ハリー・アップッ!! 作:炉心
時期外れのイベントネタ(しかも王道からはかなり遠い内容)。
しっとりほのぼの系の投稿が2話続いたので、今回はコメディ調に戻します。
しかし、時系列が本当にメチャクチャになってきました。
今回のキーワード:『リリカルなのはで親愛を象徴するプレゼントと言えば?』
「「「「ウオオオオオオオオオォォォォォ!!!」」」」
その日、野太い野郎共の声が、澄み渡る冬の晴天の下に響き渡った。
粉塵を上げて縦横無尽に走り回る数多の男達。彼等の眼はギラつき、吐く息は荒く熱く、汗ばむ体躯から発散される熱気は彼等の周囲を陽炎の如く霞ませる。
それは『男【おとこ】』――否、『雄【オトコ】』の有り様をまざまざと見せつけるが如くであった。
「いたかっ!?」
「いや、こっちには来てない!!」
「くそっ! 見失った! トゥエルブアベニュー方面はっ!?」
「ダメだっ! 三十分位前に五人ヤられて以降、目撃情報がないっ!!」
飛び交う怒声。受け交わされる情報。男達の顔に焦りが生まれる。
刻一刻と過ぎ去る時間は、彼等から確実に可能性とチャンスを奪う。
急がねば! だが、何処に行けばいい?
と、その時。
「同士諸君に通達!! 対象をウエストガーデン駅付近にて発見!!」
情報が、新たなる光明となって彼等を射す。
鎖を放たれた猟犬の如く、一目散に駆け出す彼等を止られる者はいない。いや、止めようと思う者もいない。
稀に、怪訝な表情で彼等を見ている者達もいる。しかし、今日が何の日だったかを思いだし、理解するのだ。ああ、ここ2~3年でこの時期に時折見るようになった光景か、と。
時は歩み、場所を移し、それでも怒涛の如く突き進む彼等。
一体、何を求め、何を目指すのか?
その答えが今、クラナガンの地の一角、ウエストガーデン駅近くにある公共魔法練習場にて――――――
「ウオリャアアアァァァッ!!!」
拳を振り上げていた。
「「「「「「ウゴボボボッッ!!!!!」」」」」」
そして、男達が宙を舞っていた。
……比喩無しで。
「クソッ!! 近づけねえ!!」
「諦めるなっ!! 左右から回り込めっ!! 包囲するんだ!!」
「誰かバインド系の魔法が使える奴はいないのか?!」
「次、特攻するぜっ!!」
十数人はいようか。皆一様に体格の良い男達は、血走った目に反して焦りと恐慌がその身を支配しているように見える。
何故? このような集団であれば、大抵のことは脅威にならず成し得ることだろう。にも関わらず、彼等には不可能という名の壁が厚く立ち塞がっている。そして、その壁に阻まれた者達が、物言わぬ身となってそこらに伏しているのだ。
「ぶっ飛べやーーーー!!!!」
響いた声と共に轟音が轟き、更なる敗者の山を築く。
なんということだろう。
公共魔法練習場に辿り着いてから僅か十数分。その僅かな時間で、最初に追い詰めた時の人数から四分の一にまで数を減らしてしまった。もはや両手で数えられる程しか立っている者はいない。同士諸君の増援はまだなのか?!
