ハリー・アップッ!!   作:炉心

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 ひとりの女の子の奮闘具合を、おおらかな心持ちでお楽しみください。




ハリー・アップッ!! EXTRA ~書海交縁~

 

 

 ――――手を伸ばしても届かないのなら……届くまで。掴めるまで。伸ばし続けるって、そう、決めたんです。

 

 

 

 

 最近、反射的に取る行動がある。

 

 主に図書館にいる時のことなのだけど、ふとした瞬間に、私の視線は奪われる。それは、ある特定の色が視界を掠めた時に起きること。

 

「はぁぁぁ……」

 

 今もそうだった。

 

 でも、どんなに必死に視線を巡らしてみても、望みの結果は得られなくて、結局はいつもいつも空振りで無意味な行動で終わってしまう。

 

 溜息を吐くとその吐いた回数だけ幸せが逃げていくって聞いたことがあるけれど、望んだ幸せが全然訪れないのならば、溜息だって吐きたい気分になっちゃうのが真実なのだと思う。

 

「あの時に、もっと何か行動していれば……」

 

 時々、否応無く自覚することがある。

 

 私という人間は、どちらかと言えば活動的で積極的な性格をしているわけではなく、殊更に自分自身に直接関係した事柄に対しては受け身な姿勢でいることが多い。

 

 ここ最近は、大好きで大切な友達の影響もあって、できるだけ積極的に物事に取り組み、色々と自分からも動くようになった気がしていたのだけれど……やっぱり、根っこの部分では気弱で引っ込み思案な性質が治っていないのだろう。

 

 何か……自分に特別で絶対の自信を持てるようなことを見つけだせれば、少しは変わっていけるのだろうか?

 

「皆さんみたいに凄いことはできなくても、真剣に取り組み続ければ……私も…………」

 

 思い浮かんだのは、つい先日に見た光景。

 

 今週末の連休と学校の試験休みを利用して、昨日まで親しい友達やその家族や知人の方々と一緒に行っていた異世界旅行。そこで行われていたオフトレと模擬戦の数々。目の当たりにした時の迫力と凄さは、鮮明で圧倒的な印象となって私の記憶に焼きついている。

 

 それは、訓練や模擬戦の内容もそうだけど、何より印象的だったのは、参加していた人達全員に共通していたひとつのこと。

 

 真剣で果敢に取り組み続ける意志と姿勢。

 

 私自身が本気で望んでも願ってもなかなか手に入れることができない、ずっと心の底から欲しいと思い続けているもの。

 

 きっと、理想の自分になる為に必要な、一番重要で大切な要素。

 

 それは、大好きな人達と一緒にいる時に、一緒にいることを誇れるような自分になりたい私だから。

 

「っう」

 

 俯いて、考え込みながら歩いたのがいけなかったのだろう。前方不注意だった私は、前へと進む勢いもそのままに、前方にいた人の身体めがけて頭を思いっきりぶつけてしまった。

 

「とっ、すみません……――――あれ?」

 

「あっ!! ご、ごめんな…さ…ぃ……」

 

 どう考えても私の方に非があるにも関わらず、謝罪の言葉を掛けたくれた相手の人。

 

 機先を制されたことに焦りを感じながらも、すぐにでも謝罪の言葉を返そうと口を開いたのだが、顔を上げたことで確認した相手の正体に私の思考は一気にあさっての方向に飛んで行ってしまい、完全に言葉の最後の方は尻窄み状態となってしまった。

 

「確か……前にも一度会ったことのある子だよね? え~と、中央図書館の中でだっけ?」

 

 なんと言うことだろう。

 

 占いとかおまじないとかは比較的に好きな方だけど、朝のニュース番組で流れるような本日の占いなんかはあまり信じないタイプな私。でも、今日からは趣旨替えしたっていい。本当の本気で信じてもいいとすら思う。

 

 ――――『一途な貴女の恋の運勢は絶好調!! 今日はきっと待ち人に会えるかも!? ラッキースポットは本の多い場所で!!』――――

 

 見事に的中。恐いくらいに占いのとおり。

 

 恋の運勢は絶好調……本当にそう思う。さっきまでの気落ちモード全開の憂鬱な心はもうどこかに去ってしまった。

 

「……あっと、ごめん。もしかして違ってた? 全然関係ない別の子? 俺の勘違いかな?」

 

 あっ!!

