに関して何かあったのだろうか?
「ホントか? よかった。もし決まってたら、どうしようかと思った」
「?」
「ハリー、悪いんだけど、渡したチケットで一緒に行ってくれないか?」
「へ?」
セアレからの予想外の台詞に、思わず間の抜けた反応をしてしまう。
(リーダー、よかったじゃないッスか。セアレの奴、リーダーと一緒に行きたがってるみたいッスよ)
(おおおぅ。そ、そうみたいだな。急にどうしてかは知らねえけど)
目線だけで会話するハリーとリンダ。念話なんぞ使わなくても、このくらいの意思疎通は可能なのだ。
「あ、あぁいいぜ」
少々ぶっきらぼうな感じだが、了承するハリー。そっぽを向いた顔の頬は、若干朱に染まっている。
「何このツンデレ?」そんな感想をリンダは抱いたが、ハリーの名誉の為にも、自身の身の安全の為にも、口には出さず心の奥底に秘めておくことにした。因みに、何故リンダが『ツンデレ』なる単語を知っていたかについては、思春期の乙女なりの事情があるとだけ言っておこう。
一方、ハリーの返答を聞いて、セアレは安堵の表情を作る。
「そうか、サンキュー。悪いな、あげたモノなのに無理言っちゃって」
「別にいいさ。……それより、なんで行き成り一緒に行きてぇなんて言い出したんだ? お前、こういうのにはあんまり興味なかっただろ?」
もっともな疑問。
「あぁ。昨日の夜、偶然会ってさ」
「ん?」
夜に会った?
「久々だったんで少し話してたら、講習会の話題が出たんだよ。興味はあるけど、抽選に外れてチケットが手に入らなかったって言ってたんだ」
「セアレ……お前、何の話を……」
「で、俺が持ってたチケットをハリーに渡したって言ってたんだけど……さっき通信で話ててさ、もしハリーが一緒に行く相手が決まってなくてチケットが余るようなら、一緒に行けるか聞いてみるって言ったんだよ」
「………」
「でも、ハリーが許可してくれてホントよかった。ちょっと大見得切ったから、実は内心ヒヤヒヤだったんだ」
晴れやかな笑顔で口上を続ける少年。反面、それを聞く少女からは徐々に表情が失われていく。
「じゃあ、一緒に行けるってことで、俺の方から伝えておくから―――」
そして、少年は見事に地雷を踏み抜く。
「―――ジークに」
ピキッ!
あ、何か切れる音が聞こえた。リンダはそう思った。
「ふふふふふふふ……そうだよ、お前はそういう奴だよ。分かってたよ。始めっから。魔法戦技とかに興味なしのお前が、一緒に講習会に行こうなんて言うわけないって」
俯きながら呟くように語るハリー。垂れ下がった前髪で顔が隠れ、表情が読めない。
「でも、多少は期待したんだよ。悪いか? 悪くないよな? オレの気持ちは間違いじゃないよな?」
纏う空気が一変し、炎熱系の魔法使用者にも関わらず、その身からは冷気が発せられているようにも感じる。実際、この空気を敏感に感じ取った生徒達(描写はしていなかったが、昼休みの為、実は屋上スペースには結構人がいたのだ)が、素早く屋上から離脱していくのをリンダは見ていた。そのリンダも二人から徐々に距離を取っているのだが。
「え? ハリー、何怒ってんの? ジークとは友達だろ? まさか、一緒に行くのが嫌だったのか?」
ハリーの雰囲気の変化についていけず戸惑うセアレ。そんなセアレに対して一歩また一歩と近づくハリー。
「ちょ、ハリー?! 怖い! 何か知らんけど怖い! てか、その振り上げた拳はどうするつもりなんだっ?!?!」
顔を青褪めさせ、必死でハリーに抗議するセアレ。だが、ハリーにとってはそんなことはどうでもよかった。
「……安心しろ、学校だからな。砲撃系は使わねえ」
己が魔力を右拳へと集中してゆく。
「おいっ! 「砲撃系は」って何だ! 「砲撃系は」って?!」
「……魔力ダメージのみにしといてやる」
フルロード完了。
「――――――ッッッ!!!!!」
――――『オレ式、一撃必倒パンチ』――――
刹那、放たれた拳が少年の顔面へと吸い込まれ、屋上のフェンスの一面を人型に凹ませた。
* * *
「―――なあ、番長。何でそんなに不機嫌なん?」
「はぁ? 何言ってんだジーク。オレは全然不機嫌なんかじゃねぇぜ」
「そうやろか? なんやピリピリした感じを受けるんやけど」
「気のせいじゃね?」
「う~ん」
「お、この先の建物が会場だな」
「あ、そういえば忘れとった。番長、今日の事やけど、改めてセアレにお礼を―――」
「あいつの名前を出すんじゃねぇ」
「……了解や」
(もしかして、ウチはとんでもない墓穴をセアレに掘らしたんやないんやろうか?)
「結構時間ギリギリだな。さっさと行こうぜ」
「うん」
(セアレ、生きとるんやろうか? ホンマにゴメン。今度、必ず埋め合わせはするからな……堪忍や)