「くううぅ。何故だ? 何故なんだ?!」
「今日が何の日か知ってるだろう!! 受け取ってくれてもいいじゃないかっ!!」
「頼むっ!! 一瞬、ハグするだけでいいんだ!!」
「ついでに、上目遣いで笑ってくれると最高だっ!!」
「ツンデレっていいよな!!」
「そうだぜ番長!! 俺達の気持ちも解ってくれ!!」
男達は叫ぶ。己の中にある純心と欲望を。
「―――わ(・)か(・)る(・)かーーーーーーーー!!!!!!!!!」
吼える声に拒否と怒りを乗せ、ハリー・トライベッカ(15歳。市立学校高等科1年女子)の射砲撃が群がる『雄【オトコ】』達を吹き飛ばした。
* * *
「や~、今年はいつにも増して大変だな~」
「流石はわたしたちのリーダーだよな。人を惹きつけるモノがある!」
「バカてめえ、そんなこと言っても、正直あれはゴメンだろうが」
「……いや、助けなくていいのか?」
前を歩く三人娘の会話に後ろからついてきていた少年が思わず突っ込む。
「「「…………」」」
「ムリだな」「すまねぇッス、リーダー」「あたしらは無力だ」
重なった沈黙。そして、どこか見知らぬ場所を見るように、遠い目をしてそれぞれ呟く。因みに呟いた順に彼女達の名を挙げると、ルカ、リンダ、ミアの順となる。
「結構薄情だよな、みんな」
そんな三人を見て、少年も呟く。
「「「じゃ、おまえが助けろ」」」
見事に台詞がハモった三人は、胡乱げな視線を少年に向け、ほぼ同時に人差し指で少年の顔を差す。
「アッハッハッハ―――俺に死ねと?」
乾いた笑みに哄笑を加えたあと、一転、真剣な表情で少年は真意を問う。
「いいじゃねえか」「当然ッスね」「男の本懐だな」
にべもなく答えられ、少年は彼女達の中での自分のヒエラルキーの低さを改めて実感する。
その場で頭を抱え込んで、自分の存在意義だとか、最近の女尊男卑の風潮だとかについて思考を色々と巡らしたい衝動に駆られる。ついでにあまり関係ないが、三人娘の答えた順がさっきとまったく同じだったりもする。
「むしろだ……セアレ、おまえが助けなくて、一体誰がリーダーを助けるんだ? あ?」
ミアが放った台詞と追求するような視線。苦渋な表情の少年―-―セアレは、己を見てくる三人に思わず疑問符を浮かべる。
「え~と、普通に考えて、俺がハリーを助けられるといった発想が浮かぶこと自体が疑問なんだが?」
「「「はぁぁぁぁ」」」
正直に自分の心情を吐露するセアレに、深く嘆息する三人。その姿は、憐憫と呆れが滲み出ていて、何だか酷く馬鹿にされている気分を味わうセアレだった。
「なんでそんな盛大な溜息を吐かれなきゃならないんだ?」
「いい、いい。もういいから、おまえはさっさとリーダーのとこへ行け」
げんなりとした顔で掌を振り、犬でも追い立てるようにセアレに命じるミア。もの凄くぞんざいな扱いだ。
「セアレ。リーダーはウエストガーデン駅東の公共魔法練習場にいるみたいだからな、また移動する前にさっさと行ってこいよ。此処からならそんなに遠くねぇ」
手にした情報端末(非デバイス)で何かしらの情報を調べていたルカが、現在のハリーの居場所を教える。彼女の手に収まった情報端末から微かに複数の男性の雄叫びやら怒号やらが聞こえるのは気のせいだろうか?
「もし死んだら、骨は拾ってやるから安心するッス」
リンダの洒落にならない台詞に頬が引き攣る。冗談だとは分かっているが、それでも下手すれば有り得そうな未来予想図だ。
「……本気でハリーのところに向かうのがイヤなんだが」
只の学生の身の上で、なんでそんな死地に赴かねばならないのか。人生の無常を噛み締めるセアレだが、最終的には行くことになるのだ。色々言おうと最後の最後はいつもそうなる。何故なら、
「見捨てたら見捨てたで、絶対にあとでロクでもないことになるからな……」
それが長年の付き合いから導いた結論なのだ。
意は決した。
「じゃあ、俺はハリーのとこに行くから」
「おう」「頑張るッス」「またな」
別れの言葉を交し、セアレは力無く歩み出す。目指すは射砲撃が飛び交い、魔力弾が降り注ぎ、数多の男達が屍の如く辺りに転がっているであろう場所だ。……何だか今の状況説明だけだと、戦場にでも向かうかの如き気配が漂っている。
「と、そうだ」
三人と別れてハリーの元へと向かおうとしたセアレだったが、何かを思い出したのか、不意に立ち止まり踵を返す。
