ハリー・アップッ!!   作:炉心

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 世の中には不思議なことがあります。

 書く予定が一切なかったのに、突然ネタとイメージが怒涛の勢いで湧き上がり、作中のキャラ達がそれに併せて勝手に動くということが。

 これが彼女の持つ天性のヒロイン力の賜物だとするのならば、もはや何も言いますまい……でも、これだけは言わせ下さい!!

 反省も後悔も……してません!!






ハリー・アップッ!! ~スローデイズ・祭(その肆)~

 

 

 人の気配も絶え絶えしい清夜の雑木林。

 

 ただ一組の少年少女が、望めば触れ合うことの出来る距離で、月明かりに照らし出されたお互いの姿を見合っていた。

 

 辺りを囲う攅立する木々が、時折吹く夜風に誘われて静かなざわめきを奏でている。

 

 ――――この世界は少年と少女だけを残して切り取られている――――。

 

 四方天下を閉じられた二人っきりの空間にて、甘美で情緒に満ちた錯覚に否応無く絡みとられそうになる彼等だが、木々の枝葉の間隙を縫って届けられる軽快なテンポを刻む祭囃子と人々の喧騒が、生まれ抱いた妄想を打ち消し、外界の確かな存在を認識させる。

 

「んぅ……っぅ……」

 

 衣擦れの音に続き、漏れ出した浅い喘ぎにも似た少女の声。

 

 予期せぬ動きが繰り出され、予想以上に敏感になっていた部分に触れられた感触。一瞬にして脳髄まで駆け抜けた擽ったくなるような感覚。

 

 優しく、優しく。決して傷つけないように、繊細な硝子細工でも扱うように、優しく。

 

 最初は即かず離れずの微妙な距離を保ちつつも撫で擦るかのようにしてから、徐々に全体の輪郭をゆっくりとなぞるように触れ、ついには繻子にも似た少女の玉の肌に吸い付くように伸ばされた五指が触れ合う。

 

「ジーク……」

 

 地面に片膝をついた姿勢で、目の前に差し出されていた少女の華奢な素足を手に取っていたセアレは、夜の暗がりの中で目を凝らしてその状態を確認しながら、足の持ち主であるジークの名を呼ぶ。

 

「ホントに………痛くない?」

 

 治癒魔法を施し終えた時点で一度はジークの言葉に安堵の声を返したセアレだが、やはり心配する気持ちを拭えなかったのだろう。再び怪我を負った足の容態を気にした発言をする。

 

「ほんまに平気やよ。それに、セアレも知っとるとおり、ウチはこれでも魔法戦技競技者【アスリート】なんやよ。練習とか試合とか、これくらいの怪我は日常茶飯事なんやから、もう慣れっこや」

 

 ある程度の予想と想像はしていたが、実際にはそれ以上に心配性な一面を見せたセアレの姿に、内心から苦笑が込み上げたジークは、少し戯けた口調で答える。

 

「何より、今回はセアレの治癒魔法のおかげなんかな? 本当に全然痛みも違和感も感じへんのよ。ちゃんと魔法の治癒効果が効いているみたいなんやから、セアレはそんなに心配せんと、自信を持って安心してくれてええと思うんよ」

 

「う~ん……」

 

 イマイチ自分に自信が持てないのか、難しい顔で唸っているセアレに、穏やかな調子で相手を安心させるような口調を心懸けながら、微笑みを向けるジーク。

 

「ジークが大丈夫って言うんなら……大丈夫か。でも、やっぱり俺の治癒魔法だけじゃ心配だし、あとでちゃんとお医者さんには診てもらったほうがいいよな」

 

 ジークの言葉を信用しないわけではないのだが、鵜呑みには出来ないし、自分自身の魔法行使に対する絶対的な自信にも繋がらない。何せ、本当に久方振りに魔法を使ったのだから。

 

 納得したようなそうでないような曖昧な表情で呟きながらも、ジークの足の怪我具合を確認し続けるセアレ。

 

 ベンチにゆったりと腰掛けた状態で、そんなセアレの様子を静かに見下ろしながら観察しているジーク。

 

 自分のことだけを真剣に心配してくれている――――その眼前の事実だけで、ジークは足を挫いてしまった失態も、先程までの怪我の痛みも鬱積した感情も、何もかもが静かに霧散していくような気分だった。

 

(あ、アカン。なんかウチ、ニヤケてまいそうや……)

 

 自然と笑みが溢れそうになるジーク。

 

(そやけど。ほんまに、ある意味で『らしい』って思えるくらいに、セアレって心配性やったんやな~。ずっとウチの足の具合を気にして、手に取っ…て…i…る…………あれ?)

