ハリー・アップッ!!   作:炉心

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 書いてて楽しかったけど、ヒロインの登場率が……。





ハリー・アップッ!! ~今日も今日とて~

 

 

「そうだ、ちょっと話は変わるんだけど。前々からずっと気になっていたんだけどさ」

 

 全ての発端は、昼食中に何気なく言われた一言だった。

 

「トライベッカさんのバリアジャケットがあるじゃない。あのデザインって、あれって、ルシーブル君の好みなの?」

 

 『ピタッ』――――この音の存在し得ないはずの音。これをもしも仮に言葉で表現するとしたならば、正しくこんな感じの字面が適切だろう。

 

 それなりに賑やかだった昼休みの教室内の喧噪が一瞬にして消え去り、不気味なほどの静寂が訪れる教室。室内にいたクラスメイト達全員の意識と視線が一斉に矛先を変え、教室の一角でグループを作って昼食を取りながら雑談していた数人の男女の元へと向けられる。

 

「あ~、それは確かに私も気になる。あの恰好、異世界風で珍しさもあるけど、上着を脱ぐと結構……いや、かなりキワどい感じだし」

 

「そう言われてみればそうだね。バリアジャケットって、確か魔法攻撃とかから身体を保護する役割があるって聞くけど、あのデザインだけ見てると、ほんとに全くそんなイメージが無い感じだしね」

 

「てか、むしろ……破れやすくて脱げやすそう? まあ、確かに『番長』のイメージではあるけど」

 

「水着とかに比べたら全然露出部分は少ないけど、あの……『サラシ』だっけ? 胸に巻いている布とかがなんともねぇ」

 

「あー、何となくわかるわかる! ある意味で女らしさを強調してる部分って言うか。ぶっちゃけ、下着姿を晒しているよりエッチぃ感じ」

 

 姦しく話題に上がったバリアジャケットのデザインについて論評する少女達。非常に楽しげなのは良いことだと思うが、盛り上がり過ぎて同席しているメンバーに男子諸君がいることを若干忘れてはいないだろうか?

 

 『下着』の単語が少女達の口から出た瞬間、静電気に感電したかのように一瞬だけ跳ねた身体を硬直させ、気まずげな表情となった今が春を思う時期真っ盛りの男子面々。傍耳を立てていたわけでもなく、なんら疚しいことがあるわけでもないにもかかわらず、居た堪れなさと気まずさで戦々恐々な心境になるとはこれいかに。

 

 ここで下手に口を挿もうものならば、その先に待っている可能性大なのは正しく地獄。でも、動かずにこの場で息を潜めているのもある意味で地獄。どちらにしても結局は地獄。嗚呼、この世はなんとか弱い男性諸氏にとって崖っぷちな展開ばかりなのか。所詮、女というこの世の絶対支配者的存在群の風前では、男なんてものは彼女達の手の上でいかようにも左右される矮小な存在でしかないのか。

 

「トライベッカさんは美人でスタイルも良いし、格闘技なんかをしてる割には肌も綺麗だし、ある意味であの恰好は反則だと思うんだよね。ただ、試合の時とかの映像を見ていると、何故か全然そんな感じを受けないけど」

 

「確かにね~。試合の時とかの雰囲気のままだと、エッチぃ感じはほとんどないけど……でも、そこはほら、あれじゃない? ギャップ萌えって言うの? 普段はそんなに意識させないで、二人っきりの時とかに不意を突いて一気にってやつ?」

 

「それなら、ちょっとだけ着崩した状態で、あのサラシとかも若干弛めで……な~んて手もアリじゃない?」

 

「うわっ。何それ。ちょー積極的じゃないの!?」

 

 不意に「「「キャアァァァーーーッ!!!」」」と盛大な黄色い声を上げ、顔を突き合わせて盛り上がる少女達。いつの間にか昼食の席を囲んでいたグループ内で少女達だけ集団が形成され、野郎連中との間には絶対不可侵の壁が発生している。それは透明不可視にもかかわらず、何故か少女達の背景に明るいパステル模様の色彩が幻視できるようだった。

 

 華やかで姦しき少女達の会話は続く。そんな中、話題の人物の一翼でもあるはずのセアレといえば、終始無言を貫いていた。ついでに言えば、ただ黙々と昼食を取ることで出来うる限り話題の渦中に引きずり込まれないようにしているのだが。