「「「んん???」」」
疑問顔の三人娘の前まで戻ると、背負っていたバックからおもむろに何かを取り出す。
「ほら、これ三人に」
異なる色のラッピングが施された掌サイズの小箱をそれぞれの手へと渡す。
セアレから受け取った小箱を思わず凝視する三人。
「最近は昔に比べて普通の友達とか知り合いにもプレゼントを渡す傾向が強いみたいだからな。―――あ、中身はそんな期待するなよ。一応、それぞれの好きそうな物は選んだつもりだけどな」
他意はないのだろう。渡す時にも特別気を張っていた様子もない。純粋な友人に対する好意の現われとしての贈り物だ。だが……
「……どうも」「ありがとうッス」「あ~頂戴しとく」
受け取った三人の顔は微妙に赤かった。
「何でみんな顔が赤いんだ? ……やっぱ、この手の遣り取りをするのって恥ずかしかったか? それとも、正直迷惑なもんか?」
「「「…………」」」
「ミスったかな?」という思考がありありと伺える表情を作るセアレ。そんな少年を見て三人は思った。
(((そうだ、コイツはこういう奴だ)))
* * *
「……死屍累々だな」
クラナガン公設ウエストガーデン地区駅前公共魔法練習場。
そこは、今まさに屍山血河の様相漂う戦場と化していた。
広々とした魔法練習場のそこかしこに転がるは夢半ばで倒れた者達。
遥か遠き理想の果て、己が欲求と切望の終決点、哀に生きる男達が愛を手にする瞬間。
人は皆、求めずにはいられない。故に、与えられざるものを勝ち取るが為、只々一心不乱に戦い続けた者達。勇猛果敢なる探求者。その憐れな末路がそこに在った。
「―――って、くだらないモノローグで現実逃避している場合じゃないよな……」
何か泣きたくなる気持ちを懸命に抑え、奮起して周囲を見渡せば、練習場を複数のエリアに区切る為の丘陵部の向こう側に知った色の魔力光の閃光が見えた。……同時に、何かを吹っ飛ばす爆音と数人単位での叫び声も聞こえた気がしたが。
「これで死人も大きなケガ人もほとんど出てないってんだから、世の中不思議だよ……本当に」
多少の擦り傷や打撲に痣くらいは出来るだろうが、基本的に大怪我をする者はいない。当然だ。辺りに伏せる彼等全員が魔力ダメージによるショックで気絶しているだけであり、射砲撃の衝撃波とその余波で吹き飛んではいても、直接殺傷攻撃による外傷を与えられているわけではないのだから。
加えて、年々のことの為か、彼等自身にも慣れがあるようで、バリアジャケットを纏っていたり瞬間的な魔法防御のレベルに向上が見えたりする。それでもハリーの射砲撃を防ぎきれるものではないが、運動能力の高いハリーに接触する為の体作りによって生まれた体力と耐久力があれば大事になることはないだろう。
「別にハリーを傷付けようとしてるわけじゃない、ってのが厄介だよな」
これだけの騒乱を毎年行いながら、司法機関が動かない理由もそこにある。
彼等の目的がハリー・トライベッカという少女に危害を加えるものではなく、あくまでイベントの中での告白行為の延長であり、しかも前もって当局に騒乱になることと無関係な人に迷惑はかけないとの届出まで出しているという。意外と用意周到でしたたかな連中である。
傍から見れば婦女子を集団で襲う最低な野郎共にしか見えないが。
「ハリーも人が良いのか、被害届を出さないしな……」
いくら彼等が届出を出していたとしても、実害を被る少女側から抗議の声が挙がれば司法機関は動く筈だ。だが、ハリーは何故かそのような行動を取ることはない。
ハリー曰く、「1年に1日だけの約束だから」だそうだが、その約束がどのような過程で結ばれたのかについては、セアレの知るところではない。
「結果が見えているからか?」
そこらで寝ている野郎共の安否を気遣うことから目を逸らし、黙々と練習場の丘陵部を登り終えたセアレの眼前に広がっていた光景、それが全ての答えなのかもしれない。
数多の敗者達の屍の只中で唯一人天に向かって左拳を振り上げ、吹き荒ぶ風にバリアジャケットの裾と流れる長髪をはためかせた勝利者の孤高の背中がそこに在った。
「うわっ、無駄に格好良いな」
そう漏らしてしまう程の光景だが、公共施設である魔法練習場のあちこちが射砲撃でボコボコに抉れまくっているのに一抹の不安を覚える。
誰が修繕するのだろう?