 

 ふとそこで、ジークは現在置かれている自身の状況に関して、違和感と呼ぶべきものを感じる。

 

 何故だろうか? 今まで全然気づかなかった当たり前のような事実にだ。

 

 そして似たようなことが、ちょうどセアレの方にも訪れていた。

 

(若干の不安は有るけど……あんまり俺が心配し過ぎてもジークが気にしちゃうだけだし、取り敢えずは一区切りってことでこの辺でヤメにしとくかな? しつこ過ぎるのもアレだし。でも、あとで絶対に一緒に病院には行こう)

 

 妥協点を見つけて己を納得させ、少し気持ちに余裕を取り戻したセアレ。そして、余裕の生じた意識は、今まで情報として重要視しなかった事柄へと注がれる。

 

(……あれ?)

 

 ずっと手の中に存在していた、暖かく柔らかで、もの凄く触り心地の良いもの。

 

(ジークの足……か。なんだか、思ってた以上に細いと言うか華奢だな。とても魔法戦技で世界一の称号を持っていて、常日頃からトレーニングで鍛えてるなんて思えないし、それに……凄く綺麗だ。…………うぅん?)

 

 フニフニと未知にして絶妙なる感触を確かめるように揉み動くセアレの手。それは無意識の内での行為だった。別に、何かやらしい気持ちが働いていたわけではない……多分。

 

(……何だ? 足の指の爪がキラキラ光ってるけど、何か塗てんのか?)

 

 セアレの手と指の動きに合わせるように、ジークのどこか可愛らしい印象を受ける形の良い足の指達がピクピクと小刻みに反応する。足指の爪に塗られていたパール入りのペディキュアが、淡いピンクの光沢を放っている。

 

(ちょっと意外だ……あぁ、でも、ハリーとかも靴履いていて周りから見えるわけでもないのに、よく塗ってたりしてるしな。そうだよ、折角のお祭りなんだし、ジークも女の子なんだから、こんなお洒落もするよな。うん、今の浴衣姿にも抜群に似合ってるし、なんかもうなんでもイイや、可愛いから……)

 

 思考と呼ぶには憚れるような、ボケっとした感想の垂れ流しのような思考。

 

 蝶が花の蜜の香りに惹きつけられるように、周囲の様子に意識が向かなくなるくらいにセアレの意識は抗えない何かに捕らえられていた。

 

 一方、ジークの方だが。

 

(ウニィニャァァァァァッ!?!? 見とる!? 見とるよ!! セアレがウチの足をジッと見とるよ!?! ううん、それ以上に! 触って!? 掴んで!? 揉んでる!? ウチ、セアレにフニュフニュと揉まれとるぅぅ!?!!)

 

 内心の狂乱再び――――に、突入していた。

 

 足首やふくらはぎに注がれる視線。異性からの熱の篭もった意識の集中。

 

 人肌の温かさと少しだけ角張った指肌の感触。断続的な電流の如き刺激。

 

 ジックリと熱を帯びていく気配がジワジワと足先から膝へと侵食して這い上がり、下腹部辺りに集った熱がジークの意識を焦がしつかせる。

 

 あまり普段は意識したことがなかった部分――――己の身体の遥か奥に存在する性の根幹たる箇所に未体験の熱さと疼きを感じ、脳と心臓を燻られる感覚に戸惑い、皮膚が粟立つほどの衝撃が奔った全身に身悶える。

 

(だ、ダメや!! ど、どうしたらええんよ!? あ、頭の中がこんがらがってまう! なんやようわからんけど、変な気分になってまうんよぉぉ!!!)