 

 必死に安全圏へと避難していたセアレだが、ガシッといった感じで急に肩に感じる重み。

 

 「何だ?」と、横合いから急に手を回してきた友人へと視線を向けると。

 

「よ、魂の友っ【マイフレンズ】!!」

 

 迎えてきたのは、無茶苦茶爽やかな良い笑顔でのサムズアップ。キラーンッと輝く白い歯が無性にムカつくことこの上ないバカヤローが一人。思わず、「灰色の髪をもっと脱色して、白髪頭にでもなってろ」と、視線の先の友人へと心の中で呟いてしまった。

 

「禿げろ、このボケヤロウ」

 

 実際に口に出した言葉は、もっと辛辣な内容だったが。

 

「あ、ヒデぇ~な、ルシーブル。このムッツリ野郎さんめぇ~」

 

「……マジで殴ってもいいか?」

 

 思わず震える拳を握りしめ、珍しくも暴力に訴いかける用意があることをアピールするセアレ。そんなセアレに対して、「わかったわかった。悪かったって」とまるで悪びれた様子もなく謝罪する灰色の髪の少年と、「まあまあ、ルシーブル。少し落ち着けって。あいつのいつもの軽口だって。そんなマジになんなよ」とセアレを宥めてくるのは、一緒に昼食の席を囲んでいた他の男連中。そんな周りからの言葉を受けてか、溜飲を下げたように拳を下ろし、非暴力宣言とするセアレ。

 

 まあ、実際のところ、この一連の遣り取りは全て気の置けない友達同士のじゃれ合いみたいなもので、実情はその場のノリでしている部分が多かった。それはセアレも周りの少年達も同様に理解していて、だからこそ彼等は友達であるのだから。

 

「んで、実際にはどうなんだ? やっぱ、トライベッカさんのあのバリアジャケットのデザインは、ルシーブルが選んでたりするのか?」

 

「……そこで蒸返すのかよ」

 

 「お前らもか……」と、内心の苦悩を表情に滲ませ、露骨に面倒くさげな顔で話題から逃げようとするセアレだが、そこは学生であり若さと言う名の無敵要素を持った者達が相手。流石にそう簡単には折れるわけもなく、適当に調子の良いことを各人が言い合ってセアレを説得しようとする。まあ、本気でセアレが嫌がっていないかを見極めながらの行為なのだが。

 

 その証拠に、

 

「ハリーの趣味だよ。確か……俺の家で読んだ雑誌の異世界の衣裳特集に載ってたらしくって、それが格好いいって言ったからな。それでバリアジャケットのデザインに取り入れたって言ってたような気が……。結構前のことだし、正直うろ覚えだけどな。少なくとも、俺は特に絡んでない。あ~、でも、お披露目会はされたけどな」

 

 いい加減本気で絡まれ続けるのが面倒くさくなって、特に隠し立てもせずに答えている。実際、ハリーのバリアジャケットのデザインの選考に関してで言えば、本当にセアレは一切関知していないのだから、何をどうと言うことも出来ないのだが。

 

 だが、セアレの返答を聞いた友人達(いつの間にか聞き耳を立てていた女性陣も)の示した反応は、多少セアレの予想と異なっていた。

 

 「お披露目会……ねぇ」「自慢か? 美少女の幼馴染がいて。家に普通に遊びに来ていたって。自慢してるのか?」「ハハハ……ヤベェ。さっきはルシーブルに止めろって言ってみたけど、今はこっちがルシーブルの顔面を殴りたい」「てか、わざわざバリアジャケット姿をルシーブル君に見せたんだね」「普通に考えて、幼馴染相手にそれって……」「まあ、大体予想はしてたけど」などと、何だかそれぞれが好き勝手なことを言っている。

 

「いやいや。本当に何なんだよ、お前らは……」

 

 呪詛のこもった視線やら呆れた視線やら意味深な視線やらを友人達から向けられ、ついでに教室にいた他のクラスメイト連中からも何やら溜息交じりの視線などを集中砲火で浴びて、突然晒し者にされてしまったセアレとしては堪ったものではないが、下手にここで口を開けば更に悪い事態へと転がっていきそうな予感がしたので、この場はグッと我慢することにする。

 

