ハリー・アップッ!!   作:炉心

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拙作『ハリー・アップッ!!』シリーズの番外的扱いです。

基本、ハリーやジーク達以外のシリーズ本編では出演予定のないキャラ達の話となります。
本編の補完、こぼれ話、他キャラ目線での話等をつらつらと書いていくつもりです。
宜しければシリーズ本編同様にこちらの話もお付き合い頂ければ嬉しいです。


第1弾はこの子の話となります。
短いですが、初の完全一人称視点での話となります。
……上手く書けているか不安ですが、どうぞご覧下さい。





ハリー・アップッ!! EXTRA ~書海交優~

 

 ――――手を伸ばせば……届くのだろうか?

 

 

 

 

「これ?」

 

 差し出された本は、書架の上の方にあって、僅かに私の手が届かない位置にあったものだ。

 

「ありがとう……ございます」

 

 何度か手を伸ばしても届かなくて、物体浮遊の魔法を行使しようかと思った矢先のことだった。

 

 横合いから伸ばされた手が、難無く私の欲していた本の背表紙へとかかり、「あっ」と呟いた私の目の前で書架から取り出された。

 

 そして、落胆の念を抱いた私の前へと差し出されたのだ。

 

「……随分と難しい本を読むんだね」

 

 おすおずと本を受け取り、胸元へと抱え込んだ私に、本を手渡した男の人が話し掛けてきた。男の人の言葉に、持っている本のタイトルを改めて見直す。

 

 『上級魔法構築式の理論と実践 ~創成魔法編~』

 

 ……確かに、あまり私くらいの年齢の子が読む本ではないかもしれない。

 

「変……でしょうか?」

 

 思わず尋ねてしまった。正直、私の周りでは魔法を意欲的・積極的に学ぶ人が多いので、そうでない人達の感覚が微妙に読めなかったりする。

 

 本を取ってくれた男の人の顔を見上げるようにして視線を送り、問い掛ける私の顔を少しの間見ていた男の人は、軽くかぶりを振った後、柔らかい笑顔で応えてくれた。

 

 ……一瞬、私を見て何かに気を取られていたようだったけど、もしかして私が不安そうな顔でもしていて、居た堪れなくしてしまったのだろうか?

 

「何を読むかは個人の自由だし、自分が読みたい本を読むのが一番だと思うよ」

 

「でも……」

 

 男の人が言っていることは、とても優しくて客観的で正しい感じがした。だけど、私が知りたいのはもっと個人的な見方による印象だった。

 

 私がそのことを言おうか迷っていると、

 

「ただ、俺的に言えばだけど、君がそういう本を読むことは、「変」と言うよりは……むしろ凄いことに思えるけど」

 

 ……え?

 

「自分が好きなこと、知りたいことについて真剣に取り組んで、難しい専門書でもしっかり読もうとしていることは、俺は凄いと思うよ」

 

 初めて見る顔だった。

 

 今迄、魔法を一緒に学んでいる友達や応援してくれている周囲の人達は真剣に魔法を学ぶことに対して好意的な顔をしているのが常だったけど、それ以外の人達は特別関心を示すことはほとんどなかった。まだ子供の私が特殊な専門書等を読んでいるのを見て、奇異の視線を向ける人達も大勢いた。

 

 だから、初めてだった。初めて会ったばかりの人がこんなに真正面から向き合ってくれたのは。

 

 真面目で真剣な目と表情。優しいけど、真っ直ぐ正直に、私が子供だからと見下したりせずに真面目に話をしてくれている顔だった。

 

 何故だろう? 運動もしていないのに鼓動が速まっていくのを感じる。

 

「君は魔法が好きなの?」

 

「あ、は、はい……」

 

 男の人の問い掛けに、上擦った声で答えてしまう。

 

「じゃあ、いいと思うよ。俺の知り合いにも小さい頃から魔法が好きで、ずっと真剣に頑張り続けている奴がいるから……そいつとかを見てると、周りが何をどう言おうと、好きなことを真剣にしてる奴は凄いし格好良いと思う―――って、初対面の俺の意見にどこまで信用度があるか分からないけどね」

 

 そんなことはない。

 

 嬉しい。

 

 自分自身が直接褒められたわけではないけれど、目の前に立つ男の人に認められている気がして、凄く好かれている気がして、胸の奥からジワっと熱さが拡がるような感じがして、ただ無性に嬉しい。

 

「―――と、ゴメン。そろそろ俺、行くわ。無駄話して悪かったね」

 

 胸ポケットから取り出した通信端末で何やら着信メールを確認した男の人は、時間を取らせてしまったことを私に謝り、すぐに踵を返して行ってしまう。

 

「あ……」

 

「―――……リー? あぁ、今ちょうど中央図書館の中にいるんだよ。外に出てからまたこっちから連絡するから……――――」

 

 端末で誰かと話しながら、足早に去っていく男の人に再び声を掛けることも出来ず、そのまま後ろ姿を見送ることしかできない。

 

 結局、名前も聞けなかった。

 

「でも、顔も特徴もハッキリと憶えてる」

 

 おそらくは中学生か、もしくは高校生くらい。向けられた優しくて真剣な顔は私の脳裏にシッカリと焼き付いている。

 

 それに、何よりも印象的だったのは髪の色。鮮やかな萌木色だった。

 

 珍しい色だ、以前にルーちゃんの家で読んだ古代ベルカ時代のお姫様がそんな色の髪をしていたのを思い出す。あの特徴であれば、次に見かけた時もすぐに分かるだろう。

 

「―――次に会った時は、必ず……」

 

 何が『必ず』なのかは私自身にもまだ分からない。

 

 けれど私は、密かな想いと誓いを胸に秘めることにする。

 

 いまだ息衝いたばかりのこの想い。

 

 それはきっと、私、コロナ・ティミルにとって初めての想いなのだろうから。

 

 

 

 

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