「……まあいいや」
気にしてもしょうがないことは気にしない。
随分と諦めの入った結論をセアレが導き出している間に、練習場にいたハリーがセアレの存在に気付いたようだ。バリアジャケットを一旦解除し、駆け足で向かってくるハリーに対し、セアレも丘陵部の斜面を下っていく。
「お前、こんなところで何してんだ?」
丘陵を下りきったところでハリーと合流し、開口一番に聞いた台詞がコレだった。
「何をしてるかは俺も聞きたいね」
「なんだそりゃ?」
素直に気持ちを伝えたら、案の定ハリーにツッコミ返された。セアレとしては曖昧な笑顔を作るしかない。
「……ハリー、取り敢えずさ、移動しないか?」
此処にいてはいつ新手の男達が来ても不思議はない。一旦はハリーが打ち倒した者達も復活する可能性もある。そうなれば、思いっきり巻き込まれることになる。
至極平凡な一般人たるセアレに対抗手段はない。我が身を守る為にも、一刻も早くこの場所から移動し、出来るなら彼等の目の届かない場所に行く必要があるのだ。
「いいけど……何処に行く気だ?」
「ん~此処からだと……」
提案に賛同の意を貰ったセアレだが、問題は行き先をどうするかだ。
一番安全なのは各々の自宅だが、クラナガンから移動するには結構時間を必要とする。モノレールに乗る為の駅付近で待ち伏せに遭うかもしれない。明るい内は出来れば見付かる可能性の高い移動は避けたい。
少なくとも、日が沈むまであと数時間居座れて、最悪見付かっても襲われない場所。
「―――クラナガン中央図書館とかにする? 流石に図書館内なら襲われないだろ?」
* * *
「はい、あげる」
クラナガン中央図書館内にある喫茶スペース。
公共の施設内でありながら、日当たりの良い南側に面し、全面ガラス張りにして陽光を多く取り入れることで明るい空間を演出したこの場所は、気軽に足を運べることもあって市民からも人気の高い場所であった。
その一角で、館内の売店で買ってきた飲み物で一息吐いたハリーは、何気ない仕草で手渡された箱を素直に受け取った。
「おう、サンキュー」
小さな箱だ。簡易のラッピングが施された正立方体状のそれは、ハリーの掌にほぼ収まる程度の大きさしかない。重さもほとんどないその小箱をハリーは笑顔で見ながら、左手の中で玩ぶ。
「ちゃんと用意してたんじゃねえか。感心、感心」
「プレゼントを貰っといて、なんでそんなに上から目線なんだ?」
ワザと尊大な言い方をしているハリーに対して、それを理解しているセアレもワザと呆れ顔で苦言を吐く。
「ハハハッ、冗談だよ。ありがとな」
そんな遣り取りすらもハリーは上機嫌だ。
「ま、これで一応全員分を渡せたから、俺も一安心だけどな」
自分の分の飲み物に口を付け、ハリーに渡した小箱を見て安堵の様相を見せるセアレ。実は今日は朝から色々な場所を廻っていたので結構疲労があるのだが、それもハリーのところで終了だ。運良く休日だったので学校は休みだったが、知り合いにバイクを貸していたのは正直失敗したなと途中で思ったりもしたが。
「……おい、セアレ。お前、オレ以外で誰にプレゼントをあげた?」
行き成り真剣な表情になったハリーの質問に、思考がついていかないセアレ。
「藪からスティックになんだ?」
だからこんな台詞で返した。
「……何言ってんだ、お前?」
「あはは……」
一度言ってみたかっただけだ。気にしないで欲しい。
乾いた笑いで誤魔化していたセアレだが、ハリーはあまりそのことには興味がないようだ。
「そんな戯言はどうでもいいから、誰にあげたか教えろよ」
「なんでそんなことが気になるのかねぇ」
早々に話題を戻し、セアレの顔を見詰めるハリーはお互いの距離を僅かに詰める。その空気に圧され、セアレも真面目に対応することにした。
「そうだな……うちの母親と妹、ミアとリンダとルカの三人、他はモーターショップの店員のお姉さんとかを中心に普段お世話になってる系の人が何人か……くらいかな? そうそう、ハリーの小母さんにも郵便で送ったな。……本当はジークとかにもあげたかったんだけどな。微妙に会えないし今住んでるところも知らないしで、結局諦めた」
指折り数えながらプレゼントを贈った相手の名を列挙していくセアレ。それを些か無表情な様子で聞くハリー。急に感情が読めなくなって、内心セアレは空恐ろしくも感じていたのだが。
「……それくらいか?」
「ん~―――ああ、ヴィクターにもあげたな。流石に手渡しは無理だから、郵便になったけど」
ヴィクターの名が出た瞬間、ハリーの体がピクッと跳ねるように反応したが、残念ながらセアレは気付かなかったようだ。
「何をあげたんだ?」
「焼き菓子の詰め合わせだけど。クラナガン市内にある『ファナウンテラス』って名前の喫茶店が数量限定で作ってるやつ。有名らしくってさ、ヴィクターも好きだって前に聞いたから」
簡単に買えると思っていたが、実際は特別なコネがない限り朝早くから列に並ぶ必要があり、意外と手に入れるのに苦労したのをセアレは思い出す。
「ヴィクターは紅茶好きだし、いいと思ったんだけど……何だよ?」
何故かジト目で見てくるハリー。セアレには、そんな目で見られることを言った覚えはない。
「菓子……なんだな」
ハリーは反芻するようにセアレから聞いた内容を呟く。
「そうだけど……もしかして、ハリーもそっちの方が良かったか?」
限定品のお菓子の方がハリーも良かったのだろうか?