 

 グルグルと休みなく回り続ける思考。パクパクと何かを求めるように口を動かすも、声を出してしまうわけにもいかず、内心でただ絶叫し続ける。

 

(ウェァッ!?)

 

 それまでとは違う、唐突に奔った不知なる圧倒的な感触と快感。刹那に過ぎ去ったそれだが、無意識の内に両の太腿を寄せて摺り合わせ、灼熱を帯びだした目頭と霞んだ視界を閉じ込めるようにギュッと目を閉じる。

 

 荒く乱れている呼吸。

 

 思わずジークは浴衣の袖口を咥え、飲み込むようにして耐える。

 

(えっ!?)

 

 頭上で何か動く気配を感じて、顔を上げたセアレの脳内に動揺が奔る。

 

 脇へと逸らし、側面のみを晒した頭部。

 

 振り動かした所為で乱れた黒髪の隙間から覗いた耳が、小刻みに震える白磁の頬同様に朱に染まっている。

 

 横を向いたことで若々しい肌の張りをみせた首筋と、どこか艶美なラインを描く鎖骨が月光に晒され、清浄な白さと僅かに浮いた汗の露が、婉然としながらも婀娜やかさを帯びた色気を醸し出す。

 

 目を強く閉じて浴衣の袖を噛み、息を殺して必死に耐えるような仕草をしているジークは、今まさに運命の贄となって捕食者に蹂躙されるべく牙の前に差し出された、脆く儚い小動物の如き様相をセアレに想起させた。

 

(……ホントニダレカタスケテ)

 

 誰に?

 

 何故?

 

 どのような救いを求めたのかは自分でも分からないし知らない。けれど、セアレは本気の本気で嘘偽りなく心の底からそう思った。否、願った。今までの十数年の人生の中で一番の切実さだったかもしれない。

 

 だって、衝動と煩悩が脳内の原子炉の中で核分裂連鎖反応を引き起こし、臨界点を越えた挙句に理性を消し飛ばしそうな勢いだったし。

 

 しかし、望むべき救済の光が訪れることはない。世界はいつも残酷で無情であった。

 

(どうすんだ、俺? どうしたらいいんだ、俺? どうすべきなんだ、俺? どうしたいんだ、俺? てか、どうかするべきなのか、俺?)

 

 疑問と自問の螺旋迷宮。

 

 セアレは次に取るべき行動の要旨を必死に探していた。正直、どんな行動を選んだとしても駄目な気がしてならなかった。

 

 長いようで実際はほんの僅かな時間が二人の間に流れる。

 

「ん…ふぁ…………セ、セアレ……」

 

 己の中で繰り返す未知の情動の細波が漸く静まりをみせ、震える唇を袖口から離し、呼吸を整えつつ緩やかに瞼を上げたジークが、口元に持っていった浴衣の袖で赤らんだ顔の下半分を隠すようにしながら、囁くようにセアレの名を呼ぶ。

 

「ど、どうしたん? ボーっとしとるけど、大丈夫なん?」

 

 呆然と自分を見上げていたセアレの様子が気にかかったのか、ジークは無意識に不安げな表情になる。

 

「あ、あぁ。うん、大丈夫。何でもない。ちょっと考えごとをしていただけだから……」

 

(……何してんだ、俺は。ジークが怪我をしたっていうのに、変な妄想に浸ってるとか……バカなのか?)

 

 冷水を浴びせられたような感覚を味わって、現実に帰ってくるセアレ。自分は一体何をしていたのだろう。

 

「と、ゴメン。いつまでも足を触っていて」

 

 冷静さを取り戻してみれば、自己嫌悪の嵐が襲ってきそうだった。ジークとは知り合いとはいえ、女の子の足を長時間触った上にしげしげと観察するなんて、いくら怪我の様子を確認する為だったと言っても、言い訳がましいこと他ならなかった。

 

「あっ……ううん、ええんよ。気にせんとも、セアレはウチの足の具合を診てたんやし」

 

 慌てたように手を離し、少し距離を取ったセアレ。

 