 そんな不条理な現状を耐え忍ぶかのような心境のセアレだが、不意にある事柄が思考の端を掠める。

 

(そう言えば、ハリーはあの時のお披露目会で今のバリアジャケット姿を初めて見せてくれたわけだけど、その少し前に何か言ってたような……何だっけ? デザインがどうたらこうたら? 誰かの趣味がどうとか? 似合わないかもとか、イメージがどうのこうのとかだっけ? ……そうそう、そんな感じのことをハリーには珍しく歯切れも悪くグダグダ言ってんだよな。それでその後、何だか俺の様子を窺うような表情になって、その時にハリーが言ったのが――――――――)

 

「――――おい、セアレ。担任がお前のことを呼んでたぞ」

 

 記憶の片隅からおぼろげに昔のことを思い出しかけたセアレだが、教室の入り口の方から届いた声に記憶の再生を中断する。同時に、周りの雰囲気が変わったのにも気付く。

 

 セアレが目を向ければ、教室の入り口付近で腰に手を当てて立っているハリーがいたが、何やら教室に漂う微妙な雰囲気に怪訝な表情をしている。まあ、寸前まで本人の不在をこれ幸いと盛り上がっていた話題の渦中の人物が突然登場すれば、教室にいて大小なりと聞き耳を立てていた人間達にしてみれば、思わず曖昧な笑みを浮かべてがちになってしまうのは仕方ないことだろう。それを向けられるハリー本人にしてみれば、正直何のことやらだが。

 

「呼び出し? 俺を? 何で?」

 

「知るか。オレは伝言を頼まれただけだ。社会科準備室にいるから、来てくれってよ」

 

 何とも言えない雰囲気になったクラスメイトや友人達の状況はとりあえず無視し、セアレは既に食べ終えていた昼食を手早く片付け、席を立ち、「行ってら~」と適当な言葉で送り出す友人達の声を背に受けながらハリーのいる教室の入り口まで移動。その場で待っていたハリーに心当たりのない呼び出し理由を問うセアレだが、肩を竦めて返答したハリーから情報を得ることは出来なかった。

 

 「あっそう」と短く頷き、兎にも角にもセアレは社会科準備室へと向かうことにする。パッと呼び出し理由をアレコレ推測してみたが、何かをやらかした記憶がない以上、その無意味さに気付いて早々に思考を放棄。意外と大した理由じゃなく、授業か何かの準備の手伝いでも頼まれるとかの可能性の方が高いと気付いたのも一因だったする。

 

 「残りに昼休みが潰れるのはヤだな~」なんて、当たり前すぎる感想を漏らしながら昼休みで人の多い廊下をダラダラと進むセアレだが、そこでふとした疑問が湧く。

 

「どうしてハリーも付いてきてんの?」

 

 ほぼ真横を同じペースで進んでいるハリー。どこか別の場所に行く為に、偶然進行方向が重なっているとは思えない。とすれば、セアレと同じ目的地へと行こうとしているわけだが。

 

「もしかして、ハリーも一緒に呼び出しを受けていたってオチ?」

 

 案外ありそうな答えを提示してみる。

 

「ちげ~よ。お前がちゃんと準備室に行くかの監督と、一体どんな理由で呼び出されたのかを確認しに行くんだよ。何か面白いネタで呼び出しをくらったんだったら、オレ的には最高なんだけどな!」

 

「……どんだけヒマなんだ」

 

「なんか言ったか?」

 

「イエイエ、何モ言ッテナイッスヨ。ハイ」

 

 どこか上から目線な態度で楽しげにしているハリーに対して、正直な気持ちを小さく呟くセアレだったが、地獄耳なハリーからの殺気の込もった視線(でも、表情は笑顔)を向けられて、引き攣った笑顔と片言全開のテンプレートな返答といった反応でその場を切り抜ける。

 

「……うりゃっ」

 

 そんなセアレの反応をどう思ったのかは分からないが、不意に小さな掛け声を上げながらセアレの脇腹辺りを軽く小突く行動にでるハリー。

 

 「痛いって」と、実際は大して痛くもないのだが、セアレはこの手の状況でお決まりな台詞を口にして身を捩る。その様子に当然の如く反応するハリーは、顔に浮かべる悪戯気な笑みを深くして、さら数回に亘ってセアレの脇腹を小突き続ける。セアレからは、「やめろってば」といった中止を求める声も返ってはきているのだが、ハリーには素直に従う気はさらさらないようだ。本気でセアレが嫌がっていないことが長年の経験から分かっているからだろう。