ハリーも甘いものは好きなので、その可能性に行き当たる。だとしたらセアレとしては少々配慮不足で、ハリーに対して悪いことをしたことになる。
「違ぇよ」
(あら?)
どうやら違うようだ。
「ふ~ん。このイベントでのプレゼント内容が毎年恒例になってるからな、「いい加減、別のにしろ!!」とか言うのかと思った。基本、安いし」
毎年同じ品物ばかり贈るのもどうかとは思ってはいるが、柄やデザイン自体は変えている。それでも費用的にはプレゼント代の中では一番安い部類に入るのだが。
「別にオレは……プレゼントが安かろうが高かろうが気にしてねぇんだよ」
その言葉は非常に助かるが、ハリーの真意はセアレには分からない。
(嘘……は吐いてないよな?)
百パーセント相手の嘘が見抜けるなんて特殊なスキルはないが、言葉のニュアンスや仕草でなんとはなしに分かることもある。伊達に何年も付き合っていないのだ。
「それで、今年はどんな感じにしたんだ?」
漸く表情を普段の感じに戻し、改めてハリーは己が貰った小箱を眺め、セアレに向けて掲げるようにしてプレゼントの内容を問う。
尤も、彼女に取って重要なのはプレゼントの内容ではないのだが……
「それは箱を空けてからのお楽しみだろ?」
(なんだかんだで律儀な奴だよな、セアレって奴は)
悪戯な笑顔でとぼけてみせる少年に対して、ハリーは昔から抱いている感懐に包まれていた。
* * *
クラナガン校外にあるとあるお屋敷。
「――――お嬢様、贈り物が届いておりますが」
「またですか。この時期は本当に多いわね」
「どうなさいますか?」
「いいですわ、いつもの様に処理していて」
「宜しいのですか? お開けにならなくて?」
「見ず知らずの方から物を貰うのは、正直言って気が引けます。相手にどのような意図があろうとも」
「送り主はお知り合いの方ですが」
「父の友人? もしくは家の関係者かしら? どちらにせよ、あなたに任せるわ。後程内容の詳細だけ教えて頂戴」
「内容はお菓子ですね。お嬢様のお好きな『ファナウンテラス』の焼き菓子です」
「あら、そうなの? じゃあお茶と一緒に後で出してくれればいいわ」
「メッセージカードも付いておりますが……本当に今ご覧にならなくて宜しいので?」
「今日はやけに突っ掛るわね。重要なメッセージカードや手紙ならいつも後で纏めて確認しているでしょう」
「畏まりました。では、このメッセージカードは他の手紙等と一緒にしておきましょう」
「それでいいわ。―――エドガー、ついでにお茶をお願い」
「はい。では、このルシーブル様から頂いたお菓子と一緒にお持ちしましょう」
「……待ちなさい。今なんとおっしゃいました?」
「「お菓子と一緒にお持ちしましょう」ですが」
「……その前です」
「「はい」でしょうか?」
「……あなたワザとやっているでしょう?」
「「ルシーブル様から頂いた」ですか?」
「今すぐそのメッセージカードを置いていきなさい」
「おや? 後程その他大勢の分の手紙と纏めてご確認なさるのではなかったのですか?」
「いいからさっさと渡しなさい」
「畏まりました。では、私はお菓子の方だけ持ってお茶をご用意しに行ってまいります」
「ええ、ゆっくりでいいわ」
「はい。少々お待ち下さいませ―――ああ、そうそうお嬢様」
「何かしら?」
「カードを読むのは宜しいのですが、そのようなニヤケた表情はあまり淑女として好ましくないかと」
「出て行きなさい」
主人のお嬢様と執事の会話。