 ジークは自分の足から不意に遠ざかった暖かな感覚に戸惑いを覚え、剰え名残惜しいとすら感じた。同時に急速に冷えゆく己の体温が、酷く物悲しい感情を呼ぶ。

 

(なんでやろ? さっきまでは恥ずかしさとか変な感覚で今にも死にそうやったのに、今は逆にようわからん不安と辛さで…胸が……苦し…い…?…………)

 

 表情には出さないように気をつけながら、ジークは己の内の極端な変化を掴みかねて、内心で眉を顰めていた。

 

 とは言え、ただひとつハッキリしていることは、先程までセアレに足を触られていたことが、ジークにとってはまったく嫌でも不快でもなかったという事実だ。衝撃的ではあったし、何故か逃げ出したくなる気持ちも多分にあったのだが。

 

「あ、そうや。もうウチの足は大丈夫なんやし、セアレもいつまでもしゃがみ込んでると疲れるやろ? 隣に座らへん?」

 

「そうか? 俺は別にしゃがんでいても疲れないけど……ジークが気になるならそうするか」

 

 どこか焦ったような口調で捲し立てるジークの様子に首を傾げる思いを抱きつつ、特に拒否する理由もなかったセアレは素直に勧めに応じることにする。

 

 無造作に立ち上がり、ジークの隣に座るべく移動しようとした――――意識だけは。

 

「――――うぃ痛ぅあっ!?」

 

「ふぇっ!!??」

 

 ずっとしゃがみ込んでいた所為だろう。血行の悪くなっていたセアレの足は一時的な麻痺現象を発生させ、あの痛いわけでもないのに思わず悲鳴を上げたくなるような、見えない虫に全身を這いずり回られているような、なんとも言えない独特の痺れによって稼働不良となった足を縺れさせ、中途半端に腰を浮かせた姿勢のセアレはそのまま正面に向かって倒れ込んだ。

 

 ガッッッ!!!

 

 咄嗟に前方に伸ばした両手が掴んだ支えによって、あわやジークを巻き込んでの転倒という惨劇を辛うじて防ぐ。

 

「うつぅぅ……。ジ、ジーク、ごめn――――」

 

 肝が冷える感覚を味わいながら、反射的に閉じてしまった瞼を押し上げて視界を取り戻したセアレ。すぐにジークの安否を確認しようとするのと並行して眼前の状況を脳が処理し……きれなかった。

 

 玄翁で真横からブッ叩かれたような衝撃が奔る光景だった。

 

 両手を胸の前で寄せて固く結び、不意の襲撃に対して何一つ抗うことの叶わなかった子猫のように小さくその身を縮こませているジーク。

 

 両手はジークの頭の左右の空間を通過してベンチの背凭れの上枠部分を掴み、広げた両腕の間の空間にジークの存在を囲い込んで捕らえるような体勢のセアレ。

 

 中腰状態となっていたセアレの下半身は、片膝がベンチの座部に、もう片方の足は微妙に折れ曲がった状態を辛うじて維持しながら、一寸前に思わず身じろいだ所為で膝上部分を半分近くまで捲れ上がり、蔽っていた浴衣から外気の中に晒されたジークの太股を跨ぐような格好となっている。

 

「「……………」」

 

 近い。

 

 お互いの吐息が交じり合い、鼻先同士がすぐにも触れ合い、相手の瞳に映る自分の姿すらも確認できそうなほどの距離。

 

 夜の暗闇の中でもハッキリと分かるくらい真っ赤に染まった顔。

 

 限りなく破裂寸前に近い速度で律動を刻む心臓。

 

 激しい運動をした覚えもないのに息が上がり、熱湯にでも浸かったかのように火照りを感じる身体。

 

 ――――ゴクッ。

 

 どちらともなく喉を鳴らす音が、草木も眠る夜の雑木林に響く。

 

「ジ…ィ………」

 

 震える唇をあらん限りの意志の力でもってなんとか動かそうとするセアレだが、不可視の強制力でも働いているのか、へばりついたかのようにまともに動かすことができない。

 

(セアレの顔……近いな……。すぐそこや。……セアレの眼の色……髪よりも結構濃いんやね。ウチ、この色は好きやな~……)