 

 昼休みの喧騒溢れる学校の廊下をそんな調子を交えながら、適当にどうでもいいような会話をハリーとしつつ進んでいたセアレだったが、何故か急に先程まで教室で話題になっていた内容が頭をもたげる。そして、記憶の引き出しからひょっこりとある記憶が顔を出す。

 

「そうそう、ハリー。さっきさ、ボンヤリと思い出したんだけど。昔ハリーがバリアジャケットをお披露目した時に、確かデザインを二つにまで絞ったって言ってたような気がするんだよな。でも、俺の記憶違いじゃなければ、あの時は確か今ハリーが使っているバリアジャケットを見せて、その後その場ですぐに決定にしちゃって、もう一方のバリアジャケット姿を俺に見せてなかったよな? それでさ、随分と今更な気もするんだけど。ハリーがあの時用意していたもうひとつのデザインって、一体どんな感じだったんだ?」

 

「…………」

 

「ハリー? どうした?」

 

 何気なく話題の一環として聞いてみたセアレだったが、何故か苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、無言でセアレの顔をねめつけるハリーといった予想外の反応に戸惑う。

 

「――――れた」

 

「はい? ごめん、よく聞こえなかった。何だって?」

 

 次の瞬間、ハリーの口から漏れた言葉の音量があまりにも小さくて、聞き取りきれなかったセアレは、己の耳に手を当てる仕草をして聞き返す。

 

 だが、それは間違いなく失策と言えた。

 

「『忘れた』って、言ってんだっ!! 今更そんな大昔のくだらねぇことを、いちいちオレに聞いてくるんじゃねぇ! このバカセアレがっ!!」

 

「んなっ!? おい、ハリー。何を急にキレてんだよ?」

 

 ハリーの鍛えられた身体から発せられる相応の声量による叫びを至近距離から浴び、咄嗟に耳を手で押さえるセアレ。

 

 キーンっと耳鳴りがする中、機嫌が突然急変したハリーに訳も分からずも多少の怒りを覚えるセアレだが、

 

「あ~~、うるせぇうるせぇうるせぇ! オレは何も憶えてないって言ってんだ!! あと、キレてもいねぇんだよ!!」

 

 触らぬハリーに祟りなし。

 

 傍目にはあきらかにキレた様子だが、ハリー本人が違うと言うからにはこれ以上の言及は非常に危険だ。バリアジャケットの件に関しても同様に、憶えてないと言う以上はそうなのだろう。こういった状況で下手に詮索を続ければ、後々に大変な目(主に肉体的ダメージとしてだが)に遭うことが経験として沁みついている。

 

 頭をブンブン振ってポニーテールの長い髪を躍らせ、ダンッダンッとリノリウム張りの廊下を踏み締めて俄然と突き進むハリーの後ろ姿を眺めながら、セアレは「何故自分はこんなにもハリーに対して達観しているのだろう?」と、思ったり思わなかったり。もっとも、これこそ……

 

「今更だよな」

 

 セアレの溜息混じりな呟きである。

 

(しかし、本当にどんなデザインだったんだ? ……まあ、どんなデザインにしろ、ハリーが嫌がってるのを無理に聞き出すほどのことでもないけど)

 

 興味は尽きないが、それは想像の中で留めておけばいい。結局のところ、それが現状でセアレが選択する最善の答えなのだ。

 

 何にせよ、ハリーがセアレに見せることのなかったもう一方のバリアジャケットのデザインがどんなものだったのか。数年前のハリーがどんなデザインのバリアジャケット姿を見せるつもりだったのか。それは、ハリーのみぞ知る真実。いずれ誰かしらが知るに至るのか、それともこの先未来永劫に亘って謎のままで終わるのかもまた同様であろう。

 

 ともあれ。

 

「くそっ、あの時のオレはどうかしてんだ。あれはマジで黒歴史だ……」

 

 ハリーさん。貴女、本当にどんなデザインを考えていたんですか?

 

 

 

 







 ハリーの場合、やはりこの手の恋愛をあまり絡めない内容で、学校生活での一コマとか日常系の話が書き易いです。



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