 

「い、いえ!! はい! そうです! 以前に一度お会いしてます!! 図書館で会ってます! 私で間違いないです!!」

 

 っうぁ、しまった!! 思わず大きな声を出してしまった!!

 

 は、恥ずかしい。サッと周囲を確認するが、どうやら近くに他の人はいなかったみたいだけど、それでも目の前の男の人には失態を見られたのには違いない。

 

 男の人は髪よりも少し濃い色の萌木色の目を見開いていて、突然の私の大声に驚いているようだ。

 

 あぅぅ……ど、どうしよう。頬と耳が凄く熱い。顔全体に体中の熱が集中していくような感じがする。

 

「あはは。そうか、よかった。人違いしたかと思って、本気で焦ったよ。にしても、うん、なんか今日は元気一杯って感じだね」

 

 羞恥の気持ちで一杯になり、押し黙ってしまった私に対して、男の人が穏やかなに笑いかけてくる。それは、決して私の行動を嘲笑したような笑いじゃなくて、どこか微笑ましいものでも見たような感じの笑みだった。嫌悪感なんてまるで感じなくて、安堵感と気恥かしさが同時に込み上げてきて、胸の奥にジワッと広がる暖かさがあった。

 

「っと、それはそれとして。今さっきぶつかったみたいだけど、大丈夫だった?」

 

「だ、大丈夫です。全然平気です。むしろ、私の方こそ前方不注意で……ぶつかってしまって、すみませんでした!!」

 

 一転して笑顔から真剣な表情にチェンジして、男の人は私の様子を心配してくれる。ガラリと入れ替わった表情の変化に戸惑い、一度心臓が破裂しそうなくらい跳ねて、その後はドクドクと鼓動が加速していくのが分かる。

 

「そう、ならよかったよ」

 

「っ!!!」

 

 ……心臓が、本気で止まるかと思った。

 

 思わず叫び声を上げるところだった。寸前でどうにかとどめることに成功した自分を褒めたいくらい。

 

 安心したように笑った男の人の顔。ただその笑顔を見ているだけなのに、耳の後ろを凄い速度で駆け上がった血が頭に中をグルグルと掻き混ぜて、私の思考をクラクラと覚束なくさせる。

 

 だ、駄目だ。もう何が何だか分からなくなってきた。

 

「そう言えば……確か前に会った時は何か魔法関係の本を探していたんだっけ? そう、あれは……創成魔法の理論書だったかな? 今日も同じようなタイプの本を探してたりするの?」

 

「え? あ、はい、あの、えっと……今日は……」

 

 まさかそんな。

 

 私に会ったことだけじゃなく、本のことまで覚えてくれているなんて……。

 

 あ、あれ? 何だ? 嬉しい。すごく嬉しい。思わず顔がニヤけちゃいそう。ちゃんとした受け答えもできてないような状態で、そんな場合じゃないはずなのに。

 

「あ~、不躾すぎたかな? そうだよね。急に俺なんかに聞かれても困るよね。ごめん、無理に答えなくてもいいから」

 

「いえ、そうじゃないです! 問題ないです! ただ、今日は特に目的の本があったわけじゃなくて……その……ブラブラしていたと言いますか……」

 

 何してるんだろう、私。男の人に変に気を遣わせたりして。普段だったらもっと上手く立ち回ったり、機転を利かせた会話だってできるはずなのに。周りの人達には、年齢以上に冷静で落ち着いた行動ができるってよく言われるけど、今の状態はまるで正反対。情けなくなるくらいにダメダメのグダグダ。