 

 ジークに至っては、思考回路が完全にブッ飛んでいた。混乱がオーバーヒートの限界点を難無く突破してしまった所為で、逆に緩慢でとりとめのない思考しか出来ない状況に陥っていると言っても過言ではなかった。

 

(なんや……ウチは…もう…………)

 

 言い表すことの出来ない何か。

 

 それは暖かくて、穏やかで、しなやかで、愛しい。掛け替えのない大切な何かが、ジークの中でストンッと落ちる気配がした。

 

「セ…ァ…レ……」

 

 見開いていたジークの空色の瞳が、セアレの眼前で静かに瞼に覆われる。

 

 そしてセアレの視界に晒されるのは、全てを受け入れる覚悟を決め、流れる命運のままに己の心身を託そうと献身の意志を固めた無垢なるもの。

 

 僅かにおとがいを上向きにし、凛とした清浄な空気が少女の面に纏われる。

 

 月暈の光に露わになった首筋と喉が照らし出され、白磁の肌から目が離せなくなる。

 

(なんだこれ!? ナンダコレ!? なんだこれ!? ナンダコレ!? なんだこれ!? ナンダコレ!? なんなんだこれ!?!?)

 

 混乱が瀑布から溢れ落ちる流水の如く止めどなく続く。

 

(なんでジークは目を瞑ってるんだ!? なんでこんな弱々しい雰囲気なんだ!? なんで抵抗も何もしないんだ!? ――――あぁ、でも、なんだかメチャクチャ綺麗で可憐な……じゃない!! さっきからホントに何バカなことばっかり考えてんだ!!)

 

 思考はもはやカオス状態。数多の絵の具をぶちまけたキャンバスように、理性だったり妄想だったり欲望だったり常識だったり希望や願望だったりなんかが判別つかなくなる状態で混ざり合っている。

 

 目の前で知り合いの女の子が自分を受け入れるようにも見える状態でいる――――セアレには、もうこれが現実なのか己の夢想の中での出来事なのか判断し難くなっていた。

 

 ジークの考えが読めない。だが、それ以上に自分がどうしたらいいのかが分からない。

 

(お、俺は…………)

 

 健全な青少年としての情動に満ちた思考が脳内を駆け巡る。

 

 まるでマンガやアニメのテンプレート的表現のように頭の中で天使と悪魔が交互に現れ、「目の前の少女を手に入れろ」と囁き、「馬鹿な真似はするな」と叱咤する。

 

「……ぅ…ぁ…………」

 

 微かに開いたジークの唇から吐息が漏れ、紅い舌が僅かに覗く。

 

 天秤が片方に大きく傾いた。

 

「「――――――――」」

 

 

 ヒューーー……ドドーンッッ!!! パァンッ!! ヒュババババッッ!!! パンッ!! パァンッッ!!! 

 

 

 突如、鮮やかな閃光と激しい爆音が夜空を引き裂いた。

 

「――――ッあ!?」

 

 飛び上がるようにして俯いていた身体を起こし、そのまま後方へと後退るセアレ。痺れの残る足をフラつかせながらも、必死で地面を踏みしめて立つ。

 

 一歩二歩と後ろに蹌踉めいて下がったセアレの背後から、再び極彩色の閃光が周囲を照らし出し、幾重もの破裂音が轟く。

 

 あらん限りに見開いたセアレの目が、同じく目を見開き、強ばらせた身体を少しだけ起こしたジークの姿を捉える。

 

 いまだ激しく律動する心臓と烈火の如く熱を湛えた身体だが、冷たい汗がセアレの背筋や首筋を伝う。

 

 微動だにせずにお互いを見つめ合うだけの二人。

 

 気不味い空気が二人の間に漂う中で、断続的に続く花火が刻一刻と過ぎ去る時を告げる。

 

「……花火」

 

 どちらともなく発した言葉。

 

 雑木林の向こう側から聞こえる人々のざわめきは更に昂まりを迎え、いよいよ今夜のお祭りは終盤へと差し掛かろうとしていた。

 

 

 






 ……ヤベぇ。危うく一線を越えるとこだったよ。


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