 

 これじゃあ、何だか本当に全然……。

 

 せっかく……。せっかくようやくまた会えたのに。こんな感じばかりじゃ、まるで良いイメージなんて持ってもらえそうにないじゃない。

 

 何で私、ここ一番の大事な時にこんな風になってるんだろ。

 

「ブラブラしてる、か。わかるわかる。目的の本とかが無い時でも、図書館とか本屋って無意味にそういう気分になって来たくなることがあるよね。実際、俺も前に中央図書館に行ってたのはそんな感じでだったし」

 

「……あ」

 

 そんな……そんな風に受け止めて、返事を返してくれるんだ。

 

「はい。そう……ですね。そうですよね。そんな気分の時ってありますよね」

 

 もしかしたら、私に気を遣って言った言葉かもしれないけど。本当に本心の言葉かどうかなんて判断できないけど。

 

 それでもそうか。

 

 この人は、目的もなく図書館でブラブラすることを否定的な目で見たりしないんだ。少し、嬉しい発見だな。

 

「と、いけね。そうは言っても、今日の俺はブラブラしてるわけにはいかないんだった」

 

 不意に何かを思い出したのか、急に焦ったような表情になった男の人は、周りの本棚にキョロキョロと視線を彷徨わせだす。特徴的な(私が探す時の目印にしていた)萌木色の髪を無造作に掻いて慌てだす姿は、何だか少しだけ子供っぽく見えた。

 

 変な気分だ。距離が、ほんの少しだけ縮まったような気がする。その所為は分からないけれど、冷静な自分がちょっとだけ戻ってきた。

 

 うん、大丈夫。私はちゃんとできる。

 

「何か――――」

 

 勇気は……だせる!!

 

「探されているんですか?」

 

「え? ああ、そうなんだ」

 

 私の問い掛けに本の間を行ったり来たりしていた視線が戻ってくる。

 

 この一帯は歴史関係を中心にした書架だから、もしかしたら探しているのは歴史資料とかかもしれない。

 

「学校でレポート課題があってね。歴史の授業なんだけど、その参考資料とか参考文献とかをね」

 

 苦笑気味に答える男の人。

 

 そして、再び凄く困ったような顔で書架の方を眺め見ながら、「古代ベルカ史関係って、資料なり文献が色々と有り過ぎて、どれが一番参考になるのか正直わかんないんだよな~」と呟く。

 

 ちょっと予想はしていたけど、やっぱり歴史の本を探していたんだ。不謹慎だけど、少しだけラッキーだと思ってしまった。

 

 だって、本探して悩んでいるのなら、この私にも……

 

「……仕方ない。やっぱ、横着しないで普通に司書か受付の人にでも聞いてみるか」

 

 申し訳なさそうな顔で「じゃあ、俺はもう行くから。またね」と言い置くと、男の人は踵を返す。

 

「あっ」

 

 駄目だ。行っちゃう。

 

「まっ……」

 

 少しずつ遠ざかる男の人の後ろ姿。

 

 届かなくなってしまう背中。

 

 「またね」とは言われたけど、きっともう次の機会なんてない。それくらい知っている。出逢いの奇跡なんてものは、そう何度も訪れたりはしない。

 

 そう。これがきっと、最後。勇気を振り絞って行動した今回が……最後!!

 

 だから、

 

「待ってください!」

 

 自分でもビックリするくらい大きな声を上げ、思わず駆け出してしまう。

 

 私の声に立ち止まり、振り向いた男の人に向けて伸ばす手。

 

 必死で、全力で、無我夢中で。

 

 届くように、届かせるように、伸ばし続ける私の手。

 

 その手で私は。コロナ・ティミルは――――

 

「えっ?」

 

 ――――今度は、チャンスを確かに掴み取った。

 

 

 






 ようやく動き出した感じです。

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